TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#245

「いやこら拉致だよ!」

 

白衣を着させられ、その上から(Wz.35)を下げるスフェーンは言う。

エレベートの旅客駅で思わぬ再開を果たした直後、胴上げをされて運ばれた(拐われた)彼女はそのままの勢いで白衣に着替えさせられた。

 

「あの、この人は?」

 

そんな一連の行動に困惑する研究者の一人がユウナに聞いた。

 

「博士の助手」

「違います」

「博士の助手」

「違います」

「博士の助手です⭐︎」

「違うつってんだろぉぉおっ!!」

 

否定するスフェーンだったが、ユウナは柄にもなくゴリ押しで通す。

そしてユウナとそれを必死で否定するスフェーンを見て数名の研究者は哀れんだ目で頷いた。

 

「なるほど、ネクィラム博士の助手でしたか」

「ちっがあぁぁああああう!!」

 

移動中のバスの中、スフェーンの悲鳴が響いた。

 

「まあまあ、もうここまで来ちゃいましたし…ね?」

「こんなん拉致だよ!誘拐だよ!帰してくれよ!運転手さんバック!」

 

完全にオフの日で、下にはバイク用の服を着ていた彼女はバスの席に座って叫ぶ。

 

「まあまあ、スフェノスさん。仕事行きましょうや」

「うるさいわ!」

 

永遠とバスで怒鳴るスフェーン。その顔はとても不満げであった。

 

「いやぁ、拉致拉致言いますけど。私と貴女の仲じゃないですか〜」

「一回貴様は『拉致』と言う言葉を広辞苑で調べ直してこい!」

 

隣で座るユウナにカリカリと不満げな顔でスフェーンは言う。

 

「ああ〜、どうせこの後あの二人がいるんだろぉ〜?」

「ええもちろん!」

「んあぁぁぁぁぁああああっ!!」

 

満面の笑顔のユウナにげっそりとした表情で途端に嫌な顔をするスフェーン。無論、同乗する他の研究者達もユウナのいる研究室の噂は予々聞いているので全員が一心に『御愁傷様』と合掌していた。

ユウナが連れてきた謎の人物ではあるが、ネクィラム達と知り合いと言うのなら、それ以上言う事は無い。

そして最後尾の席で頭を掻きむしって文句を溢すスフェーン、その腰には常にあの検測機器をつけていた。

 

「それで?このバスはどこに行っているの?」

 

大きくため息を漏らしたスフェーンは、そこでユウナに行き先を聞いた。

 

「郊外の軌道エレベーターです」

「え?あそこに?」

 

スフェーンは高架道路を走るバスからでも見える天空の塔を見る。

 

「ええ、あそこに行きます。詳細は着いてからでも良いですか?」

「…えぇ」

 

すでに彼女は先にいるというネクィラムにスフェーンは言うと、大きくため息をついた。

 

 

 

エレベートの軌道エレベーター、正式名称は『第十二号貨物・旅客用軌道エレベータ』と言う。

その設備は大災害以前に作られていたものであり、建造途中であったその地上部分の全高約四キロのエレベーター基部は、はるか昔の神話に出てくる『バベルの塔』を彷彿とさせる。

 

「…」

 

その威容を間近に見てスフェーンは思わず声を漏らす。

 

『バベルの塔は、大災害以前…今でいうところの『旧暦』にあたる時代に存在した神話の中の一つです』

 

そして頭で思った知識をルシエルが説明する。

 

『かつて、神の国に向かおうと空高く『バベル』と呼ばれる塔を作り上げた人々に怒った神々が、その天罰として『異なる言語』を与えたことで、人々は塔を作るのをやめたというものですね』

「(異なる言語…か)」

 

今のこのトラオムに存在する言葉は一つのみ。

それは大災害以前にこの星を統治していた国家が使っていた言語であり、今ある法もその時のものを参考にしているという話がある。

そしてバベルの塔の話は、スフェーンも昔に聞いたことがあった。

今は亡き、母と呼ばれた人に教えてもらった歴史だ。

 

「…」

 

白衣のポケットに手を突っ込んで軌道エレベーターを見上げるスフェーンにユウナが声をかけた。

 

「スフェノスさーん!こっちです〜!」

「ん、すぐ行く〜」

 

一対の鹿角を育てるスフェーンはそこでユウナの元に移動すると、

 

「おぉ!お久しぶりです」

「げっ」

 

そこでは良い笑顔で出迎える一人目の変態(ジョン)、いわゆるネクィラム・ラボに入ったエーテルに魅入られた人である。

 

「どうも〜、学園都市以来ね」

 

スフェーンは今すぐにでも逃げ出したい感情を抑え込みながらジョンに挨拶をする。

 

「ええ、あれから色々とご苦労をおかけしました」

「…そっか」

 

その時の彼の顔を見てスフェーンは色々と思う部分があった。

特に彼の作った兵器は億単位で人を殺戮し、数えきれない負傷者を出したあの地獄の戦争の戦端を開いたのだから。

無論、その事実を深く受け止めている彼はその研究を平和的に利用する道を模索していた。現に彼の発表した新型エーテル機関は今までの四〇%の効率アップを果たしていた。

開戦直前に軍警察は彼を逮捕し、その後ネクィラム・ラボに移籍する事となった彼はそこでエーテルと人の関連に関する研究を行っていた。

 

「しっかし随分と人が増えたわね」

 

そこでスフェーンは同じ研究室の人であるという多くの研究員や資材を見る。

 

