TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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宇宙。

 

それは遥か昔から存在し、人類が誕生する以前から見上げればそこに存在していた未知であった。

 

それは同時に、人が神話・宗教・神学・哲学・科学などを自ら証明する上で必要となる材料ともなった。

 

そもそも『宇宙』と呼ばれる言葉に関しても、誕生の経緯には複数の考察がなされている。

 

大災害以前、人類はタイムマシンを開発しており、時間を自由に行き来していたという話があるが、真相は不明である。

エーテルの津波で多くの技術を失い、宇宙と隔絶された空間となったこのトラオム大地でそれを確認する術は、軍警察の数少ない宇宙船に乗り込む以外方法はないからだ。

 

 

 

 

 

「世界で初めて宇宙を飛行した生命体は、ハエらしい」

 

部屋の机に座ってマルガリーテスは自分で淹れた紅茶をコップに入れて話す。

訳あって彼女からもてなされたルシエルは彼女から紅茶を振る舞われていた。

 

「…」

 

ルシエルも彼女が淹れてくれた紅茶を一口、するとスフェーンが一言。

 

『下手くそな淹れ方ね』

 

彼女はルシエルが口にしたものの味覚を共有しているおかげで、紅茶の味をスフェーンも感じていた。

少なくとも、お茶に関する技術で彼女の技に右に出るものはいないであろう人からの厳しい意見にルシエルは軽く言う。

 

「(少なくともスフェーン以上にお茶に口を出す人は私以外知らないです)」

『…それは褒めているのかな?貶しているのかな?』

「(さぁ?)」

 

軽くそれでスフェーンを御した後、ルシエルはマルガリーテスの淹れた紅茶を片手に彼女の話を聞いていた。

宇宙物理学の本を手にした後、彼女は宇宙の話をルシエルの前でし始めたのだ。

 

「そして猿や犬、その他多くの生物を宇宙に打ち上げ、ついに人を打ち上げた」

 

彼女はそこで窓の外を見る。

その視線の先には街を横断する河川や、夜にもかかわらず燦々とライトアップされているロケット発射場が見えた。

 

「今回のロケット発射は、ここの地元企業の起業…何年だったかな?まあ周年イベントのようなものだ」

 

彼女はロケットを見ながら、同時に微かに聞こえる爆発音を聞く。

時折ドンドンと太鼓を叩いたようにも聞こえるその音の正体は、砲撃音であった。

 

現在、発射場を中心に傭兵達による防衛戦が構築されており、時折襲来する巡航ミサイルを迎撃するために行われている対空射撃の音か、あるいはボストーク-1を現在防衛している軍警察の203mm砲などの火砲による砲撃だろう。

無論、それほどのことでロケットの発射は中止されない。

 

この星においてロケットを打ち上げるということは、それだけの技術を有していることであり、会社の規模や技術力を示す広告となる。

エーテルで覆われた空の中を突いて打ち上げることで、ロケットは地上一〇〇キロのカーマン・ラインを超えて宇宙空間と定義された場所に飛び出す。

 

いくら分厚いエーテル層があるとは言え、オーロラが見え、その奥の宇宙が見える範囲。

オーロラの発生する範囲とカーマン・ラインは似たような高度にあり、そこを突き抜ければ宇宙であると定義されている。

 

「大災害の後、このトラオムの住人は宇宙という外界への興味を失ってしまった。それはなぜだと思う?」

「…単純に、このエーテルで覆われた空の下で生活しているからなのでは?」

 

ルシエルはマルガリーテスの質問にそう答えると、彼女は言う。

 

「ふむ、しかし大災害以前にこの星を統治していた政府機構が残した財産は、明らかに宇宙につながる道標となっている。

大災害で全てを失ったにも関わらず、星を捨てるために過去にそれらを使って宇宙に飛び出ようとした事例は今のところ確認されていない」

 

軌道エレベーター、マスドライバー、それらは全て大災害以前にトラオムを含めた他の惑星をも収めていた統治機構が残した遺物である。

だが、大災害は全てをエーテルが押し流し、星から緑を根こそぎ持っていった。

 

「宇宙に私達を飛ばす宇宙往還機がなくなってしまったからでは?」

「ふむふむ、それも理由の一つだろうな…」

 

マルガリーテスはルシエルの意見に頷く。

全てを押し流した大災害は、宇宙に行く為の術に必要な宇宙に行くための装備がなくなったからと推測した。

 

「それで仕方なくここで生活をしていたら、それがいつの間にか当たり前になってしまったのでは?」

 

少なくとも目の前の少女は自らを運び屋と言っていたが、教養はかなりありそうだった。

傭兵とも思われそうな武装を見に施しているが、運輸ギルドの会員証も確認したのでおそらく言う通りの職業についている。

 

「随分と地頭はいいのだな」

「…これでも私は薬学の勉強に励んでいる途中の身ですので」

「なるほどな…」

 

そこでマルガリーテスは彼女の頭の良さの理由を理解すると、そこで少し彼女のその頭脳の限界に興味が湧いた。

 

「さて、ルシエルさん」

「何でしょうか?」

 

首を傾げるルシエルにマルガリーテスは聞く。

 

「宇宙とは何かね?」

 

少々マルガリーテスはルシエルを試すように質問をした。

するとその意思を感じ取ったスフェーンが軽くルシエルに助言をすると、彼女が意趣返しのように答える。

 

「宇宙とは、不変の代名詞なのでは?」

「…ほう、その理由は?」

 

マルガリーテスはルシエルの返答に少々予想外の顔を浮かべる。

 

