TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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何処かにやる気が叩き売りされていませんか?


十二両
#244


遥か昔、この大地に降り立った人類はエーテルという未知の物質を前に驚愕したと言う。

この未知のエネルギーは精製をせずともジェット燃料、船舶燃料、ガソリン燃料などと同様の方法で使用可能であり、またそれら『過去のエネルギー源』よりも圧倒的な燃費の良さを有していた。

 

故に、それらエーテルはあっという間に宇宙に広がる。

そしてエーテルをめぐる戦争も同時に起こった。そしてその戦争が行き着いた先が大災害である。

 

 

 

「…」

 

寝台客車の中、ジェロームはシャツにジーンズというラフな格好をして紙製の本を開いていた。

こんなどこかの詩人しか思いつかないようなことをふと考えてしまったのは、今は余裕があるからなのかもしれない。

 

大陸横断列車に乗り込んだ彼は、目的地まで旅程を組んだ旅を始めていた。オール二階建ての客車が連なる列車でイルカを出たジェロームはある場所に向かうために切符を取っていた。

 

一応、メッセージは伝えたつもりだ。これで来なければそう言うことなのだろうが…

 

「…」

 

ジェロームは確信めいた様子で開いていた本を閉じるとパソコンを取り出す。

彼は今、執筆中の本をまとめていた。内容は傭兵をしていた頃の話と、その後の傭兵ギルドを創設するに至ったまでの記録。まだ新鮮なうちに書いており、収容中にあたためていたものだった。

 

「(生きているなら…)」

 

そこで彼は傍の荷物を一瞥した後に、再び作業に戻った。

部屋はA寝台の個室。こう言ってはなんだが、自分はこの部屋に泊まって始発から終点まで乗ることができる金がある。

 

曲がりなりにもあのレッドサンの相棒として傭兵として名を馳せたブルーナイト。当然、あの規格外と行動を共にできたと言う点で一般的な傭兵の中では腕が立つ。

故に依頼料は多くもらっており、孤児院の運営資金に合わせてある建設会社の株式を買収。今の戦後復興の建設ラッシュに合わせて大きな利益を上げていた。また傭兵ギルドの初代ギルド長として、その時の給金もあった。

金転がしは比較的得意な分野であり、順調に今も利益を増やしていた。そして増やした資金は、常に孤児院の運営資金や老後の貯蓄に回していた。

 

「…」

 

もうあの頃に戻ることはない。

過去は過去で戻る事はできない。

 

だが、やった手前。行動に移すしか無い。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

かつての大災害以前の歴史では、人類は今よりも発展した技術を有していたと言う。

一度崩壊したその世界では、そう言った技術はアンドロイドが持っていたもの以外は失われたと判断されている。例えあったとしても資材不足や再現不可能な機材などがあり、それらの技術は一切がそういう判断となっていた。

 

アンドロイドは一度エーテルの津波に襲われたこの世界でもわずかに生き残っており、人類はトラオムに存在した、世界と隔絶されたビッグデータに残された資料によってなんとか生きながらえたような形である。

 

「…」

 

運び屋であるスフェーンは、未だだ見えない終着点に向かう旅を続けている。

 

『スフェーン?』

「ん?もう着く?」

 

旅客キャビンの中で寝そべって動画サイトを流し見をして時間を潰していたスフェーンにルシエルが聞いた。

 

『ああいえ、少し気になったので』

「ん?」

 

ルシエルはスフェーンに聞く。

 

「予定を変えた事?」

『ええ、』

 

ルシエルは頷く。

現在列車はある場所へ話に向かうために移動をしていた。臨界エーテルの回収はネクィラムのおかげで当初の予定よりも大幅に早く終わりつつある。

自分が感じ取れる臨界エーテルの反応は両手に入る程。

場所が場所なのでネクィラムにお任せするしか無いなと思いながら旅を続けていた。

 

『事情は理解しましたが…』

「態々顔まで出したのよ?まあここまで来たならやるしか無いわよね」

『…』

 

スフェーンの態度にルシエルは若干の不安を覚えた。

この妹はやると言っても命の危険があればすぐに逃げるような性格なのでそこら辺の心配はないが、ことそれがブルーナイトとなると『何をしでかすか分からない』恐怖があった。

スフェーンの思考は共有されているが、彼女の考えはわからない。つまり彼女は何も考えておらず、行き当たりばったりで飛んでも無い事をしでかす可能性が高いかった。

 

『何も考えていないじゃ無いですか…』

「行き当たりばったりな方が面白く無い?」

『…ちなみに聞きますが復讐する気は?』

「ないね」

 

少なくともスフェーンの場合、殺してくれて清々した様な雰囲気があるのでブルーナイトに関しては何と言うか…

 

『貴女にとってブルーナイト…いや、ジェロームとは相棒…でよろしいですか?』

「そうだね…」

 

スフェーンはそこでフルーツワインを注いだグラスをゆっくりと傾ける。

 

「正直、難しい所かな…」

『と言いますと?』

「やあ、私ノンケだったからそう言う趣味はないんだけどさ。何と言うか…」

『ブルーナイトは相棒よりも近い関係にあると?』

「そうね〜…」

 

そこで彼女は昔のことを思い出しながら目を閉じる。

 

「こう言っちゃあ何だけどさ…『悪友』に近いのかな。多分」

『悪友ですか…』

「そうそう、色々と馬鹿やってさ…猥談とかもしてさ…」

 

