TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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戦争が終わり、本格的に復旧作業が開始されるこの頃。色々な場所で公債発行が行われ、建設会社の株価は毎日上昇している。

怒涛の建設ラッシュは、各国政府が販売した戦時国債の残りを投じて行われており、戦争を行なっていた国では戦争後の物価上昇が頻発していた。

 

「うわっ、ここのは高いなぁ…」

 

運輸ギルドの中、スフェーンは売店で紅茶缶を買おうとした時の一幕である。復興作業中で多くの作業員や運び屋が旅客駅や貨物駅を行き来している。

この場所は旅客駅の真隣に貨物駅があり、平気で駅前ロータリーにダンプカーが走っていた。

 

『ここで買うよりはネットで買うのが一番いいでしょうね』

「そうだね…」

 

正直スフェーンとしてはネットで買うよりも現物を一つずつ確認してから買うのがいいのだが、流石にお財布に優しくないものに手出しはできなかった。

 

「はぁ〜、今日の仕事は?」

『夜に二件、いずれも環状線を運行するルートです』

「りよーかーい」

 

今は子供の姿でいる彼女は次の仕事までに軽く仕事を済ませておくかとぼやくと、

 

「あのー…」

「ん?」

 

そこで声を掛けてきたのは少々見窄らしい格好をした若い青年だった。

周りを見回すと、他にも若い見た目の人物がおらず、多分歳が近そうで他にかけそうな相手がいなかったから聞いたのだろう。こいつ、多分小心者だな。

 

「地元の子?」

「そう、ここで仕事中」

 

スフェーンの格好は紺色のナッパ服にいつもの略帽、その上からコートやガーディアンを着て厚着をしていた。

 

「じゃ、じゃあちょっと聞いてもいいかな?」

「?」

 

オドオドとした様子で彼はスフェーンに携帯で地図を見せて工事現場の場所を指差した。

 

「ここに行きたいんだけど…」

「あぁ〜第七工区ね…」

 

場所はこのあと列車で向かう場所で、確かバスが出ているはずだ。

 

「近くのバスターミナルから現場に行くバスが出ているはずですよ」

「そ、そうかい!あ、ありがとう!!」

 

彼はそう言ってそそくさと走り去ってしまった。まぁこの駅のバスロータリーは一つしかないから迷うことはないだろうが…。

 

「大丈夫かな?」

『乗り間違えることもないでしょう…多分』

「おい、最後に不安になること言うのやめーや」

 

そしてスフェーンはタブレットを片手に運輸ギルドのカフェに入ると、そこでオレンジペコを注文して休憩に入った。

 

 

 

その後、駅で再びコンテナを積載して環状線の周回に入る。

 

『やはり環状線というだけあって駅間距離は短いですね』

「復旧直後の新しい線路を走れるからちょっと楽しい部分はあるよね〜」

 

列車はコンテナのダブルスタック。ここの車両高限界まで積み上げている。途中で空になったものと交換する形で環状線を一周して配達を行う。

都市は復興作業中で、環状線も大きく場所を取っていることから今走っている区間は荒野の中を進んでいた。

 

「お疲れ様〜」

「お疲れ様でーす」

 

工区の顔見知りとなったおっちゃんとタブレットを交換しながら荷物の荷卸しを行う。

空になったコンテナ、どんどん進んでいく工事区間。昨日からまた更に線路は伸びていた。

 

「わぁ、だいぶ進みましたね」

「まぁな、最近は難民が仕事をしにくるから早く進んもんだぜ」

 

そう言い軌道スラブを敷ながら軌間の検測を行う作業員達を見る。聞けば彼らのほとんどは難民だという。

 

「難民ですか…」

「ああ、どうしたって俺たちは会社だからな」

 

利益のことも考えなければならないのか。発注主は鉄道管理局、傘下の組織とはいえ利益を考える必要がある子会社に過ぎないと言うことなのだろう。

この時期、多数の戦争難民は職を求めて安月給で働いており。その際の労働環境の劣悪さは後年に社会問題となった。

 

「さて、積み込みは完了だ」

「了解です」

 

コンテナの積み替えを終え、列車に乗り込んで工事区画から発進していく。無論、その時にタブレットも携えて移動する。

 

『次は第七工区ですね』

「了解〜」

 

そこでスフェーンはその工区を聞いてふと昼間の若者を思い出す。

 

「…無事に辿り着いたかな?」

『まぁ…ここの工区は大きい上に作業員も大勢雇用されていますから』

「まぁそうだよね〜」

 

そこでスフェーンはゆっくりと前進し、この先で待っている線路要員に配達物を届けに向かう。

この前方ではカチューシャばあちゃんがホッパー貨車を押して敷設したばかりの路線に騒音対策のバラストを撒いているはずだ。

 

キンッ

 

運転室でライターを取り出して煙草に火をつけて吸い始めるスフェーン。

 

「ふぅ…」

 

紫煙を昇らせて子供が煙草を吸っているその様は中々に強烈だ。

 

『見られたらカチューシャばあちゃんびっくりするんじゃないんです?』

「だろうね。だから速攻で吸い終える」

 

スフェーンはそう言って一気に大きく息を吸って煙草を燃やす。

 

「ふぅ〜…」

 

そして大量に煙を吹き出してその姿は水冷式エーテル機関車(蒸気機関車)の如きだった。

 

『相変わらず煙草好きですね…』

「やぁ…どうしても貧乏人だと辞められないよね…」

 

