海浜公園内にある森林地区は、海岸からの防砂林の役割を果たすために人工的に植えられた植物が育っている。
その場所で軍警察との司法取引を行ったエレウィン・グリフィス。運輸ギルド所属の運び屋を誘拐した罪をはじめ、DRAトップとして多くのテロ行為に加担したとして軍警察の中では最重要危険人物として賞金首となっている彼女は、静かに森の中を歩いていた。
「大丈夫か?」
「舐めないでもらって?」
スフェーンはエレウィンにそう返すと、盛り上がった木の根を片足で越え、もう一方の足が引っかかって地面にキスをした。
盛り上がった木の根などで少々足場の悪い場所を歩く二人。目の前で声をかけたのに派手に転けたスフェーンを見てエレウィンは爆笑した。
「ぶはははははっww!」
「いってててて…」
言われたのに派手に転倒した事で面目丸潰れのスフェーンは鼻を真っ赤っかにしながら起き上がる。
「ほら、手でも繋ごう?」
「…良いです」
スフェーンはエレウィンにそう返すと、彼女はそのままスタスタと森の中を歩いて行く。
エレウィンもそんな彼女に強がっているのかな?それを微笑ましげに見ていると、
「エレウィン・グリフィスだな?」
突如、背後から銃口を突きつけられた。
そして森の山に隠れて彼女に男の重い声が響いた。
「…えぇ、そうよ」
エレウィンも頷くと、視線の先でスフェーンは黒塗りの迷彩服に包まれた数人の人影に囲まれて保護をされていた。
「武器は何も持っていないわ」
「…確認する」
するとエレウィンにもう一人の治安官が現れて荷物検査とボディーチェック、金属検査を行うと最後にインプラントチップの確認を行うが、
「…?」
スキャンを行った治安官が首を傾げる。
「おい、インプラントチップはどうした?」
その質問にエレウィンは言う。
「付けてないわ」
「…チップ未装着者か…」
インプラントチップを埋め込んでいなかった彼女に治安官は軽く驚く。
今の時代にインプラントチップを埋め込んでいない人間はほぼおらず、スラム街の住人ですら企業によってインプラントチップの埋め込みが行われていた。
「どうりで調べても何も分からんわけだ」
治安官はそこで軽く呆れながらエレウィンに言う。
彼らはエレウィンが関与したと思われる事件に対しスキャニングを行ったが、彼女の情報を得られることはなかった。だが、インプラントチップを未装着なら話は別だった。
「手錠を」
「はい」
森林地区では多くの治安官が人質の保護と犯人逮捕に極秘裏に動いており、黒塗りの特殊部隊所属の治安官がエレウィンを確保していた。
「行くぞ」
「待て」
手錠をかけてさあ行くぞと言う時、治安官等に声が掛かる。
「長官…」
彼らに話しかけたのはマーリン・サッチャー少将。DRA対策本部長であった。
「ふんっ、敵の親玉自らお出迎えとはね…」
エレウィンはマーリンを見て軽く鼻を鳴らした。彼女の姿はニュースでもよく見ており、エレウィンも知っていた。すると彼女もそんなエレウィンを見て口を開く。
「まさか、こんなに若い子だったとはね…」
初めて彼女と顔を合わせるマーリン・サッチャーは、自分の子とほぼ同い年に見えるエレウィンの姿に内心驚きを隠せなかった。
「(やはり情報部の報告は正しかった様ね…)」
初代DRAリーダーが死亡し、次にトップになった彼の娘はお飾りである。と言う報告書、軍警察という組織が大災害に組織されて以降一〇〇年以上にわたってトラオムに築き上げた情報網は、安全保障を脅かす存在の全てを見通せると噂されるほど卓越したものを持っていた。
企業も自らの手でスパイを送り込むよりも、軍警察の情報網から溢れるものを得ようとするほどにそのネットワークは広く、そして上からは見えなくなるほど深いものがあった。
ーー分断せよ、然る後に統治せよ。
嘗て、この様な言葉を残した国家は一時期は世界最強の国家となった。
情報というものは金以上の価値がありながら、生魚の様にすぐに腐りやすい。
そんな情報を新鮮なまま、深い場所まで探れる軍警察と言う組織は無論、エレウィン・グリフィスという個人についてもある程度の調べがついていた。
そして価値があると判断して、DRAを存続させてきた。
拠点の場所を把握した時点で、軍警察は強襲揚陸艦を用いた襲撃計画は立案されていた。だが、ファウ・ドライのマスドライバーを復旧することは軍警察も望む事であり、資金の流れを掴んでいた軍警察はDRAを『活かすべき組織』と上層部では判断していた。
「どうして自首をする気になったのか、ここで聞かせて頂戴」
マーリンは聞くと、彼女はマスドライバーのある方を一瞥してから返した。
「…さぁ?」
「…連れてって」
返事を聞いたマーリンはエレウィンを連行しようとした時、
ヒュンッ!
