人がいる限り、犯罪というものはこの世から消えない。
人と犯罪、どちらが先に消えるのか。よく議論されている話だが、一度文明が崩壊したこの世界では治安は悪い。
はっきりと言える。少なくともこんな状況で列車強盗なんてものが存在するのだから。
『敵数三。一二〇より接近』
「だあぁ!面倒臭い!!」
運転席でスフェーンは怒鳴る。
「畜生、これで何度目よ!」
指名依頼を受けて目的地に向かっているのだが、その道中でいつも通りの野盗団による襲撃を受けていたのだが、此度は何度も襲撃を受けていた。
「チッ、奥の手使うわよ」
『了解です』
すでに何度も波動的に攻撃を仕掛けて来る野盗相手にスフェーンはCIWSの残弾も怪しくなってきていた。
そこでスフェーンは最終手段、戦術E兵器を投入する。走行中の列車から砲塔と砲身が現れると、折り畳まれた砲身が現れて展開する。
『発射用意完了』
「最小出力で発射。目標は…」
機械と視界を接続し、砲手の視点で砲塔が旋回を行う。
『敵の砲塔だ!』
『攻撃に注意しろ!』
すると盗聴していた野盗の声が聞こえ、向こうの注意が投入された砲塔に注意が行く。
「遅い!」
しかしスフェーンはニヤリと笑うと、荒野の陰に隠れていた戦車に向かって稜線ごと射撃。
『っ!?』
『なんだ!』
稜線ごと吹き飛ばされて消滅したことに野盗団が驚いている間にルシエルが新たに対戦車ミサイルに座標を打ち込む。
発射された対戦車ミサイルは上空に打ち上がると、そのまま熱源を辿ってオートマトンに命中する。
基本的に使用時には膨大な熱を発するエーテル機関。おかげで赤外線誘導の効果は凄まじく、対戦車ミサイルも簡単にオートマトンに命中した。
『撃て撃て!』
『馬鹿野郎!撤収するぞ!』
戦術E兵器の光線が稜線ごと敵性車両を吹き飛ばしている光景を前に野盗団は言う。
追従していた四輪駆動車のテクニカルは荷台の対戦車誘導弾を発射するが、上空にフレアが発射されるとその方に向かって対戦車ミサイルは騙され、直後に列車搭載の30mmガトリング砲が車をズタズタに引き裂いた。
『っーーーー!!』
乗っていた哀れな野盗はその直後、更なる不幸に襲われる。
ッッッッッッーーー!!
直後、荒野に無数の70mmロケット弾が命中し、何があったかと空を見れば。
『な…!!』
『軍警だ!』
空に多数のロケット弾ポッドを搭載した
襲撃当初にスフェーンの列車の通報を受けて急行していた。上空の二重反転ローターが回転し、轟音と共に戦場を通過した。
『敵視認。これより攻撃を行う』
『電波妨害だ。誤射に気をつけろよ』
直後に発射されたロケット弾から赤リンの煙幕弾が発射され、野盗達の視界が奪われる。
『くそっ!』
『煙幕だ!』
『撤退しろ!』
しかし直後、機首の30mmガトリング砲が発射される。
二機一個編隊のジャイロダインはあえて無誘導のロケット弾を発射していた。
『『『ぎゃぁぁああああっ!!』』』
そして無数に戦場にばら撒かれた炸薬入りロケット弾は容赦なく野盗達に叩き込まれ、這う這うの体で野盗達は撤退していった。
「はい、了解しました」
そして駅の貨物ターミナルで、スフェーンはそこで先の襲撃に関する聴取を終えた。
「ご苦労様でした。損害の方は…」
「修理します。損害請求を行います」
「わかりました」
スフェーンが即答すると、治安官達も頷いて慣れた手つきで逮捕した野盗達に損害請求の資料を送る。
基本的に野盗襲撃に遭い、また襲撃した野盗が逮捕された場合、被害者から損害請求された金額がそのまま借金という形で野盗達に渡り、刑務所内での刑務作業による返済が行われる。
今まで通報を行った場合で、車両に被害が出た場合はスフェーンも容赦なくこの権利を行使していた。今回の被害は流れ弾が当たったCIWSの照準レーダーだ。
「しかし、随分と荷物が多いですね」
そこで対応をした治安官が十三両編成の車両全てにコンテナが二段積みされているのを見てスフェーンに聞く。
「ええ、なにせ知り合いからの依頼で…」
「すごい量ですね…どこに運ぶ予定なんです?」
治安官が聞くと、スフェーンは答える。
「アルカトリア島刑務所です」
「っ!?」
「ブフッ」
名前を聞いた瞬間、聴取を行っていた二人は吹き出す。
「え?あそこに?」
「ええ、あまり乗り気ではありませんが…」
そこで肩を落とすスフェーンに治安官達は『そりゃそうだ』と言わんばかりの目線を向ける。
「あー、その…」
「き、気をつけて?」
そして憐れむ目でスフェーンに言う。
「はい…」
スフェーンも疲れた遠い目をして答えた。
アルカトリア島刑務所。
現在司法局が運営・管理を担っている広域的犯罪者収容施設。その中でも特一等刑務所に値する刑務所で、ここには死刑囚・無期懲役・二〇年以上の懲役が科された犯罪者達が主に収容されている。
詰まるところ、そういうレベルになるヤバい罪状で捕まったような、ヤバい奴らが一箇所にまとめられている刑務所である。