傭兵の頃はコカインをよく使っており、連戦をする時のお供であった。

ただあくまでもこれは連戦をする時だけ、と言うふうに固く心に決めており、生成された純正のコカインを使っていた。

無駄打ちをして死んでいった阿呆を見ており、コックピットに一本だけ入れていた。

 

「賭博よりも簡単に気持ちがマシになる」

『まぁ薬漬けでぶっ倒れられるよりは…』

 

この体というのは実に面白く、たとえコカインなどの覚醒剤を体の中に入れても、全て体内のエーテル核に飲み込まれてエーテルに変換される。そして自由にドーパミンなどのホルモンを分泌可能で、薬なしで興奮状態に持っていける。

 

「でもこの身体で煙草はマジ『嗜好品』が似合っとる気がする」

『そりゃあ仕組み的には…』

 

なんか、いずれ紙巻きタバコから葉巻タバコに移行しそうだなと思いながら、スフェーンの喫煙者にしては可笑しいくらい綺麗なピンク色の肺を見る。

 

「ふぅ…さて、」

 

そして一気に吸った吸い殻を灰皿に押し込み、遠くにまだ工区の警戒のための黄色ランプが見えている間に慌ててタバコ一式を片付けはじめるスフェーン。

 

最近は国法が色々と浸透し始めてこんな子供がタバコを吸っている様なんかがバレたら大問題である。

 

「香り良し」

 

寒くなるが窓を盛大に開けて換気も忘れず。灰の一つすら痕跡を残してはならない。

 

『…だったら吸わなきゃいいのに』

 

そんな光景を前にルシエルは口論の種を蒔いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

最後の公判を終え、留置場へと戻ったジェローム・サックス。

 

「ふぅ…」

 

軽くため息を吐き、久しく吸っていない愛吸している煙草に焦がれながら部屋のベッドに座る。

今いる場所は北極大陸の中にある司法の街、テミス・シティ。この場所には司法局の最高裁判所が存在し、彼はここに収監されて裁判を受けていた。

 

「…」

 

彼が提訴されたのは、レッドサン殺害の容疑にある。

検察側・弁護側の双方で捜査資料の提出が行われ、裁判は数年をかけて着々と黙々と行われた。

 

「そろそろ…判決かな」

 

ここに訪れた被告人は長い事滞在する為、あらかじめホテルや留置所が用意されている。

そしてここの裁判所に来る被告人は、大半が重大犯罪或いは企業同士の裁判などの大規模なものばかりであり、民事・刑事を問わない裁判が行われる国際司法裁判所の役割も持ち合わせている。

 

ここでは留置所も豪華なものであり、ここでは刑事補償も請求することが出来る。

部屋は全てカメラ付きの個室、毎日三食のルームサービスと窓に格子が付いただけの豪華なホテルである。

 

「…」

 

自分が逮捕されていた間、世界で戦争があった。

この街にあの凶悪なエーテル・ボンバが落とされることは無かったが、あの『始まりの火』の影響があった。俗に言うエーテル降雨である。

無論、戦争の推移は毎日届けられる今どき珍しい紙製新聞で見ることが出来た。

 

三年続いた戦争の引き金を引いたのはアイリーン、自分にレッドサンの暗殺を再三に渡って依頼して来たあの会社だ。

しつこいほど何度も自分の元に訪れては暗殺を仄めかして来た。

 

曲がりなりにも何年も傭兵として魑魅魍魎とした世界で何度も裏切りや共謀に出会しながらも生き残ってきた身だ。すぐにアイリーンがレッドサンを殺したがっているのは理解できた。

 

「…」

 

その時のアイリーンは強権的で、半ば恫喝に近い形で接触をしてきた。その様子にはどこか焦りの様子も感じ取れた。

 

「…分からないな」

 

何故あそこまでアイリーンがレッドサンの暗殺を焦っていたのか、そして自分はその恫喝、事後の補償と赤砂傭兵団拡大の資金提供の確約と共に悪魔の契約書にサインをした。

 

その後のアイリーンは協力的であった。恐らく、自分が傭兵支援組織を作りたいと思っていることを薄々察していたのだろう。だから赤砂の拡大に惜しみなく協力をした。

当時は日々拡大を繰り返し、軍産学複合体を形成しつつあったアイリーンの後光は強い物があった。自分は優秀な秘書を連れて数多の中小傭兵の勧誘と買収を行い、事務所を建てた。

今その事務所の大半は傭兵ギルドの所管に移っており、多くの傭兵団事務所は傭兵ギルドの施設の中にカウンターを置いていた。

 

「(もうすぐで夢が叶うわけか…)」

 

彼は軽く部屋の天井を見上げて、傭兵を一つの仕事とするための王手をかけた状態でこの部屋に留まっている。

 

これは数多の思惑が折り重なってできた行為だ。

 

ーー軍警察はエーテル・ボンバを落としたアイリーンを晒し上げたい。

ーーパシリコはサブラニエの解体と離散した南側諸国の結束を永遠に砕いて超大国にのし上がりたい。

ーーブルーナイトは傭兵と言う仕事が世間一般から仕事として認知してもらいたい。

 

三者の思惑が合致しなければこのようなことにはならなかっただろう。

既に自分に下される判決はあの時の司法取引で決まったようなものだった。すっかり逞しく成長をしてしまったあの子は、自分すら手玉を転がすように提案を持ち掛けてきた。

 

「(その後は…)」

 

愛機を手放し、傭兵ギルドを作り、かつての居場所すら自ら壊した一人の男は、自分に裁きが下るまでの間の時間を、今まで溜まっていた数多の疲労を解き放つように優雅に過ごしていた。




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