TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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まさか国が堂々と国家元首を拉致をする時代とは…。


#326

乗り換えでD51の牽引するオハ35の車内でジェロームは上の網棚に荷物を預けて席に座る。

十両以上の編成で組まれた列車の車内で彼は窓辺の座席に座っていた。

 

「…」

 

先ほど、ラーメン・早蕨・白玉ぜんざいを食べ終えたばかりで、少々それが胃袋に堪えたことから年を感じざるを得なかった。

まだアンジョラとの結婚も待っている今、披露宴の食事で胃もたれを起こすわけにはいかなかった。

 

「いかんな…胃もたれを起こしそうだ」

 

ジェロームは先ほどの三つの食事で胃もたれを起こす肉体の老化を感じる現象を前に少しサイボーグの胃袋を思い出してしまう。

しかし両腕以外のサイボーグ化を未だ考えていないジェロームはそこで自分の中で浮かんできた考えを即座に放棄させる。

 

「年?いや、それは無いか…」

 

そこで彼はここ数年で起こった事象を振り返る。

 

傭兵ギルド創設がひと段落してからというもの、自分は軍警察に逮捕・勾留され、最高裁判所に移動しての裁判を迎え、そこで執行猶予付きの判決を受ける。

その後、旅を続けてその道中で列車強盗の襲撃を撃退し、孤児でスリの娘と出会して事件を解決したり、その後に孤児院で育った子が結婚をしたからと結婚式に呼ばれて一時旅行を止める羽目になったりしていた。

 

「…なんだかなぁ」

 

この波乱万丈とも言うべきか、破天荒な今までの人生経験を前にジェロームは思わず苦笑してしまう。

自分も傭兵ギルドを創設するまでの経緯を記した本を書いてほしいと頼まれたので、その通りの文書を書いて出版をする事となった。

その他にもいくつかの報道機関からインタビューの依頼を受けてきたが、それらを全て断っていた。理由は簡単で、自分の行き先を知られると厄介であるから。

 

現在、ある場所に向かって旅を続けているジェロームであったが、その過程は多くの無駄を作っていた。

別に行こうと思えば一週間もあれば行って帰ってくることができたが、彼はそこであえて鉄道のみの旅。しかもできるだけ普通列車を使った旅をしていた。

 

「まぁ、楽しかった旅ではあるが…」

 

ジェロームはそこで今までのこの旅路を思い出して少しフッと笑ってしまう。

色々と波乱万丈な旅であったが、傭兵の時のような高揚感をオートマトンも無しに感じれたと言う特別な経験が彼の中で渦巻いていた。

現在、ジェロームは目的地に向かう最後の列車に乗り込んでおり、この列車が向かう途中の駅が今回の旅の目的地であった。

 

「…もうそれも終わるか」

 

太陽の落ちる地平線を窓から眺めながらジェロームは先ほどの三食で満腹となった眠気から瞼をゆっくりと落として仮眠をとった。

窓の外では先頭の機関車が盛大に白煙を吐き出しながら主連棒を回してぶどう色で塗装された長い客車を牽引していた。

 

 

 

 

 

トントン

 

「…?」

 

そして眠っていたジェロームは軽く肩を二回叩かれたのを認識した。

すぐさま自分が叩かれていると言うのを認識した彼は、そこで一瞬で目がぱっちりと目覚める。一発でも銃声がすると戦闘体制に移行していた傭兵時代の名残で身につけた特技であった。

 

「?」

 

ジェロームはそこで誰が自分を起こしたのかと首を傾げて辺りを見回すと、そこには数名の乗客がいるだけで他に人は見当たらない。ましてや自分の周囲に人がいつような雰囲気が感じ取れなかった。

 

「こっちですよ」

「っ!?」

 

その時、背後から声をかけられて反射的に警戒した表情で振り向くと、そこでは自分と向かい座席に座る一人の女性がいた。

その女性は白い肌に厚手のフェルト製コートを羽織った黒髪長髪の女性であった。ジェロームはその女性から感じ取れる不思議な魅力に警戒をして自分の脇のホルスターに入れた拳銃の所在の確認をしてしまう。

 

「ふふっ、ごめんなさい。ここに座る予定でしたので」

「あっ、あぁ…そう言うことでしたか」

 

そこでジェロームは彼女が向かい座席に座ってきた理由を察して警戒を少し緩めた。何せ背中から突然現れて話しかけてきたので、今までの傭兵として生きてきた経験でそれは襲撃の可能性も考慮しなければならなかったのだ。

しかし見る限りでは、目の前の女性は非交戦的な眼差しであり、警戒した様子もない足の置き方をしていた。

外を見ると完全に世間は一寸先は闇といった状態で何も見えなかった。だが状況からして、自分とは別の駅で乗ってきた乗客なのだろう。

 

他に座席は空いているものの、彼女は一人で乗り込んだのだろう。近くに信用できそうな男性をおいて自分の身を守ろうと言う手段は今までジェローム自身経験してきた身であった。そう言った人曰く、『貴方は見るからに優しそうな人だから』だそうだ。見るだけで信用してくれるのはありがたいが、下手な問題に巻き込まないでほしいものだと内心では思っていた。

 

「失礼。少し警戒をしてしまったようで」

「いえいえ、昔から影は薄い人間でしたので…ハハハ」

 

その女性は自分の対して敵対的ではないと判断して握りかけた拳銃から意識を逸らすと、そこで女性に謝った。すると女性の方も自分の影の薄さを理由に気にしていないと言って答えた。

