TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#287

「そうか…君でも怖がっているのか」

「そりゃそうですよ」

 

スフェーンは自分と同じく床に座り込むエレウィンに言う。

 

「私は神経がズブいだけで、あなた方のようなテロ組織と名の付く人の名を聞いて怖くない訳ありません」

「ズブいにしては落ち着きすぎだがね」

「何周もしすぎてどう対処すればわかんないだけですよ」

 

彼女はエレウィンに飄々としつつ、しかしやや警戒を崩さない口調で答える。

 

「そもそも民主主義つったって選挙やってるじゃないですか」

 

スフェーンはそこでエレウィンに言うと、彼女は軽く鼻で笑って返す。

 

「ふんっ、あれが真っ当な民主主義に見えるか?」

「うーん、平等・秘密を守った選挙やっているから真っ当なんじゃない?」

 

スフェーンはエレウィンに問いにそう言って返すと、彼女は言う。

 

「所詮は企業が作った政党に、企業が選抜した議員を立候補させて、大量に広告を打って組織票に塗れた投票だぞ?」

「まあ比例代表だけの選出ですからね、この街は」

 

少なくともこの都市の市議会は議員全員が非拘束名簿式比例代表制をとっている。故に企業は多くの票を集めるために選挙期間になると多くの広告を打ちまくって票を集める。

そんな事を彼女は定形文のように語る。

 

「おまけに新規の議員は既存の政党に入っていないと立候補すらできないときた」

 

これじゃあ旧態依然の企業支配が続いているだけだ、と彼女は言う。

その口調は自傷するようにも聞こえ、自嘲にも聞こえた。

 

「今の市議会議員たちは政党毎に企業の息がかかった議員しかいない。無論、そこから選出される議長も企業の犬だ。君はそれを見て不満に思ったことはないのかね?」

「ないですね」

 

エレウィンに聞かれたのでスフェーンは即答する。

 

「ハハハ…」

 

それにはエレウィンは乾いた笑いを出してしまう。

 

「じゃあさ…一つ聞かせてくれよ」

 

エレウィンはスフェーンに問う。

 

「君は、このまま企業の支配が続いていていいと思っているのかい?」

「毎日、一日三食。白米や白パンが食える生活なら、誰だって両手をあげて喜ぶでしょうね」

 

スフェーンはキッパリと言い放った。

 

「たとえどれだけ政治やら民主主義やらを説教されても、貧乏人は明日の飯が食えて、朝安心して起きれるような空間さえあれば、それで十分なんです」

 

衣・食・住、古代より人に必要とされてきた人として生活するための最低限必要なもの。三種の神器のようなものである。

究極なことを言えば、人はこれがあるだけで生きていける。それを企業が保証してくれると言うのなら、スラムで生きる人たちにとっては十分であった。

 

「だから、大災害以降一〇〇年以上彼らは上に立ち続けた。多くの格差が生まれようと、民衆はそれを許した」

 

スフェーンは至って真面目な眼差しでエレウィンを見る。

 

「今の時代は人が簡単に銃を手にできるような時代です。そんな時代の中、どうして民衆は銃を片手に企業に対行しようとしなかったか?」

「…企業の力が強すぎたからだろう?」

 

エレウィンはスフェーンに答えると、彼女は首を横に振る。

 

「いいえ、どれだけ良い装備を身につけていようと、民衆の血肉を一人残らず一掃できると思いますか?」

「…」

「大災害で星全体がエーテルに覆われても生き残ったのが人類です。どれだけ企業がクローン兵を投入したところでいずれは企業側が息切れをするに決まっています」

 

なにせ企業の抱える人間と、スラムで生きる人は文字通り桁違いの人数なのだから。

おまけにアンドロイドが個人の意思を持って生きている時代な上、人よりも単純な肉体的アドバンテージを有した獣人と呼ばれる種族も存在している。

 

「それにアンドロイドに関しては大量生産が可能となります」

「…」

「クローン以上に大量生産が可能で、尚且つパーツを組むだけで生命となるアンドロイド。かつてはそれでアンドロイドとの戦争が起こったこともあります」

 

そこでスフェーンは今までに人類という種が今まで蓄積してきた膨大な歴史を思い返しながらエレウィンに言う。

 

「終戦に二〇年もかかった戦争です。そんなアンドロイドやスラムの有象無象の武装した民衆を相手に企業は戦えると思いますか?」

「…」

 

無理だ、とエレウィンは断定できる。

今まで企業レジスタンスの二代目リーダーとして襲撃を行ってきた経験から理解できる。

いくら質を高めて反乱を起こす民衆に対抗しようとも、工場を破壊されたりすればたちまち企業は立ち行かなくなる。じわじわと真綿で首を絞められる様なものだ。質を上げるのにも限界がある。上に、終わった後は共倒れとなる可能性が大いにあった。

 

「だからこそ、彼らは低所得者やスラム街の住人には程よく餌を与えて反感を買わない方向に走ったんですよ」

 

言うなれば遥か昔の封建制度の様に、自分たちが上の立場であると言う認識を持たせるために。

企業は数で勝るスラム街の住人を味方につける手段で民衆を御した。

 

「まあ、犯罪をしても真っ当な裁判を行ってくれて、しっかりと金を払った分だけの仕事をしてくれから誰だって文句は言いませんよ」

 

