その日、都市の中でも東の山間に突き出るように設計された建物では、多数の車が止まっていた。
〜♪
その中でも大きな宴会場では優雅な音楽と共に招待された音楽隊の弦楽器の音が静かに響き渡り、会場には多くのテーブルが並び、その上に料理・純白の陶磁器が並べられていた。
会場に招待されている多くの人々は、必ずと言っていいほど運転手付きの高級車で屋敷に乗り付けており、駐車場に停まっている車だけで都市に住まうスラム街の住人が一年は暮らしていけそうであった。
「…」
そんな屋敷につながる唯一の道の中、
車はサラがまた用意してくれた。自分で運転しようかとも思ったが『来る人絶対運転手付きよ?』と言われ、余った車と人で送って貰う事となった。いれたりつくせりの状態で申し訳なくも思った。
ちなみにそのことを思わず呟いた時、サラから『あなたに感謝されるなんて思わなかった』と言われてしまった。誠に心外である。
「はぁ…」
だがその内心、彼女は少しばかり緊張もしていた。
何せ今回のパーティーはサラがメインの招待客であり、主催者も彼女のことは特に気にするだろう。
パーティー券をばら撒いて何をするのだろうかと思いながらも、車は屋敷に到着する。
「到着しました」
「ありがとう」
運転手はそのままドアマンとなってスフェーンを車から降ろすと、片手にパーティーバッグを持ってスフェーンは屋敷に到着する。
「招待券を」
「どうぞ」
スフェーンはそこで受付にパーティー券を渡すと、確認を終えてそのまま会場に移動する。
「ほほぉ…」
会場は小規模のホールであり、天井もシャンデリアが飾られないほどの高さだ。だが大勢の招待客が参加しており、スフェーンとしては場違い感が半端ではなかった。
『スフェーン?』
「わかってるわよ」
到着したスフェーンはなるべく気配を殺しながらパーティーに並べられた料理を手に取る。
立食形式なお陰で彼女は新しい商談やアイデア、企業情報などの政争を繰り広げている招待客達をよそに鴨のゼリー寄せやキッシュ等に舌鼓を打っていた。
「美味ぁ…」
さっさと料理をとって壁に近づき、用意されてあったテーブルに座って食事をとる。無論、調子に乗って山盛りに取ってしまうと白い目で見られるので少量を何度も取りに行く方法で料理を楽しんでいた。
その間、招待客達は笑顔の下で何考えているかわからない顔で笑みを見せて挨拶から話をしていた。企業の皆様方は大変だなあ、と完全他人事状態でスフェーンはケータリングの全制覇を狙っていた。
『しかし、招待客の面々もよくきましたね。財界、政界、軍人も多く来ています』
「(まあ、招待したのが地主だし…)」
スフェーンはそこで、会場の中でも一際人口密度の高くなっている場所に目をやる。
「(いろいろと有名人が居るからね)」
その視線の先にはサラが営業ウーマンの作った表情を見せていた。
ある意味、今回のパーティーのメインであり、さっきから数えて十分以上は挨拶をしていた。少なくとも自分なら早々に体力を消耗してぐったりしているに違いないと確信しながらステーキを一口。
そして数多くの招待客と挨拶を交わしていると、
「サラ嬢。此度はお越しいただき、誠に嬉しい限りです」
両手を広げて歓迎の仕草を取るのは、このパーティーの主催者であり、会場の豪邸の家主だ。彼を見たサラは笑みを見せて挨拶をする。
「(『ぺ、ペテン師だ…』)」
その顔を見たスフェーンとルシエルは奇しくも同じ言葉が出た。何せ普段の態度からは想像がつかないほどお嬢様をしており、何枚猫の皮を被ったのか数えてみたいとも思った。
『流石ですね』
「(こりゃあ多くの人が騙されるわけだ)」
ゾッとした恐怖を感じたスフェーン達は和やかな笑みを振り撒くサラ・アンデルセンに震える。
青を基調に水色のベールや装飾をあしらったこのカクテルドレスは、彼女の灰色の髪に似合っていると、サラから言わせしめていた。
「(まぁ、美味い料理をせいぜい楽しませてもらいましょうかね〜)」
花より団子、人付き合いよりケータリング料理。スフェーンは壁の花となって鹿肉のジビエをピックに刺して口に運んだ。
「(え?あそこにいるの?)」
その時、会場のテーブルの隅に座っていたスフェーンを見けたサラは驚いていた。
パーティーに移動する前、届いたドレスの試着と化粧をしたのだが、
「え?」
「…」
化粧をした後、サラとメアリは思わず顔を見合わせた。
「何か?」
化粧をされたスフェーンはそんな二人を見て首を傾げていた。
「ちょっと、これって…」
「大分、強烈ですね…」
二人はそこで化粧を終えたスフェーンを再度見る。
まつ毛も伸ばしたりファンデーションなどを用い、彼女の持ち込んできたイヤリングの他にもネックレスや腕輪、指輪などを付けてみたのだが…。
「これ、向こうで嫌でも目立つわよ?」
「お試しでやりましたが、まさかここまで上があるとは…」
元々整った容姿であったスフェーンにさらに磨きがかかってしまったと少し後悔していた。今の彼女はいわゆる美人であり、誰がどうみても振り返ってしまうことだろう。
