TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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おすすめ楽曲は中島みゆきさんの『世情』


#236

『人生における第一の大事は自己を発見することであり、そのためには、諸君は孤独と沈思をときどき必要とする。』

フリチョフ・ナンセン

 

 

『自分の国だけの平和はあり得ない。 世界はつながっているのだから』

緒方貞子

 

 

 

何も、遥か昔に多くの難民を相手に苦労をしてきた偉人達の残した言葉である。

難民とは『戦争・天災などのため困難に陥った人民。特に、戦禍、政治的混乱や迫害を避けて故国や居住地外に出た人。亡命者と同義にも用いるが、比較的まとまった集団をいうことが多い。』と定義される人々の事を指す。

 

 

 

しかし、行きすぎた救済というのは、時に不幸をもたらすものだ。

 

 

ーー目の前のように。

 

 

 

 

 

『『『『ーーー!!』』』』

 

燃える道路、炎上する車。

あらゆる場所から怒号が響き、民衆は旗や横断幕を持ってシュプレヒコールを叫ぶ。

 

「攻撃の手を止めるなぁ!!」

 

暴徒と化した一部は火炎瓶や地面を剥がしたアスファルト、ロケット花火を打ち込んでいた。

 

『この集会は許可されたものではない!』

 

その反対ではティーグルや装甲車、オートマトンの他、様々な装備や個人防護装備に防護盾を持った機動隊所属の軍警察部隊がテストゥドの陣形を構えて拡声器を使って怒鳴った。

 

『直ちに解散しなさい!!』

 

DJポリスがプロテクターを装備した状態でデモ隊に向かって怒鳴るも、効果は今ひとつだった。

 

「引っ込めぇ!機動隊〜!!」

 

それどころか大声でヤジを飛ばす民衆がいた。

 

『直ちに解散しなさい!!』

 

その上空では小型ヘリコプター(MH-6)が検測機材を積んでビルの合間を縫うように低空でライトを照射しながら飛行する。

 

『上空警戒中のオルシュテイン〇一より司令部』

 

そしてそのヘリコプターはその場所に集まった民衆のスキャニングを行っていた。

 

『青坂三号交差点を占拠中の民衆は約三〇〇〇』

 

そして低空飛行を行うヘリコプターは詳しい状況報告を次いで告げる。

 

『民衆感情は加熱状態にあり。警戒されたし。繰り返す、青坂三号交差点を占拠中の民衆は約三〇〇〇ーーー』

 

ヘリコプターはそのまま市街地を通過すると、同地の他の場所で行われているデモの観測に向かった。

 

「急げ!」

「叩き割れ!!」

 

暴徒化し、自作の火炎瓶を投げつける民衆。

 

「こっちだ!」

 

ハンマーを持ち出し、地面に思い切り叩きつけて割ったアスファルトや縁石を持って機動隊に投げる市民。

横断幕には『難民は出て行け!』『難民排斥!』と書かれた大きな旗を掲げ、少し離れた別の場所では『移民排斥反対!』『移民を守れ!』と書かれた大旗を振る民衆が機動隊を挟んで離れた距離で対峙していた。

 

「移民排斥反対!」

「移民にも人権はある!!」

 

そう叫ぶ彼等はデモ行進を行っていた。

 

 

 

「…」

 

そんな様子を眺めていた一人の女性、若い学生のような姿のスフェーンは近くにいる他のデモ参加者と同じように何が起こっているんだろうかという野次馬気分でそのデモを見ていた。

彼女の頭上の一対の鹿角には林檎の花が咲き、その角のおかげで身長は二〇センチほどかさ増しされた一七〇前半の身長となっていた。

 

「デモか…」

『戦時中の難民に関する法案を巡ってのデモだそうです』

「完全に暴徒化しちゃっているじゃん…」

 

火炎瓶を投げつけ、ロケット花火を放つ姿は一種の戦場の様相を呈していた。

 

ッ!ッ!ッ!ッ!

