TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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ヴェルヌ大陸の中でも北極大陸に程近い高緯度にて仕事をするスフェーン。

 

今回の依頼主である鉄路・運輸支援施設建設機構は、鉄道管理局傘下にある線路敷設・鉄道関連施設を建設する為の公共事業団体である。

世界中の線路を管轄する鉄道管理局は鉄道事業の独占が黙認されており、この戦争で勃興した各国でも経済活動の源である鉄道の事で彼等に口を出すことは無かった。

各国は鉄道管理局に鉄道使用料を支払い、国内に点在する旅客鉄道会社の統合を推進していた。

 

鉄道管理局の主な収入は運送業者への鉄道運行権の販売と鉄路郵船の運送費、鉄道郵便である。

運び屋などもいるが、正直彼等から得られる運輸ギルドのライセンス料と言うのは微々たるものだ。

 

運送業者や鉄道旅客会社から路線使用料を徴収し、鉄路郵船に大量の乗客を乗せて利益を上げる。

最近では鉄道の修理工場なども鉄道管理局の傘下に収まる動きがあり、車検制度導入も検討されている。

 

「おーい」

 

復興工事中のとある都市でスフェーンは、そこの環状線のある工事区画で少し長めの休憩を取っていた。

理由はこの先の工事区画で別の資材運搬車の荷下ろしに時間が掛かっているからだった。

 

「ったく、どうせなら通せばいいのによ」

「まぁ時間がどうしても掛かってしまいますから…。特にこう言う工事では…」

「納期に遅れたらぶっ飛ばしてやる」

「おおぅ…」

 

こう言う時、自分が子供で良かったと思う瞬間である。流石にこの見た目だと良心の呵責が起こっているのか、滅多に理不尽な暴力を受けることがない。

欠点はロリコンが釣れてしまうことだろうか。

 

「あのー、あの人から温かい目線を感じるんですけど」

「おぅ、後でサー残させておけばいいだろ」

「っ!?」

 

現場指揮官の地獄の発言を耳にしたその作業員は驚いた様子で絶句していた。ザマァ味噌漬け、撃たれないだけまだマシだと思いたまえ。

 

「っと、そろそろ良いんじゃねえか?」

「あっ、そうですね」

 

列車の荷物の積み替えも完了し、信号待ちをしていたスフェーン。そこで単線区間となった環状線をゆっくりと進んでいく。

世界的に戦争が終わった喜びと安堵による経済復興、戦災からの立ち直りのために数多の国々では国民から徴収した税金を使った復興政策が行われている。

 

今、世界ではどの国が国債市場の主導権を握るのかと言う政争が繰り広げられている。

基軸通貨は戦争のどさくさに紛れでデノミネーションを行ったウィール通貨が掻っ攫ってしまった。

なので経済の中心となる中央国際市場は誰がなるのかと言う問題で各国、特に経済力がこの時点であるパシリコはこの政争に積極的に乗り出し始めていた。

 

「やれやれ、政治家っちゅうもんは忙しいね」

『スフェーンもやろうと思えばできますよ?』

「やーね、私だったら資金援助をして言うことを聞く政治家を育てるじゃないですかー」

『やっぱり性格悪いですね』

「ひっでぇや」

 

軽く苦笑気味に彼女は前方を見る。

街の至る所で復旧工事が行われ、道路には真新しい線路が敷設されている。

 

「どんどん復興しているなぁ…」

『流石に戦争で全人類を抹殺することは最早不可能でしょう』

「まぁ大災害みたいな世界規模の自然災害でも生き残ったわけだし…」

 

スフェーンはそんな街を見ながらルシエルとそんな話をする。

 

『その点、大災害は人災なのでは?』

「さぁね」

 

そこで前方の信号を確認しながらスフェーンは速度を落とす。

 

「そんな何百年も昔の話を持ってこられたって困るね」

『まぁ当時を生きた人間はいませんからね』

「正直、前に出会したあのアンドロイドみたいな人がいることの方が珍しいでしょ」

 

