TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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本作を投稿してから一年経ちました。
いつもコメントや評価をしてくださる方。読んでくださる方に最大の感謝をいたします。


#302

「…」

 

治安官が厳重に資料の確認と照会を行っている。

 

「…」

 

その作業は一切が無言で、それが逆に緊張感を与える。

 

「…」

 

確認をしてもらっているが、その資料が間違っていないかどうかが不安になってくる。

スフェーンは今回、指名依頼を受けてとある刑務所に向かう道中であったが、その為の路線の分岐駅で軍警察による検問を受けていた。

 

「…了解した」

 

するとしばらくの待機の後、照会を終えた治安官がガスマスクの下のマイクから発する。

 

「書類に問題ありません。時間通りです。ようこそ、アルカトリア島刑務所へ」

 

そして運転台に座るスフェーンに提出した紙製の許可証と必要な書類。通行に必要なタブレットを受け取ると、スフェーンも安堵した表情でほっと息を吐いた。

軍警察の専用路線に入るための分岐駅では、多くの軍用列車や軍用車両が行き交っていた。

少なくとも移動砲台が多数設置され、どの方位からの襲撃にも対応できるように駅を中心に稜堡式城郭が作られていた。

 

「オーラーイ…」

 

そして分岐点を幾つか通過すると、分岐駅に停車していた迷彩色の電気機関車がスフェーンの列車を前に誘導を行う。赤旗を振り、誘導を行う治安官はスフェーンの列車を安全距離で一旦止める。

ここから先は海底トンネル区間であり、エーテル機関を搭載した列車は空間エーテル濃度上昇を抑える目的で電気機関車による牽引が通常であった。

 

「ピーッ!」

 

連結器の確認を行い、開いていることを確認すると再び赤旗が振られたので電気機関車が少し前進させる。

 

ガシャンッ!!

 

そして重い金属と金属が衝突する音。鍵が掛かり、軽く電気機関車側が前後に動いて連結器が外れないかの確認を行うと、次にジャンパ線の接続が行われる。

 

「お疲れ様です」

「ご苦労様です」

 

運転室横の窓を開けて治安官と軽く話してからタブレットを駅員の治安官に渡す。こう言う鉄道管理局の管理下にはない鉄道路線は基本的に古き良きタブレット式閉塞を利用している。

戦時鉄道条約により、軍警察以外の武装組織が軍事行動を目的とした鉄道の利用を禁止されており、列車砲や列車偽装型弾道ミサイル発射機などは事実上封印されていた。

それを考えると、軍警察という組織がどれだけ国際社会から信用されているのかと言うのが窺えた。

 

「では、信号が変わり次第出発します」

「了解しました」

 

目の前の赤信号を確認し、列車の操作権限を後方の電気機関車に委任すると、単線のみの海底トンネルの奥からライトを照射して一本の列車が現れると、トンネルから一本の貨客混載列車が現れた。その列車は分岐点を通過して自分たちが待機しているのとは反対の駅に進入すると、そこで一度停車した。理由はトンネル区間のタブレットを返却するためである。そのタブレットはそのまま止まっている自分たちの列車に渡される。

 

ここはアルカトレア島刑務所以外の停車駅が存在しない、所謂盲腸線と呼ばれる路線であり、ハッキング防止のために完全アナログな閉塞が採用されていた。

列車が出てきたのを確認して信号所でアンドロイドが転轍機を回すと同時に信号切替を行う。多様なレバーを前後に倒し、トンネルに繋がる分岐点を操作すると、信号を赤から青に切り替えた。

 

「ピーッ!!」

 

信号が切り替わり、安全のために駅員が笛を鳴らす。鯨の獣人だからか知らないが、恐ろしい肺活量で笛がぶっ壊れそうなほど大きな音を鳴らした。少なくとも、窓を閉めていたにもかかわらず煩いと思うほどに大きかった。

 

ッ!

 

するとその笛の音に合わせて短く軽く、電気機関車が警笛を鳴らすと列車はゆっくりと出発していく。

積んでいる荷物がエーテル解析研究所の所有する実験機材であることは、操縦する運転士も知っており、何故そのようなものを腕は良いとはいえただの運び屋に依頼したのかと言う疑問をしつつも、上級将校を乗せた客車を扱うように丁寧にマスコンを操作する。

 

「本線信号よし。閉塞良し。出発進行」

 

指差し確認を行い、懐中時計で時間の確認を行うと、列車はゆっくりと海底トンネルに繋がる線路に進入する。

 

「…」

 

その様子をスフェーンは列車の窓から眺めており、海底トンネルの灯りが点滅するように移動するのを見る。やや黄色っぽい色味の明かりは、トンネルを出た際に視界が真っ白にならないようにする措置であると言う。

そしてスフェーンの列車が通過すると、トンネルと地上の境目を中心に線路下から障害物が迫り上がってくる。襲撃の際、車でトンネルに突入できないようにするためのものだ。

もしもの際はこの先に仕掛けられた爆弾により崩落を意図的に起こして脱走を防ぐと言う。

 

『アルカトレア島刑務所は軍警察管轄の特一等刑務所。当該刑務所は水中都市型の刑務所で、主に死刑囚を筆頭とした重犯罪者を収監しています』

「飛んだ恐ろしい場所よ」

 

海底トンネルを進む下り坂の途中、スフェーンは言う。

トンネルは単線で、二段積みコンテナがギリギリ通過できる高さに限定されていた。

そんな場所に連れて来させられたスフェーンは内心ビクビクしならトンネルを進む。

 

