パチンッ!
「痛っ」
その時、デコピンをされたマルガリーテスは目を覚ます。
「よく眠れたようですね?」
そんな彼女を側で正座して見下ろすのはルシエルだった。
「あ、あぁ…すまない。寝てたか」
マルガリーテスはそこで体を起こしてルシエルに言うと、彼女はそこで頭を抑える。
急激な眠気に襲われた彼女はそのまま眠ってしまっていた。
「今何時だ?」
「ロケット発射の五分前ですよ」
懐中時計で時間を見たルシエルが教えると、マルガリーテスはそこで一周首を回して辺りを見回す。
周りは天体観測所で、自分が気絶する前と変わらない景色を残していた。
「悪い。寝てしまったようだ」
「さぞお疲れだったんでしょうね」
ルシエルは気絶するように寝ていたマルガリーテスを前に軽くため息を吐く。
「まあロケット発射前に起きてくれたので良かったのですが…」
「…そうだな」
マルガリーテスはそこで自分が気絶する直前の光景を思い出しながらルシエルを見る。
彼女は天体観測所の機器からコードを外しており、天体観測は終わらせてあった。
「コードを抜いたのか。体に違和感は?」
「今のところありませんよ」
「そうか…なら問題ないな」
マルガリーテスはそこでルシエルが今までの経験から無事であると把握すると、彼女はルシエルに施設を出ようと言った。
「しかし随分と綺麗ですね…」
「たまに掃除をしているからな」
そうして施設を出ると、そこで無数のアンテナが並ぶ景色を見上げる。
「さて、もうすぐロケットが空に上がるぞ」
「楽しみですね〜」
そこで二人は空を見上げてその時を待った。
「二〇、十九、十八、十七、十六、十五…」
カウントダウンが行われ、ロケットの機関部に熱が入れられる。
「十四、十三、十二、十一…」
多くの計器が現在のロケットの状態を示しており、発射準備が整えられる。
「十、九、八、七、六、五…」
「最終セーフティー解除。ロケット発射準備完了」
河川舟艇から発射される本命のロケット。ロケットの発射炎から地上をカバーする目的で大量の水が必要であり、川は常時大量の水が流れているのでそうした発射を行う上で必要な水量を簡単に確保できた。
「サブエンジン点火」
「四、三、二、一、〇」
「メインエンジン点火。リフトオフ」
司令室で研究者達が各機器類のスイッチを入れると、起立したロケットに点火。ロケットの噴射熱が河の水を蒸発させながら発射台のレールを伝って離床を始める。
凄まじい閃光と水蒸気がロケットから解き放たれ、ロケット発射の前にはすでに多くの市民が発射されるロケットを街から見ていた。
「ロケットが…」
そして白煙を引いて空に上がっていく様はロケット発射場で見ていたチェン達も見ていた。
先ほど、オートマトンが大立ち回りをしたおかげで戦線は好転した。そのため彼らもロケットの打ち上げを無事に見ることができていた。
「こいつは囮だったのか…」
チェンはそこで自分の視界に映る巨大なコンクリートで塗り固められたロケット発射場をみる。
そこに装備されたロケットはロケット発射時刻となっても発射されず、今も発射台に乗せられたままであった。
「囮のために戦っていたのかよ…」
打ち上げられたロケットを見て一人の傭兵が毒吐いた。
「それが仕事だ。文句を言うな」
新米であったその傭兵に別の熟練傭兵が言う。
多くの傭兵は自分の命をかけて金を稼ぐことを生業としている。今回の依頼はロケット発射場の半径十キロ圏内に敵を入れないこと。あくまでもそれが敵の注意を引くための囮であっても、仕事はこなさなければならない。嫌ならやめればいいだけの話なのだから。
「分かってますよ。ただ…」
「俺たちが食いもんにされた気分ってか?」
「…」
図星だったようだ。新米の傭兵は黙り込んでしまった。
「傭兵なんてそんなことばかりだ」
チェンはそこで銃を置いて頬杖をついて打ち上がったロケットを見上げる。
「依頼主の思惑のために依頼に踊らされる。まだ騙し討ちをしないだけ、この依頼主は良心的だ」
彼女は今までの傭兵人生の中で経験してきた多くの所業を思い出す。
昔いた古巣の赤砂を抜け、新しい傭兵団を立ち上げ、その後に元赤砂だったと言う理由で人員と資材をその古巣からもらうこととなり、その戦力に託けて南北戦争中に勢力を拡大させてきた。
その時には裏切りを強要してくる依頼主もいた。仲間同士の殺し合いを望む依頼主もいた。
そういう通常の思考では考えられないようなことを提案してくる依頼主もいた。それを知っているからこそ、チェンはその傭兵に聞いた。
「それでもやり続けるか?」
こんな薄汚い仕事を続けられるのか?と。聞かれた傭兵はそんなチェンの問いにしっかりと地に足のついた口調で答える。
「俺には、これ以外で金を儲ける方法を知らねえんで、まだまだやり続けるつもりですよ」
「…そうか」
その返答を聞き、チェンは少し笑みを浮かべると、ロケット打ち上げ成功を教えてくれるように街から花火が上がっているのを見た。
その花火を前にチェンはまるでそれが、先ほどのオートマトンの戦闘が一時の夢を見ているようであったと思い出す。
「打ち上がったのか…」
「俺たちの仕事はこれで終わりだな」
傭兵達はそう言い、ロケットの発する轟音を聞いて自分たちの仕事が終わったのだと実感していた。