 

デモの法的距離外から打ち込まれたロケット花火は盾を構える機動隊の目の前で爆発し、火薬の爆発で一部機動隊員が吹き飛ばされる。

また投擲された火炎瓶は、すでに水浸しになった道路に命中すると一気に燃え上がった。

 

「あーあー、こりゃ酷い」

『スフェーン、そろそろデモ隊に突入するかもしれません』

「分かった。…んじゃあ行こうかね」

 

スフェーンはおとなしくルシエルの忠告に従うと、そこでデモの現場から離れるように歩き出す。

 

 

 

その頃デモ隊のある一人は持っていた火炎瓶を投擲すると、その火炎瓶は機動隊の一角に命中し、機動隊を吹き飛ばした。

中に詰まっていたのはナパームを混ぜ込んだ特別な火炎瓶であった。

 

「うわぁっ?!」

「なっ?!」

 

直後に機動隊所属のオートマトンは消火剤を吹きかけて隊員達についた火を消す。

 

「あぁ!あぁっ!あぁっ!!」

 

火が燃え移り、地面に転がる機動隊員。その様子を前に盾を持った他の隊員達は息を呑んで見ていた。

 

「救護班!急げ!」

 

機動隊員がすぐさま火傷を負った隊員達を囲み、追加で消火剤を吹きかける。

 

「ただの火炎瓶だけじゃねえぞ!?」

「どうやって持ち込みやがったんだ…!」

 

隊員達は防護用のバイザーを下ろして防護盾を持つ。

 

「巡回警備の奴ら、昼寝でもしてたのか!?ぬおっ!!」

「うわっ!あぁ畜生」

 

その直後に暴徒から投げられた瓦礫を防ぐ。

こういった暴徒の投げる投擲武器は、デモにおいては最も強力で、人が平気で死ねるような武器となる。

卵ほどの大きさの石であっても、投擲すれば人を殺傷するには十分な威力があった。

 

「うおっ!?」

 

すると再び目の前で再び大きな火の手が上がった。明らかにただの火炎瓶ではない、強力なものになった火炎瓶だ。

 

「…」

 

そんなデモ隊の中、一人の男が片手に肩掛けカバンを持って静かにその場を見つめており、時計を確認していた。

その間も火炎瓶は続々と投げつけられ、道路の空白地帯に次々と火の手が上がった。

 

『阻止線を後退させて、車両を全面に押し出せ!』

 

通りの中心部でDJポリスが的確に指示を出す。

 

『放水車は前面に放水して、法的距離に近づけさせるな!』

「デモ隊に当たりますが?」

「水に濡れた程度だ、かまわん」

 

そこで全面に出た装甲車とオートマトンはデモ隊に向かって放水を開始すると、燃えていた火炎瓶は燃え尽きて消えており、デモ隊に派手に水がかかった。

 

「茶谷方面に展開した第二大隊より通信。議会は国軍部隊に出動要請、同時によもぎ公園方面の移民擁護派のデモ隊約二〇〇〇名が南下中!」

「チッ…合流させるな!」

 

部隊長はそこで新たに機動隊に指示を出す。

 

「第二中隊を急派しろ!四郷交差点に阻止線を張れ!」

「はっ!」

 

そして後詰の部隊は後方の道路から移動を始める。

この街は赤柳、戦時中の難民政策で現在揉めている某国の首都である。

 

海岸部に街を構え、国内屈指の経済都市として名を馳せるこの場所は、今は戦時中に受け入れた難民による急激なスラム化と治安悪化により、戦時難民救済法の是非を問う緊急国会が開かれていた。

 

「畜生、よりによって擁護派と排斥派がかちあうぞ」

「なんで両方のデモ隊に対応しなきゃなんねぇんだよ」

「それが仕事だろう?」

「やってらんねぇぜ…」

 

難民排斥派と擁護派に分かれたその場所では毎日のようにデモが行われ、今日も一部が暴徒化していた。

 

議会はこの事態を前に軍警察機動隊に出動を要請、これに応じた管区機動隊はデモ隊に対し鎮圧活動を行使していた。

 

「…」

 

デモ隊の中では肩掛けカバンを持った青年が腕時計で時間を確認する。

 