「ええ、そりゃあ『異能者』が確認されてからはもう…」

「やる事は増えるばかりですよ」

 

ユウナとジョンは軽く疲れた様子で頷きながらその方を見る。

南北戦争中にその存在を確認し、軍警察が初めて投入した全く新しい兵科の『異能兵』。その能力の高さは南北戦争中に示される事となった。

 

「今や排除されてきた感染者は救国の英雄扱いだ」

「まあそれが自然の摂理ってものじゃない?」

「どちらかと言うと人のエゴな気がしますが…」

 

話しながら三人は軌道エレベーターを歩く。

ここは長年の治安の悪さが影響してギャングやスラムとなっていた場所であったが、近年は国軍による掃討が行われており、治安の向上が認められた。

現在この場所は軍警察がとある調査のために訪れていた。

 

「異能のことは知っているかね?」

「ええまぁ…」

 

ジョンに聞かれ、スフェーンは頷くとそこで彼は言う。

 

「今までエーテル肺炎やエーテル過敏症によって疎まれた人材は多くいた。私自身、罹患していることは事実だしな」

「そうね…」

 

すると彼は、自身の手の中で小さな炎を出す。

 

「っ!」

「故に私も、こう言うことができるようになったんだ」

 

今までエーテル病患者だった人間は、ただ衰弱して死を待つのみであったのが、これによって一気に強大な戦力となった。

 

「随分進んでいるのね…」

「ああ、何せエーテル・ボンバの爆発で生存していた市民の多くは我々軍警病院に収容されたからな」

 

異能の発動方法、発動可能域などはわかっているという。するとジョンは灯していた炎を消した。

 

「これら異能は、まず前提としてエーテル病患者しか使えない。その上で異能を発動するには…」

 

するとそこでユウナが言った。

 

「ストップストップ!それ以上ここで言うのは…」

「おっと、これは失敬」

 

ユウナの忠告にジョンは言う。

ここは軌道エレベーターの公共広場。すでに多くの置換官が国軍兵士によって治安の確保はされているが、

 

「軍事機密をポロポロ言わない方がいいですよ」

「そうね。私も失礼だったわね」

 

スフェーンも軽く反省してここが公共の場であった事を思い出す。

国軍には当然、下手をすると軍警察の中にもこの『異能』に関する情報を得ようと聞き耳を立てている人物がいるかもしれない。

特にネクィラム・ラボ…エーテル解析研究所は、現時点において異能に関する情報を最も有している。当然、今まで厄介者でしかなかったエーテル病患者が、大きな戦力となり得るのであれば、それを欲するに決まっている。

 

「では行こうか。博士も中で待っている」

「わかりました」

「詳しい話は、博士と合流した後でしましょうか」

 

三人はそれぞれ確認をした後に軌道エレベーターの内部に向かって行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

イルカを出る時、孤児院にいた多くの孤児達から渡されたお土産を見ながら、ジェロームはA寝台の椅子に座る。

 

『気をつけて』

 

週に一度、必ず連絡を入れる事を前提でこの旅に送り出してくれたアンジョラの事を思いながら、彼は夕食後にゆったりと時間を過ごしていた。

部屋のテーブルにタブレットを置いて、その横で自分の拳銃(二式拳銃)を分解してクリーニングをしていた。この銃は今時珍しい薬莢式の銃であり、8mm南部弾と言う珍しい銃弾を使用する。

今の時代では威力はお察し程度だが、至近距離であれば全然使える拳銃であった。

 

「…」

 

傭兵として駆け出しだった頃、たまたま見つけて購入したものだが、気に入って今も使っていた。

最近では拳銃の回収令が出ているという話だが、ジェロームはまだ拳銃を持っていた。

 

この旅は、あえてゆっくりと行くことを目的にした旅だった。

目的地は決まっているが、元々その場所に行くには大陸を渡る必要があり、その場所はヴェルヌ大陸でもないので向こうも時間がかかるんじゃないかと言う勝手な推測を立てていた。

 

「ふぅ…」

 

分解したパーツを組み上げていき、一切電気的な信号を用いない旧態依然の構造を前に軽く感動を覚えた。

 

「感動か…」

 

感動といえば、今日の夕食はとても美味しいものだと思った。

 

夕食で摂ったのは、食堂車の和風ヒレ豚カツ定食。

サックリと揚げられたとんかつとおろしポン酢の相性と言ったら最強の組み合わせと言っていいだろう。梅干しに黒胡麻をかけただけの白米が脂っこくなった口直しにちょうどよかった。

 

「食は美味ければ良い…だな」

 

戦場において、あたたかい飯というのは士気を上げる最高のやり方だ。スープなんかを作っておけばそれだけで白米とも合う。企業の合成レーションなんてとても食べられたものではなかった。

特に軍警察のレーションは冷めてもうまいことを前提に作られたもので、売っていれば必ず確保するほど傭兵の間では必需品であった。

 

「ふっ、懐かしいな」

 

ジェロームはふと傭兵の時を思い出していると、

 

ッーーー!!

 

静寂を破るような甲高い音が耳に入った。防音を歌う壁を突き抜けて聞こえた音は、彼にとっては聞き慣れた戦場の音だった。

 

「っ!」

 

だが、明らかにTPOにそぐわないその音を前にジェロームは銃を持ってドアに鍵を閉めた。

 

『機関車を制圧した!』

『急げ!人質を確保しろ』

 

そして耳を澄まして聴いたその会話を前にジェロームは舌打ちをした。

 

ーー畜生、こいつら列車強盗か…!!




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