そしてその刑務所はその特殊な構造と、今の今までに脱獄者を一度も出した事がない歴史から『最恐の監獄要塞』と謳われている。
無論、軍警察の警備は厳重。常に上空をジャイロダインが飛行し、洋上はミサイル艇が走り回っている。
そして月に二回、マジの実弾演習を行う。理由は簡単。脱走した囚人を木っ端微塵にするため。
それと軍警察による攻撃で、囚人達を爆発やロケット弾の音で恐怖させ、脱走させる気を起こさせない意図も含まれている。
「なんてこんな場所にいなきゃならないのよ〜…」
CIWSの交換作業を手早く済ませ、半分涙目になりながらナッパ服のスフェーンは言う。
『仕方ありませんよ。それが今回の指名依頼の目的地なんですから』
「とほほ…」
なにせ依頼主が依頼主なだけに、こういう場所を指定してきた理由も察せてしまうのが恐ろしい所であった。
「畜生、エーテル解析研究所め…」
依頼主はエーテル解析研究所、軍警察直轄の研究機関の一つである。
主な研究はエーテルそのものの研究、最近は異能者の研究も含まれている。そしてこの研究所、周りからのあだ名はネクィラム・ラボと呼ばれている。
そう、依頼主はあのネクィラムとその愉快な仲間達だ。
あの軍警察のどんな屈強な治安官達ですら裸足で逃げ出してしまうと噂の、キョーフの研究者達である。
スフェーンはその研究所から依頼されたコンテナを、アルカトリア島刑務所まで繋がる海底トンネルを通って荷物を届ける必要があった。
積んでいる機材は軍警察や、世界的にとてもとても希少な研究機材。そりゃあ野盗達がしれば血眼になって襲いかかってくるし、軍警察の協力も得やすいはずだ。
「なんで軍警の輸送部隊使わないのよ…!!」
スフェーンは運転席でぼやきながら軍警察専用路線に繋がる分岐駅まで向かう。
『生憎、かのアルカトリア島刑務所の海底トンネルは単線専用。そして時間が合わなかったとのことです』
「じゃあ向こうが合わせればいいじゃん!どうして私に依頼するのよ!!!」
本来であれば断ればいい話なのだが、相手は
「交友関係間違えた気がする…」
『なんか前にも同じようなことを聞いた気がしますね』
デジャブかな?とルシエルとスフェーンはこの似たような自体に頭をかかえる。
『まあまだ良いじゃないですか。向こうにはジョン氏とユウナ氏がおりますから』
「それ相殺されてるから実質ゼロ!なんならマイナスだよ!」
少なくとも二人の世話で日々胃潰瘍と戦っているユウナのもとに私を放り込んでみろ?『やったー!あの人の扱い方知ってる人が増えた〜!』と言って即休暇取るに決まっている。そうに違いない。
前にもこっちは背中から襲われた(物理的に)後に胴上げで誘拐ぞ?
「ねぇ、これ絶対私呼ぶためだけの仕事だよね?」
『…さぁ?私にはなんとも』
「ごまかすな!」
スフェーンはそう言いつつも着々と列車は目的地に近づいてきており、それと同時に嫌な予感しかしなくなってくる。
そもそも送り先が刑務所という時点で色々とおかしいのだ。なんのためにそんな危ない場所に行かなければならないのか。そして機材を運び入れる必要があるのか。
「…死刑囚を使った人体実験か…」
軍警察ではよく行われてきた話であることは、スフェーンもよく知っている。
そもそもな話、司法局で死刑判決が出る事案がまず少ないのだ。基本的には重くても無期懲役で終わってしまう。大体十人以上の無差別殺人を起こせば死刑になるというのが一般的な常識である。
そして死刑囚というのは刑務所から出ることなく、死刑が執行されるまで刑務作業を行い、軍警察への無償の奉仕を行う。
死刑にもさまざまな種類があり、最も重いのが投石刑であるとされていた。これは市中の公開処刑の一つで、体を六割埋められた状態で周りに集まった市民が投石をして行う処刑だ。
この処刑は、契約をしたら生放送で見られるというのがなかなかに恐ろしいところ。犯罪抑止の観点もあるので止めることは今後一切ないだろう。
『おそらく取引でしょうね』
「死刑執行しない代わりにって?まあ気持ちは分からんでもないけど…」
スフェーンはそこで死刑囚の気持ちを想像してみる。
確かに刑務作業で一生を終えられるのなら、その方がマシなのかも?と考えながら列車は線路を走っていく。
無論、逮捕者の中にはかつて傭兵として名を馳せていた人物もいる。
そう言った人々はいわゆる軍規違反、顧客である軍警のいうことを聞かなかった連中だ。そういう人、いわゆる軍法裁判で裁かれた人間も、ここではないがもっと低い等級の刑務所に入れられる事があった。
そして傭兵ギルドでは、こういった刑務所収容歴や犯罪歴も、傭兵としての評価に響くようにシステムが作られているという。
「まあ善く生きてて捕まることはないわ」
『善く生きている人々に、軍警察も手は出さないでしょうね』
スフェーンは軍警察の立派な規則に万々歳しながら列車が分岐点を通過して、軍警察の有する専用路線に入る接続駅に到着した。
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