TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#281

工場に仕掛けてきたチンピラ達に御礼参りを済ませる直前。

 

「…分かりました」

 

夜中に襲ってきたチンピラ達を通報した事で、再び事故った時にもお世話になった人と同じ治安官が対応してくれた。

 

「では、この四人は私達が責任を持って、然るべき対応を取らせます」

「宜しくお願いします」

 

スフェーンはみくりに代わって治安官に頭を下げる。

タコパの最後の最後に仕掛けてきた大罪人達には、取り敢えず全員悔い改めてもらうとしよう。

 

あの後、四人を縛った上で即通報。

治安官達に事情を説明したところ困惑気味に了承をした。まあ昨日の今日でよくわかんない事起こってるし、そりゃあそうだよ。

そしてみくりを運転室から出して安全確認をした。

そしてパトカーにドナドナされ、同時に治安官に睨まれた四人はそのまま署まで連行された。その後、パトカーを見送ってからみくりにスフェーンは言う。

 

「みくりちゃん。今日は一日、大人しくしておくのよ?」

「…スフェーンさんは?」

「私?」

 

みくりに聞かれ、スフェーンは微笑む。

 

「大丈夫、寝てあげるから」

「…分かった」

 

スフェーンの返事を聞き、少し安堵した様子のみくりはそのまま着替えてスフェーンのベッドに向かう。

そしてそのまま寝入ると、そこでスフェーンは瞬きをして群青色の瞳に色を変えると、近場のエーテルの入ったタンクから人型を作る。

 

「…すまんね」

 

スフェーンはそこで寝入ったみくりの頭を軽く撫でた後に作った人形を寝かせてからキャビンを出る。

少々申し訳ないが、修理したオートマトンをダメにする覚悟で出る。

ナッパ服に着替え、ガレージで必要な装備を背負い、銃やロケット弾を背負う。

 

そしてガスマスクを手に取って準備を完了させると、そのまま工場のオートマトンに乗り込んで静かに起動した。

 

 

 

その後、御礼参りをすませてから陽が昇る前までに工場に戻ったスフェーン。

巡航モードでタイヤを展開して走行していたが、途中でパンクをしてしまい、途中から歩行モードに切り替え、工場の大穴の空いた壁までたどり着いた。

 

「ふぅ…」

 

操縦桿で操作するスフェーンは一仕事を終えたことで首を一回転させると、首がゴリゴリと音を鳴らす。完全に関節が完全にホネホネロックを奏でていた。

 

「いてて…ちょっと激しく行きすぎたかな…」

『動いたのはほぼ私ですけどね…』

 

御礼参りの際、この体はルシエルが扱っており、ほぼ全ての武器を使っていた。

 

『消費した弾薬はまだ余裕がありますので、追加で購入する必要はなさそうですね』

「オッケ」

 

そこでオートマトンの出力を落として作動音を小さくする。

なにせこっそり出かけて行ったので、音で起こしてしまっては少々申し訳ない。

 

「…」

 

スフェーンはそこで事故で大穴の空いた車両工場のブルーシートをマニピュレーターを使って丁寧に剥がしてから中に入る。

この手の動きは手慣れたもので、マニピュレーターを操作してトランプカードだって作れる腕前があった。

 

「んんっ…」

 

敷地内に入り、再びブルーシートで蓋をしたところでコックピットを降りたスフェーンは、そこで軽く背伸びをする。

 

「痛てて…」

 

そこで軽く肩を回しながら音を立てずに工場に入ると、そこは無音の暗闇が広がっていた。

 

「…ふぅ」

 

そこでほっと少し安堵して忍足でキャビンまで歩いてそっとガレージのドアを開けてそそくさと着替えをしていると、

 

「お帰り」

 

部屋からみくりの声がした。その声にスフェーンは一瞬驚くと、みくりは帰ってきたスフェーンを見ながら言った。

 

「寝付けなかったから…」

「…なるほど」

 

うまく狸寝入りに騙されたわけだ。そして帰ってくるまで起きていたと言う事で、彼女はスフェーンが何をしたのかを薄々察していた。

スフェーンは軽くため息を吐きながら装備品を全部脱ぎ終えると、みくりに近づく。

 

「すまんね。こんな古い人間で」

 

スフェーンは少し表情を曇らせて、出迎えたみくりを見る。すると彼女は首を横に振った。

 

「ううん…スフェーンさん、やっぱり強いんだなって」

「…そうでもないわよ?」

 

かつて戦場に身を置いていた時代、何度も仕事に失敗して逃げ帰ってきたこともあった。

傭兵に身を投じ始めた頃は、戦場の力量差を間違え、作戦自体が破綻したことも知らされずに戦線に取り残されたこともあった。

しかし、そんな状況下でも勘と技術があって生き残ってきた。

 

「この世の中に強い人なんていないんだから」

 

その時のスフェーンの目を見たみくりは、彼女に何か嫌なことを思い出させてしまったかと勘繰ってしまう。

 

「その…ごめんなさい」

「?何を謝る必要があるのよ」

 

スフェーンは突然謝ってきたみくりに首を傾げると、スフェーンは早着替えでパジャマに着替えると、みくりを催促する。

 

「ささ、こんな時間だし寝るわよ〜」

「…」

 

スフェーンは催促して人形をどかせると、そのままベッドに寝転がる。

 

「…ダッチワイフ?」

「阿呆か」

 

そして退かされたスフェーン人形を見てみくりの呟きに突っ込んだ。私そこまで寂しい人間じゃねえよ!

