サラからの話はこうだった。
彼女はある企業の創設を行う予定だが、購入予定の土地の所有者が良い顔をせず、ライバル企業に売る可能性があると言う。
「手付金支払った後だからさ、ちょっと怪しい気がしてね…」
「はぁ…で、顔が割れていなくて、尚且つマナーある程度知っていて、完全ガヤの人間だから嘘をつかない私に中に入って調べてこいと?」
「そう言う事〜」
サラの思う通りに答えてくれたスフェーンに、サラは満足げに頷く。
「はぁ…私、腹芸苦手なんですが?」
「別にちょっと今度やるパーティー会場に招待客に混じって中に入ってくれれば良いのよ」
何故か中に入って調べて来てくれと頼まれるスフェーンだったが、ぶっちゃけこんな仕事を回してくるなよと愚痴っていた。
「…盗聴器?」
「それもある」
「も?」
サラの言葉にスフェーンは首を傾げる。
「そう、売主の家は最近資金繰りが悪いらしいんだけど。今回のパーティー、結構大胆にやるのよね」
「はい…」
なるほど、少し無理をしている雰囲気があると言うわけだ。或いはそう言うパーティーが出来るくらい何処かから資金調達の目処があったか。
「違約金支払ってとんずらされたら困るからね」
「そりゃあ、たまったもんじゃないですわね」
要は金だけ分取ってサイナラ〜、なんてやられたら詐欺であり、企業の人間からすれば抹殺ものである。
「弱点を握りたいわけですか…」
「できればね」
サラはあっさりとスフェーンに頷く。まあ簡単な話ではあるが、やることが多いとも思った。
「まあ最悪できなくてもいいし、そう言うもっとやばい仕事は上手い人に任せればいいわ」
「じゃあなんで呼んだんですか…」
スフェーンはそこで自分をここまで呼んださらに疑問を感じると、彼女はそこでスフェーンをじっと見る。
「そうね…まあちょっと付き合ってもらおうかなぁって」
「はぁ…?」
するとサラは指を鳴らし、直後に嫌な予感を感じてソファから立ちあがろうとしたが、肩と両腕をメアリを含めたメイド数名が抑える。
「じゃあ、早速私自慢の更衣室に向かいましょうか」
「えっ?」
スフェーンは途端に顔を引き攣らせる。
「イヤッ!イヤッ!イヤァアアアアアッ!!」
そしてちい○わの如く抵抗をするが、そのままソファから引きずりおろされて屋敷の奥に引っ張られる。
サラは喚きながら部屋から引っ張られるスフェーンに笑みを浮かべて見送ると、メアリ達使用人はリビングを後にする。彼女とスフェーンの個人的な関係は、知る人間は知っており、それを知らない使用人は若干訝しむ目線を見せていたが、執事のメアリが何も言わないのでそう思った使用人も何も言わなかった。
「では、スフェーン様の体格に合うドレスを…」
そして更衣室に連れ込まれたスフェーンだったが、今の彼女の拠点ということもあってか、その衣装の量は部屋丸々埋まるほどの量があった。
「おすすめのパーティードレスですが…」
メアリはそこで死んだ顔をするスフェーンに容赦無くドレスの種類を聞く。
「此度のパーティーは立食形式。時間帯は日没後ですので、おすすめはカクテルドレスとなります」
「えぇ…できれば足はロングの方で、胸も控えめか、できれば見えないように」
「かしこまりました」
メアリはスフェーンの要望に頷く。
「後アクセサリーは付けたいのがあるので、一旦列車に戻りたいです」
「私どもが取りに向かいましょうか?」
スフェーンの要望にメアリが聞くと、彼女は首を横に振る。
「いや、私が取りに行きますよ」
「承知しました。失礼をお詫びします」
自分の家まで取りに行ってくれるのはありがたいが、色々とモノが散らばったままなので他人を入れるわけには行かなかった。
あとついでに自由に移動できるバイクも取りに行きたかった。多分、数日はここでお世話になるだろうから、自由に移動できる手段が欲しかった。
「いえ、バイクとか色々取りに行きたいので…」
「分かりました。ではバンの準備をいたしましょう」
メアリはスフェーンの要望を聞くと、部下に車の用意をさせる。
某社の女性型アンドロイドである彼女はサラにまだ義妹がいた頃から彼女の身の回りの全ての業務をこなしていた。
そして今も彼女からの高い信頼を勝ち得たことで、執事として今も彼女の予定管理を担っていた。
規則により完全に人を真似た顔を禁止され、電光掲示板の顔をもつ彼女は表示される画像で表情を表しており、スフェーンのドレスの要望を聞いてから採寸を行う。
「では測りますね」
そして事前に呼んでいたドレスメーカーがスフェーンの体の採寸を行う。
まさかのフルオーダードレスにスフェーンは内心『あぁ、時間かかるやつだこれ』と採寸を行うメジャーの音が金の消えて行く音に聞こえながら採寸される。
「お色はどうされますか?」
「逆に何色が似合うと思います?」
「ふむ…そうですね」
ドレスメーカーはスフェーンに聞かれ、少し考える。メアリは、アンドロイドである以前に自分の個性としての感性が壊滅的であると自認しているので
意見しようと思っていなかった。
