TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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今回のモデルとなった街の描写に関しては、五年前のものですので今とは全然違う可能性がございます。


#325

「…」

 

その時、ジェローム・サックスは乗っていた特急列車(キハ85)の車内で黄昏ていた。

長い事旅に出ており、数年の規模で彼はトラオムを時計回りに旅をしていた。

プルマン客車や長距離の大陸横断列車をあえて利用しない、ゆったりとした旅路。

 

「悪くないものだな…」

 

傭兵を辞めてはや十二年。傭兵ギルドの初代ギルド長も辞して久しいこの日、彼は星大陸を超えて押川大陸に入っていた。

 

『間も無く…』

 

特徴的な高音のワイドビューチャイムの後に自動放送が流れると、彼は長年使ってきた旅行鞄を荷物棚から取って通路に出る。

列車は分岐点を通過し、その度に車内は揺れて通過時の音が車内に響く。

 

「…」

 

喫煙所が駅にしか最近の流行りでないため、内心不満に思いながらもジェロームはドアの前で待つ。この時間が個人的には旅の目的地に到着する感じがあって好きであった。

場所は少し田舎の駅で、名物はラーメンであると言う。

 

「はぁ…」

 

列車を降りた彼はそこでまず初めに構内の喫煙所を探して煙草に火をつける。駅はここの地域では比較的大きなハブ駅であるため、乗降客は多かった。

電光掲示板では多くの列車が出入りをし、引き込み線には列車が進入して行く。

少々古臭さを感じつつもモダンな雰囲気を感じる長いコンコースを渡って駅前のロータリーを見る。

 

「乗り換えにはまだ時間があるか…」

 

ジェロームはそこで腕時計を見て時間があることを確認すると軽く観光をしようと思った。

付近は一般的な街並みであるが、少し裏道を歩くとそこには古い木造建築物が建ち並ぶ景色が広がっていた。いわゆる古い街並みである。

 

「名物はラーメンか…」

 

検索デバイスでこの街の名物を検索した後に近くにあった名物ラーメンを売っている店に向かう。

その場所は駅から少し離れていたものの、街並みの中に看板と旗が立っており、ラーメンを目当てに店に入る。

 

「いらっしゃいませー」

 

軽く棒読みで店員がやってくると、そこで彼は普通のラーメンを注文する。

 

そして出てきたラーメンは細いちぢれ麺を使い、醤油ベースのスープに入っており、刻んだネギにチャーシュー、半分に切った煮卵が二つとオーソドックスながらも懐かしさを感じさせる盛り付け。そこに白米と二切れの漬物が添えられる。

いっそ懐かしさしか感じられない構成を前にジェロームは割り箸を手に取る。

 

「いただきます」

 

パキッと箸を割ってからラーメンを啜り始める。

 

「ズズッ」

 

細いちぢれ麺のおかげでラーメン自体はとても食べやすい。ラーメン自体はかなりオーソドックスで食べやすいため、箸は止まりにくい。

途中でネギを絡めながら啜ると、ネギのシャキッとした食感がスープの油と絡まっているのでネギの辛味と合わさって食べやすい。

 

そして麺が食べやすいので最初にラーメンの中でも麺が消えてしまう。

ジェロームはそこで付け合わせの白米とスープを交互に食べ、付け合わせの漬物も頂く。醤油ベースのスープの油が白米と合わさり、熱々の白米が華やかな味わいになる。

 

「はぁ…ごちそうさま」

 

ラーメンを食べ終え、そこで満足したジェロームは代金を支払ってから店を後にする。

 

 

 

店を後にすると、そこで彼は満腹感を抑え込むために近くの散歩を行う。

幸いにも店の近くには公園が存在し、そこのベンチで休憩をしようと思っていた。

 

「?」

 

そしてジェロームが公園に入った時、そこには屋根で覆われた二両の鉄道車両が屋外の静態保存をされていたことに気がついた。

 

「あぁ、鉄道公園だったのか…」

 

市が整備した公園に保存されていたのは水冷エーテル機関車(9600形)の『19648』号機と単線用ラッセル式雪かき車(キ100)の『キ132』号車だった。

 

「…」

 

二両の鉄道車両を前にジェロームは静かにその巨躯を見上げる。

おそらく長年の酷使をされ続けてきたことで、機体が限界を迎えたのだろう。ここで中身の重要な部品を取った後にここに保存されていた。

 

「丁寧な保全がされている…」

 

機関車の運転室には入れないが、機関車の側は清掃がされた痕跡があり、エーテル機関車の解説をする看板も置かれている。

清掃された直後のおかげか、機関車自体は綺麗に整えられ、塗装も上から塗られていた。

 

「隣は除雪車か…」

 

そしてジロジロとエーテル機関車を見た後、隣に同様に静態保存されていた雪かき車を見る。今でも現役の雪かき車であり、降雪地域には必ずと言っていいほど配備されている雪かき車で、機関車とは別で稼働が可能。単純な構造な故に多くの車両が同じ型の車両で交代するという事例もあった。

この辺りは降雪地域でもあり、冬場になれば除雪用機関車が出動をしていると言う。

 

「…」

 

エーテル機関車と雪かき車を観察しながらジェロームはそこで観察をしながら煙草に火を付ける。

食後の一服を軽く済ませると、吸い殻を片付けてから彼は公園を後にした。

 

 

 

街の近くは完全に観光地化しており、噂によると地元テレビの定点観察カメラが置かれていると言う場所に向かおうと思った。

 

