TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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今更な話な気がするけど、この作品の鉄道要素どこ?


#259

夕食を終え、8ミリフィルムの『キングコング』を視聴することとなったルシエル。スフェーンに変わって映画を見る行為をしていた。

 

「また古い映画ですね…」

「ああ、これはオリジナル版だから1933年に放映されたものだな」

「…」

「ストップモーションと言う方法で撮られた映画でな。迫力があるぞ?」

 

人形を少しづつ動かしながら写真を撮ってそれを繋げて映像にする。

 

「模型?」

「ああ、これは実在したエンパイア・ステート・ビルディングという建物だそうだ」

 

そこでヌルヌルと動く8ミリの映画を見ながら途中でセントレジャーが説明を加えてくれる。

 

「これ、パニック映画ですか?」

「怪獣映画に近いかもしれんな」

 

映画は終盤に差し掛かり、キングコングはビルに爪を立てて登り始める。

はるか昔に、こんな映画を作れるほどの技術があったのかと驚くものだ。

 

「だが見てて飽きないだろう?」

「そうですね…」

 

そこでセントレジャーは梅酒を一口飲む。

 

「…甘いな。それに、少しパイナップルの味がする」

「流石ですね。それは輪切りのパイナップルも混ぜて作った梅酒ですよ」

「ほぉ、それは面白いな」

 

梅、氷砂糖、輪切りパイナップル、氷砂糖と、幾多も層にして作り上げた梅酒。特徴は甘いパインアップルの香りが存分に梅酒に溶けていることだ。

 

「確かに、これは食後のデザートとしても飲めるほど甘いな」

 

セントレジャーはこの味が気に入った様子でフォークを手に取ってアップルパイを切って口に運ぶ。

 

「んっ、こっちにも梅酒か」

「ええ、ジャムの方に混ぜてあります」

 

スフェーンはアップルパイは網掛け派なのでシャキッとしたリンゴと、敷き詰められた林檎ジャムが強い香りと食感を生み出す。

 

「なるほど、これを毎日食ったら太りそうだ」

 

すこし笑いを含んだ様子で彼はスフェーンの作ったアップルパイを食べる。

 

「現役を退いたなら、好きなだけ食べれば良いのでは?」

「そうともいかんよ」

「何故?」

 

首を傾げるルシエルにセントレジャーは言う。

 

「死ぬ時は太ったきったねえ親父よりも、若々しくあるイケオジの方が良かろう?」

「…なるほど」

 

彼の答えを聞き、ルシエルは少し人の生き方というのを学んだ気がした。

 

「遺影もどうせなら綺麗な方が映えるというものだ」

「…ふふっ、確かに」

 

年齢を考えると、彼は寿命を迎えることになる。

かつては遺伝子工学の集大成として、また自然の法則を外れて作られた存在は、その人よりも優れた身体能力と引き換えに寿命を縮めた。

 

「幾ら隠居している身とは言え、センタサルボーは永遠に名が残る。俺が死んだら、今走ってる俺の子達から漏れるだろうよ」

 

そこで彼は再度グラスを傾ける。

その目は、最後まで彼はセンタサルボーとして、その勇ましい姿と共に心中する覚悟をした目をしていた。

 

「…」

 

その覚悟に、ルシエルは少しだけ当てられた。

セントレジャーの現役時代の圧倒的な走りは、今もネットという環境を前にしても伝説として語り継がれている。

『絶対』や『永遠』と呼ばれた彼は死ぬまでそれと共に生きることを選んだということだった。

 

「まあ、まだまだ長生きさせてもらうがな」

 

そこで映画フィルムが全て巻き取られ、カラカラと音を立てる映写機を見て席を立つ。

 

「何となく…貴方は長生きをしそうですけどね」

「そうか?そりゃあ嬉しい話だ。玄孫まで見れたら最高だ」

 

長生きをしたい理由がそれなら、多分そうなるだろうな。ルシエルは何となくそう感じた。

 

「次は何を見る?」

「オススメはありますか?」

 

ルシエルが聞くと、セントレジャーは少し考えるとある一本の映画を思い出す。

 

「…『ゴジラ』とかはどうだ?」

「ゴジラ…?」

 

これまた知らない映画だったので検索をかけると、また古い映画で怪獣映画の始祖ともいうべき映画だと言うのがわかった。

 

「ああ、地下の倉庫にある。取りに行こう」

 

そこでセントレジャーはルシエルを誘って地下に向かう階段を降りていく。

気温と湿度を一定に保ち、フィルムを管理している地下室。扉を開けると、独特の匂いがルシエルの鼻を掠めていく。

 

カチッ

 

そして部屋の電源を入れると、地下室の薄暗い部屋に電球の明かりがついた。

 

「おぉ…」

 

地下室には大量のフィルムを入れているアルミ缶が積み上がっており、その数は膨大だった。

 

「凄い…」

「だろ?俺の自慢のコレクションだ」

 

彼はそう言うと棚に貼られたシールを確認して目的の映画を探し始める。その間、ルシエルは軽く呆然とそのコレクションを見る。

 

『おー、凄い量だね〜』

 

するとそこで計算を終えたスフェーンが話しかけてきた。

 

「スフェーン、計算は終わったんですね」

 

五感と思考の全てを共有しているルシエルは、スフェーンの残した計算結果を見ながら聞いた。するこ彼女は予測して言う。

 

『ああでも、まだ交代しなくても良いよ』

「何故です?」

『まあ暇したいから?』

 

