復興していく都市を眺めていくのは好きだ。
毎日どこかで誰かがあくせくして新たに作られていく様を眺めるのは、絶え間ない変化をより短く身近に感じ取ることができるからだ。
「…」
貨物ターミナルの一角、そこで人の目を避けるように列車の武装区画の前で煙草を吸うスフェーン。
復興作業中で多くの貨物列車が行き交い、作業員や出稼ぎ労働者を乗せる列車が出入りしているこの街。そこで環状線の工事区間に工事用の荷物を配達するのがスフェーンの仕事だった。
ザリ
列車の点検をライトを片手に台車の確認をしていた時に足音がしたのですぐさま煙草を地面に放り捨てた。
「よぅ、若いの」
「カチューシャばあちゃん?」
そこで声をかけてきた御仁にスフェーンは言う。
彼女は自前の
「お前さん、今日で仕事終わりか?」
「えぇ、今日の運搬で仕事は終わります」
スフェーンは頷くと、そこで彼女は言った。
「なら明日、荷重試験をするから手伝え」
「え?」
唐突に言われたことに目が点になりかけたスフェーンだったが、
「ほら、お前さんコンテナ詰めるだろう?」
「あぁ…」
そこで納得できたスフェーンは自分が今から何をやらされるのか予想できた。
「検測機器を載せろと?」
「ちょいとハズレだ。お前さんの列車には、錘の重量級コンテナを乗せてもらう」
この検測用超重量の列車は他に召集された運び屋の機関車も連結され、別編成の最後端に
「千トン列車ですか」
「あぁ、ちょいと負荷掛けるぞ」
「じゃあ…今日終わったら検査ですかね」
そこでコンテナヤードからクレーンが現れると、そこで公的機関から送られてくるコンテナを積載していく。十一両編成の列車に積載されていくコンテナ、中身は最後のレールを繋げるボルトと板バネ。
予定されていた量をこれで運び終えることとなり、明日には工事は完了する。
「ああ、その方が良いだろう。明日運ぶ荷物は重いぞ」
カチューシャばあちゃんもそれには頷いており、彼女曰く触っただけでわかると言うエーテル機関の調子を見る。
「特に大喰らいのこいつはな」
「…」
彼女はこの列車のエーテル機関が極めて加減速時の燃費が悪いエーテル機関である事をすぐに見抜いたのだ。
速度が上がれば良い走りをするが、それまでが時間がかかる上に列車というのは頻繁に加減速を行う為に長い高速域での運行による低燃費の恩恵を受けられない。それがこのタイプのエーテル機関が廃れた理由だ。
「了解です」
スフェーンは慣れない敬礼をすると、カチューシャばあちゃんに似合わんと言われた。
「あとそれから…」
そして去り際、カチューシャばあちゃんは言った。
「煙草を吸うならもっと離れてしておきな」
「…てへっ」
匂いでバレたかとスフェーンは態とらしく舌を出していた。
「オーラーイ!オーラーイ!」
工事区ではほぼほぼ完成に近づき、綺麗なバラストの敷かれた路線や線路が環状線の高架の上に敷かれていた。
その路線の上をスフェーンの貨物列車は停車すると、最後の荷物の積卸を行う。今回は空のコンテナの回収が主な仕事であり、中身の入ったコンテナは少なかった。
クレーン車がコンテナを括り付けて下ろしており、作業員達は列車を傷つけないようなゆっくりと降ろす。
「お疲れ様です」
「お疲れで〜す」
戦争の復興が本格的に始まり、戦争時に放たれたエーテル・ボンバや純粋水爆の爆発の影響で未だに世界ではエーテル降雨によるエーテル病患者の罹患者数は年々増えていた。
あの『南北戦争』、特に『始まりの火』はこの閉じられたトラオムの世界に新しい時代を作り出した。
この星の歴史学者は、この『始まりの火』を最初の年と定めた『世暦』と言う新しい暦を作った。
それ以前、特に大災害以降からの記録は『暗暦』と名付けられた。
元より戦争後に世界中で連鎖的に勃発した建国。
その過程でこの星の歴史学者…主に大災害近辺の歴史やアンドロイドの残された記録なども用いた記録の収集と再精査を行う彼らは、その様を前に何か大きなことが起こっているのだと実感し、震えていた。
そして緊急で当時はすでに存在していた学会において、自分たちで新しい基準を作った。
「ふぅ…やれやれ、ちょっと疲れましたね」
「お若いお嬢さんでしょう?だからじゃないです?」
「はははっ、言えてる」
そうしてコンテナを積載して回収をしていく途中、ある工区でスフェーンは見知った顔を見かけた。
「よう」
「あっ、スフェーン」
アーツである。黒縁丸眼鏡という学者気質がムンムン出ている彼は、出会った時と比べて随分と筋肉質になったものだと軽く感心する。
使い古した工事作業員の服は油や金属粉、バラストの砂埃で汚れており、軍手は真っ黒に染まっていた。
「お疲れ〜」
「君もね。ふぅ…」
そこで彼らは丁度休憩という事で、そこでアーツはスフェーンに言う。
「ちょっと待っててくれるかい?」
「?」
そうしてスフェーンは列車のそばで待たされると、そこで戻ってきたアーツは両手にサンドウィッチを持って戻ってくる。
トーストにハムとチーズ、大量のマスタードを入れたホットサンドウィッチだ。
