作中時間経過→十二年程
何というか、すごい気がする。…よく分からんが。
スフェーン・シュエットという少女が産まれたのは、十二年前の話になる。
とある諸事情によりこの生まれや存在を隠すこととなり、ちょうど良くそこにあった貨物列車を持ち出して運び屋という仕事を始めた。
「(改めて考えるととんでもない生い立ち)」
『それは…まぁ、そうですね』
煙草を咥えながら洋上の桟橋に立つスフェーンは、そこで空を見上げる。
時刻は深夜。刑務所は二四時間の監視体制をもちろん敷いているので、この時間でも水上施設は探照灯を照射している。
近くを
「…」
ジャイロダインの二重反転ローターの音は、水中にある刑務所には届かない。
魚雷攻撃にも耐えられるように戦艦と同様の装甲板が外殻に使用されており、それが何重にもわたって層となっている。
「ふぅ…」
そして煙草の煙を吐いていると、
「ここに居たのだな」
桟橋を歩いてネクィラムが二本足で立っていた。
施設内はエーテル空間濃度が低い影響で白い杖が手放せないが、ここではその必要も無かった。
「あぁ、中だと吸えないんでね」
刑務所は大半が海中に没した水没型の施設であり、故に火災の要因ともなる煙草は禁止されていた。
施設の職員用通路の至るところに禁煙の文字と看板が下がっており、これだけ強く張り出されている理由に、ここに配属となった治安官が嘆く理由が理解できる。
無論、刑務所の刑務官に任命されると一般の治安官よりも職務に忠実であることが求められ給与もその分高いのだが、悲しいほどに娯楽がないので刑務官になることは軍警察の間ではハズレに近かった。
「はっ、煙草は苦手だ」
「前にも聞いたよ」
スフェーンはそこで今から何年も昔に、まだネクィラムがここまで出世する前の頃に聞いた話を前に少し苦笑する。
「そもそも私は貴方と違ってモノホンの研究員じゃないのでね」
「何をいうか。外部協力研究者だぞ?君だって私の研究所の一員だ」
「勘弁してくれ…」
スフェーンはそこでため息を吐く。
少なくともネクィラムの部下になると(文字通りの意味で)命がいくつあっても多分足りなくなる。冗談抜きで彼のモルモットになってしまうのは勘弁だ。
「釣れんなぁ」
「当たり前だ。今日もユウナが説教をしたって聞いたしな」
スフェーンは他に誰もいないのでネクィラムに崩した、少し軽蔑も含めた口調で話す。
「はっはっはっ!やりたいように生きて何が悪い?」
「その所為で犠牲者を増やすなって事」
「無論だ、死にはせん」
「それは脳死は死じゃないって言うくらい無理があると思われ」
スフェーンはかつて自分がされた所業を思い出しながらジト目でネクィラムに言う。
「ふむ、確かに非検体と意思疎通ができなくなるのは困るな」
「普通そこまでやらない」
彼は現在、軍警察に雇用され、自分の研究所を持つまで出世をした。少なくとも、並の研究者よりもずっと早い速度で。
基本的に軍警察に所属する研究者は、軍属という形で正式な階級は与えられない。だが転属、という形で士官学校での教育や実地訓練を受ける場合もある。
ネクィラムは盲目であるとされ、そもそも軍警察の治安官の健康基準に合わない人間である。
「そもそも盲目なのによく軍警に採用されたよ」
「なに、この目は外なら見えるからな」
「…それはよく知っておりますとも」
スフェーンはネクィラムの特殊な目を知っているので頷く。
「しかし…」
ネクィラムはそこでスフェーンに言う。
「君も変わったものだ」
「そりゃあね…」
この体になって十年以上経過していれば変わる。と言いかけた時に彼は言った。
「随分、昔に比べて勇ましさが消えた。より女らしくなった気がするな」
「…」
ネクィラムは言うと、スフェーンは一瞬黙ってしまう。
無論、わかっていた話だし、完全サイボーグの間では一種の性癖としても知られている話だ。
男と女。生物上の性別の差異は、サイボーグ技術が広く浸透した今の時代においては曖昧となりつつもある。
「そうかね?」
スフェーンはそこで少し惚けるように返し、同時にいつからこんな風になったかと思い返す。
「ああ、話し方が随分柔らかくなった。あと、君から感じるエーテルの波動もな」
変わったと彼は言う。
「最初に出会った時。学園都市で出会った時。軌道エレベータの時。…特に学園都市で出会った時と軌道エレベーターの時、見た目こそ同じだが、随分と荒れていたエーテルの波動が落ち着いたように見えるな」
「…そりゃあね」
その間、自分は臨界エーテルを回収して取り込んでいた。
エーテル・ボンバによって、トラオムの大地には臨界エーテルが検出された。
臨界エーテルはその後、横に立つネクィラムを筆頭に世界中に人員を送りつけて彼が回収。その後に自分に渡してきた。
「臨界エーテルかね?」
「そう。全部では無いけど」
スフェーンは即答する。
「ふむ。あれはやはり、我々の手には負えなかったと言うことか…」
ネクィラムはそこで数回頷く。
「初めにジョン君が言ってきてな。臨界エーテルは極めて不安定な物質だとな」
「へぇ…」
スフェーンはそこで、ネクィラムの話を聞く。
「私はその時、臨界エーテルは理論上の物質だが、制御できると考えていた」
「…」
臨界エーテルの存在そのものの提唱は、大災害以前よりされていた。
大災害以前の時代でもそれほど確認されておらず、エーテル・ボンバの爆心地からそれが発見された時はジョンと論争を引き起こした。
「臨界エーテルはまだ不明な点ばかり。その上、直後の異能の騒ぎだ」
「とても臨界エーテルの研究まで手が回らない?」
「ああ」
ネクィラムは頷く。
「それに、私はエーテル学会とも知ってのとおり仲が悪い。なかなか人も呼びにくくてな」
研究成果を丸ごと盗まれたらたまったものではないと彼は言った。
「だから、本来は一時的に外の人間で信用できる君に預かってもらうつもりだった」
