「それ、実業家が許すと思いますかね?」
自分たちで作ったロケットの情報を公開しようとするマルガリーテスにルシエルは思わず聞いてしまう。
今回発射されるロケットの情報を全面的に公開しとうと彼女達は計画していたのだ。これは明らかな利敵行為であり。行なった場合、彼女は企業から命を狙われることとなる。
「協力者は多くいる。我が子のように作ったロケットで人殺しをされよう物なら、な」
「わぁ〜、味方は作ったわけですか」
ルシエルはすでに準備を整えていたマルガリーテスを前に苦笑する。やることがあまりにもえげつなさすぎて、マルガリーテス含めたこれをやろうとする人々に何とも言えない気持ちを抱く。
「世の中、仲間は意外とすぐに見つかるって物だろう?」
「どちらかと言うとそれは同志に近いのでは?」
「そうとも言えるな」
マルガリーテスはそこで自らを雇用した人物への反逆を企てており、ロケットの軍事転用を防ごうとしていた。
「移動式ロケット発射台も含めて設計図も公開する予定だ」
「…本当にロケットの専売特許を全部放棄するんですね」
「独占しているよりは良かろう」
マルガリーテスは言うと、自分たちがロケット技術を無断で公開をすることに後悔している様子はなかった。
「そうすれば今後、私たち以外の誰かが夢を引き継いでくれるだろう」
「誰かが…ですか。…ん?」
彼女はそう言い、ロケット技術を公開することをむしろ誇らしいことと思っていた。
「移動式ロケット発射台?」
その中でルシエルはマルガリーテスから出てきた単語に首を傾げた。すると彼女は軽く頷いてからルシエルに言う。
「ああ、ゴダート・ロケットは河川舟艇からも発射可能なロケットだ」
「おおぅ…」
彼女の口から飛んできた唐突な話にルシエルは思わず変な声が漏れる。
「専用に開発された水上輸送可能なロケット発射台だ。ロケットを予め製作をした後に船に載せる。そしてしばらく河や海を航行し、安全な水上まで移動した後に発射体制に入る。移動式のロケット発射プラットホームだ。今、ロケット発射場に設置されているロケットは二号機のダミー機だ」
彼女はそう言うと、天体観測装置と接続をしたままそこに映る宇宙を見る。
「本命のロケットはすでに河を移動している。間も無く、発射体制に入るだろう」
そして自分たちの開発したロケットを前に思いを馳せていた。
その頃、深夜の闇夜に紛れて一隻の河川舟艇が静かにボストーク-1の側を流れる大河を航行していた。
「間も無く、発射地点に到着します」
艦橋の明かりも、航海灯も全て消灯をした状態で航行する河川舟艇。その船倉はシャッターで閉鎖された空間があった。
現在、此の河はロケット発射が完了するまで他の舟艇の一切の航行を禁止していたので航海灯を落としても接触の危険はなかった。
「上手く誤魔化せたようだな」
艇長は戦闘中のロケット発射場を双眼鏡で見ながら安堵する。取り敢えずここまでは誰にもバレることなく進むことができていた。
あとは船体を固定し、ロケットを起立させ、発射するまでの手順が待っている。まだ油断はできない。
「投錨します」
「よろしい。作業を始めてくれ」
「はっ!」
そこで乗組員たちは一斉に準備に入る。深夜ということもあり、多くの住人は陸の方のロケット発射場の方に目が行っていた。
この川幅は広く、真ん中でロケットを発射しても周囲の街への影響は少ない。
「シャッター開放!」
「警告!音は出ないぞ!」
乗組員は街に影響のない場所で投錨し、船体を固定すると、その後に船倉を覆っていたシャッターを開放。中に格納してあったロケットを開放する。
何処を飛んでいるのか分かりやすくするために白黒で塗装されたロケットは、そのまま発射台に乗せられたまま起立の為に油圧ジャッキがゆっくりと動く。
すでにロケットは工場で組み立てられた後にこの自走式ロケット発射台に乗せられたあと、河川を航行していた。
沿岸海域にも出られるように頑丈に設計されたこの河川舟艇はロケットを発射する上で必要な装備を丸ごと収めていた。
「ロケット起立!」
「作業急げ!いつ攻撃が来るかわからないぞ!」
ロケット発射台としても使用可能な此の河川舟艇は格納されたロケットを起立させる。
静粛性も兼ねて警報音もなしにシャッターが開放され、ジャッキアップが行われる。
現在、ロケット発射場にいる別の要因から敵部隊が本格的にロケット発射場に攻勢をかけていることは把握しており、このロケット発射台の河川舟艇は対艦ミサイルを一発でも受ければたちまち沈んでしまうほどに脆い。故に乗組員たちは迅速に作業を行なっていた。
「…攻撃の予兆はまだなさそうだな」
周囲をレーダーの他に双眼鏡による目視まで行わせている艇長は腕時計を確認する。
「はい、あと三〇分もすれば発射準備が完了します」
そこでジャッキアップが行われると同時にロケットの発射司令室ではロケット発射の準備が行われる。
「ロケット。七五度まで上昇」
「ロケット発射第一時段階、準備完了。カウントダウン開始します」
小型の司令室の画面のタイマーの画面が現れ、ジャッキアップ中のロケットの発射準備が着々と進んでいく。
「カウントダウン開始。三〇分」
移動式ロケット発射台の中で技術者たちは、自分たちの作ったロケットが打ち上がるのを前に緊張が高まっていく。
その頃、本命のロケットが河川で準備をしているとも知らず、依頼の通りに傭兵たちは戦闘を繰り広げていた。
ッーーー!ッーーー!
