仕事を終え、赤柳にてしばしの休暇を送ろうと思っていたスフェーン。
しかし街は、事前の情報と違ってデモ隊による抗議活動が頻繁に行われている戦場となっていた。
『おい!どうなっている!?』
荒野の一角、山間のある場所で野盗の怒号が無線に響いた。
『分からん!』
『くそっ!何がどうなっていやがる?!』
荒野に住む事しか許されることのない野盗達は悪態を吐く。
『裏切りやがって…』
逃げ道のない山間の洞窟、そこに隠れた戦車乗りの野盗は自身の多脚戦車を隠して眼下に広がる残骸の山を見た。
装甲車・戦車・オートマトン・多脚戦車…戦時中に協力者から得た武器のほとんどがたった一台のオートマトンによって破壊させられていた。
屍の山と化し、残骸から滴る血で池ができそうだった。
『どうする?』
彼等は野盗団全員で出て、運輸ギルドで延々と張っている味方からの連絡でちょうど良い襲撃相手を探してもらっていた。
列車強盗を行う上で最も狙いやすい相手である運び屋。運送業者は基本的に武器が豊富で、尚且つ野盗撃退時の武器の使用は経費で落ちる。ゆえに狙いづらい。
協力者からの依頼で武器提供を受ける代わりに、某国に向かう貨物列車を襲わせていたことから確実に協力者の正体はわかっていたが、そこを聞くと消されるのは分かっていた。
『…』
しかし戦争が終わり、その瞬間に協力者は忽然と姿を消したがために残されたのは大量の武器・弾薬だけだった。
整備部品もあったが、それも底をついていた。だから列車強盗で得た強奪品を闇市場に流して、そこで得た利益で提供された武器を維持していた。
『アイツをやらねぇと、俺達は山を降りられんぞ』
その屍の山を築き上げたオートマトン乗りは、この戦闘に出るまでは歩兵をしていた奴だ。そんな下っ端がこんな能力を持っていたとは驚きだった。
ドコーンッ!!
『『っ!!』』
すると何処かから爆発音がし、隠れていた野盗達は一瞬驚いてその方角を確かめようとする。
音響測定装置を起動してどの方角で爆発があったのかを確認する。すると、
『なっ…!?』
隠れていた洞窟の入り口からオートマトン用の対戦車手榴弾が投げ込まれ、咄嗟に野盗達は生存本能から洞窟から飛び出してしまう。
ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!
そしてその飛び出した先で待ち構えていたオートマトンの射撃で飛び出した多脚戦車がコックピットごと撃ち抜かれる。
30mm自動小銃は、第四世代オートマトンが主流になりつつある今でも火薬を使う古くて確実に動作する機構を有し、銃身周りのコイルガンによって加速する事で有効射程の延長が図られた確立した技術である。
オートマトン用のサブアームとして未だに国軍や軍警察ではバックパックに装備されていた。
『なっ!!』
しかしその自動小銃を放ったオートマトンはコックピットを中心に穴だらけになっており、機体から僅かに循環液と血液が混合した液体が滴っていた。そんな状態で動いている事実に多脚戦車に乗っていた野盗は驚愕した顔でディスプレイに大穴が空いて銃弾が顔に直撃した。
『ひっ…!?』
するとその様を見ていた生き残った最後の野盗は悲鳴をあげた。
眼下にはあの裏切ったオートマトン乗りによって殺戮された戦車やオートマトン、多脚戦車などがゴゴゴと音を立ててその砲口や銃口を全員こちらに向けていた。
『や、やめろっ!!…やめてくれ!!』
そんな悲鳴が無線に聞こえたが、
『ぎゃぁぁぁぁぁあああっ!!』
直後にそれらの車両全てから一斉に砲撃・銃撃を受けた。
野盗の乗っていたオートマトンは一瞬で穴だらけにされ、砲身に穴が空いていたのか、一部車両は砲撃時に自爆をして砲身に花が咲いていた。
『…』
残骸すら残らない勢いで破壊され、死体すら消え失せた野盗。
そして全てが終わった後、ゾンビのように動いていたオートマトン達は一斉に糸が切れた人形のように地面に頽れると、最初に裏切ったオートマトンのコックピットが開いた。
「…」
しかしそのコックピットから現れたのは、首元から心臓にかけて突き刺さるように伸びた虹色の結晶と、その先端から滴る血。コックピットは血塗られており、驚愕した表情のままそのオートマトン乗りは死んでいた。
「…終わったかな?」
同時刻、赤柳のカフェで休憩をしてきたスフェーンは呟く。
彼女は紅茶を飲みながら今、野盗団の一つをエーテルを使って潰していた。
今は赤柳を中心に仕事をしている彼女だが、運輸ギルドで怪しい挙動をしていた人がいたので近くにいた治安官に相談の後に、路線の安全確保のために先手を打たせてもらっていた。
『周辺にエーテル機関の活動は確認されていません』
「うん…了解」
ルシエルからの報告も入り、軽く彼女は頷くとミルクティーの入ったカップを傾ける。
するとカフェの目の前を二人の騎兵が馬と共に道路を歩き、カポカポと音を立てて歩いていた。
先日のデモ活動の暴徒化により、軍警察機動隊と国軍騎馬隊が投入され、今は擬似的な戒厳令が敷かれていた。
『難民問題ですか…』
「いつの時代も揉めている話よね」