化粧でも限界があるだろうと思っていたのだが、彼女の場合は青天井であった。
「いっそこの際、このまま行きません?」
「向こうに着いたら別の意味で注目浴びるわよ。それに代理って形で呼んだのよ?行けると思う?」
「代理だからこそ行けるのでは…?」
サラとメアリは背中を向けてコソコソと話し合う。
しかしそんな二人の会話をスフェーンの地獄イヤーはしっかりと聞いていた。
『とても美しいですよ?スフェーン』
「(本末転倒って、知っているかい?)」
ルシエルの嬉しげな様子にスフェーンは聞く。
試しに手鏡を持ってみてみたが、確かにこれではパーティー会場で下手すると二度見されそうだと思った。
『スフェーンの美しさは青天井ですね』
「(それ、自画自賛も混ざっているのよ?)」
『スフェーンと私では違う個体ですから』
「(個体て)」
せめて個人と言いなさいよ、とスフェーンはルシエルに言うとようやくそこでサラとメアリは振り返った。
「どうする?二度見されるか、化粧直しか」
「どう言う二択やねん」
スフェーンはサラの提示した二択にまずはツッコミを入れる。
「ちょっと今の貴方は刺激が強すぎるから、どうしようかなぁって」
「私は劇物か何かかね?」
「実際問題、それとほぼ変わらないってことよ」
サラはスフェーンにはっきり言うと、そこで彼女はこの体を共有する相棒に聞く。
「(どうする?)」
『私はこのままで良いかと』
「(了解)」
スフェーンはルシエルに確認を行ってから答えた。
「このままで良いですよ。別に」
「え?」
スフェーンの返答にサラは一瞬、豆鉄砲を喰らったような顔を浮かべた。
「い、良いの?」
彼女の性格的に化粧直しをしそうな気がしていたが、このままで良いと言ったので少し予想外だった。
「そんなに驚く?」
「ああいや…ちょっと待ってて?」
サラはそこでメアリに言うと、彼女は一礼をした後にクローゼットの装飾品の箱の山を軽く探ると、箱の山から一つ取り出す。
「それは?」
「女性陣は一回必ず憧れる代物」
彼女はそう言うと、箱を開けて中身を見せた。
「おおぅ…」
そして中身を見たスフェーンは思わず言ってしまう。
「ティアラかい…」
そこには無数のダイヤモンドがホワイトゴールドのフレームに散りばめられたティアラだった。
「これでもカタログにあるものだから、まだ安い方よ?」
「え?ティアラにカタログなんてあるの?」
スフェーンは軽く驚いてサラを見ると、彼女は当たり前と言った様子で頷く。
「そりゃあ商品なんだからあるに決まっているじゃない」
「まじかぁ…ティアラってフルオーダーが基本じゃないんだ」
「そんな事になったら恐ろしくてたまんないわよ」
サラはそこでスフェーンにやや呆れると、彼女の頭にティアラを被せる。
「あら、よくお似合いで」
「わーお」
そこでティアラをつけたスフェーンにサラとメアリは思わず声を漏らしながらスフェーンをそのまま更衣室から連れ出す。
少々重く感じつティアラの重量に緊張しながらスフェーンはされるがままに席に座らされる。
「はい、姿勢はこのままね」
「うい」
スフェーンはそこで少々装飾の施された席に座らされ、なぜか写真撮影が行われる。
「少し目元を鋭く…」
そこででかい一眼レフを持ち出してきたメアリが座ったスフェーンの写真を撮る。
言われた通りの表情をして写真が撮られると、それを見たサラは一言。
「お御影見たいね…」
「どんな写真よ」
思わず突っ込んでしまったが、現像されたそれを見てルシエルが呟く。
『わぁ、本当にお御影のようですね』
「ティアラに負けないくらいスフェーンの存在感があるって…」
サラも流石に表情を引き攣らせていた。
こう言う場合、大抵はティアラの存在感が強すぎてそっちに目が行くはずなのだが、スフェーンの場合。本人の存在感が強かった。
「…これで本当にパーティーに出るの?」
このティアラと同等の存在感があるスフェーンに改めてサラが聞くと、スフェーンはそれでも頷く。
「大丈夫ですよ。気配殺すのは得意ですから」
自信満々に行った彼女に、サラ達は彼女の言う通りにしていた。
「(本当に隠すの上手いわね…)」
会場の隅で、完全に壁の花となって…もはや壁と同化したように気配を消していたスフェーンにサラは舌を巻いていた。正直、周囲を見回してドレスの色とデザインでようやく見つけることができた。
見つけた彼女は悠々自適にケータリング料理を全制覇しようとし、歩き回るウェイターからシャンパンを受け取っていた。
机の上には数種類の料理の乗った一枚の皿が置かれており、そのそばにワイングラスが置かれていた。
「隣、失礼しても?」
会場の隅のテーブルでケータリング料理を楽しんでいたスフェーンの隣に、若い男の声が入ってきた。
「あぁ、どうぞ?」
夜会服を見に纏う青年が話しかけてきた青年にスフェーンは片手にケータリング料理を持っており、スフェーンは頷いた。
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