「お、降りる時に武器持ってけないかな?」

『無理でしょう。ここは軍警察の施設です。部屋に武器を持ち出して敵対的行動と判断されるかもしれませんよ?』

「畜生…!!」

 

いくら傭兵として血生臭い戦場を走り回った身とはいえ、犯罪者ばかりが集められた場所に丸腰で行けと言うのは恐怖以外の何物でもない。何としてもお断りしたかった。しかし武器を持って列車を降りた場合、ここの管理を行なっている治安官からあまり良い顔をされない。理由は簡単でその銃口を向けられた場合の事を考えると仕事が増えるからだ。

 

「ま、丸腰…?」

『頑張ってください』

「じゃあ代わってよ!」

『嫌です』

「畜生一考も無しかい!!」

 

運転席でスフェーンはルシエルと軽い喧嘩をしながらキャビンに入る。

 

「くそぅ、なんでこんな二つの意味で怖い場所に行かなきゃならないんだよ〜」

 

海底トンネル内は、現在安全のために時速二〇キロでの運行が行われており、ゆっくりと進んでいる。無論、トンネル内含めた地下空間では火気厳禁のため煙草も禁止である。わざわざ注意書きにも書いてあることから、それだけやる奴が多かったと言うことだろう。無理も無い、こんな場所にずっといては煙草でもないとやってられないだろう。

その中でスフェーンはガレージで列車自衛用の武器を点検をする。あくまでも整備なので、持っていくわけでは無いが気休めとしてやらないと色々と限界であった。

 

『それが今回の仕事ですよ?』

「終わったら速攻で帰ってやる」

 

スフェーンはそう意気込んで通過中の海底トンネルの灯りを眺める。

これから荷物を届けるアルカトレア島刑務所は、アルカトレア島近くにあることからそう名付けられている。

盲腸線となっているこの路線の総延長距離は約一〇キロ、そこを時速二〇キロで進んでいるので、大体三〇分で到着予定であった。

 

『間も無く、アルカトレア島海底駅に到着します』

「早っ」

 

そして分岐駅とは近い場所にあるため、列車はあっという間に目的地のアルカトレア島刑務所地下の特別駅に到着をした。構内は複々線に路線が分岐しており、コンテナヤードと駅が同じ場所にあった。

地下駅ということで駅は分厚い鉄筋コンクリートに覆われ、そこを燦々とした照明が照らしていた。おかげで駅は明るい。

 

「よっと…」

 

駅に到着し、早速駅に降りたスフェーン。各種コンテナの積み下ろしがすでに始まり、駅の天井のレールをつたってクレーンが現れると、積んでいたコンテナの一部の回収を始めていた。

 

「はぁ…」

 

複々線の駅構内には、軍警察専用路線ということもあって基本的に治安官しかいない。またこの施設は囚人は使えない完全職員用の場所となっており、金ピカの囚人服を着ている人の姿もなかった。

 

「あっ!」

 

列車を降りて軽く周りを見ていると、誰かが自分を見つけた時の声をあげた。

 

「いたいた」

「げっ」

 

複々線のヤードでスフェーンは治安官の防護服に似つかない白衣姿の職員に思わず本音が漏れる。

 

「お久しぶりです〜」

「あ〜…うん」

 

スフェーンはそこで出迎えにきたであろうユウナに顔を引き攣らせる。

 

「久しぶり…」

 

何というか、ただならぬデビルスマイルにしか見えない彼女に、途端に胃痛を感じるスフェーン。あと寒気がしたのはここが海底駅だからという理由では無いだろう。周りにいた治安官を見てみなさい?貴方から溢れるただならぬ気配に目を背けてますよ?

 

「良かった〜、まさか来ない可能性もありましたから」

「あー…そう、ね…?」

 

ユウナの『逃がさん…お前だけは…!!』という強い視線を感じ、『ドチクショウ!?』と地面にどつきたい気分だった。

 

「じゃ、じゃあ私は仕事終わったから…も、戻らないと」

 

スフェーンはそこでさっさと撤収をしようと出発準備に入ろうとした。するとユウナはとんでも無いことを言う。

 

「え?何を言っているんですか?」

「は?」

 

すると後ろでは治安官が今まで推進運転を行っていた電気機関車のジャンパ線を引き抜いた。

 

「は?え?」

 

何を四天王?と言い掛けた所でユウナの方をバッとみると、

 

 

彼女の顔は怖いほど満面の笑みを見せていた。

 

 

「っーーー!!」

 

ゾワゾワッと、途端に身の毛がよだつほどに恐ろしいものを感じたスフェーンは運転席の方に走ろうとした。

しかしユウナにがっしりと、骨にヒビが入りそうなほど強い力で手首を掴まれる。

 

「さ、いきましょうか」

「い、嫌じゃ…」

 

そしてジャンパ線が外され、自動連結器が外される電気機関車を見る。

基本的にエーテル空間濃度上昇が確認されるため、海底トンネルなどの十分な換気のできない空間でのエーテル機関搭載車両の運行は禁止されている。つまり、ここで電気機関車の切り離しは列車の軟禁、引いてはスフェーンの移動手段の封じ込みと何ら変わりはない。

 

「いやじゃぁぁぁぁぁあああああっ!!」

 

そんな悲痛なスフェーンの叫び声は電気機関車の切り離し後の警笛に消え、機関車は無慈悲に走り出していった。




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スフェーンに持たせるなら?(参考にします)

  • 89式5.56mm小銃+06式小銃てき弾
  • 九九式短小銃+二式擲弾器
  • Ak5C+M26 MASS
  • AKMS+GP-25
  • AKE-971+GP-34
  • FN M1949+Energaグレネード
  • FAMAS+APAV40
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