TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#318

「宜しいのですか?」

 

目の前に茶碗に注がれた煎茶を出されながらサクラ・ハマダは問われる。

 

「何の事かね?」

 

桜花武士団と名乗っている傭兵団を今なお率いる女傑は、そこで部下からの質問に質問で返す。

 

「先の依頼の話です」

「あぁ…」

 

そしてサクラ・ハマダはやや態とらしく副官に受け応える。

 

「指示通り、半分は新人を送りました」

「うむ」

 

彼女は最前線から身を引いており、いわゆる引退した身である。彼女は現在、ボストーク-1のホテルの一室でロケット打ち上げが行われるまで副官と共に過ごしていた。

 

「宜しいのですか?」

「何か問題でも?」

 

その問いに彼女は静かに煎茶を傾け、一口ほどの量を飲んだ後、ゆっくりとした所作で窓を開けたままにホテルの外の景色を見る。

今回のロケット発射場防衛の依頼は金額の高い上に重要なランク帯の依頼であり、傭兵団として出ていく必要のある仕事であった。

 

「今回の依頼は重要度の高い依頼でした」

 

そんな重要な依頼で、桜花は半数のオートマトン部隊を新人で構成して送り込んだ。

対する五獣傭兵団は大半を経験者で組んでおり、自分のところと違って多種多様な武装で囲んでいた。

 

「新人育成には少し厳しいものがあるのでは?」

 

五獣傭兵団と桜花武士団との付き合いは、傭兵ギルドの創設の頃からあり、チェン・リエとの交流もそこからあった。

自分と違ってまだまだ若い彼女は今回の仕事でも最前線で指揮を執っており、傭兵としての旬はまだまだ続いていた。

そもそも彼女の率いる傭兵団の創設意図は、赤砂傭兵団への反発と離反から始まっていた。

 

傭兵ギルド創設とともに解散となった赤砂傭兵団の、オートマトン部隊を中心に勧誘を行った桜花武士団。

 

一時期はアイリーンと提携し、企業の支援を受けて急拡大の道を歩んだ赤砂傭兵団。

だが、長年レッドサンと仕事を行ってきたサクラはアイリーン提携前の同傭兵団は、いわゆる彼が望んだものではないというのを推察していた。

そもそもレッドサンという男は集団の長として人を率いることを好まないし、おそらくそう言った才能もない。

 

無論、レッドサンの行方不明の後に赤砂の急拡大を見て彼の相棒を疑ったが、そもそも証拠がない上に傭兵はいつ死ぬかわからない職業だ。裏取引による裏切りだってないわけではない。

最強とまで言われた傭兵もついに運が見放したかとサクラは当時考えていた。

 

だが新しく赤砂の団長となった男は赤砂傭兵団を傭兵団らしく整備し、アイリーンとの提携切りから始まる傭兵ギルド創設までの加速度的な行動。その後の軍警察による捜査や逮捕、起訴から執行猶予付きの判決を受けるまでの動き。

その間の世界の動きと噛み合わせてみれば、まず間違いなく歴史を動かした一人となるだろう。

 

今、彼は傭兵から完全に引退してから何処かに消えてしまった。

彼の現在位置は分かっておらず、何をしているのかも不明。彼の最後の手がかりは雑誌へのインタビューだ。

そのインタビューの最後の一文を巡って多くの推察がされているが、所詮憶測の域を出なかった。

 

「構わないですよ。今回の依頼は達成されると見込んでいますので」

「…了解しました」

 

その一言で、彼女が今回の依頼に関して『占い』を使用したというのを理解した。

彼女の占いの命中率は企業の間ではよく知られた事実であり、恐ろしい金を積んで占いを頼み込んできた社長やCEOは数知れず。

今では異能の一種であると推定され、彼女の遺伝子を用いたクローンを作ろうと画策する企業もいるほどであった。

 

「(一体、何を考えているのでしょうかね…)」

 

副官はいつも通り、彼女が何か面倒なことを考えていると察し、胃薬の居場所を再確認した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その時、柵を飛び越えて二人の少女が下に降りる。

 

「よ、っと」

 

ボストーク-1で知り合ったマルガリーテス・ハミルトン。

彼女は今回同市で発射されるロケット、ロバート・ハッチングズ・ゴダード号。通称をゴダード・ロケットと名付けられた使い捨て型ロケットを発射する上で衛星軌道に載せるのに必要なプログラミングを作り上げた女性研究者であった。

 

「随分と遠回りしますね」

 

街の中を歩くルシエルは、自分の手を引いて部屋から連れ出したマルガリーテスに言うと、彼女は言う。

 

「ああ、なにせ行きずらい場所にあってね」

 

石階段を飛び降り、街の地下河川を歩く二人。ルシエルは自分の身長以上の長さの武器を背中に下ろしており、その動きは迷路のように歩いていた。

地下河川ということで比較的綺麗な水が側を流れ、時折地下河川の通路にホームレスの住居が現れる。

 

「失礼」

 

マルガリーテスはそのホームレスのバラックを一言言ってから通過し、後を追うルシエルも一礼をしてバラックを通過する。

どれほど綺麗な街並みでも、こうした見えない場所に映る景色はどこでも一緒かと、軽くルシエルは思いながら地下河川を歩く。

マルガリーテスは青緑色のベレー帽を被り、三毛猫の獣人や分厚い丸眼鏡から一見すると文学少女のような容姿をしていた。

 

「…」

 

その時、ルシエルは地下河川一帯のスキャニングを行う。

スフェーンと言う二人の人格が一つの体を共有しているおかげで普通の人間であればできないようなことも可能で、狭い地下空間のスキャニングを行うと、先ほど通った道を水に潜って追いかける熱源を探知する。

 

『熱源は二つ、多分光学迷彩を使ってる』

「…下手くそですね」

 

スフェーンの偵察情報を聞き、ルシエルは小さく呟くと懐から拳銃(TRR8)を握って一瞬で振り返ると、水面に向かって照準を向ける。

 

「「っ!!」」

 

銃口を向けられたことを相手も気づき、直後に立ち止まって持っていた消音器付き拳銃を取り出そうとした。

 

「アウトですよ」

 

ルシエルは相手が動いた瞬間、自分の中で敷いていたデッドラインを超えたと判断。反射的にその引き金を引く。

 

ッ!ッ!