そう言いながら彼女は今全滅させた野盗団の最初に乗っ取ったオートマトンの救難信号を最大出力で発した。
同時にそのオートマトンを殺害したエーテルの結晶体を背中のエーテル機関に戻す。
「これで証拠隠滅っと…」
『…正直、エーテル機関が無ければこの技は使えませんね』
「流石にドローンが付くまで時間がかかっちゃうからね…」
この世界では基本的に動力機関はエーテルである。
しかし内燃機関や核動力も作ろうともあえばできるのだが、それよりかは維持費もかからず燃費は圧倒的なエーテル機関を使う方がはるかに楽だという結論に落ち着いていた。
故にこの星でエーテル機関を使わないものなど無いに等しかった。
「まぁおかげで私らもちょっかい出せるってものよ」
スフェーンはそう言うと、店のテレビに昨日のデモのニュースが流れた。
街の中を走る市電も今日は終日運休となった。
デモがあった場所では昨日の逮捕者が罰則の社会奉仕としてデモ隊が破壊し、残していった横断幕や旗、残骸などを回収してゴミ収集車に入れていた。
「…難民か」
『戦争が終わった事で一気に噴出した問題の一つですね』
彼らは基本的に故郷が戦争に巻き込まれた事で逃げてきた戦争難民だ。
多くの国ではそう言った戦争難民を受け入れ、国内に滞在させた。元々は貧民層用に都市が用意していたコンテナハウスなどを再利用したものだ。
政府はそこで難民に一定額の補助金を支出、貧民層用の住居の再整理などを行なった。
しかし、その難民を食わすために国家予算を使った事で国民からは不満の声が上がった。
特に都市国家から国へと変貌したこの星において郷土愛というのは強い。基本的に地元と密着し、国となったことで尚更市民感覚として自分はここで生まれ育ったのだと言う感覚が強かった。
逆に都市に多く存在するスラム街に住まう住人は元々が流浪の民であり、故郷を追われた人が多い。
『現在、ここの国会では建国時に整備された難民に関する法律の廃止の是非を問う緊急国会が開催中ですね』
「んで、会議開催中のあのデモと…」
そして本来はそういったスラム街に住まう人々の仕事を、難民が一気に政府の斡旋もあって掻っ攫ってしまう形となり、彼等との関係が一気に険悪に。
そして政府の補助金も受けている事から戦時中から難民は軽蔑の対象となり、軽蔑された難民達は自分達の立場を追われることを恐れてどんどん過激になっていく。
そしてそんな中の過激派達が次第にテロを起こすようになり、戦争難民に対する怒りはたまっていく事となった。
そして戦争が終わったことで、この火のついた導火線がついに爆弾についたような形で爆発したのだ。
「やれやれ…」
スフェーンは軽くため息を吐き、空になったカップを机に置いて席を立つ。
今の姿はムートンジャケットのライダーの姿。新しく買った獣人用のヘルメットを被って会計を済ませて店を出ると、店先の駐車場で止めていたアメリカンバイクに跨ると、そこでリッターエンジンの唸り声を上げる。
二人乗りを行えるように改造し、荷物も運べるように改造を施されていたお高いバイクである。
「どうせ不法難民は捕まえているんでしょう?」
『そうですね…現状、政府は軍警察に対し不法移民の取り締まり強化を加盟していますね』
「なんとも歪な関係ですことで…」
スフェーンはそこで今の軍警察と各国の関係に苦笑する。
現在、赤柳においてデモ活動は厳しく制限され、街中を巡回している治安官は電磁警棒を腰から下ろしていた。
「おぉ〜怖」
ただの警棒と違い、電気ショックを放つ事ができる電磁警棒の威力は恐ろしいものがあり、電気ショックによる死亡事故を防ぐためにもよほどのことが無い限りまず使われることはない。
最大出力では一撃でどんな大男、完全サイボーグであっても鎮圧可能であり、電磁警棒で殴られるとほぼ確実に目を覚ました時にはで手錠をかけられている事から『逮捕者製造機』と呼ばれていた。
『現在は厳戒態勢ですね』
「まぁ流石にデモの翌日はねぇ…」
軍警察の装輪戦車や装甲車が警戒しており、昨晩の騒がしさが嘘のように消えていた。
難民排斥派と難民擁護派による戦闘は時に殺し合いに発展しており、市街地で撃ち合いが行われている有様だ。
『銃規制が厳しくなっていますね』
「まぁ元々そう言うのは世界中で行われているわけだし…」
治安が壊滅的に悪かったこの頃。確実に文明の復興が行われて久しい今日、銃や爆発物に関する意識というものは恐ろしいほど低い。
少なくとも子供が22口径小銃を扱うのは義務教育的なものがあった。
かくいう自分も、狩猟の勉強として子供の頃にそういった教育を受けてきた身だ。
「…」
ふと思い出し、バイクを走らせていた彼女はそこで脇に逸れながらブレーキをかけると、横を数台の乗用車が通り過ぎていった。
『スフェーン?』
「ん?」
その時の表情を見たルシエルに聞かれて反応をすると、そこですぐにスフェーンはバイクが止まっていたことに気付いてスロットルを回して再び走り出していた。
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