TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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十三両
#283


南北戦争開戦と共に、世界では建国がブームとなった。

今までは都市国家の様相が強かったこのトラオムの世界に『国家』が誕生したのは大災害以降百年以上経ってからであった。

 

それまで都市の支配者といえば企業が当たり前で、企業が都市を統括することが当たり前であった。

そこに民主主義の概念をもたらしたのは他でもない緑化連合、今のパシリコ共和国である。

かの組織は、南北戦争以前より企業の力が弱った都市を中心に勢力を広げていった。その動きは、当時の企業連合から布教活動のようだと揶揄されるようには急速に広まっていった。

 

そして現在のパシリコ共和国は、初代大統領の弾劾裁判などの影響により、やや情勢は不安定であった。

 

 

 

 

 

「…ふぅ」

 

貨物ターミナルに到着したスフェーン・シュエットは、そこで軽くため息を吐く。

 

「終わったぁ〜…」

 

そして今いる場所の前で思わず声を上げてしまう。

 

『返済終了ですね』

「長かった〜」

 

今いる場所は運輸ギルドの銀行のATM。今スフェーンは、長い時間をかけて今まで溜まっていた列車の改修費用のローン返済が終わったのだ。

 

「まあぐだぐだ返してたから伸びたんだけど」

『まあ、それはそうですが…』

 

直後、スフェーンの言葉にルシエルは少し苦笑する。旅客キャビンの改修費用は指名依頼をアホほど受ければ払えたのだが、ルシエルの提案で仕事を受けるたびに一定の割合でウィールの支払いをしていた。

そしてこの時、長年に渡る返済が終了した。

 

『それで、また改修を行いますか?』

「え?やる?」

『必要なところがあれば』

「じゃあやらない」

 

スフェーンはキッパリと意思を示すと、そこで運輸ギルドの掲示板を眺める。

運輸ギルドでは常に大量の仕事を捌いており、一日中稼働している。

鉄道管理局傘下に属するこの組織では、ありとあらゆる取引の仲介を行なっている。

取引相手は企業から個人まで手広く行なっており、個人の小荷物の場合は鉄道郵便がその業務を代行する場合が多い。

 

「取り敢えず観光しますか」

『ではおすすめの場所があります。ピックアップしますね』

「おん」

 

スフェーンは頷くと、ルシエルはすぐに都市の観光スポットの検索を開始した。

今回、彼女は指名依頼を受けてある都市を訪れていた。

 

場所は押川大陸赤道上の都市、ファウ・ドライ。

この体で初めて訪れる新大陸、場所的にはウエルズ大陸の真反対に存在する押川大陸。

スフェーン・シュエットと名を変えてから十二年目に突入したわけだが、まさかトラオムを半周するとは思っていなかった。

 

『この都市の観光名所は、やはりマスドライバーでしょうか』

「だろうね」

 

スフェーンは当たり前だろと言わんばかりに、ここにくる途中で見えた超巨大な建造物を思い出す。

この都市の西側に向かって巨大な大気圏打上カタパルト装置(マスドライバー)が大災害以前に建造されていた。

 

昔訪れたドーム施設や水上都市、軌道エレベーターなどと同様に大災害以前に作られた施設であるこの施設。

全長約二三キロ、高度最大約十キロもある超巨大な電磁カタパルトは、かつて宇宙船を宇宙まで打ち上げていた。

施設の七割は海に突き出ており、赤道に沿って天高くレールが伸びている。

 

この施設は大災害の際のエーテルの津波によって完全にその機能を停止したとされ、一度もこの施設が稼働したという情報は確認されていなかった。

 

「これだけ立派に残ってたら、ちょっと直しただけで簡単に動きそうなものだけど…」

 

運輸ギルドを出て、少し歩いた場所の停車場に到着した馬車鉄道に乗り込んだスフェーンは、遠く離れた街からもよく見えるマスドライバーを眺める。

それはあまりにも高く、この都市のどのようなハイパービルディングよりも目立つマスドライバーは雲の上までレールが伸びていた。その姿はまるで蒼穹に刃物を入れているようだった。

 

『採算が合わないからなのでしょうか?ですがこう言ったマスドライバーを使った物資輸送はすでに他の場所でも行われていますね』

「じゃあ余計に直さないのが不思議ちゃんなんですが…」

 

スフェーンは客車の座席に座って都市を眺める。

この都市は馬車鉄道と呼ばれる馬が客車を牽く路線が運用されており、前方を二頭のシャイアーが客車を引っ張っていた。

車両は二階建ての客車で、二階は露天の羽布張り。赤道直下で直射日光が厳しいので大半の乗客は一階に避難していた。

 

『ちなみにマスドライバーの運営は大半が企業による占有が行われ、時折企業間抗争の火種ともなっているようですね』

「まぁ、昔はそういうのでも雇われたことあるからよく分かるよ」

 

スフェーンはそう言って少し苦笑した。

傭兵として大きく名を馳せたレッドサンは、大半の傭兵業務を経験していた。その中には無論、こう言った巨大施設の防衛なんかも入っていた。

 

「どうせここもそういうゴタゴタがあって、争いに巻き込まれたくない企業達が手を出さなかった結果でしょう?」

『おっ、さすがですね。大当たりですよ』

 

スフェーンの推察が的中し、それにルシエルが反応をした。

 

「じゃなきゃこんな美味しい施設が放置されないって」

 

彼女は企業の体質というのを身をもって理解しており、故に彼らの考える事も理解できた。

 