それは世界最大の武装組織で有る軍警察だ。彼らは彼らなりにしっかりとやる事をやっているから、民衆から信用を勝ち得たのだ。

信用はこの世界では金よりも価値あるものだ。そう簡単に得られず、失えば取り戻すのに心底時間がかかる。

生き馬の目を抜くようなこの社会で、信用を裏切る行為は死を意味すると言っても過言ではなかった。

 

「だからそもそも私たちみたいな立場の人間からすると、あなた方の様な企業レジスタンスは『金があるやつの道楽』みたいな見方になるんです」

 

まあ、あまりにも企業のやり方が横暴なら賛同する人も多いだろうが、と付け加えた上でスフェーンは昔、ある企業レジスタンスに雇われて企業の工場を襲撃した事を思い出す。直前にその企業から舐められた態度で交渉されたから、報復の意味も含めて依頼を受けたのを思い出した。

 

「…なるほど、金持ちの道楽か…」

 

エレウィンはスフェーンの意見に暫し黙り込む。

スフェーンという完全ガヤの意見は思わず聞き入ってしまうほどに残酷で的確だった。

企業レジスタンスの活動目的は企業支配からの市民の解放。企業の弱体化と、それに伴う民主主義の確立。

しかし、南北戦争後の国家勃興ブームに乗っかって多くの都市が国家に変貌を遂げ、それに帰属していった。

そんな中、今まで統一政体樹立のために戦っていた企業レジスタンスも、この機にあやかって多くの国の政治に入り込んでいった。

国内の混乱を平定し、多くの市民の人気を勝ち取る事で国家元首になった者もいた。

 

…まあぶっちゃけてしまうと、

 

「今時、企業レジスタンスなんて流行らない。と言うことか」

「武力行使、人質をとって脅迫する時点でまあ市民からの賛同は得られんでしょうね」

 

スフェーンはそこでズバリと言い当てたエレウィンに頷いた。

 

「まだその事実に気付いて答えられるだけ貴女は賢いですよ」

 

スフェーンはそう言い、こう言う類の話をする際にまず人に言われた事実を拒否しようと考えを巡らせるのだと言い、その後はひたすらに相手の言う事を否定して耳を貸さなくなると言うのが定石だと言った。

 

「まともに話ができるだけでありがたいものです」

「褒められた気がしないわね…」

「え?一応褒めたつもりですけどね」

 

スフェーンの言葉は、少なくともエレウィンにはどこか皮肉を張っている様にしか聞こえなかった。

 

「実際、国ができた時に企業レジスタンスはちゃっかり政党を作ったりして正義の味方ヅラしてますからね」

「…そうか」

 

そこでスフェーンは椅子の上に乗って天井近い小さな窓を眺める。

 

「今時企業レジスタンスをやっている人たちは、言っちゃあ悪いですけど波に乗れなかった負け犬と同義ですよ」

 

と、少なくとも他の構成員には聞かせられない様な話をズバリズバリと刺してくるスフェーンにエレウィンも苦笑してしまう。

こんな事、下手をしなくとも腹を立てて撃ち殺されてもおかしくは無い話だ。

 

「…その話、他のやつにしたら殺されるぞ?」

 

エレウィンは忠告のつもりでスフェーンに言うと、彼女は頷く。

 

「寧ろこんな話、貴女でなければしませんよ」

 

スフェーンはそう言い、窓の外の景色を眺め続ける。

窓はミラーガラスとなっており、外からは一切中が見えない様になっている。

 

「そうか…」

 

エレウィンはそこで少し肩を落としてからスフェーンに見上げて聞く。

 

「なら、負け犬にならない方法は有るのかい?」

「まあ、もう遅いでしょうな。できるなら、おとなしく武装解除して市民に戻る事じゃ無いですかね?」

 

スフェーンはおとなしく軍警察に投降しろと遠回し気味に提案すると、エレウィンは首を振る。

 

「無理な話だな…」

「どうして?」

 

スフェーンが首を傾げると、彼女は言う。

 

「我々はそう簡単に解散でき無いくらい血を捧げたからな」

「…」

 

ああ、面倒な奴だ。と、スフェーンは表情を顰める。

 

「誓いが呪いに変わったわけですか…」

「話が早くて助かるよ。…全く、君と話しているとまるで生き字引と話している様に聞こえる」

「そりゃどうも」

 

スフェーンはそこで閉じられた部屋の扉を一瞥してからエレウィンに聞く。

 

「…もしやり直せるなら?」

 

その問いにエレウィンは小さくため息を吐いて答える。

 

「出来るものならしてみたいね」

 

そこで彼女は軽く天井を見上げる。

 

「…逃げないの?」

「逃げられると思ってないんで。こっち丸腰ですよ?」

 

スフェーンはそこで防弾チョッキすら持ってかれた状態で両手を広げる。

 

「武器と爆弾大量に抱えた人達相手に勝てるわけないじゃ無いですか〜」

 

彼女はそう言うとエレウィンは苦笑気味に小さく頷いた。

 

 

 

 

 

「当たりだ」

 

有る場所でギリースーツを被るある人影が呟く。

 

「よし、本部に連絡だ」

「分かっている」

 

彼等の隣にはレーザー発信器とパソコンが繋がれ、そこで二人はレーザーが観測した窓の振動を音声化する機材を用いて観測を行なっていた。

 

「…」

 

観測を行なっていた男はしまってあった鳩を入れた鳥籠を開けて、足にチップをくくり付けると空に飛ばした。




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