ごおっ、と風が吹く。
眼下には小柄色に輝く小麦畑が地平線上まで続いている。
空はオレンジや紫とも取れる色合いで、その中に星の輝きを見せながら間も無く日の入りを迎えようとしていた。
「何とも数奇な運命なことで」
「いきなりどうしましたか?」
そんな一面の整えられた区画の広がる麦畑の近くの小高い丘の上でスフェーンとルシエルは言う。
「いやね、ちょっと今までの人生を振り返ってね…」
「…なるほど」
スフェーンの呟きに、彼女の思考を共有していたルシエルは納得する。
「たしかに、この体を手にしてからと言うもの、多くの事象に出くわしてきましたからね」
「本当、色々とあったわよね」
スフェーンはそこでしみじみと今まで起こった出来事を振り返っていた。
「…」
丘に座り込んでぼんやりと麦畑を見ながら風を感じる。
日が落ちるこの時間帯、流石に夜は冷え込んでくるのでスフェーン達も移動する。
小高い丘の下には一台の
「この後どうする?」
「どうする?スフェーンはすでに決めているでのしょう?」
スフェーンの問いかけにルシエルは答えると、彼女は少し微笑む。
「悪いね」
「いえ、私はスフェーンの意思を優先するだけですので」
そう言った時、二人の頭上を強めの風が吹いて巨大な影が通過して行く。
数機のエンジンノズルに、淡く光る反重力装置と無数の砲塔。飛んで行くのは宇宙戦艦であった。
「あれは…」
ルシエルもその影を見て驚くとともに納得する。
「また戦争ですか…」
その宇宙船を見上げながらルシエルは呟くと、スフェーンは頷く。
頭上を通過した宇宙船はそのまま空へと上がっていき、空には無数の光と飛行機雲が平行線が描かれており、それが宇宙艦隊が離陸をしているのはすぐに理解できた。
「これで、トラオムの人々は『戦争』を思い出しました」
「まあ、戦争なんて昔からやってたじゃん」
スフェーンは言うと、ルシエルは首を傾げた。
「それは紛争なのでは?」
「さあね、言葉の定義はいつでも変わる物だし」
軽くため息を吐いてスフェーンは車のドアを開ける。
「これからカチコミにいくんでしょう?」
「そりゃあね」
運転席に座るスフェーンにルシエルが聞くと、彼女は頷く。
「やられた分はきっちりお返ししないとね」
エンジンをかけ、そこでスフェーンはクラッチを操作してアクセルを踏む。V6エンジンの轟音を轟かせながら車は小麦畑の中を走り出す。
遠くには緑の山々が薄らと見え、空の景色からもここが色界と名づけた場所であることは理解できる。
「エーテル病に感染した人間だけ、この世界の玄関ドアを叩く権利があるわけだけど…」
「不思議ですよね。大災害以前の技術が、ここでは生きている」
「まっ。エーテルの先にここがあるんだから、そう言うことでしょ」
そこで空を見上げると、そこでは何かの鉄道車両がエーテルに包まれて宙に浮いていた。
「そもそも
「確かに、言われてみれば」
畑の合間の畦道を走る車。反対からは
「でも元々どの世界が本物かなんてわかんないんだしさー。今更じゃない?」
「…それは知っているから言える話なのでは?」
ルシエルは少々ジト目でスフェーンを見ると、彼女は前方の景色を見たままハンドルとアクセルを操作して加速した。
遠くの山間では窓から灯りの漏れる列車が走っており、辺りはすっかり夜となっていた。
「頼む!マジでやばいんだって…!!」
タラコマの港湾地区のある場所、周りを廃棄物に囲まれた集積場近くの倉庫で、数人の男達が慌てて言う。
「阿呆かよ」
その地区はタラコマの中でも治安が悪い場所で、彼らもまたそう言うチンピラの集まりであった。
いわゆる『治安官に捕まる=人生に箔が付く』と考えるタイプのチンピラだった。
「本当に聞こえたんだ!」
この場所一体をナワバリにしている彼らは昨日、ある仲間が事故にあって治安官に捕まった事を聞いており、その報復を七人が望んだので行かせたらそこの有様だ。
「四人やられたってのか?」
「冗談だろ」
「どうせヘマやって事故ったに違いない」
慌てて逃げ帰ってきた三人をみて他のチンピラ達は嘲笑っていた。
元々彼らはこのナワバリを拠点に活動をしており、たびたび治安官の御用となっていた。
「ダッセェな」
「雑魚すぎんだろ」
逃げ帰ってきた三人は銃声を聞いて戻ってきたと言っており、彼らはそのへっぴり腰に全員が笑っていた。
直後、
ッッッッッッ!!