上空に無誘導ロケット弾が放出され、さらに自走迫撃砲による攻撃が行われる。
「撃て!」
塹壕陣地の中からも傭兵たちは対戦車擲弾や機関銃を発射する。
五獣傭兵団と桜花武士団の連合を組むロケット発射場防衛部隊は、敵の攻撃を退けていた。
「くそっ!」
「中古だが数が多い…」
「押され気味だぞ」
チェンは敵部隊に歩兵がいない事実や、数をまとめて揃えた旧式兵器の部隊を前に冷や汗を出す。
「巡航ミサイルの攻撃は止まったが…」
「代わりに敵の主力が攻めてきた。企業め、どんだけ集めてきやがったんだ」
「終わったら、ここら辺が死ぬほど平和になっちまいそうな勢いだぞ」
防衛を行う傭兵たちがそう思うほどに攻撃の質は高い。おそらく、向こうも傭兵が混ざっているのだろう。
「オートマトンがまたやられた!」
「チッ、新米がよ…!!」
桜花に軽く毒吐きながら五獣所属の傭兵は銃を持つ。
「撃破されたオートマトンにこちらも戦車を送れ。ロケットが破壊されたら終わりだぞ!」
そこでチェンは言うと前線に戦車が押し出され、砲撃。主砲の125mmリボルバー滑腔砲を発射、放たれた
「地雷原を確認」
「墜落したドローンが爆発している」
侵攻を行う部隊でも自分たちが行なった攻撃で墜落をしたドローンが地雷となって戦場に散布されていた。
「見つけ次第破壊しろ」
「了解」
そこでオートマトンは持っていた203mmロケット砲を発射、塹壕に土煙が上がる。
「っ!!」
地響きが塹壕陣地を襲い、地面に張っていた有刺鉄線がオートマトンによって蹴り飛ばされるとそのまま塹壕陣地の跡地に架けられた桟橋を歩く。
「点火!」
「っ!」
それを見ていた傭兵が叫んで、その側で点火装置を持った別の新米傭兵がスイッチを入れると仕掛けられた爆薬が炸裂。桟橋を渡る途中で攻撃をしていたオートマトンと多脚戦車の部隊は次々と炸裂する爆薬を前に逃げる前に爆発して塹壕に叩き落とされた。
「撃て!」
「発射ぁ!!」
それを見ていた傭兵達は持っていた自走榴弾砲を発射。155mmの榴弾が戦場に炸裂すると、塹壕に叩き込まれた敵部隊は関節部を破壊されて擱座する
「破壊された!」
「脱出せよ!」
敵部隊でもオートマトンが破壊されると、コックピットからパイロットが脱出する。
多脚戦車も同様で、弱点である関節部を吹き飛ばされたことで緊急脱出装置が作動した機体もあった。
「元々野盗の使っていたお古だ。いくら壊れても構わん」
擱座した機体を見てパイロットは言うと、コックピットに持っていた手榴弾を投げ込むと脱出をしていく。そして手榴弾が爆発をすると、その機体は盛大に破壊された。
「くそっ、無人機が紛れ込んでいるか?」
防衛を担当していた桜花の傭兵が、擱座されても一向に出でこないオートマトンを見て無人機がいるのかと推察をすると、直後に敵部隊による多脚戦車の支援砲撃を確認する。
「退避!砲弾がくるぞ!」
叫んでオートマトンが一斉に後方に退避した直後、塹壕陣地に多脚戦車の放った砲弾が着弾する。
多脚戦車特有の高い仰角が取れる背負式の構造は自走榴弾砲としても使用が可能で、多くの戦場で同様の光景が見られている。また多脚戦闘車両の特徴として、足場が不安定な立地でも安定した射撃が可能であることから多脚戦闘車両は今も多く使用されていた。
「クソゥ、迎撃ばっかりかよ!」
「数が多すぎるんだ!後退するぞ!」
その手に生命維持装置の起動した傭兵を引っ張って五獣所属の傭兵が言うと、彼らは塹壕陣地をさらに後にしていく。
「おいおい、そろそろ十キロ圏内だぞ」
「遅滞戦術も限界が来るぞ」
「分かっている」
チェンは部下達に向かって言うと、視界に見えてくる前線の状況を見る。
「他の戦域はどうなっている!?」
「他の積極的な攻勢はありません。とりあえずここだけです」
「そうか…不気味だな」
彼女は北西以外での大規模な戦闘が行われていないことに、敵が一点集中突破を狙っているのかなどの敵方の作戦を考えていた。しかし大規模な攻勢を前に他のことを考える余裕はなかった。
すると最前線を侵攻していた敵機甲部隊に一斉に数発の爆発が起こった。
「ん?何だ?」
一斉に爆発をした攻撃を前にチェンはすぐに違和感に気づくと、無線で誰かが叫んだ。
『おい!馬鹿!前に出過ぎているぞ!!』
無線でそう叫ぶと、彼女は爆発した爆炎に突っ込んで行く一台のオートマトンを見た。
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