 

水面に二発の銃弾、地下河川に反射する銃声。耳を弄する音が響き、マルガリーテスはルシエルの行動に即座に自分の耳を押さえて対応。

銃声と共に発火炎が地下河川の壁面や天井を照らす。

 

ッ!ッ!ッ!ッ!

 

続け様に四発を発射、視界のサーマルに映る熱源二つを頼りに発砲を行う。

放たれた銃弾を前に追跡を行っていた二人も思わず水中深くに退避する。水中弾となった拳銃弾は着水と同時に勢いを失うと、着水した衝撃で弾頭は裂けて鉛を剥き出しにした。

 

ッ!ッ!

 

そしてさらに二発、追い討ちで打ち込むと、直後にルシエルは叫ぶ。

 

「走って!」

「っ!りょ、了解だ!」

 

そこで弾倉から空薬莢を排出し、新しいムーンクリップに装填されたマグナム弾を装填するルシエルを見てマグガリーテスも小さく頷くとそのまま地下河川を走っていく。

 

「っ!」

「行け行け!」

 

逃亡を確認して追跡を行っていた二人が慌てて光学迷彩をつけたまま水辺に上がる。

 

「丸見えですよ…!」

 

そこでルシエルはすぐさま散弾銃を手に持って発砲。

 

「「っ!?」」

 

直後に視界一杯に真っ白な光景が浮かんで動きを止めた直後、ドラゴンブレス弾を発射した後に一般的な12ゲージの散弾を交互に発射すると、ドラゴンブレス弾から放たれた火炎を前に怯んだ追跡者たちに容赦無く無数の鉄球が襲いかかる。

暗視装置をつけたまま二人は、ドラゴンブレス弾の放つ燃焼するマグネシウムの閃光と熱に視界を潰されてしまった。二人はウェットスーツを着用していたので引火はしなかったが、目はしばらく使い物にならなくなってしまった。

 

「「っーーー!!」」

 

襲いかかった散弾を前に何もできずに二人は倒れると、敵を無力化したことを確認してからルシエルはマルガリーテスと共に地下河川から脱出をする。

 

「こっちだ」

 

地下河川は街中の上に蓋をして大通りとなっており、その上には市電すら走っていた。

 

「全く…」

 

地上に上がる階段の前でルシエルは軽くマルガリーテスに少し恨み目線を向けると、階段を駆け上がって地上に出る。

狭い裏路地を抜けると数センチ先を市電が通り抜け、追いかけてくる影は見えなくなる。

 

「この先から街を抜けよう」

 

マルガリーテスはそこで近場の無人タクシーに乗り込むと、そこで行き先をマルガリーテスが指定する。

 

「ふぅ…」

「…追手はいなさそうですね」

 

後ろを見てルシエルは軽くため息を吐くと、隣に座るマルガリーテスに詰問する。

 

「どう言うことですか?」

「さぁ?」

 

一瞬惚ける彼女は続ける。

 

「まあどこかの研究員が、研究所の所長と仲が悪くなったと言う噂はあるのだがねぇ」

「…」

 

マルガリーテスにルシエルはジト目を向け、直後に彼女にデコピンをする。

 

「いっ、った?!」

 

ルシエルのデコピンに軽く悶絶するマルガリーテス。

 

「馬鹿ですか?阿呆なんですか?クソですか?」

「思いつく限りの悪口をつぎはぎで投げつけるのやめたまえ。仮にも女なのだろう?」

「女だからですよ!」

 

武器を持っており、一瞬傭兵なのかとも思われるほどに重武装だった。

 

「私を出しに使ったんです。まだマシなのでは?」

「…」

 

怒り心頭ほどで無いが、それでも大分怒りのボルテージが上昇しているルシエルにマルガリーテスも思わす唾を飲み込む。

彼女は自分が監視対象にあることを以前から理解しており、親指の付け根の部分が分厚いなどの銃に扱い慣れている人の特徴を肩を借りた時に見ていた。そしてあわよくば監視員を追っ払ってくれる事を願っていたが、そこまで見透かされているのは予想外だっだ。

 

「…わ、悪かったよ」

 

マルガリーテスはルシエルの圧に負けて謝ると、ルシエルは軽くため息を吐いた。

 

「はぁ…全く」

 

ルシエルはそこで頬杖を付いて窓の外を見る。

彼女を監視していた人員の上の人間が誰なのかを察し、彼らからして自分はマルガリーテスが雇ったボディーガードとでも思われているだろう。

 

『なんでこんな面倒なことに…』

「(呪いか何かかと、思いたくもなりますよ)」

 

苦笑するスフェーンにルシエルも呆れていた。

 

「まあ落ち着いてくれ。これから君が満足できる場所に案内するから」

 

マルガリーテスはやけに自信のある様子でルシエルに言うと、無人タクシーは街の郊外に向かって走って行った。




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スフェーンに持たせるなら?(参考にします)

  • 89式5.56mm小銃+06式小銃てき弾
  • 九九式短小銃+二式擲弾器
  • Ak5C+M26 MASS
  • AKMS+GP-25
  • AKE-971+GP-34
  • FN M1949+Energaグレネード
  • FAMAS+APAV40
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