「…」

 

そして時計の針を見て人混みの中をゆっくりと歩き出す。

 

「っ!」

「失礼」

 

そして人をどんどんと押し除け、人が疎になってくる前方に出ていくと鞄の隅から少し出ていた安全ピンに指を掛ける。

 

「「っーー!!」」

 

どんどん人々の声が響いてくる。

 

『『『っーーー!!』』』

 

その手に角材やハンマーを持っていた人々が次第に火炎瓶と瓦礫、ロケット花火に変わってくると、ついにフッと人が消えた。

 

「ふんんんっ!!!」

 

そして肩掛け鞄のベルトを握り、砲弾投げの容量で肩掛けカバンを機動隊に向かって投げつけた。

 

「っ!」

 

投げた男はそのまま地面に転がって耳を塞ぐと、

 

ッーーー!!

 

地面に落ちて一回バウンドした鞄は機動隊の目の前で爆発した。

 

「うわぁっ!?!?」

 

爆発の衝撃波で数名の機動隊員が吹き飛び、隊員が持っていた防護盾は空高く舞い上がった。

 

ガンッ!!

 

そしてその防護盾が地面に落ちて音を立てた。

 

「救護班!」

「ギャァァアッ!!」

「ガァッ!?!?」

「痛ぇ…!!」

「あぁ…あぁっ!!」

 

その爆発で機動隊員たちから地獄のようた呻き声が上がり、あたりは地獄のような絵面となっていた。

 

「投擲爆弾だ…っ!?」

「っーーー!!」

 

いよいよ爆弾まで持ち出したデモ隊に、部隊長は掴んでいた柵を握り壊しながら叫んだ。

 

『全員検挙ぉっ!!』

 

突撃命令が下され、一斉に機動隊員達は電磁警棒を片手に取り出す。パチパチと音を立てて警棒から電流が溢れる。

 

『突っ込めぇっ!!』

 

そこで機動隊員達は後方から催涙弾入りの軽迫撃砲(八九式重擲弾筒)が展開しており、一斉に発射された。

 

ボボンボンボンッ!!

 

「「「「「っーーー!!」」」」」

「痛っ!」

 

白煙を引いて飛んでくる50mmの弾頭、一部は頭に当たって血を流していた。

地面に落ちたガス弾からは大量の催涙ガスが噴射し、デモ隊に白煙が襲いかかる。

オートマトンは別で放水銃を発射して前進を開始し、装甲車がバリケードに向かって速度を上げて突入してくる。

 

「「「「わぁぁぁあああっ!!」」」」

 

そこにガスマスクを付けた機動隊員達が突入を行い、野次馬の壁に阻まれて逃げられなくなっていたデモ参加者に向かって警棒を振った。

 

「検挙ぉっ!!」

 

 

そこからはもう乱闘であった。

 

「ギャァァアッ!!」

 

片手に電磁警棒を持った治安官達とデモ隊との格闘により多数の負傷者が出ていた。

 

 

 

また別の場所では、

 

ドドッドドッ!ドドッドドッ!ドドッドドッ!ドドッドドッ!

 

地面に蹄鉄の音を響かせながら国軍の騎馬隊が市街地の大通りを向かってくる。

通りの角から飛び出してくる小隊規模の騎馬隊に市民は驚いていた。

 

「構えっ!」

 

その鞍上で騎兵隊長のアンドロイドが片手にリボルビング・グレネードランチャーを構える。

 

「撃てっ!」

 

引き金を弾くと催涙弾が発射される。

 

「騎馬隊だ!」

「逃げろ!!」

 

馬に蹴られたらひとたまりもない。デモ隊達は蜘蛛の子を蹴散らすように逃げ出し、到着した騎馬隊に合わせて機動隊もデモ隊の検挙に乗り出す。

 

ウゥーッ!!

 

サイレンを鳴らしながら軍警察の装甲車が街にあったバリケードの鉄柵を破壊し、デモ隊は逃げ出していく。

 

 

 

この日のデモでは大量に市民が逮捕され、多くの車両や施設に被害が出ていた。




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