「オーラーイ…」
車両工場で誘導を行うみくり。
片手にケミカルライトを振って工場に入ってくる機関車や貨車を留置していく。
「オッケー」
その後ろで列車を押すのはスフェーンの操縦するオートマトン。
非軍事用に改造されたOSを搭載したオートマトンで、操車場に残されていたそれら貨車や機関車を工場内に集めていた。
「ピッタリ」
「よーし、これでほぼ終わりかな〜」
操車場にあった貨車や機関車は、部品取り用に放置されていた物ではあるが、立派なみくりの資産。
工場を囲っていた壁が破られたなら、泥棒なんて簡単に入ることができる。ましてや部品取り用の機械類、スクラップとほぼ同義である。泥棒なんてそもそも見境無く物を盗んでいくのに、中身スッカスカな機関車があれば何か行けそうなものは持って行くに違いない。
盗んだ機械部品でも、リサイクルセンターに持っていけば金にはなるのでこういうものは狙われやすかった。
「しかし、これが全部部品取りなの?」
「そう」
車両工場の空いていた路線に置かれた貨車や機関車は、その側で同じように本来はパーツ取りであったオートマトンの部品に使われていた。
「ここにいた人達が、残していったもの」
「…そういえば、他の人はみんな新しい場所に行ったとか言ってたっけ?」
スフェーンはそこで前にみくりが言っていたことを思い出すと、彼女は頷く。
「新しい工場から、私も誘われてる」
「へぇ…」
古い工場に一人で残っているみくり。何故彼女だけこの工場に残ったのかは定かではないが、理由があってのことというのは分かっていた。
「行かないの?」
スフェーンは聞くと、みくりは少し首を横に振る。
「まだ、行かない」
「どうして?」
「スフェーンさんの仕事が残っているから」
みくりはそう返すと、残った貨車の車台を持ち上げて台車のオーバーホールをテキパキとこなして行く。
作業は遅らしく効率的で、一つずつ部品の確認を行い、磨耗したところはすでにバラしていた他の貨車から取って直していた。
「それに、私の持ってるこれとかも移動させないといけない」
「ああね…」
オートマトンを降りたスフェーンは納得して、今入れた車両を見る。
ほぼスクラップ同然の機関車や貨車、正直金属スクラップとして売り払った方が早いことだろう。
「これを売るのは?」
「考えてる」
そうして話している間に次々と台車点検を終わらせて行くみくり。彼女曰く『エーテル機関よりも部品は少ない』から直ぐ終わるそうで、実際その通りだった。
「んじゃあ、私は夕食でも作ってようかね…」
「うん、楽しみにしている」
みくりはスフェーンに言うと、少し笑みを浮かべてスフェーンはみくりの頭を二回軽く叩いた。
そして迎えた夜。
まさか一日で貨車部分を全部終わらせるとは思っていなかったスフェーンは驚きつつも、みくりの腕は信用しているので雑にやっているわけではないと確信していた。
「やるわよ〜」
「おぉ…!!」
たこ焼きプレートを用意し、油を塗った後でみくりを呼ぶと、彼女は目を輝かして見ていた。
ジューッ!!
作った生地をプレートに流し込むと同時に音を立て、生地が焼けて行く音を聞く。
その上をネギ・天かす・紅生姜を塗して一つずつに切った茹で蛸を入れて行くスフェーン。
「お好みで餅とかも入れるけど…」
「あるの?」
「あったらやってる」
スフェーンはそう返すと、ある程度焼き上がるまで待機。
時折、溢れた生地を竹串で切り目を入れて裏返しをしやすくしたりなどの事をしながら待つ事数分。
たこ焼きは焼くと煙が濛々と立ち込めるので、キャビンの外で焼いている。
「…よし、そろそろかな」
軽く串でたこ焼きを刺し、生地が綺麗に剥がれたくらいでスフェーンは言うと、みくりはスフェーンのワザマエを目にする。
「ほれほれほれほれ…」
何処かの屋台の如く凄まじい勢いでたこ焼きを回し始めるスフェーン。傭兵時代に鍛え上げられた腕前を存分に発揮しながらプレートに乗ったたこ焼きを全て回し終えると、それを見ていたみくりは一言、
「お店の人みたいだね」
それを聞いてスフェーンは満足げに串を置いて再び待つ。
「まあ、昔はよくやっていたからね」
「たこ焼き屋でバイト?」
「慣れ慣れ。昔はようやってたのよ」
みくりにそう返すと、時折串を刺してたこ焼きを回して全体的に焦げ目がつくように焼き上げる。
「まだ?」
「まだよ」
しかしすでに涎が垂れそうな表情を見せるみくり。
私がきてからと言うもの、すっかりグルメ舌に変貌した彼女はスフェーンの作る料理に目が無かった。
「…まだ?」
「まだよ〜」
そこで軽く音を立てながらクルクルと回すこと数分。
「…オッケ、出来上がり」
スフェーンの合図とともに出来上がったたこ焼きを摘んでさらに盛り付けるとソース・マヨ・青のりをバーっとかけて完成したあっつあつのたこ焼き。それを一気に口に頬張ったみくり。
「っ!?あふっあふっ!!」
飲む溶岩・噛めば灼熱・吐けば地獄のトリプルコンボで逃げ場を失ったみくりは軽く悶絶する。
「言わんこっちゃない」
そんな彼女に軽く呆れながらキンキンに冷やしたコーラ缶を渡すと、彼女は掃除機の如くコーラは口の中に吸引されて行く。
