TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#291

列車砲による砲撃は二時間ほどで終了し、その後軍警察は増援部隊と共に森林地区に展開したDRA戦闘員の掃討を行う。

その間、スフェーン・シュエットは軍警察に保護をされた後に陸軍基地に運ばれて体調検査やその他諸々の事情聴取のために時間が取られることとなった。

 

「つ、疲れた…」

 

陸軍基地は軍警察の有する陸上艦の整備・補給が可能なようにされており、巨大な土地に多数に装甲戦闘車両や軍人が屯していた。

 

『まあすぐに帰してもらえますから。後少しの辛抱ですよ』

「そうね…」

 

多くの治安官が行き交う中、あらかたの事情聴取とカウンセリングを終えてスフェーンはここからで見えるマスドライバーを見つめる。

 

「デッカいなあ…」

『まあマスドライバーですからね…』

 

スフェーンの呟きにルシエルが言うと、

 

『良かったですね。面会許可が降りて』

「ええ」

 

そこでスフェーンは、事情聴取中に治安官にお願いしたことが通った事に少し安堵していた。むしろ聞いた治安官の方が少し驚いた様子でスフェーンに『良いの?』と聞き返しており、治安官はスフェーンと病院に運ばれて収容されたエレウィンとの面会を許可した。

 

「ルシエル、次はどこに行く?」

『スフェーン、いくつか指名依頼が届いていますよ?』

「うーん、断っておいて」

『分かりました』

 

そこでルシエルは届いた連絡を消去すると、そこでスフェーンは基地を眺める。

基地という通り、大きくて容易には動かせないものを置いておくには十分な広さを有しており、軽く貨物ターミナルくらいはあるかもしれない。

 

「スフェーン・シュエットさん」

「あ、はい?」

 

基地内の病院で待っていたスフェーンは、治安官から声をかけられるとそこで背筋を少しピンとさせて振り返る。

 

「面会時間は十五分です。そして安全のために治安官の監視がつく事をご了承下さい」

「分かりました」

 

事前に聞かされていた話を再度耳にして確認を行い、その後彼女は病室の並ぶ場所を歩いていく。

個室の病室ばかりのこの場所をスフェーンは静かに歩く。

すでに時間が終わってから一週間ほど経っており、スフェーンはその間に軍警察から要望された事を全て答えていたおかげでこの面会が終わったら全てのことから解放される。

 

「(あっ…)」

 

そして廊下を歩く途中、一人の女性が部屋を後にしていた。

その強面顔は常に周囲に威圧感と言うか、緊張を振りまいていた。

 

「…」

 

その女性は、先の戦闘でも顔を見たことがあった。DRAの対策本部を率いていたマーリン・サッチャー少将だ。彼女は廊下で一瞬スフェーンの顔を見ると、その後にほんの僅かに口角を緩めた後にエレベーターに向かって歩いていく。

少将の階級章を下げていたので、自分の前を歩いていた治安官は通り過ぎるまでに敬礼をし、スフェーンも頭を下げた。

 

「こちらです」

「はい」

 

そして先ほどマーリンが出てきた部屋の前で一旦立ち止まると、部屋の外の歩哨がスフェーンと案内役の治安官を見た後に少し短く確認を行う。

そして部屋のドアを三回ノックすると、中から短機関銃を提げる治安官が出て来た。

 

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

色々な場所に治安官が立っているのは、間違いなくこの病室にいる人間の肩書きによるものだろう。

小さな部屋に置かれたベッドでは、エレウィンが横になって窓の外を見ていた。

 

「よう、また会ったな」

「…容体は良さそうですね」

 

スフェーンが言うと、エレウィンはフッと笑って返した。

腹を撃たれた彼女は医療用ジェルを塗られた事で初期治療が行われ、病人に運ばれた後に本格的に手術が行われた事で一命を取り留めていた。

 

「まあ、監視付きでしばらくは病院暮らしだろうな」

「そうですか…」

 

治安官は少し離れた場所で、しかししっかりと監視できる位置に立っていた。

スフェーンは部屋に置かれた椅子に座ってエレウィンに話しかける。

 

「この後、死刑ですかね?」

「さあな…まあそこは司法局と、選抜弁護士に任せるしかない」

 

軍警察に自首をした彼女は、この後テロ組織のトップとして裁判にかけられる。

ただ司法取引や、自首後の証言から情状酌量の余地ありと判断される可能性もあると言った。

 

「ま、この前の出来事でマーリン少将からも助命すると約束されたよ」

「え?あの強面の人が?」

 

スフェーンが言うと、一瞬監視をしていた治安官の表情が歪んだ。そして吹き出しそうな所を必死に我慢した。

かの治安官は対策本部付きだった治安官であり、彼女の事をよく知っていたからだ。エレウィンはそれに気がつきつつも小さく頷いた。

 

「ああ、不思議な話だがな。まあ…」

 

エレウィンはそこで少し安堵した表情で窓の外の景色を見る。

 

「命あっての人生だ…精々、長生きをさせてもらうつもりだよ」

 

そう言って少し疲れた様子の彼女に、スフェーンは聞く。

 

「じゃあ、長生きしたら何をしたいですか?」

「何をしたい…か。そうだね…」

 

エレウィンはそこで窓の外からよく見える長いマスドライバーを見る。

 

「あのマスドライバーを、自分の手で動かして見たいものだね」

 

彼女はそう言うとスフェーンは静かに目を閉じると、満足したようで席を立った。

 

