TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#290

ッー!ッー!

 

遠くで迫撃砲の砲撃音が聞こえ、海岸に迫撃砲が着弾する。

この攻撃はピックアップトラックの荷台に積まれた120mm迫撃砲による攻撃だった。

 

「…」

 

その音を耳にしっかりと聞き取りながらスフェーンは森の中で負傷したエレウィンに話しかける。

顔を覆っていたバラクラバは頭にあげてニット帽風になっていた。

 

「傷の具合はどうですか?」

 

操作端末を使ってエレウィンに塗り込んだマイクロマシンから送られてくる銃創の具合を見ながら聞く。

 

「ああ、だいぶ痛みは治ってきた」

 

塗り込んだジェルが硬化し始め、初期治療を始めた頃合いだと分かる。

森の中では時折銃声が聞こえ、軍警察とDRAが交戦をしていると言うのが伺えた。

 

「…慣れているのか?」

「鉄火場の経験なら数えきれないほど」

 

貫通した傷口の仕方や麻酔が自動的に行われ、マイクロマシン療法の便利さをつくづく感じながらエレウィンはスフェーンに話しかけた。

 

「全く、君と言う子に会わなかったらこうはならなかっただろうな…」

「ええ、貴女はきっと死んでいた事でしょうね」

 

地面に倒れていた治安官を丁寧に並べると彼女は言う。

 

「たとえ私がいなくとも、貴女はいずれ軍警に自首をしていたでしょうね」

「そう思うかい?」

「思いますね」

 

スフェーンは言い切ると、近い場所でガトリング銃の独特の銃声が聞こえる。

 

「ここも危ないですかね?」

「この状態で移動できると思うかい?」

 

エレウィンは自分の体に空いた傷を指差す。

 

「仕方ありませんね」

 

スフェーンはそれを確認すると、そこで使った医療パックを片付けて拳銃を手に取る。

 

「近くに敵はいなさそうです。サーマルに反応ないですし」

 

そこで彼女は木陰に隠れて周囲の状況を確認する。

既に近くでは多くの救難信号が溢れており、軍警察とDRAの戦闘の激しさを物語っていた。

 

「飛んだお姫様ですね。救いに来る白馬の騎士様がいっぱいですよ」

「呪われた姫君さ、助ける為に死体がゴロゴロしている」

 

エレウィンは横になったまま空を見上げる。すると上からスフェーンがアルミシートを被せる。

 

「新月の夜です。アルミシートなら良い迷彩になってくれますよ」

「…有難いね」

 

元々は保護されたスフェーンが治安官から被らされた物だが、エレウィンは先ほどの負傷で血を流した影響で大量と体温を消耗しており、アルミシートは失った体温を保つ上でありがたい装備だった。

 

「このまま隠れ続ければ、終わると思うか?」

「軍警の増援がつくまでの辛抱でしょうね」

 

スフェーンはそう返すと、拳銃を握ったまま周囲の警戒をしていた。

 

「ふぅ…」

 

エレウィンはそこで一度息を吐くと、空を見上げる。

 

「君にパンを投げつけられた時に、覚悟が決まったのかなぁ…」

 

彼女は今までの出来事をそう振り返りながらそんな事を思っていた。

 

 

 

 

 

「撃て撃て!奴らを近づけさせるな!!」

 

海浜公園に止まっていた装輪装甲車から治安官の怒号が飛ぶ。

DRAの襲撃を受け、展開していた治安官はDRAの部隊と交戦をしていた。

 

「畜生、あの女め…」

「待ちなさい」

 

ある治安官はエレウィンの自首が虚偽のものだったかと勘繰ったが、マーリンが口を挟む。

 

「…」

 

彼女は現在森林地区で行われている偵察情報から、展開しているDRAの戦闘員達の配置を見る。

 

「(この動き…)」

 

マーリンは展開中のDRAの動きを見て、今まで同組織がとってきた行動の経験を踏まえて指示を出す。

 

「ドローンの状況は?」

「電波妨害無し。攻撃に支障ありません」

「市街地への被害は?」

「ありません」

「当該地区の避難は?」

「場所は海浜公園です。バカみたいに広いのが幸いですね、避難指示も順次発令中です」

 

マーリンはそこで治安官達から報告を聞くと、通信兵が言う。

 

「基地司令からです。『すぐに馬鹿騒ぎを収めろ』と」

「司令には向こうから仕掛けてきたと言っておきなさい。ついでに市議会にも謝罪文と共に海浜公園の森林地区への砲撃許可を」

「はっ…砲撃、ですか?」

 

自分達にそんな大層な装備はなかったはずだが、と言われた治安官は疑問符を浮かべたが、言われた通りに文書を送る。

 

「至急、第五〇七鉄道輸送隊に連絡。許可あり次第、砲撃準備を」

「はっ!」

 

部隊名を聞き、その治安官はマーリンが何をするのかを理解し、同時に砲撃場所に味方がいないことを願った。

そして文書を受け取った市側は、初めこそ表情を顰めたが、交戦中の部隊がDRAと知ると厄介な敵が総力戦で戦っていると戦闘の激しさから把握すると、当該地区への砲撃許可を出した。

 

「砲撃許可来ました。いつもはノロマどものくせに、敵が企業レジスタンスだと早いですね」

「企業の犬なのは、こう言う時はありがたいわね…すぐに砲撃準備を」

「了解」

 

治安官は頷くと、連絡をとった場合に命令を下した。

 

 

 

同刻、貨物ターミナルにて停車中であった鉄道輸送隊に砲撃要請が届く。

 

「急げ!」

 

指揮官が怒鳴ると、深夜で運送直後で疲労困憊の最中に叩き起こされて治安官達は不満げな表情を浮かべていた。

 