目の前を一発の銃弾が飛んできた。
「敵襲っ!!」
「伏せぃ!」
一斉に治安官達は頭を下げると、直後に複数の銃弾が掠める音が聞こえる。
「くそっ、もうバレたか!」
「早すぎるぞ!」
「くそっ、裏切っていたのか?!」
治安官達は各々小銃や拳銃を持って応戦を始める。
しかし敵は電磁加速銃を用いており、発砲炎は愚か銃声すら聞こえない。
「くそっ!奴らめ、飛んだ重武装じゃねえか!」
「ターレットだ!」
誰かが木陰に隠れて叫ぶと、森林地区を二脚ターレットがモーター音を鳴らして近づいてくる。
「探せぇ!」
「敵は蹴散らせぇ!」
構成員の怒号が聞こえると、ヒューっと風切り音が聞こえて直後に森に爆発音が聞こえる。
「くそっ、迫撃砲だ!」
「一〇〇ミリ以上はあるぞ!」
迫撃砲の爆発に治安官達は驚愕をする。
「閣下!」
「構わん」
治安官が誘導をするが、マリーンは付近にいる治安官達に叫ぶ。
「近隣の部隊に支援要請!奴らをここで叩きのめす!」
後で上層部から何を言われようと、自分たちの身の安全を確保する目的での軍事行動は治安官全員に認められた権利だ。マーリンはそう解釈をして付近の治安官達に一斉に命令を伝達する。
「っ!ぐぅ…」
その時、エレウィンは激痛を感じて思わず呻き声を上げる。
電磁加速された銃弾は彼女の腹部を貫通し、腹から血を流していた。
「くそっ、傷が広いな…」
撃ったのはホローポイント弾なのだろう。体内で裂けた弾丸が傷口をより大きくしていた。
また近くにいた治安官も迫撃砲の攻撃で消えてしまったり生命維持装置が起動したまま地面に伏せていたりしていた。なのでエレウィンは一人取り残されていた。
「血が止まらん…」
手錠をかけられたままだが、どくどくと生温かくてどろっとした感触が伝わってくる。
木陰で隠れていた彼女の目の前に数名の人影が現れる。
「大丈夫ですか!?」
そこで手を差し伸べたのは、自分を見送ったあの男だった。
バラクラバにヘルメットを被り、その手に自動小銃を持つ彼は腹を痛めているエレウィンを見て驚く。
「おい!医療キットだ!」
そこで彼は慌ててエレウィンの治療の為に人を呼ぶが、
「いや、大丈夫だ。…大したものじゃ無い」
「え?し、しかし…」
「何、血が滲みただけだ」
医療キットでマイクロマシン入りのiPS細胞入りジェルを入れられたら溜まったものでは無い。おまけにここを離れるのも得策ではなかった。
「大した事じゃ無い」
インプラントチップを埋め込んでいない自分にマイクロマシンを介したマーカーをつけるつもりかもしれないと言う疑心暗鬼が彼女の脳裏を支配する。
「ですが…」
「大丈夫だ。ほら、お前達は行け」
エレウィンはそう言うが、彼は首を横に振る。
「駄目です。あなたを救助するのが理由なんです」
「…そうか」
エレウィンは内心舌打ちをする。幹部か誰かがスフェーンが居ない、もしくは自分がいないこと、あるいは両方に気づいて偽の作戦命令を出したに違いない。
どうやってここを突き止めたのかは、軍警察の動きを見れば分かるだろう。若しくは使った車にいつの間にかGPSが仕込まれていたか。
「さ、行きますよ。まずは治療を…」
そして自分を抱えようとするその構成員の純粋な自分への敬意がより心に刺さった。
何も知らないが故の純粋さが、今は一番辛かった。
「っ、どうしましか?リーダー」
「…いや、何でもない」
その違和感に首を傾げる彼だったが、エレウィンは小さく首を横に振る。
これからの自分にかかる処遇を前にどう言い訳をしようかと考えているた。
「(首から下は消えるかもな…)」
まず言い逃れは不可能だろうと推測する。突発的とは言え彼は話した証言が残っている。まあ、自分の影に隠れて色々とやっていた幹部だ。私の存在は残しておきたいかもしれない。
エレウィンは敬虔では無いが自然主義を信奉していた。
DRAの象徴として顔さえあれば上層部は自分の生死を問わないだろう。最悪、歯の一本でもあれば十分と考えているだろう。そこからクローンを生み出せば良いのだから。
「(残念だなぁ…)」
肩を担がれるエレウィンはそんなことを考えていると、
ッ!ッ!ッ!
森の暗闇の中から三発の銃声が森に響き渡った。
「っ!?」
「ぎゃっ!!」
「うがっ…」
三人はそれぞれ驚愕やうめき声をあげて地面に倒れ込んだ。
エレウィンもそれによって地面に倒れこむと、三人の構成員のうち一人は生命維持装置が作動して地面に伏せた。
「…チッ、まだ生きていますか」
そして暗闇の中からバラクラバを被る少女が現れる。色は赤・えんじ・白の三色。
「だ、れだ…?」
腕を撃たれた男が聞くと、その少女は言う。
「さぁ?私も貴女のこと知りませんからね」
彼女はそう言うと片手にペン型スタンガンを取り出して二人の構成員を気絶させた。
「あーあー、ヒューズがもう駄目だね…」
ペン型スタンガンのバッテリーを交換して彼女は言うと、赤十字の救急キットから冷却されたジェルを取り出してエレウィンに塗る。
「っ!!」
塗られた瞬間、一瞬エレウィンはビクッと体を反応させる。
「大丈夫ですか?」
「ああ…これは大丈夫なやつか?」
エレウィンはスフェーンの塗ったジェルが安全かどうかを聞いた。
「ええ、私の私物ですよ」
「…そうか」
ちゃんと意味は伝わったかと安堵すると、そこでスフェーンに聞いた。
「どうして戻ってきた?」
「乗ろうとした車が吹っ飛ばされたんで、なし崩しに私も治安官様に協力せざるを得なくなったんです」
そう言いマイクロマシン入りのジェルを塗り終えると、そこで組織の修復が始まったエレウィンは横になった。
「…すまない。助かった」
「本格的なのは病院に行ってからで、マイクロマシンを抜くのも忘れないでくださいよ?」
「分かっているさ」
いまだに息が荒く、冷や汗を流すエレウィンは暗闇の中でスフェーンを見ていた。
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