パーティー会場の隅のテーブルで、隣に座ってきた青年にスフェーンは軽く会釈をしてから食事を再開する。
座って来た男も同様に自分が取ってきたケータリング料理を食べる。
元々立食パーティーの為の料理の為、片手で食べられる簡単なものが多く、中にはサンドウィッチやホットドックまであった。
「んん〜…」
スフェーンは小さく唸りながら春巻きの出来栄えに頷く。
出来立てだった事もあるがパリッとした食感に熱々の具材。
細切りの豚肉に筍の硬い食感、椎茸の香りがほんのり香り、ピーマンの少し苦い風味。ほんの少し混ぜられたひき肉が良い食感を引き出し、片栗粉が全てを包む。
「(美味ぇ…)」
パーティーなんて慣れなくて堅苦しい場所に放り込まれて最初はどうしたものかと思ったが、案外何とかなるものだと思った。
『流石はこう言う上流階級の集まりです。出てくるケータリング料理も一級品ですね』
ルシエルもこの料理の出来具合に満足していた。
だが彼女の場合、スフェーンの今の姿の方に目が行っており、その姿に満足していた。
青いカクテルドレス、水色のベールを纏った上に胸元は光で反射して煌びやかに光っている。また緑を基調に作ってもらったアフタヌーンドレスもあり、今度スフェーンが寝た後に着てみようかとも考えていた。
ここ数年、スフェーンは寝ると言うことを自らのシステムに施した。その間、あらゆる活動権限をルシエルに渡した事で彼女はスフェーンが寝ている間は自由に活動することが可能となっていた。
集めた臨界エーテルを使って核を作るにあたり、スフェーンとルシエルを明確に個人として分ける為の作業を着々と行なっていた。
「(この生ハムのクリーム、こんなにバケットと相性が良いなんて…)」
片手に白ワインを飲みながらスフェーンは満足げにクリームの柔らかい舌触りの後にくる生ハムのふんだんに塗り込まれた塩味が訪れる。
クリームのおかげでその普段は濃い塩味もマイルドに中和され、少し辛口の白ワインとよく合う。あと何のケータリング料理をとっていないかを考えていた時、
「珍しい宝石をお使いなのですね」
隣に座っていた青年が、スフェーンのイヤリングを見ながら聞いてきた。
「そうでしょうか?」
スフェーンも話しかけられたのでポーカーフェイスを展開して、できればすぐに話を終えられる糸口を探し始める。
「ええ、スフェーンは何せ湿気に弱い上に脆いですからね」
青年はそう言いキッシュを一口。ほうれん草と卵を使ったそれも中々良い味を出しており、それを見てまた後で取りに行こうと考える。
「どこでそのイヤリングを?」
「昔、とある友人と購入したものでして」
そこで聞かれたスフェーンは、ここイヤリングを購入した都市とそこであった出来事を思い出した。
「…すみません」
「え?ああいえ、そんな事はありませんわ」
表情に出ていたのか、その青年は
「失礼、お名前をお伺いしても?」
スフェーンは青年の顔を画像検索にかけて参加者名簿と照会をかけたが、見つからなかったので聞いた。
すると青年はああ、と小さく頷いた。
「速水洋二と申します。古物商を営んでおります」
速水は自己紹介をして軽く挨拶をし、スフェーンも答える。
「スフェーン・シュエットです。出版社の副社長を務めさせてもらっております」
この場所に来るために、サラが作った偽の経歴書を思い返しながら答えると、速水はやや驚いた。
「副社長が?」
「はい、社長が急遽体調不良で…」
「ああ、なるほど」
速水はそこでスフェーンの少し鋭くも、疲れている様子を見て納得する。
きっと想定外に出席することとなったのだろうと推察できた。
「なるほど、私と似た事情で来られたお方でしたか」
「貴方も?」
「ええ」
速水は頷くと、彼は言う。
「私も、上司が別の仕事で行けなくなった代わりにこちらに行くよう指示されまして」
「なるほど…」
速水はそこで自分がここに訪れた理由を話すと、スフェーンはそれに納得する様子を見せる。
「特に指示されたわけでもなく、こうして壁の花として料理に舌鼓を打つしかないのですよ」
「ははは、私も似たようなものです」
本当はサラの娯楽として連れて来られたのだが、それをうまく隠しながらスフェーンは速水と話す。
「急遽代わりに行ってくれと頼まれたのですが、お陰で誰が来るのかもよくわからないままで…」
「分かります。特に今回は…」
そこで速水はサラの方を見る。
「かのアンデルセン家のご令嬢がお越しになられておりますからな」
「ええ…」
一応、肩書き的には自分にとってサラはグループの上も上の人間。本来なら顔を合わせることすら時間がかかる存在だ。
よくよく考えると、そんな人物にわざわざ時間を作ってまで呼び出され、尚且つドレスまで与えられる。ひょっとしなくとも大分やばい存在だよな、自分。と内心スフェーンは戦慄し始める。
普段は自分をこき使って遊ぶことばかりの彼女だが、彼女はそれでも企業の娘。出自が如何であろうと、彼女の実力は本物であった。
「まあ私など挨拶を終えただけで終わってしまいましたが」
「私なんて挨拶もままならなかったですよ」
その実、入ってからずっと料理に夢中になっていただけなのだが、スフェーンはそれをうまく誤魔化して速水と話す。