ネクィラムはそこでスフェーンから渡されたあの青い林檎の話を持ってくる。
「ユウナ君が持ってきた青い林檎。あれに私は衝撃を受けた」
「…どのくらい?」
「ジョン君の言うことを認めざるを得ないくらいにはな」
調べれば調べるほど、青い林檎の輝くエーテルの無限の可能性に震え、興奮するとともに、極限まで活性化されたエーテルを前にこれを超えるエネルギーを内包する臨界エーテルという存在に卒倒しそうになった。
「あの青い林檎は君が持ってきたというが、あれは恐らく…君の体内から摘出されたものでは無いかな?」
「…流石ですね」
スフェーンは純粋に何も言っていないのに角から林檎を生み出したことを言い当てたネクィラムに感心した。
「ふむ、君が臨界エーテルを吸収したことで起こる体の変化か…」
ネクィラムはそこで今でも視界に広がるスフェーン・シュエットと言うエーテルで体が作られている不思議な生命体を見る。
彼にとってスフェーンと言う女は、十年以上の付き合いがある未知の生命体であり、同時に自分の研究に理解をしてくれた信用に値する人間であった。
「魅力的な女性になりたいのか?」
「ごめん被る。変態たちの相手とか事務所のスカウトなんて嫌よ」
即答したスフェーンに、ネクィラムは少し吹き出した。
「はっ、美形か」
「生憎、ずっとサングラス生活」
「良いではないか。綺麗で損することはないぞ」
「損はしないかもだけど、代わりに面倒な問題引っさげてプラマイゼロよ」
煙草をゆっくりと吸っていたスフェーンはそこで苦笑した。
「スフェーン君…」
そこでネクィラムはスフェーンに質問をする。
「君が流浪の旅をし続ける理由はなんだね?」
その問いにスフェーンは吸い終えた煙草の吸い殻を携帯灰皿に捨てる。
「昔、傭兵をしていた頃。私は有名になり過ぎた」
最強のオートマトン乗り、最強の傭兵とまで呼ばれた自分は、どこに行っても傭兵という身分がついてきた。
「もはや傭兵という仕事を辞めても、誰かが追いかけてくるほどにはね」
「…」
ネクィラムはそこで、スフェーンが嘗て傭兵をしていたという話を思い出す。
あれが本当だったのかと、スフェーンの過去に少し思考する。
「だけどある時、一切の痕跡を消せる機会があった」
スフェーンは桟橋の柵に腕を置く。
「元々、私は旅をするのが夢だった。だから、好きなだけ食べて寝て、観光をして…それができるから傭兵をやってた。だけど、傭兵というのはいつ死ぬか分からなかった。だから、ここがやめ時だって思ったから。似たような雰囲気の運び屋に転職をして…それが、私が今旅をし続けている理由」
好きな事をしながら仕事をする。
スフェーンの返答にネクィラムは聞いた。
「それほどの心意気で、傭兵をやり続けられるのか?」
その質問にスフェーンは笑う。
「どれだけ弾道補正をコンピューターが計算したって、弾はそう当たらないですよ」
銃弾は当時の空気の湿度や気温によって大きく弾道は変わる。
弾道計算を行うコンピューターを使用しても戦場の交戦距離がキロ単位が当たり前の今日で、放たれる25mmの銃弾など滅多に当たらない。それならまだ対戦車ミサイルを放って熱源誘導を行った方が当たる。
ベトナム戦争時、アメリカ軍が一人の兵士を殺すのに十六〜二〇トンの砲弾を使用したという計算結果が残されている。
機関銃と塹壕の登場で地獄と化した第一次世界大戦でも銃弾よりも大砲による死者数の方が圧倒的に割合が高い。
理由は簡単だ。砲弾というのは一発一発の砲弾が大きく、撃った直後の加害範囲が広い。銃弾でその加害範囲を出すには中に榴弾を仕込める擲弾ほどの大きさでなければならない上に、それを多数打ち込まなければ同じ加害範囲を与えられない。
散弾は交戦距離が長くなった今では、ドローン対策以外ではほぼ無用の長物であった。
故にそれほどまでに戦場というところで滅多に弾は当たらない。
むしろ訓練中の方の誤射や迫撃砲の操作ミスの方が多いのではないだろうか?
「それが分かっていたら、傭兵なんて身体が保つまでやる人はやりますよ」
スフェーンはそこで今まで培ってきた傭兵としての知識をネクィラムに言うと、彼はそんな話に驚いていた。
流石の彼でも専門外の話であると知らない事ばかりであった。
「やはり餅は餅屋というわけだな…」
「トンネルとかの狭い範囲じゃなければただのフルメタルジャケットなんてそう怖くは…」
その時、遠くから微かに爆発音がしたのを聞いた。
「ん?」
「何だね?今のは」
その直後、桟橋を含めた刑務所全体にけたたましいサイレンが鳴り響いた。
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スフェーンに持たせるなら?(参考にします)
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89式5.56mm小銃+06式小銃てき弾
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九九式短小銃+二式擲弾器
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Ak5C+M26 MASS
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AKMS+GP-25
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AKE-971+GP-34
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FN M1949+Energaグレネード
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