少し、懐かしい気がしながらスフェーンは思う。

 

「どっかで、まだ未練があったのかもね…」

 

傭兵の頃、自分があのフルフェイスヘルメットを外したのはプエスタの前だけ。

自分は拾われたあの時からこのヘルメットを外す事はなかったのだが、いつの間にかそれがトレードマークになった。

あと外したのは闇医者で両足のサイボーグ化をしてもらった時だけだ。だがその時の医者は老衰で手術を行なった後に死亡した。

 

『素顔を見せなかったことをですか?』

「まあ色々あるよ。アイツは私の過去を知らないとかね」

『ああ…』

 

ルシエルは納得した様子で軽く頷く。

そこでグラスを飲み干したスフェーンは再びベッドに横になって天井を見る。

 

「少なくとも、ジェロがあんなことを言ったからには、私達もそこに行く必要があるってこと」

『臨界エーテルを集めたり、新しい分身を作る以上にですか?』

「そうだね」

 

スフェーンは即答だった。ジェロームの記事を読んだ時、彼が何をしたいのかは容易に想像がついた。多分、相手は気づいたに違いない。

あの北の駅で、車に乗り込む直前に見た時と記事の写真とでは大きく顔が違って見えたのだから。

 

『それはそうと、まもなくエレベートに到着します』

「りょーかい」

 

ルシエルの連絡にスフェーンは体を起こすと運転室に向かった。

 

 

 

 

 

エレベートは、大災害以前に統治機構が建造した軌道エレベーターの地上側の基地が置かれた場所である。

現在は某国の管理下に置かれ、再起動のためのプロジェクトが進行していると言う話がある。

 

「…」

 

その街に到着したスフェーンは開口一番。

 

「デケェ…」

 

街郊外の洋上、天を穿つかと言うほどの大きさの塔。場所は大陸の中でも赤道直下の温暖な気候に位置している。

 

軌道エレベーターは星の自転による遠心力によってその巨躯を宇宙に浮かべている。イメージするなら、縄跳びの片方の持ち手を持ってブンブン体を回している状況に近いだろうか。そして遠心力を強めるためには最も角速度の大きくなる場所。つまり赤道上に軌道エレベーターを設置する必要があった。

 

『エレベート軌道エレベーターは大災害以前から建造が進められていましたが、大災害によって工事が止まったままとなっています』

「なのに残っているのか…すごいわね…」

 

街の何処にいても見ることができるその巨大な建物。此処に初めて訪れた者であれば誰もがおおと声を漏らしてしまうほどに圧巻の大きさであった。

軌道エレベーターがあればこのエーテルで覆われた星を抜け出すことも叶うほどだ。今の技術でできるのかと問われると、軍警察が必ず必要となるのはまず間違いない。

現時点で、宇宙関連技術で最も強いのは軍警察だ。

 

『現在、瑞穂国政府は軌道エレベーター国際公社を設立し、工事再開のための資金調達を始めていますね』

「企業が直そうとかしなかったの?」

 

これほどの施設を前にスフェーンは宇宙という未知の空間に、企業が目をつけないはずがないだろうと思っていた。

 

『合同企業を設立しても採算が取れないと思ったのでしょうね』

「あーね…」

 

しかし今更な話だなと思ってしまった。少なくとも大災害から長い時間が経っており、あそこには不法に住むスラム街があると聞いた。あまり近寄りたくない場所だ。

背中に対戦車ライフルを下げて歩くスフェーン。今日は仕事をするつもりはない完全なオフ日。スフェーンはいつもの返済を済ませた後に旅客駅に向かった。

 

「…ん?」

 

旅客駅で都市の環状線に乗ろうと思っていた時、ふと駅にある集団を見かけた。

その集団はスーツに帽子などを被った一行で、リュックサックには金槌や円匙などを持っており、発掘でもしに行くのかという様子だった。

その中には女性もおり、

 

「っ!!」

 

その姿を見た瞬間、振り返って反射的に逃げ出そうとしたが、

 

「うがっ!?」

 

その瞬間に何処ぞのアメフト部もびっくりの悪質タックルを腰から受ける。

 

「アーッ!!♂」

 

そして掘られた様な情けない悲鳴をあげながら地面にダイブするスフェーン。

 

「やあやあスフェーンさん」

「なっ、なぜ此処にいるんだユウナァッ!!」

 

背中からタックルをかましやがったにも関わらずいい笑みを見せるユウナにスフェーンは顔が引き攣る。

そう、あの集団の中にはユウナが混ざっており、彼女は鋭くスフェーンを見つけると獲物を仕留める獣の目でスフェーンにタックルをかました。いやま確かに彼女は犬科の獣人だけども…だとしてもだよ。

 

「さ、行きましょうか」

「は?」

 

するとユウナはその体からどうやって出したのか、スフェーンを胴上げするとそのまま拉致する様に運ぶ。

 

「何をする!?この野郎!!」

「はいはい、暴れない暴れない」

 

両腕でスフェーンを担ぎ上げた彼女はそのままピューッと旅客駅を走って先ほどの集団の元に戻っていく。

 

「ばっっっか野郎がぁぁぁぁあああっ!!」

 

拉致同然に連れ去られる様子を前にスフェーンは精一杯の怒声をあげて消えていった。




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