打ち上げられたロケットは、当然街のどこからでも確認ができた。
「ロケットだ」
「わぁ…」
エンジンノズルの凄まじい閃光と白煙を上げながらロケットが打ち上げられていく。
それを天体観測所の側から見る二人。
「すごい…」
ルシエルは打ち上げられて空高く飛んでいくロケットを見上げて声を漏らす。
いいしれない感動というべきか、そんな晴々としたようなものが込み上げてくる。
「…」
マルガリーテスも打ち上げられたロケットを見て無言のまま涙を流す。
自分の作り上げたプログラムは無事に動作しており、安定した姿勢で飛行を行なっていた。
「…よかった」
そして安堵したように小さく呟く。
「よかった…」
そして彼女はそのまま涙が溢れてくる。
自分たちの作り上げた夢そのものが飛んでいる。それだけで彼女は十分であった。
無論、ロケットにはこれから任務が残されているが、ロケットが無事に打ち上がったのを見て心底安堵していた。
「本当に…」
マルガリーテスは空の彼方に消えていくエンジンノズルの光を見ながらそれだけを言うと、そのまま地面に座り込んでしまう。
「大丈夫ですか?」
ルシエルは急に地面にへたり込んだマルガリーテスに聞くと、彼女は答える。
「あぁ、すまない…少し力が抜けてしまったようだ」
彼女は打ち上げられたロケットを前に力が抜けてしまっていた。
「帰りますか?」
「そうだな…」
マルガリーテスは頷くと、差し出されたルシエルの手を取ると坂を登っていく。
「打ち上げは成功したようですね」
「ああ、実に嬉しいことだ」
乾いた山の上を歩く二人は、そこで打ち上がったロケットを喜んでいた。
街の方では花火の打ち上がるパンパンという音が聞こえてきた。
「さて、これから忙しくなりそうだ」
「やれやれ、実業家から殺されるかもしれませんよ?」
「フハハッ、やれるものならやってみるが良いさ」
マルガリーテスは不敵な笑みを浮かべてこれから自分のすることに覚悟を示す。
「私たちは貴重なロケット技師の一人だ。そんな研究者達が一斉に謀反を起こした場合の向こうの反応が楽しみで仕方ない」
「やってることはほぼ企業テロみたいなもんですけどね」
軽く笑ってルシエルはマルガリーテス達の行う研究者達の叛逆を想像する。
今回発射されるゴダート・ロケットの今まで積み上げてきた研究資料を全て公開しようと画策している彼女達。
「どれだけ企業がパクろうとも、このロケットを最初に飛ばしたのは我々だ。こうして打ち上がった以上、我々の名はこの世界の歴史に刻まれるのは変わらないのだ」
そう言って高笑いをする彼女、その顔はとても満足げであった。
「ええ、そうですね…貴女達は偉大な人たちです」
ルシエルも、打ち上がったロケットを前にマルガリーテスに頷いた。
これほどの質量のものが打ち上がったという事実は、未来永劫語り継がれることとなる。特に宇宙技術の多くを失ったこのトラオムの世界では、彼らは英雄であった。
「さぁ、英雄を凱旋するためのカボチャの馬車が下で待っていますよ」
「うむ、それは楽しみだ」
マルガリーテスはそう言って山道を上がって下ると、山道の片隅に一台のバイクが止まっていたのをみる。
「バイクか」
そこで山道に停まっていた一台のアメリカンスタイルのバイクを見てマルガリーテスは言うと、ルシエルは聞く。
「乗って行きますか?」
「あぁ、送ってくれるのか?」
「勿論」
ルシエルは言うと、後部座席にマルガリーテスは座る。
「これから君はどうするんだ?」
そして座ると、そこで同じくバイクにまたがるルシエルに聞いた。
「そうですね…」
質問をされた彼女はそこで止まっていたバイクのエンジンを軽く確認する。
「私は運び屋ですから。すぐに新しい街に出ますよ」
そう言うとルシエルはエンジンをかけて今まで静かであった山道にエンジンの轟音を轟かせた。
ある日、朝の教室に優しい風が吹きつけた。
教室には数名の生徒達がおり、それぞれ談笑をしていた。全員が半袖の制服を着ており、窓から見える空には大きな入道雲が浮かんでいた。
「なぁ、ロケットが打ち上がったってよ!」
「でも途中で失敗して自爆したんだろ?」
そんな中であるネットニュースを見ながら二人の制服を着る子供達は言い合う。
「失敗して何の意味があったんだよ」
「何だよ〜、カッコいいじゃねえかよ〜」
そのネットニュースには打ち上げには成功したものの、その後の人工衛星の周回軌道投入に失敗した趣旨の記事が記されていた。
「せっかく作った人が公開した設計図も手に入ったんだしさ。俺たちで打ち上げてみようぜ〜?」
「できるわけねえだろ。どんだけ金がかかるんだよ」
二人はそんなニュースの話をしていると、学校のチャイムが教室に鳴り響いた。
「げっ、もうこんな時間かよ」
「急げ!授業に遅れたらまた叱られちまう!」
そう言い、二人の生徒は慌てた様子で走り去ってしまった。
その話に聞き耳を立てていたその生徒は、開いていた『月世界旅行』をパタンと閉じて窓の外を見る。
窓の外では珍しく、一本の細い飛行機雲が線を引いていた。
「ロケットか…」
その青年は淡くエーテルの輝く青々とした空を見て、つぶやいた。
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