スフェーンはそう言いふとそこで自分がそのアンドロイドから貰い受けた知見を思い出す。

まるで図書館のようにその要領を増やした自分の持つ知見の数々。最近ではその知識を前に歴史書のように読んで楽しむのが日課である。

 

『あれは俗に言う外れ値というものです』

「せやな…うん」

 

そんな事を話していると列車は次の閉塞区間に侵入し、そこで駅に程近い工区で停車する。

分岐点が六番線まであるホームに分岐し、端の二つのホームは外から来るローカル線と接続する。

 

「ピーッ!」

 

笛を加えた作業員が両手に旗を持って振って停止位置まで誘導を行う。

 

「停車」

 

ブレーキを最大までかけて車両を止めるとそこで高架化され、まだ線路もバラストも敷かれていない軌道上にトップリフターがやってくると、貨車からコンテナを下ろしていく。

スフェーンのカーゴスプリンターを前に作業員たちはいつものあれかと言った具合でコンテナの積卸作業を邪魔しないようにオートマトンから流れるモルタルを平らに均して行く。

 

「オーラーイ」

 

トップリフターが荷物満載のコンテナを下ろした後に中身の部品を全て取り除いたコンテナを列車に積載していく。

中に入っていたのは線路と線路をつなげるボルトと板ばね、ボルトなどの部品。線路には電車用のマイクロ波給電装置なども定期的に設置しており、信号・看板その他諸々の運行に必要な装備を設置していた。

 

「お疲れ様でーす」

「お疲れ〜」

 

そこでスフェーンは現場長の姉ちゃんと顔を合わせて軽く挨拶をしながら列車を降りてタブレットを交換する。

 

「あれ?」

 

その時、ある一人の作業員がヘルメットを被った様子でスフェーンを見ていた。

 

「おりょ?君は…」

 

その顔を見てすぐにスフェーンはピンと来た。

 

「あの時の」

「ど、どうも」

 

あのオドオドとしていたあの見窄らしい格好をしていた青年がそこにいた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ハーロック協定において敗戦したサブラニエ、彼の国はオロシャ連邦とその他三つの構成国に分割された。

アリアドール合州国とパシリコ共和国、ヴァイナハルテ誓約同盟の国境沿いに分割され、緩衝地帯として中立国となった三つの構成国。いずれも南側諸国に属したまま独立を宣誓した。

代わりにサブラニエは戦前の戦争責任を当時の政府閣僚に全て押し付け、戦後復興のための資金もアイリーンの保有していた財産から捻出する事で国際的に許しを得た。

 

彼の国の有していた優秀なエーテル関連技術、特に単独でE兵器の製造まで漕ぎ着けた技術力はどの国も喉から手が出るほど欲しいと言わしめるほどのものである。

ステンバルクの戦いにおいて、パシリコの陸上戦艦を葬った事実は衝撃を持って世界には知れ渡っており、それが今のパシリコの厭戦機運を高めたことも把握していた。

 

「ただいま!パシリコ共和国の全権委任団が、ここグリーンボウルに到着いたしました」

 

駅舎の前、キャスターがそう叫んで到着した列車にカメラを向けさせる。

あの日、街の四割が破壊されたグリーン・ボウル。その市街地を破壊した脅威的な兵器の威力は十分理解され、それを作った国への侮辱の目線も当然あった。

 

「今回の交渉では…」

 

この日、終戦交渉のためにサブラニエから全権委任団が派遣されてきた。

時期はまだ、サブラニエ臨時政府が軍警察との交渉を終わらせ、国を分割する前の頃。

 

パシリコとサブラニエの北東戦線の戦後交渉は難航するという風にも見られていた。

戦線の戦況はサブラニエ優勢で休戦状態に入っており、パシリコ国内ではステンベルクの戦いの結果を受けて即時終戦を求める声が大きかった。

しかし軍部や一部国民からは賠償金を求める声が上がっており、政府は舵取りに苦労していた。

 