突如窓を突き破って無数の銃弾が倉庫を襲った。
「「「「「っ?!」」」」」
銃声と共に、倉庫にいた誰もが驚愕して一斉に地面に伏せた。
「何だ!?」
「襲撃だ!」
「伏せろ!!」
咄嗟に彼らは伏せて隠れる。
銃声はとても大きく、最低でも五〇口径以上の物。それではコンクリートブロックすら貫通してしまうので、彼らは慌てて逃げ出す。
「くそっ!」
「どう言うことだよ!?」
階段を降りる彼ら。
下の倉庫では仲間たちが慌てて武器を手にとっていた。
「急げ急げ!」
「どう言うことだよ!?」
驚愕と同様が倉庫を支配し、あつ重量級サイボーグが外に飛び出て片手に機関銃を持つ。
「敵襲だ!迎げk」
そして指示を出そうとした直後、真上から振ってきた巨大な影に踏み潰された。
「は?」
何が起こったかと驚愕していると、降りてきたのはオートマトンだった。
「なっ…!!」
足元には踏み潰され、生命維持装置が稼働した重量級サイボーグ。降りてきたオートマトンが足を退けると、その下から困惑気味に腹部が貫通している重量級サイボーグの姿があった。
「オートマトンだ!」
「銃を持っているぞ!!」
するとオートマトンは持っていた30mm自動小銃を発砲。
「「ぎゃぁああああっ!!」」
そして倉庫に打ち込まれる30mmのAPCR弾は容易に倉庫を貫通していく。
「旧式かよ!」
「だがオートマトンだぞ?!」
昔から言われている人には人を、戦車には戦車をという同じ種類の武器で戦わせるのが一番早い『同一兵科戦闘論』、その理論で言えばオートマトンにはオートマトンを当てるのが一番早い…が。
「どうする?!俺たちにオートマトンなんてないぞ!?」
襲撃者はオートマトンを使って襲いにきており、彼らはオートマトンを有していなかった。
そもそもオートマトンや多脚戦車自体、歩兵支援から物資輸送までなんでもこなせる代わりに一台あたりの値段が高い。パーツ点数が戦車や歩兵戦闘車よりも圧倒的に多く、整備・点検に手間がかかってしまう。
「チッ…やるしかねぇだろうがよ」
オートマトンは倉庫のライトを破壊したことで、あたりは真っ暗になった。
「全員、サーマルにはしたか?」
一人が確認を取ると、近くにいた他の面々は頷く。そして他で隠れていた別の仲間が持っていた短機関銃を発砲すると、
ッ!
別の場所から銃声が聞こえ、同時に背後から撃たれたその男が一瞬悲鳴をあげて声が聞こえなくなった。
「なっ…!!」
その事実に驚愕するまもなく、倉庫にロケット弾が撃ち込まれて爆発する。
「もう一人いるぞ!」
「くそっ、どっから撃ってきやがった?!」
「誰か見ていないのか?!」
あるチンピラが叫んで聞くと、直後に再びロケット弾の飛んでくる音が聞こえた。
「「っ!!」」
咄嗟に周囲の確認を行うと、直後にロケット弾が着弾して爆発する。
「うおっ!?」
倉庫に爆炎が迸り、熱波が襲いかかる。爆発したのは対戦車弾頭で、対人用榴弾ではなかった。
だが爆発した対戦車榴弾は破片が飛び散り、その破片が襲いかかって男の頬が切れて血が流れる。
「チッ…」
少し痛む傷に軽く舌打ちをしながら拳銃を手に取る彼。
「どこだ…」
そこで周囲を見回すと、倉庫を走る小さな影を見た。
「っ!あそこだ!」
その人影は一瞬だったが、銃撃で穴の空いた天井から差し込む月光の反射でロケット弾発射機を見た。
「撃てっ!」
男は即座に指を差し、その方にチンピラ達はあらゆる銃火器を浴びせる。
「このぉぉおおおっ!!」
しかし直後にオートマトンの銃撃が頭上を襲いかかったことで彼らは一斉に頭を下げなければいなくなる。
「っ!」
「銃声が…?」
さっきよりも多いぞと首を傾げ、オートマトンの方を見ると、
「なっ…!!」
そのオートマトンは持っている銃の他に三丁の30mm自動小銃を宙に浮かせていた。
「嘘だろ…?!」
「なんだありゃあ!?」
すると声に反応したのか、くるっとオートマトンの機体がこちらを向き、同時に一丁の自動小銃の120mmアンダーバレルの銃口がこちらを覗いた。
「っ!伏せろ!!」
男はその中身がなんたるかを察し、咄嗟に叫んだ。
ッ!!
すると直後、アンダーバレルの120mmキャニスター弾が発射。倉庫の物陰に隠れていた彼らに無数の小球が襲いかかった。
「ひっ!」
そのほとんどは男達の隠れていた物陰のものによって阻まれたが、一部は小球が貫通してダメージを負った。
そしてその一瞬が命取りだった。
「下手くそですね…」
「っ!」
男達が隠れていた場所の上から一人の少女が現れると、持っていた拳銃が発砲。放たれた.357マグナムの超硬ワックス弾が男達に襲いかかる。
「ぐはっ!」
「ぎゃっ!?」
隠れていた四人の男達は悲鳴が上がると、超硬ワックス弾が一部めり込んでサイボーグの循環液が傷口から溢れた。
「くそぉ!!」
する一人の男がまだ生き残っていた腕を使って拳銃の銃口を少女に向けると、ガスマスクを被っていた特徴的な虹色の左目を有した少女は機械のように素早く、冷徹な視線を向けた。
ッ!
正確な射撃で、超至近距離から放たれた超硬ワックス弾はそのまま吸い込まれるように男の拳銃の銃口に入り込むと、直後に発射した男の拳銃弾と衝突。逃げ場を失った銃身内の早くの爆圧はそのまま銃身を裂く力に変わった。
「ぎゃあぁぁあっ!!」
そして爆発で拳銃を向けた男の手は銃のプラスチックの破片が突き刺さり、大火傷を負う。
「…」
悲鳴をあげた男に少女は心底呆れた目を向け、その背後ではオートマトンが音を立てて倉庫を練り歩いていた。
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