「いらっしゃ〜い!」

 

そこでは多くの観光客が出歩いており、揚げ棒や練り物が飛ぶように売れているのを見て苦笑しながら観光地の名物の『早蕨』を購入する。

 

「早蕨を一つ」

「はーい」

 

プラスチックの容器に入っているのは、名前的にもこの地のわらび餅かと推察をしながら一つを手に取る。

容器には早蕨の中に黒糖ときな粉がすでに入れられ、割り箸も入っているのですぐに食べられるようになっていた。

 

「冷蔵庫には入れないでくださいね?」

 

そう注意を受けて早蕨を受け取ると、ジェロームはその容器をそのまま店を出た後、立ったまま容器を開けて中の早蕨に黒糖をかけてから切り分けて黒糖と絡める。

 

「美味そうだ…」

 

そこで早速切り分けた一欠片を口に運ぶと、その瞬間に早蕨は舌の上で溶けてしまった。

 

「っ!」

 

黒糖をかけただけでこの美味さ。と言う事実にジェロームは少し驚きながらきな粉をかけて再度口に運ぶ。

わらび餅のような柔らかい食感だが、割り箸で掴んで食べると、舌の上で溶けて消えてしまう。

 

「緑茶が欲しくなる味わいだ…」

 

近くの河辺の前で座って彼は早蕨を食べると、目の前の水の豪快に流れる音を聴く。

この地域の今の季節は冬。寒さでよく冷えた風が肌身に染みるが、この早蕨の美味さは季節を問わずに美味かった。

早速ジェロームは近くの自販機で売られていた緑茶のペットボトルを購入する。

 

「はぁ…」

 

そして河辺のコンクリートの上に座ってジェロームは早蕨を食べながら、完全サイボーグ化しなくてよかったとつくづく実感していた。

現在、戦闘中の負傷が原因で両腕をサイボーグ化しているジェロームだが、傭兵をしていた頃にとある企業に完全サイボーグ化を勧められたことがあった。

確かに全身のサイボーグ化により、極限まで肉体の反応速度を上げることが可能となるが、完全サイボーグ化をした後はこうした食事は栄養剤という形に置き換えられる必要に迫られ、三大欲求の一つが失われることとなってしまう。

また完全サイボーグは戦場においては一発の銃弾で戦闘不能に陥ってしまうので、傭兵をしている身からすればそれほど必要とされない技術であった。

今でこそサイボーグから通常の肉体に戻せる技術も開発されているが、それができなかった時代があったと思うと少しゾッとしてしまう。

 

自分の孤児院の育て子の一人が完全サイボーグとなって、ついこの前結婚をして子供までもうけた話を知った時は仰天をしてしまったものだが、同時に時の流れを感じて少し悲しくなってしまった。

 

「自然主義者ほどでは無いが、やはり人は人らしくあるべきだな…」

 

ジェロームは最近流行りの緑林教の信者ではないが、自然主義寄りの考えを持つ人間であった。

 

そして早蕨を全て食べ終えると、そこで赤い橋を渡って近くの通りを歩く。

多くの飲食店が並ぶ中、ジェロームは再び甘味目当てにある茶屋に入る。店は古風な内装で、木が大量に使われていた。

 

「お待たせしました。白玉ぜんざいです」

 

そして注文した白玉ぜんざい。緑茶に温かいぜんざいが入っており、特徴的なのはそこに梅干しが添えられていたことである。

口直し用のものかと思いながらもスプーンを手に取って五つ浮かんでいる白玉をぜんざいと共に一口。温かいぜんざいともっちりとした白玉が良い食感と共にするすると食が進んでしまう。

 

「ふぅ…」

 

甘いぜんざいと合わせて添えられた梅干しを少し取ると、梅干しのしょっぱさが良いアクセントとなってさらにぜんざいが進んでしまう。

梅干しはそれほど濃い味でも無いので緑茶ともよく合い、ぜんざいをさらに食べやすくしてしまう。まるで魔法かとも思ってしまうが、ぜんざいは至って普通である。

 

「美味い…」

 

白玉そのものが出来立てということでとても食べ応えのある食感であり、何度も噛んでから飲み込む。甘すぎることもないのでぜんざいの甘さを殺していないのがまたよかった。

 

「ご馳走様でした」

 

ぜんざいを最後の一滴までしっかりと食べ終えたジェロームは、そこでも再度会計を済ませると店を後にした。

 

「はぁ、かなり食ったな…」

 

そして満足げにジェロームは駅に戻って行った。

 

 

 

 

 

駅に戻り、しばらくホームで待っていると、遠くで汽笛の音色が鳴り響いた。

 

「来たか…」

 

その汽笛を聴き、ジェロームは持っていたチケットを持って目の前の列車を見る。

水冷エーテル機関車(D51形)が白煙を濛々とあげながらホームに進入をしてくる。その背後には多数のオハ35を連結しており、時間通りの列車であった。

 

ッーーーー!

 

汽笛を鳴らして駅に進入をしてきたその列車は停止位置でしっかりと止まると、ジェロームは切符を持ったままオハ35に乗り込む。

列車は幸いにも始発だったからか人が疎らで、席は開いていた。

 

「…」

 

そしてジェロームが乗った直後に列車は汽笛を上げると、ゆっくりと前進を開始。ガタンと音を立てた後にゆっくりと走り出すと、列車は駅を後に単線の路線を走り出した。




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