流石に選んだ服を見た昔のサラから『ちょっとそれは…』と言われてしまってからは自分のセンスの無さを自覚せざるを得なかった。
「お客様の髪色は灰色ですので…」
そこでドレスメーカーはスフェーンの髪色が地毛であると確認する。
銀髪とも違い、かと言って鉛色ほど暗くもない。しかし光の角度によっては少し赤っぽくも見える色合い、それでいて透明感もある少し幻想的な色合いだった。
「灰色の髪ですと、青や緑といった寒色系のお色がお似合いですね」
「なるほど…」
ドレスメーカーの意見を聞き、スフェーンは一考する。
「イメージなどはございますでしょうか?」
するとドレスメーカーは今回のドレスのイメージを聞いてきた。
スフェーンの黒セーターにムートンジャケット、ジーンズにコンバットブーツという格好から、確実に労働者階級の人ではないかと思っていた。
特にサングラスの下から覗く虹色の右目、これは確実に義眼でないと出せない色合いだ。
極偶にアースアイと呼ばれる瞳を持つ人間がいるというのは知っているが、ここまで綺麗に多様な色が入った目は聞いたことがなかった。
だが、サングラスを常につけている理由が察せるほどに容姿は整っている。少し目線は鋭いが、写真映えする顔つきだ。
「そうですね…」
聞かれたスフェーンはそこでまた考える。
どうしてこのような労働者階級の女性が、サラ・アンデルセンの家でドレスの注文をしているのかは不思議でしかないが、正式な依頼を受けた身であるので仕事はしっかりと行っていた。
一瞬、依頼主であるサラ・アンデルセンの母親がスラム街の娼婦であったと言うことで、新たなシェリド・アンデルセンの隠し子かと疑ったが、それ以上の詮索はしない方がいいと言う今まで経験した職人としての立場が彼女を引き留めた。
しかしまさか彼女も思わないだろう。
まさかサラ・アンデルセンが、ドレスを着たスフェーンが見たいと言う理由だけで家に誘い、パーティーに招待したなどと。フルオーダーでドレスを作らせたのも、完全にサラ・アンデルセン個人の趣味と道楽であると。
アンデルセン家も、スフェーン・シュエットと言う運び屋の少女との私的な関わりについて、身辺調査や安全確認などを行い、過去の経歴に若干の不安を覚えつつも、個人的な友人としてちょうど良い距離を保ち、尚且つどこの勢力にも近づかない運び屋という職業を前に安全であるという判断を下していた。
何より、今まで仕事よりもカジノで利益を出していたサラを真面目な仕事人にさせたスフェーンと言う個人を前に、大きな恩があった。
だから今回の一件もあまり強く言うこともなく、またパーティーに関しても会社の情報部が既に動いているので問題なかった。
サラも念の為、スフェーンに伝えただけであった。
「宝石のスフェーン。イヤリングに使うつもりなのでそれに似合うドレスで、なるべく派手すぎないもので。色は寒色系でお願いします」
「なるほど…かしこまりました」
要望を受け、ドレスメーカーはその注文を携帯に打ち込んでメモをとる。
「採寸は以上となります。お疲れ様でした」
「分かりました」
そして採寸を終え、ドレスメーカーは期待に沿えるドレスを制作すると意気込みながら取ったデータを持って屋敷を後にする。
「終わったかしら?」
「もうグッタリなんですが?」
採寸を終えたのを見計らって顔をみせるサラにスフェーンは少しカッとなって鋭い目線を送りつける。
「どうせならイブニングドレスも作りなさいよ」
「背中とか胸元丸出しじゃないですか!別に王侯貴族と会うわけでもないのにどうしてそんな正装準備する必要があるんですか?!!」
アフタヌーンドレスで十分だ、とスフェーンは言い返すとサラが『じゃあ作りましょうか、アフタヌーンも』と言ってスフェーンは宇宙猫と化した。
そしてしばらく世話になると言うことで、スフェーンは荷物を取りに一旦列車に戻って支度をするために、用意されたバンに乗って屋敷を後にした。
「(ドレスの知識はあるようですね…)」
スフェーンの乗ったバンを先ほどスフェーンのドレスの注文を見ていたたメアリは考える。
ドレスの採寸を行った際、スフェーンはカクテルドレスや、ドレスの似合う時間帯のことも理解しているように答えていた。
「(まだタキシードを注文しなかっただけましでしょうか?)」
スフェーンの性格からすればタキシードを注文してくるかもしれないとメアリは思っていた。
前回、サラが食事に誘った時にもスーツでやってきたと聞いていたので、もし今回タキシードを注文した場合はちょっと忠告をしてからドレスの採寸を行う予定だった。
「(では、最低限のマナーを教えた方がよろしいでしょう)」
少なくとも前に食事に招待した際、サラから食事の作法がそう言う教育を受けた人間の動作であると聞いており、一応確認するつもりだが、食事に関する作法に不安はないと判断していた。
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