スフェーンの返答に飽きれてため息をこぼす。

 

「相変わらずですよ…」

『まあまあ、私も見ているようなもんだしさ〜』

「口調合わせるの結構大変なんですが?」

 

ルシエルはセントレジャーに気付かれないように口調を気にして話していると言うが、スフェーンは言う。

 

『それはどうかな〜』

「え?」

 

ピクッと一瞬だけルシエルの動きが止まる。それの意味するところは、

 

「(セントレジャー氏は気付いていると?)」

『まあ違和感程度だろうけどね。随分と腕は上がったんじゃ無い?』

 

左右のオッドアイが変わっていると言うことは、この常につけているサングラスのおかげでバレることはないが、それでも口調で首を傾げられているという。

 

「(はぁ、私もまだまだですね)」

『まあ口調に関しては完全に性格の問題でしょ。そう言う特別な訓練受けてないと無理じゃない?』

 

ルシエルを軽く慰めながらスフェーンはそこでセントレジャーの背中を見る。

 

「(スフェーン)」

『ん?』

 

そして彼の背中を見ながらルシエルはスフェーンに聞いた。

 

「(貴女が貴方だった時代、一生『最強のオートマトン乗り』として生きて行くはずでした)」

『…』

「(その時、スフェーンは傭兵の名を背負って心中するつもりだったのかと、少し思ってしまいまして…)」

『…なるほどね』

 

そんなルシエルの問いにスフェーンは少し間を開けて頷く。

 

『まあ、本当に昔の話になっちゃうかな』

 

そしてルシエルの問いに答える。

 

『私が売れてた頃、プエスタに傭兵として続けると言った時のこと、結構派手に後悔した時があったんだよ』

「…」

『でもね、その時にジェロが提案したのがあの孤児院だったの』

 

そこでスフェーンは脳裏に、その時のことが蘇る。

ある時、仕事を失敗した時にジェロが知ってか知らずか、孤児院を作るから金を出して欲しいと言って来た。金額自体はそれ程だったので生返事で返して、それで建てた孤児院にジェロ達が個人的に育てていた子供達を預けて、それでその孤児院に行った時の孤児達を見て、少しだけ癒されたような気がした。

 

『まあその時に、ちょっとだけ一生傭兵をしても良いかなって、思った事はあったかな』

「…」

 

スフェーンはその時の話をすると、ルシエルは少し考える。

 

『まあでも、あんな命が軽くなるような戦場で、腰が痛くなるような仕事なんてやってらんねー、ってなったけどね』

「(あの…しんみりした空気、返して?)」

 

スフェーンの本音を前に色々と台無しにされた気分のルシエル。するとセントレジャーは奥の棚からアルミ缶を手に取った。

 

「あった、これだ」

 

そこで『ゴジラ』と油性ペンで書かれたフィルムケースを手に取る。

 

「しかし凄いですね。確かにこの量なら、賞金が全部消えてしまいそうです」

「ああ、おかげで昔は妻や娘によく叱られたものさ。まあ今となっちゃあ良い思い出だよ」

 

穏やかな老後を過ごしている彼はそう答えると、地下室からリビングに戻る。

 

「既に孫がジュニアで走っているくらいだ。歳をとったもんだよ」

 

セントレジャーはそこで軽くため息を吐いた。

 

「歳をとったとは言え、ジュニアならまだ可能性としてあり得るのでは?」

 

ルシエルは言うと、セントレジャーは軽く苦笑気味になる。

 

「そうなると否応にも歳を実感するじゃないか」

「下手に若作りをして手痛い火傷を負うくらいなら、私だったら老人らしく振る舞っていきたく思いますけどね」

「世の中それができない人の方が多いの、特に女性なら分かるだろう?」

 

セントレジャーはルシエルに聞くように生々しく話す。

 

「たとえ四〇手前でも『私はまだ行ける(モテる)!』と言って女性向け雑誌を読みながらソファに寝転がる光景」

「でもそう言う類の雑誌は、大体が女性が書いて女性が編集している…」

「そうだ。それで大体は『まだ行けるから』と結婚相談所にも次第に行かなくなるんだ」

「マッチングアプリなんて所詮、若い子が遊ぶ為のサイトですしね」

 

しかもマッチングアプリもAI写真による画像が当たり前のように行われており、若い男の子が『お姐さん』を引き当てる、本人にとっては割と地獄な環境が整っていたりする。まあ、そっち目当てでマッチングアプリを使っている奴もいるから何とも言えんが…。

 

「ああ、そして結婚相談所にも行く事なく、そして迎える四〇歳の誕生日。大体そう言う人はお誕生日のクーポンメールを見て、絶望するんだ」

「生々しいですね…」

「君にとっちゃ笑えない話だろう?」

「元々結婚するとかこれっぽっちも考えていないんで…」

 

ルシエルは言うと、セントレジャーはやや驚いて見返してきた。

 

「結婚は人の誉だろう?」

「それほど結婚に今のところ魅力は感じていませんので…」

 

程の良い言い訳をさらりとルシエルは流し、その二枚舌っぷりにスフェーンは舌を巻いた。

 

「子をなすよりも重要なことがあると?」

「QOL第一に生きているだけです。まあいつかは変わるかもしれませんね」

「ふむ、人は簡単に考えを変える。…が、君の場合はどうかな?」

 

セントレジャーは軽く微笑んでルシエルを見た。

その時の眼差しは、まるで全てを見透かしているようで少々薄気味悪さを感じた。




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