 

 

そして同日、軍部と政府は極秘裏にあるものを同市に運び入れていた。

 

「よし、良いぞ」

 

それは戦時中、パシリコの情報機関が全力を投じて終戦のどさくさに紛れて確保した。

 

「慎重に降ろせよ」

 

グリーンボウルの貨物ターミナル、そこに一本の貨物列車が到着する。護衛の姿は一切ない。

運んでいるものが物だけに彼らも息を呑んでいた。

 

「…」

 

なにせコンテナの中に収容されているのはかつてこの都市の四割を破壊した爆弾なのだ。

小爆弾一発でこれほどの被害を出した爆弾が目の前には十発、弾道ミサイル一発分の弾頭が仕込まれているのだ。

 

「全く、恐ろしいぜ…」

 

ある一人の兵士がそれの入ったコンテナを見て口にする。

それはあのコンテナの中身を知っているからなのか、若しくはそれを終戦の混乱のどさくさに紛れて確保した自国の諜報能力の高さに対するものなのか。

 

「えぇ、まさかこれを確保することになるとは思っても見ませんでした」

 

当時はまだエーテル・ボンバの弱点が解明されていなかった。それ故に彼等はその事故が大問題につながるとは考えていなかった。

 

ガンッ!

 

トップリフターがコンテナの上から掴む時、若干車体がぶつかって音を出す。

 

「おいっ!気をつけろ!」

「すっ、すみません!」

 

トップリフターのコンテナとの距離を測って微調整を行う機械が若干の不具合を起こしており、うっかりコンテナに衝撃が加わった。

 

 

 

それがいけなかった。

 

 

 

「っ!?内部の温度が急激に上がっています!」

「何だとっ!?」

 

突発的な衝撃を受けた十発の弾頭は急速に反応を開始。コンテナ内部の温度が急上昇する。

 

「駄目です!爆発します!」

 

なぜその日のその物が運び込まれたのか、それは誰にもわからない。

後年、これはサブラニエのスパイや継戦を訴える軍部の強硬派による仕業であるなどと言った陰謀論が囁かれる事となるが、いずれも真実かどうかは定かではない。

 

「退避!退避ぃ!!」

 

ただ一つ言えるのは、

 

「っ!?」

 

この地で、二度目のエーテル・ボンバが起爆したという事実だった。

 

ッーーー!!

 

虹色の閃光が球体状に広がり、全ての物を呑み込んでいく。誰もその状況が理解できないまま光に呑まれて消えて行く。

爆発の衝撃波で彼等が長年の研究でようやく蘇らせた青々とした森林は地面が捲りあがりながら押し寄せる熱波で燃やし尽くされ、消えて行く。

 

同地では終戦交渉中であり、多くの報道機関、両国の全権委任団も滞在していた。

被害者はグリーンボウル市民約三〇万と、全権委任団や報道機関含めた観光客約一〇万。

この時、エーテル・ボンバはグリーンボウルを中心に巨大なクレーター湖を形成。後に緑林教の聖地となって巡礼者が多く集まる事となる。

 

そしてこの事件は極秘裏にエーテル・ボンバを持ち込み、エーテル兵器を忌避する偉大な教えを無視したとして、モハメド政権に対する不信につながり、彼は国会から不信任案を提出され、初の弾劾裁判を行われる事となった。

終戦時のどさくさに紛れて確保したエーテル・ボンバを極秘裏にグリーンボウルに持ち込み、不慮の事故で数十万の市民を殺戮し、サブラニエとの交渉を一旦中止させた。その点でも国民からは不信感が募った。

 

そして何より、かつて自分たちに教えを説いたグリーンボウル創設者のヴィージ一族を、事故とはいえ抹殺したのが国民から糾弾される最大の理由であった。

 

その日、グリーンボウルはエーテル・ボンバの爆発で全てが消し飛び、その後の国内のごたつきから、パシリコとサブラニエの交渉は一時中断を余儀なくされてしまった。




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