「伊達に企業から資金を絞らないって」

『…ほぼ交渉事はジェローム氏に任せていたのでは?』

「まあコンビを組んでからはね」

 

ブルーナイトとコンビを組んで活動を始めてから少しした頃、レッドサンは企業からの依頼料の交渉は段々ブルーナイトに任せるようになり、三年後には全てを任せるようになっていた。

交渉事は彼に一任していたが、金の管理は自分で行なっており、その点の分別はしっかりとつけていた。

 

「こういうのは口が立つ奴に頼むのが一番よ」

『相変わらずの餅は餅屋理論ですね』

「適材適所って言いなさい?」

 

スフェーンはルシエルとそんな話をしていると、馬車鉄道は両脇に街路樹が植えられた特別な石畳に植え込まれたレールの上をゆっくりと進んでいく。

この馬車鉄道も市の観光名所であり、その圧倒的な非機械的レトロさが売りとなっていた。

 

ただエーテル機関や電動機を搭載した気動車や電車に比べて明らかに遅いため、この馬車鉄道は市内を周遊する単独の路線となっていた。

乗換停留所こそあるがどの路線とも接続しておらず。この路線は軌間一三七二ミリ、俗に馬車軌間やスコッチゲージとも呼ばれる特殊な軌間を採用していた。

 

そして今回この二階建ての客車を牽く二頭のシャイヤー。何処にも遺伝子改造を施されていない純粋な種族の馬であり、その巨体は簡単に一トンを超える。

無論生きている生物であり、全てが機械に置換された多脚車両でもないので加減速は全て御者の腕によって変わる。

客車ではアンドロイドの御者が手綱を握っており、同乗する車掌が古い硬券切符で乗客達を楽しませる役割を果たしていた。

 

「次はヴェルフ三丁目。ヴェルフ三丁目です」

 

走行中に車掌が声を上げて伝えてくる。

時速約十二キロで走る馬車鉄道は拡声器すら不要なほど走る時の音は静かで、蹄鉄が地面を踏みつけるパカラパカラと言う音が車内にも響いてくる。

 

『降りましょうか』

「りょーかい」

 

場所を聞き、ルシエルが言ってスフェーンが頷いた。

今のスフェーンは少女の姿で、紺色のナッパ服に顔を隠せる深く被った同色の略帽。その上から防弾チョッキを羽織り、左腰からは革製ホルスターに中折れ拳銃(MP-412)を差し込み、右腰に革製弾薬盒を降ろしていた。

そして道路の真ん中に敷かれた複線路線を進む馬車鉄道は停留所で停車すると、そこで乗客達の乗降が行われる。

 

「お疲れでした〜」

 

スフェーンは降りる際に車掌にそう言うと、彼女はそのまま停留所を後にする。目的地はこの先をしばらく歩いたところにある闇市であった。

ファウ・ドライは未だ企業の力が強い都市であり、故に一種の治外法権的特権が効いている都市でもある。企業の力が強く、戦前は軍警察ですら手出しできなかった都市だ。なのでこう言った闇市場が未だに残っている場所でもあった。

 

『スフェーン、五時方向』

「(やれやれ…)」

 

そして闇市が見えてきた頃、ルシエルの注意に呆れたため息が凍れてしまうと、直後に拳銃に手をやって後ろを振り向いた。

 

「ひっ!」

 

するとそこでは、薄汚い男がスフェーンを襲う直前であり、彼の義眼では追いつけなかった速度で銃口を突きつけられた事実に思わず悲鳴が上がる。

 

「さぁどうすr?」

「っ!!」

 

スフェーンが言い切る前にその男は一目散に逃げ出してしまい、無事に?ロリコンの撃退を終えた。

 

「チッ、軟弱者め…」

 

スフェーンはそんな男に軽く悪態を吐くと、拳銃をホルスターに戻した。彼女はもはや慣れきってしまったロリコン対策に大した反応を示さなくなった。

 

「なんでこんなに世の中女児狙いのオオカミが多いのよ」

『まあ性癖に関しては無限大の可能性がありますし…春画の大半は子供だったと言う記録もありますからね』

「ロリコンの歴史は深いってか?ふざけんなし」

 

スフェーンはこの姿で来たことに自分の無鉄砲さに軽く反省をしていると、

 

「待てっ!」

 

闇市の奥から怒声一発が聞こえ、人が何かしらにぶつかって転けるのが見えた。

 

「止まれ!」

 

その背後を二人のガチガチの戦闘装備を身に纏った治安官が追跡しており、その手にはカービン銃を持っていた。

 

「迷彩を解除しろ!」

「止まらんと撃つぞ!」

 

スフェーンはすぐさま相手が光学迷彩を使っているのを理解すると、足音が急速にこちらに近付いているのを聞いた。

そして治安官のもはや天丼と化したセリフが吐かれると、逃走者は止まらないので治安官は持っていたカービン銃を発砲する。

 

「うぐっ!?」

 

すると光学迷彩を展開していた逃走者は右脚を貫通。直後にサイボーグ特有の循環液が貫通痕から溢れる。

それと同時に光学迷彩が解除されて姿が浮かび上がる。

 

「くそっ」

 

逃走者はそこで視界に闇市に立っていたスフェーンの姿を見つけると、すかさずその腕を伸ばした。

スフェーンも相手の意図に気が付いて逃げようとしたが、遅かった。

 

「ぐえっ」

 

首根っこを掴まれ、そのまま持ち上げられた直後にこめかみに銃口を当てられた。

 

「「っ!!」」

 

スフェーンを人質に取ったことで、治安官達は思わず息を呑んだ。




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