 

「はぁ…」

 

そして乾いた笑い声を少し出した後、その女性は言った。

 

「影が薄いものですから、時折こう言うことにもなってしまうのですよね…」

 

そして自分の影が薄いことにため息を漏らしてしまう。どうやら彼女は昔から同様の問題に悩まされてきたようだ。

 

「大変ですね」

 

ジェロームもそんな目の前の女性の悩みについて適当な返答をすると、彼女はそこで聞いてきた。

 

「失礼ながら…お名前をお聞きしても」

「あぁ、私はジェローム・サックスと申します」

「ジェロームさんですね?初めまして」

 

その女性はジェロームの名前を聞いて彼も女性の名を聞く。

 

「失礼、私も貴女のお名前を伺っても?」

「安倍葛葉と申します」

「葛葉さんですね?初めまして」

 

女性こと葛葉はジェロームと軽く挨拶をかわしてお互いの名を知る。彼女はジェロームを見て聞いてくる。

 

「どうでしょう?これも何かの縁ですので、お食事でも行きませんか?」

「食事…ですか」

 

ジェロームはそこで彼女との食事を提案され、この列車に食堂車があったかと首を傾げるも、葛葉は席を立ってしまう。

 

「どうしますか?」

「…分かりました。行きましょうか」

 

ジェロームはそこで葛葉の提案に乗ると、網棚の上の鞄を持って葛葉と同様に席を立つ。

 

「食堂車はどちらに?」

「こっちです。先ほど見てきましたので」

 

そう言い彼女はジェロームを案内すると、二人は列車を移動する。この列車は十両以上が連結されており、その中には食堂車のオハシ30も連結されていた。食堂車の奥には寝台車のマロネ40も連結され、木目調の薄暗い雰囲気を醸し出していた。

 

「メニューは何がありますかね?」

「さぁ、できれば軽めのものが私としては嬉しいのですが…」

 

昼間にラーメン・早蕨・ぜんざいを食べたジェロームは、まだそれの残響が腹に残っているので夜は軽いものが良いと思っていた。

 

二人は食堂車の三等座席区画を抜けて食堂車に入ると、そこでは誰もいない静かな食堂車が出迎えてくれた。

普段なら人気で予約制であることもある食堂車だが、この列車の場合は設備が古い影響か人気がないようで、予約なしで座席に着くことができた。

奥の調理室では、何か鍋を振っているような音が聞こえるので営業はしているようだった。

 

「よかった。お店はやっているみたいですね」

「ええ、そのようですね」

 

そこで席についてメニュー表を広げるとそこにはいくつかのメニューが並んでおり、そこで水を置きにきたアンドロイドが話しかけてきた。

 

「ご注文の品はお決まりでしょうか?」

 

その質問に葛葉はすぐにメニューを見て少し慌てたようにその中の一つを選ぶ。

 

「あっ、じゃあ私はこのシチューで」

「私はサンドウィッチを頼む」

 

注文を入れると、アンドロイドは音声認識で記録して了承をすると二人の前を後にした。

 

「ふぅ、よかったですね。食堂車が空いていて」

「ええ、そうですね」

 

そんな葛葉の言葉に、ジェロームは一抹の不安を覚えていた。

大体の列車というのは、食堂車に多くの利用者が詰めかけている。それなのにこれほど空いているということは、食堂車に人気がないわけであり、それはつまり何かしらサービスに問題があると言う事になる。

 

「(彼女はこう言うのに慣れていないのか?)」

 

ジェロームは葛葉を見て少し首を傾げる。

彼女はこの食堂車の静けさを前に安堵した様子をしていたので、食堂車云々の一般常識は身につけているのか?と推察をする。

 

「葛葉さん、こう言う旅は初めてなんですか?」

「ああいえ、そう言うわけではないのですが…」

 

ジェロームに聞かれた葛葉はそこで軽く首を横に振る。

 

「なにせ久しぶりに列車に乗ったものでして」

「あぁ、なるほど…」

 

ジェロームはそこで葛葉の話に軽く頷いて察する。

彼女は久しぶりに列車旅に出たと言う事なのだろう。彼女は結婚した証である薬指の指輪をしており、余人が手を出そうとすると恐ろしい事になるのは間違いなしであった。

 

「今回は近場へのご旅行とかで?」

 

ジェロームはそこで何も荷物を持ち合わせていない葛葉に聞くと、彼女は少し恥ずかしげにしながら頷いた。

 

「えぇ…お恥ずかしながら、着の身着のままに家を出てきてしまった身でして…」

「それは…」

 

葛葉は家を抜け出して出てきたと言ってジェロームは彼女の言い分が真実であると把握する。

彼女は諸事情で家出をしたのだろう、それが夫婦喧嘩によるものなのか突発的なものなのかはさておき…。

 

「車掌に事情を説明しましょうか?」

「ああいや、少し乗ったらすぐに帰るつもりですので…」

 

嘘だな、と今までの経験からジェロームは葛葉を見る。目の前に座る女性は今のところ、家に帰ろうとは思っていない。理由として、僅かに顔の表情が強張っていたからだ。

 

「そうですか。なら早めにご帰宅される事をお勧めしますよ」

 

ジェロームはそう言うと出された水を飲んだ。

水は特に臭みも苦味も感じられず、問題はなかった。




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  • 神になりたい子
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