「かつて、かの古代ギリシアの哲学者アリストテレスは、月下界…所謂地上の物質の根源は火・風・水・土の四元素で構成されているとし、天上界…つまり恒星と惑星の世界はその四元素以外の五つ目の元素、エーテルも含んでいると考えられ、第五元素から成る天上界は不変であると定義しました」

 

ルシエルはそこで、今までにエーテルが蓄積してきた情報の一部を口にする。

無限とも言える人が蓄積してきた情報は、マルガリーテスを驚かせるには十分だった。

 

「そしてその四元素は後にガレノスが人の体内は『血液・粘液・黄胆汁・黒胆汁』で構成され、このバランスが崩れると病気になると定義した四体液説と紐づけられ、長きに渡り西洋における医学・薬学の基準ともなりました」

「十九世紀末まで信奉され続けられた重要な医学だな。ユナニ医学の根幹だ」

 

マルガリーテスも短く頷いて彼女の口にした知識と、自分の知っている知識をつなげる。

目の前の少女は、その身なりに似合わない知識を有しているのだとマルガリーテスは反省をする。

 

「正直、ターヘル・アナトミアを読んだ杉田玄白達は驚愕をして、自分たちの医学は遅れているとか言ったと言う話ですが、少なくとも当時行われていた気絶するまで瀉血していたのが西洋医学です。患者が気絶するまで血を抜いたら治療終わりですよ?

そりゃあ欧州じゃあよくわかんない民間療法が流行るでしょうし…正直、漢方薬を使ってしっかり治療をして、麻酔まであの時代に作っちゃった東洋医学の方が進んでいたような気がしますけどね」

「実際そうだろう。1804年に華岡青洲が世界で初めて『通仙散』と呼ぶ麻酔薬を発明し、全身麻酔の後に乳癌の切除をおこなった記録があるくらいだ」

 

今でも漢方薬というは、栽培した植物を利用したという理由で自然主義者などからも愛用される薬である、

マイクロマシン療法やサイボーグ化手術などが当たり前に行われている今の時代ですら需要があるため、漢方薬と偽ってただの西洋薬を売る詐欺が流行っていたりもする。あるいはナノマシンを売りつけるか。まあ酷いもので、漢方薬を買うなら信頼のある企業から買うのが一番である。

 

ちなみに床屋の前に置かれているトリコロールカラーの回転するポールは、元々は紅白柄で、赤は血、白は止血帯として昔は床屋が瀉血を行っていたという歴史があるという話もある。

 

するとそこでマルガリーテスが少し息を吐いて、脱線しかけた話を戻す。

 

「まぁ、話は少し戻るが…この世界にもエーテルは存在している」

 

マルガリーテスはそこでコップを置く。

 

エーテル。

 

それはこの世界におけるすべての動力の源であり、このトラオムの人々が生きる上では欠かせない存在。

かつて、銀河を制したとされるトラオムを支配していたその国家ですら全てを知り得ることのなかった全く未知の物質。

 

 

あるいは暗黒物質(ダークマター)

 

あるいは神の福音。

 

あるいは自然主義者の敵。

 

あるいは史上最高の燃料。

 

あるいはトラオム発展の礎。

 

あるいは企業間抗争の原因。

 

あるいは必死を呼び込む悪魔。

 

あるいは不治の病を生む元凶。

 

 

ありとあらゆる呼ばれ方をしている物質、それがエーテルである。

 

「きっと、初めてエーテルを見た学者はこう言った四大元素を参考にしたのではないかな?」

 

エーテルの語源は、古代のとある言語で燃えるという意味があるそうだ。

確かにエーテルは燃料として消費され、戦争の火種ともなっている。どちらにも火の文字が使われているのは皮肉と言えるだろうか。

 

「なるほど、それは面白い視点ですね」

 

二人は歴史学者のような会話をしており、ルシエルは内心、火の悪魔(サマエル)風の悪魔(アザゼル)水の悪魔(アザエル)土の悪魔(マハザエル)と、自分の持つ能力をそう名付けた妹のセンスを思い出して表情を引き攣らせてしまう。

少なくとも自分の持つ異能に堕天使の名前をつけようと思うセンスは、正直痛いと思う。

いわゆる厨二病と言うものかと思っていると、

 

『聞こえてっぞこのヤロー』

 

不服げに抗議をしてくるスフェーンが居た。無論のこと、彼女のことは一度無視してからルシエルはマルガリーテスの話を聞く。

 

「まあここら辺は私も専門外だから詳しくは知らないのだが…」

 

少なくともそういうエーテルの思想面に関しての考え方はそう言う専門家に任せるのが一番だ。

餅は餅屋の理論で、知らないことは詳しい人間に任せるのが一番だとスフェーンは考えており、彼女に影響されたルシエルも同様の考えに行き着いていた。

 

「ですね」

 

故にマルガリーテスの意見に頷いてから紅茶を飲む。

 

「だが、エーテルと宇宙というのはそういういわゆる紀元前の時代から結びついているわけだ」

 

彼女はそう言うと、そこで先ほどルシエルが手に取った宇宙物理学の本を片手に彼女は言う。

 

「私も、あのロケットのコマンドを作った人間として、無事に打ち上げられることを祈るばかりだ」

「…ぶふっ」

 

その時、ルシエルは飲んでいた紅茶を少し吹き出してしまった。




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スフェーンに持たせるなら?(参考にします)

  • 89式5.56mm小銃+06式小銃てき弾
  • 九九式短小銃+二式擲弾器
  • Ak5C+M26 MASS
  • AKMS+GP-25
  • AKE-971+GP-34
  • FN M1949+Energaグレネード
  • FAMAS+APAV40
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