その間、スフェーンは鯛の煮付けを一口。ふわふわとした白身に、さっぱりした後味を与える白だしと柚子の香りを楽しむ。
「苦労しますな」
「全くです」
スフェーンは大いに速水に頷きながら白ワインを飲み切る。
「しかし、ここの料理はとても良い。少なくとも、壁の花となっても暇つぶしになる」
「全て楽しまれたのですか?」
スフェーンは新しい話題に切り替えた速水に聞くと、彼は首を横に軽く振る。
「いえ、まだカクテルなどを楽しめていないのですが、料理はデザート以外は」
「なるほど」
スフェーンはそこで、最初にウェイターから受け取ったワインがデザートワインで、最初に甘いものを飲んでしまったと少し後悔しながら口直しで炭酸水を受け取っていた。
会場には即席のバーが用意され、グラスにカクテルが注がれてウェイターが歩き回っていた。
「私もまだワインのみで、カクテルはまだなのですよね」
「ほう、そうですか…」
スフェーンに速水は軽く反応すると、そこで持ってきたものを全てを食べ切った彼は席を立つ。
「少しカクテルをとってきますが、どうでしょう?」
「お願いしても?」
スフェーンに速水は短く頷くと、皿とグラスを持ってテーブルを後にした。
「…ふぅ」
そして彼が消えたのを確認すると、そこでようやっとスフェーンは一息吐いた。
「(つ、疲れた…)」
精神的な疲れがドッと訪れると、思わず彼女は自分が取ってきたテリーヌを一口。酒粕を混ぜたのだろう、少し甘いアルコールの香りが漂いながらさまざまな具材で固められた美味なテリーヌはスフェーンの意識を再び現実に戻した。
『代わりましょうか?』
数回話しただけで疲労感が表れているスフェーンにルシエルが聞くと、彼女は頷く。
「(ちょ、ちょっとお願いしても良い?)」
『分かりました。…では、次のカクテルが届いたら一旦会場を出ましょうか?』
この身体でスフェーンとルシエルは目の色が左右で変わってしまうので、カラーコンタクトレンズを入れていない方の目が虹色になってしまうので、サングラスをつけていない状態でいきなり変わるのは違和感がありすぎた。
「(た、頼んだ…)」
スフェーンはストレスマッハをくらってダウンし、ルシエルに交代をお願いすると、ちょうどそこでカクテルを貰ってきた速水が戻ってきた。
「カクテルを持ってきましたよ」
「あ、ありがとうございます」
スフェーンはそこで速水が持っていたカクテルを受け取る。その時、疲れを表に出すことなく受け取り、速水は違和感なくカクテルを飲む。
「っ、大分強いですね…」
そして飲んだカクテルが中々に強い酒精を放っており、喉の奥までカクテルが流れているのが感じた。
「そうですね」
スフェーンもそれに理解をしつつ、体内に吸収された瞬間に分解される。
「飲みすぎて倒れたりは勘弁してくださいよ?」
「はははっ、分かっておりますとも」
速水は簡単にこのカクテルを飲み干した事で、目の前に座るスフェーンが俗に言うウワバミの類の人間であると理解した。
自分は強くないと分かっているので、この一杯だけで終わらせるつもりだ。
「ただ、これを飲んだら少し風に当たってきます」
「ああ、分かりました」
速水はスフェーンがこれから席を長く離れることを理解すると、スフェーンに返す。
「では、私も次のお相手を探さなければ…」
速水は軽く冗談混じりにスフェーンに言うと、彼女は少し微笑んだまま答える。
「話せてよかったですわ。では、私は少し離れるので」
スフェーンはそう言って飲み切ったグラスをウェイターに渡すと、そのまま会場を後にした。
そしてまだカクテルを半分も飲めていない速水はそこで軽く吐息をした後にスフェーンの後ろ姿を見つめる。
「(スフェーン・シュエット…パーティー券招待だが、あのサラ・アンデルセンが呼んだ人だ)」
速水はスフェーンを見てしばし考える。
今回のパーティーの招待客だが、主催者の垂水光三は配ったパーティー券に誰が誘ったのか分かるシステムを組んであり、サラの受け取ったパーティー券は誰に渡したのか向こう側はすでに把握していた。
そして速水は、そんな垂水光三の配した部下の一人であった。
「(他にアンデルセン・グループが渡した招待客は居ない…)」
現在、会場には本人が来ているが、サラが配ったパーティー券は彼女以外いない。その為、スフェーンはグループの中でも有力な立場なのかと思われたが、彼女はアンデルセン・グループの有する小規模出版社の副社長、しかも代理であると言った。
「(だか、あの整った服装と余裕のある口調。…経歴は違うだろう)」
何より出会った時の気配の消し方。会場を何周もしてようやく見つけられた彼女は、大凡普通の人間の出来る芸当ではない。
「(サラ・アンデルセンの護衛だろうか?)」
速水はスフェーンをサラの護衛かと考えたが、それにしては護衛としての自覚がない上に、既に彼女には数名の正式な護衛がいた。
「(向こうの動きが読めないな…)」
速水はサラが招待したスフェーン・シュエットと言う女性に首を傾げていた。
お気に入り登録、高評価をよろしくお願いします。
外伝作品的な作品。
-
書いて欲しい
-
別にいらない