 

 

 

数時間後、目を覚ましたみくりはオーバーホールの続きを開始する。

なにせ風呂屋に行ったり、降雨があったりなどの諸事情で作業が少し遅れており、みくりは遅れを取り戻そうと手慣れた様子で台車と車両、さらには搭載武器のオーバーホールまで得意の異能で手早く進めていく。

 

「どう?」

「全然順調」

 

台車と車両点検、ジャンパ線関係の電気系統の整備。それらの整備は神業とも言える速度で手際よく行われている。

 

『流石に、手慣れていますね』

「私より多分手慣れているよ…」

 

整備士としての腕なら、自分よりも遥かに高い能力を持つ彼女は、エーテルのおかげで声を聞く力を得ている。

 

「私、あんなに小さなレンチ何個も動かせられる自信無し」

『まぁ…スフェーンの場合、オートマトンの整備ができる程度ですからね…』

 

最近は慣れて列車のエーテル機関も修理できるようになったが、それでもみくりほどではない。

 

「あれは多分、本当に好きでやっているタイプの人間ね…」

 

たまにいる人間だ。

自分も昔、そういうのが好きな人間に出会したことがあり、そういう人は人格に少々問題はあるが、うまく付き合えば凄まじい技を見せてくれる。

ロート・フォッカーの整備を担当した、あの黒鉄市にいた老人がその例だ。

 

「流石にあそこまで私は無理」

『スフェーンの場合、オートマトンの操作技術がそれですから』

 

フォローする様にルシエルが言うと、みくりは全ての貨車のオーバーホールを完了させ、そのまま流れるように後部のエーテル機関のオーバホールに入る。

 

「…本当に大丈夫なの?」

「うん、まだ疲れてない」

 

不思議と好調な様子でみくりはエーテル機関のオーバーホールに入り、スフェーンは整備を終えた列車の武器を武装区画に収納していく。

 

「うげっ」

 

オートマトン用の武器の弾薬が若干心許なかった。

 

「これじゃ買いに行かないとな…」

『洗車のついでに購入を検討しますか?』

「あれ、予備弾なかったかなぁ…」

 

スフェーンは列車から飛び降りてキャビンのガレージに入って、弾薬の確認を行う。

 

「えーっと、30mm、30mm…」

 

ガレージの作業台には弾薬箱が置かれており、その中に30mmの弾薬箱があった。

 

「あったあった」

『その弾薬の使用期限はまだ長いですが?』

「用心のためよ。よっと」

 

プラスチック製の弾薬箱を開けると、中身は30mmのケースレス弾が入っていた。

劣化を防ぐ目的の袋を開け、中身の弾薬をそのまま宙に浮かせた30mm自動小銃に装填していく。

 

「今時異能なんて誰もが知っている時代だし、昨晩のことを考えるとね…」

『すでにあの組織は壊滅に追いやりましたが…』

 

ルシエルは昨晩の襲撃の事を振り返って、そこでスフェーンの意見に首を傾げる。

 

「あの時逃げた奴、いたでしょ?」

『…彼らが脅威足り得ると?』

「うーん、『窮鼠猫を噛む』ってね」

 

ことわざで表現をすると、ルシエルは納得する。後がない敵ほど怖いものはないと、スフェーンの傭兵時代の記憶から計算を導いた。

 

『なるほど。スフェーンが生き残った理由ですね』

「用心深くないと傭兵なんてやっていけなかったし」

 

そこでしっかり銃弾を装填し終えると、武器を格納庫に片付けてコンテナ貨車の上を走る。

なにせ十二両もあるので、先頭から最後尾まで移動するだけでも一苦労である。生身だとバイクで移動してやろうかと割と本気で考てたくなる距離だが、スフェーンお得意の足で貨車の上を駆け抜けていった。

 

「ふっと」

 

整備を終えた段階でジャンパ線の接続は行われており、最後尾の二つの動力車のある場所にいるみくりに声をかける。

 

「おーい」

「…」

 

スフェーンは軽く声をかけるが、みくりはそんな声すら気づかないほど夢中でエーテル機関のオーバーホールを行っていた。

分解した部品を一つずつ確認しており、摩耗の度合いなどを確認していた。

 

その目は職人そのものであり、あの容姿で文字通りの年齢をとっている彼女からすると少々驚きの眼差しだった。

 

「(みくりって、サイボーグじゃないよね?)」

『ええ、彼女からエーテルの反応はありません。また金属反応も低く、確実に生身の人間です』

 

そんなスフェーンの思考にルシエルは的確に否定すると、彼女は作業中のみくりを邪魔しないようにそっと貨車を降りた。

 

 

 

みくりはかつて無いほど集中して作業に取り掛かっていた。

遠目から見ていただけだったが、次々と作業を完了させてエーテル機関のオーバーホールを行う。

まだ彼女は見た目相応に若い。そんな状態で異能を使えば、確実に疲弊していく。

 

そもそも異能自体、自らの寿命を削っていく行為であり、多用すればエーテル病が深刻化して末期に至る。

そしてエーテル病に罹患した患者のみ、異能を使うことが可能であり、その能力の種類はごまんと存在している。

 

「…」

 

そしてみくりはエーテルの声を聞く耳を持っている。

その声は、エーテル機関の調子をすぐに判別できた。故に昔いた工場では、気味悪がられて大好きなエーテル機関の整備を任せてもらえなかった。だから辞めてきた。

 

「…うん、いい感じ」

 

最後のパーツを元に戻すと、みくりは小さく頷いてそのエーテル機関を元の場所に戻した。




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