「っ!ふぁっ…!」
灼熱地獄から解放されたみくりは軽く息を吐いてたこ焼きを見る。
「おいしい」
「うん、それならヨシ」
作る側の人間として嬉しいお言葉をもらいながらスフェーンは角瓶を氷の入ったグラスに注ぐ。
前々から飲んでいた角瓶の中身の黄金色のウイスキーは今注いだことで空になる。
「フーッフーッ」
息を吹きかけて少し覚ました後に一口で食べるみくり。
とても熱そうだが、それでもたこ焼きを食べることは止まらない。
「スフェーンさんは、食べないの?」
「ん?食べるよ?」
そこで六個のたこ焼きを確保しているスフェーンはそこで一つ掴んで口に頬張る。
外をしっかりと焼いたことで、カリッとした食感の後に中から熱々のタコや天かすが流れ、紅生姜の薬味の香りがかすかにする。
「うん、美味い」
そこでしっかりと自分の作った味にそう評価すると、そこで全て食べ終えたみくりが聞く。
「ねぇ、まだ作れる?」
「お?まだ食べたい?」
「うん」
「よし、じゃあ第二弾と行きますか」
スフェーンはそこで二回目の生地作りをすぐに終わらせると、再び同じ手順で焼き始めた。
そして出来上がったらみくりは食べる。
生地を作る・プレートで焼く・食べるのサイクルを三回ほど繰り返した後、
「げふっ…」
腹一杯にたこ焼きを食べ尽くした彼女は、軽くお腹をぽんぽんと叩いた後に満足げに後ろに倒れる。
「美味しかった?」
「うん、とても満足した」
夕食にはみくりもとても満足げにしており、顔を整えたことでさらに笑顔に磨きがかかっていた。
二人でタコパを開催したわけだが、思っている以上の満足してもらって何よりだった。
「そりゃあ良かった」
スフェーンはそこでみくりに確認をとった後に煙草に火をつける。
「煙草は美味しいの?」
「うーん、吸わないことに越したことはないんじゃない?」
スフェーンは人に煙草を押し付けない代わりに、煙草を吸うことにとやかく言われたくない人間だ。吸う吸わないは個人の判断に任せていた。
「でも、傭兵なんて血生臭い仕事を生業にしちゃっていたらね…」
「大変だね…」
「少なくとも私は、詐欺と強盗以外で楽に金を稼げる方法を知らない」
スフェーンはそう言うと、一旦吸い込んだ煙草を空になった角瓶に吐き出す。
「?何をやっているの?」
煙草を吸って煙を目一杯出しているスフェーンにみくりが少し首を傾げると、彼女はまあ見ていろと言わんばかりに角瓶に煙草の煙を集めた後に中に塩を少々。蓋を閉じて中の煙と塩を軽く振って混ぜ合わせる。
「よーく見てな?」
これから何をするのかと首を傾げるみくりにスフェーンは言うと、彼女はライターに火をつけて角瓶の口に近づけると、
「っ!!」
中の煙に火がつき、ゆっくりと下に向かって火が広がっていった。
「すごい…」
「ふふふっ、ちょっとしたお遊びよ」
昔の火遊びで、子供相手にやると大体受けたこのネタ。みくりもその例に漏れることなく今の景色にやや驚いていた。
「すごく綺麗だった…」
「そうね…これをやるとみんな喜んでくれるのよね」
スフェーンは火遊びに喜ぶみくりに微笑んでしまうと、
ッーーー!!
そののほほんとした空気は、一発の爆音で霧散した。
「「っ!?」」
その音を聞いた瞬間、二人は驚愕。同時にスフェーンは傍に置いていた散弾銃を手に取った。
「何?」
「みくり、中に隠れて」
スフェーンの鋭く落ち着いた表情と雰囲気に気圧され、みくりは無言で頷くと列車の運転台に入る。
「私の合図があるまで、そこを出ないで」
「…スフェーンさんは?」
みくりが聞くと、スフェーンは言う。
「ちょっとお馬鹿に教育的指導をしてくる」
にこやかに笑みを見せると、軽くみくりの頭を叩いた後にドアを閉じた。
すると直後にルシエルが偵察情報を伝える。
『操車場に四名、表に三名います』
「チッ、どうせ事故ったバカがちくったんだろ」
面倒な、と毒吐く彼女は散弾銃の安全装置を解除して工場を走る。
「全く、これだからこういう類いの奴らは…」
足音を殺して走る彼女は、操車場に出るとサーマルで捉えた人影をロックオンして引き金を引いた。
ッ!!
放たれたゴム弾は襲撃してきた一人に命中すると、身体中を痛める。
「ぎゃぁぁ…!!」
梯子の下にいた男がやられ、銃声に気づいた梯子を登っていた連中が反応をしたが、
ッ! ガシャ ッ! ガシャ ッ! ガシャ
続けて三発放つと、中のゴム弾は十分に空中にばらけると、梯子を登っていた三人に命中して、ボクサーに殴られたくらいの痛みが全身を駆け巡ったことで地面に落っこちた。
「馬鹿タレが…」
そこで地面に倒れて動かなくなった四人を尻目に、次にスフェーンは飛んで工場の屋根を走る。
「どう?」
そしてそのままルシエルに聞くと、彼女は上に飛ばしたドローンの映像から判断した情報を伝える。
『表にいた三人は消えました。どうやら銃声を聞いて逃げて行ったようですね』
「はぁ…軟弱者め」
スフェーンは呆れながら銃を背中に背負うと、そのまま工場の屋根を滑り降りた。
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