「じゃあ、私はこれから仕事ですので」

「…そうかい」

 

エレウィンはそのまま部屋を出ていくスフェーンを見送ると、そこで彼女は一度治安官に頭を下げてから部屋を後にした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その後、多くの治安官の事情聴取に答えながら、同時にテロ組織のトップとして多くの報道機関からの奇々怪々な視線を受けながらエレウィン・グリフィスは法廷に立つこととなる。

 

DRAはあの後、リーダーが逮捕された事を皮切りに組織としての体裁が保てず多くの小規模団体に分裂した。

 

『ーーーよって、被告人エレウィン・グリフィスは破壊活動防止法違反、並びに対テロ防止法違反などの罪により…』

 

長い期間、司法局による裁判の末にエレウィン・グリフィスには無期懲役刑が決まった。

裁判が終わり、多くの記者たちが撮影機材の持ち込みを禁止された最高裁裁判所においてざわめいていた中、彼女は裁判所の廊下を治安官に挟まれて歩いていた。

 

「終わったようね」

「マーリン中将…」

 

すると廊下で待っていたのは、事件後にその功績によって昇進を果たしたマーリンだった。

国際司法裁判所の役割を有するこの最高裁判所で判決を受けたエレウィンは、これから刑務所に入る手筈であった。

 

「貴女に一つ提案があるわ。とても良い話なのよ?」

 

するとマーリンは会うや否や、エレウィンに書類と共にある提案を持ちかけてくる。

 

「その誘い文句に惹かれるのはよほどの馬鹿かスラム街の連中だけですよ」

 

エレウィンはそんなマーリンの提案にまずはそう言って返した。

 

「…それに私は無期懲役刑の囚人ですよ?」

「でも、故郷のマスドライバー打ち上げは見たいのでしょう?」

「…」

 

その時のマーリンの表情は少し魔女っぽい邪悪な笑みを浮かべており、エレウィンはその悪魔的な提案にほんの小さなため息を吐いた。

 

「…聞きますよ」

「じゃあ、この部屋に入ってちょうだい」

 

良い話をしましょう?そう言って彼女はエレウィンを被告人控室に手招きした。

 

「…悪女め」

「最大限の褒め言葉と受け取っておくわ」

 

部屋に入る直前にエレウィンの吐き捨てた言葉に、マーリンは笑みを浮かべて返していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その日、マスドライバーではある大陸間輸送コンテナがブースターであるロケットともに設置される。

 

『十…九…八…七…六…』

 

そして電源が入れられると、レールに沿ってコンテナが加速を始める。

電磁カタパルトによってその加速はあっという間に時速一〇〇キロを超える。

 

『五…四…三…二…一…』

 

そしてカウントダウンが終わると管制室で管制員がスイッチを入れる。

 

『点火!』

 

直後、ロケットブースターが点火されたコンテナはさらに加速度を上げてレールを伝って加速を行う。

 

ッーーー!!

 

コンテナは簡単に音速を突破し、第一宇宙速度寸前まで速度を上げると高度一〇キロの地点に到達し、そこで空に上がったコンテナはそのまま空を飛んで物資を遥か彼方まで飛ばした。

 

「「「「っーーーー!!」」」」

 

白煙を濛々と撒き散らして飛んでいったマスドライバーを見ていた市民は歓喜の声をあげ、マスドライバーの復活に誰もが白煙の消えていった先を見ていた。

無事に打ち上げられた輸送コンテナを前に市民達は歓喜の声に湧いていた。

 

「…」

 

そんな飛んでいったコンテナを見てある女性はその光景に少し微笑むと、後ろから声をかけられる。

 

「ママーッ!!」

 

振り返ると、そこでは一人の少女が女性を呼んでおり、近くではシートを敷いてピクニックの準備をしている男性と少女がいた。

 

「すぐ行く」

 

女性は少女に返すと、彼等に近寄って背中にマスドライバーの喧騒を聞いていた。

 

「凄いものだな…」

「まあ、他の街でやっている事を真似ただけさ」

 

その女性は、あのマスドライバーを復旧させたチームの一人であった。

 

「あれ、ママが直したの?」

「うーん…まあ、そうなるのかな?」

 

娘の質問にそう返すと、彼女はそんな母を誇らしげに見ていた。

 

「はははっ、ママはすごいんだぞ?」

 

そんな娘に同じくピクニックに出て来た彼女の父は頷く。

彼は自分の過去を知った上で、それを承知で結婚をしてくれた度胸のある人だった。それでも、と言ってプロポーズをしたので自分も受け取らざるを得なかったと言うのが正しいだろうか。

 

数十年単位で長いことこの街を離れて暮らしていたので、もう安全だろうと言われてこの街のマスドライバーの復興チームに所属し、腕を買われて比較的高い地位まで引っ張ってもらっていた。

 

「そんな褒めるなよ。なんだか恥ずかしい」

「そんな恥ずかしがることもないさ」

 

そんなマスドライバーから打ち上げられた輸送コンテナを見ながら三人は笑っていた。

 

 

 

 

 

その様子を、遠く離れた場所からスコープ越しに覗く影があった。

スコープは的確に女性の顔を捉えると弾道計算を行い、弾道が赤線で表示される。

 

「…」

 

そしてその影は持っていた銃の引き金を引くと、電磁加速された銃弾が発射され、乾いた衝撃波の音が響き渡った。




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