「はい、マスタードって大丈夫?」
「えぇ、ありがとう」
溢れるほど突っ込まれたチーズを前にスフェーンはアーツにコーヒーを聞くと、そのまま車内に一旦消えると紙コップに入ったコーヒーを取って戻ってきた。
「いる?」
「うん、欲しい」
列車って便利だねと言いながら中から出てきたコーヒーを受け取るアーツ。
そして二人は列車の足元で座り込んで湯気が昇るコーヒーを飲みながらサンドウィッチを一口。
溢れるとろけたチーズとハム、目がぱっちりする程大量に入れられたマスタード。多分眠気覚ましの意味も込められているのだろう、よく効く。
「っ、あぁ〜…」
まるで仕事終わりのおっさんがビールを飲んだ後のような雰囲気でコーヒーを飲んだ彼は、そこで隣で平然とこれを食べる少女を見る。
「コーヒーはよく効くよ…」
「インスタントですけどね〜」
ぶっちゃけコーヒーを豆から挽く事なんて面倒すぎて禿げそうになる。そう言うのはコーヒー人間のジェロに一任するに限る。
彼は『いつものコーヒー』を作り上げられるほどの腕前があるから本当にうまい挽き方をする。
「この後はどうするんです?」
「ん?あぁ…」
そこでスフェーンはアーツに聞く。彼はこの後、家族の元を離れて身を隠す事になった。
今月の仕送りはすでに現場監督に頼み込んで現金支払いにしてもらっていた。そして今契約している家は切って身を隠すそうだ。
「しばらく、知り合いの家にお世話になるつもりだよ」
「え?まじか」
スフェーンは二つの意味でやや驚く。するとアーツはややジト目でスフェーンを見る。
「君…僕に家に転がり込めるほどの勇気とお友達はないと思っているでしょ?」
「えぇ、なんでわかるの?」
「こいつ…」
悪びれる様子もなく言い放ったスフェーンに呆れるアーツ。
「一応これでも大学ではクラスメイトはいたんですよ?」
「それってお友達なの…?」
友達とは何なのだろうかという難しい疑問を抱えながらスフェーンはアーツの話の続きを聞く。
「まぁ知り合いが今、ある大学で助教授をしていて…その縁で新しい大学に編入させてくれる事になったんだ」
「おぉ、編入なんだ。すごっ」
大学を中退したのに編入で別の大学に入れるということは…もしかして此奴、結構頭良いのでは?
そんな事を考えながらスフェーンはアーツを見る。
「えへへ…まぁ、その事もあって明後日にはここを出るよ」
「おっ、奇遇だね」
スフェーンはそこで最後の一口を飲み込んだ後にアーツに言う。
「私も明後日ここを出るんだよ」
「そうなんだ」
アーツはスフェーンと同日に出ることに軽く驚きながらも少し名残惜しげにしていると、そこで彼女は聞いた。
「何処の街?」
「パールバーンの方だね」
「ホーン、じゃあ反対だなぁ…」
「え?ま、まさか送る気だったの?!」
アーツは顔を少し赤くして驚いた様子でスフェーンを見ると、そんな反応を前に彼女は少し揶揄うように言う。
「え?運転室かガレージにずっといるなら送ろうと思っていたけど?」
「そ、そんな申し訳ないよ。それに…女の子の部屋に入るなんて…」
「はははっ!」
顔を赤くするアーツは少し前のあの雰囲気があり、スフェーンは面白おかしく笑っていた。
翌日。
「ピピーッ!ピピーッ!」
作業員が笛を鳴らしながら錘用のコンクリートを敷き詰めたコンテナがスフェーンの列車に降ろされていく。
「よーし…オッケー!」
そしてコンテナが車両に積載され、自動ロックがかかったのを確認する。
列車の前後には機関車と検測機材を積んだ編成が連結され、これから荷重検査を行うための千トン列車が出発する。
『準備は?』
運転室ではカチューシャばあちゃんの声が聞こえ、他にも繋いだ機関車の運び屋達から返事があった。
『OK』
『準備大丈夫です』
『いつでも』
「全車両に積載完了です」
合計十五両、環状線をここの巡航速度で運行し、駅の番線を考えると最低四周するとの事。
この環状線は全線複線、一部接続駅は複々線になる。
『よーし、動かすぞ』
列車の運行は全てカチューシャばあちゃんに一任し、その直後にブレーキが全解除され、運転台のマスコンが勝手に動きながらゆっくりと列車は走り出した。
『環状線進入。閉塞良し』
ルシエルがそこで接続するインターネットから得られる位置情報を逐一報告すると、運転台の椅子に座って優雅にほうじ茶を飲むスフェーンは頷く。
「んっ、じゃあ暫くは休憩できそうだねぇ…」
そこで煙草に火をつけるスフェーン。少なくともここからは暫くぶっ通しで走るので、他の運び屋達も車内に色々持ち込んでいるのを確認していた。
そして煙草を吸っていると、途中の工事区間で列車を見送る作業員の中にアーツがいたので軽く手を振ると、彼もまた気づいて手を振り返した。
「ふふっ」
『面白い青年でしたね』
「そうだね〜…」
スフェーンはルシエルの呟きに頷くと、そこで自分が煙草を吸っていた事に気づいてハッとなっていた。
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