「畜生、何で俺たちに砲撃要請が来るんだよ」

「それだけ時間が惜しいってことだろ?」

「駐屯地の砲兵隊呼べよ…」

「でっかい大砲が欲しいんじゃねえの?」

 

そう愚痴りながらも、大砲屋である彼らは大砲発射の準備を行う。

 

「カバーは?」

「外した!」

「よし、ロック外すぞ」

 

砲座を解除すると、固定されていた長砲身が上がる。

 

「列車砲、初期準備できました!」

「弾薬は?」

「弾薬車に乗せられたものがあります。もうちょっとで使用期限が来ていますよ」

「何とも運がいいもんだ」

 

彼らが運用しているのは356mm列車砲だった。

かの火砲は、南北戦争中に軍警察が新型砲を採用した事で余剰となった砲身を流用して作られており、はっきり言えば時代遅れだった兵器を、都市攻撃の為に新たな兵器に生まれ変わらせていた。

 

そして南北戦争中は砲身が焼け付くまで砲撃を行っており、空をエーテルの殻で覆われ、超高空を飛ぶことができない上に、高高度核爆発による広範囲電磁パルス攻撃により電子装備の一才が使えなくなったことにより長距離誘導通信は不可能となった。また電磁パルス攻撃は電子機器に破壊的一撃をもたらす可能性もあり、ミサイルなどの精密誘導ミサイルは軒並み使用不可能となった。

 

これにより巡航ミサイルや電子装備という一手を失った軍警察にとって、列車砲をはじめとした巨砲を有した兵器による前線突破や後方精密砲撃を行う必要が生まれた。

戦争の形はまるで第二次世界大戦や朝鮮戦争に戻ったかのようになり、戦場は目視やレーザー誘導などによる過去の戦争へと形を変えていた。

そして列車砲は先の戦争での成果を経て、多少の改造を加えた後に今も運用されていた。

 

「揚弾〜!!」

 

砲身の仰角が付き、列車砲の車台に弾薬車から砲弾と装薬が自動装填装置に充填される。

 

「砲撃準備良し!」

 

そして薬室に砲弾と装薬が装填されると、砲座が旋回を始める。

 

「砲撃準備完了です」

「よし、あの強面女に通達だ」

「はっ!」

 

列車砲を運用する部隊の準備が完了したことはすぐにマーリンの元に届いた。

 

 

 

そしてファウ・ドライの陸軍基地でも装輪装甲車や歩兵戦闘車が出動を行っていた。

 

「急いで増援部隊を海浜公園に向かわせろ!最優先でだ!」

 

基地司令は部下に指示を出して、救援要請のあった海浜公園の森林地区に部隊を派遣する。

 

「くそっ、サッチャーめ…奴等を殲滅させる気か?」

 

司令室で毒吐く獣人の将軍はため息を吐きながら彼は出撃を命じた部隊が基地から出ていくのを確認する。

 

「向こうの状況はどうなっている?」

「はっ、現在DRA戦闘員との戦闘は森林地区を出ていません」

 

基地司令部の戦況図に映される情報と共に更新が入る。

 

「敵はターレットに迫撃砲、小銃を使っての戦闘を行っている模様です」

「またマーリン・サッチャー少将より、鉄道輸送隊に砲撃要請を確認しました」

「列車砲か…アイツめ、本気でやるつもりか」

 

彼はそこで本気でやり合う覚悟を見せるサッチャーに内心やりすぎだと思っていた。

 

「(DRAのトップが自首すると先に言えば良かったものを…)」

 

彼はそう思いながらも過ぎたこととして目下、必要は部隊を派遣した。

 

 

 

 

 

「っ!」

「ぐぼぁっ」

 

森林地区で警戒しながら探索を行っていたDRA戦闘員二人が一瞬で無力化される。

二人には二発の光線が突き刺さって倒れたのだ。

 

「…」

 

その頭上では、赤い瞳を持つスフェーンが右手で銃を形作って極めて低威力のエーテル・カノンを発射していたのだ。

 

『付近の人感センサーに反応無し。敵性存在はありません』

「了解」

 

木の影に隠れていた彼女はルシエルからの報告に頷くと、そのまま元いた場所に戻った。

 

「終わったようだね?」

 

木陰で横たわるエレウィンは、戻ってきたスフェーンに聞いた。

現在戦闘が行われているこの場所で、治療中のエレウィンは動くことができないので、近くにきた敵を予め間引きする必要があった。

 

「っ!!」

 

その時,足音がして銃口を向けると、

 

「おぉ、撃つな撃つな!」

 

そこで両手を上げてポーズを取る複数の治安官の姿があった。

スフェーンは治安官に安堵して銃を下ろすと、彼らは無線をとって連絡を入れる。

 

「治安官二名と要救助者一名、重要参考人一名発見しました」

 

アルミシートを被っていたエレウィンも同時に数に入れられると、スフェーンが事情を説明して、治安官は頷くとエレウィンに簡易的な担架を展開してからその上に彼女を乗せる。

 

「よし、では行こうか」

「わ、わかりました」

 

他にも倒れたいた治安官と、手錠をかけて拘束したDRA戦闘員と共に彼等は森林地区を抜ける為に移動を始める。

そして森を抜けて、公園の整えられた噴水などが広がる場所を歩いていた時、

 

ッーーー!!

 

背後で凄まじい振動と共に大きな土煙が森林地区から上がった。

 

「おーおー、おっ始めやがった」

「列車砲の砲撃だ」

 

そこで治安官達はその爆発の理由を口にすると、それを見ていたエレウィンはその激しさに少し呆然となりながら救急車に乗せられていった。




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