TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#328

「は…?」

 

その黒い影を前にジェロームは変な声が漏れてしまう。黒い毛むくじゃらなその奇怪な生物は四つ足であるにも関わらず視線がジェロームよりも少し低い程度の体高であり、放った拳銃弾を物ともしていなかった。

狼のようで、狐のようでもある。何とも言えない不気味さがそこにはあった。

 

「なっ…」

 

確実に命中したはずの拳銃弾を物ともしない目の前の異形の生物を前に困惑気味に呆然と立っていると、

 

「伏せて!」

 

後ろからの声と共に反射的に気配を感じて頭を下げると、その直後に葛葉が持っていた水晶球を片手にパチパチと音を立てて葛葉が目の前の異形に向かって火焔を放った。

 

「うおっ!?」

 

突然目の前が真っ赤な炎に包まれたことでジェロームは驚きの声を上げながら頭を抱える。炎の熱気が直接襲ってくるので火傷に警戒をし、また炎の光で目を潰されないようにするために炎から目を即座に離した。

 

「ッーーー!!」

 

そして炎を受けた異形は悲鳴のような、荷物室に震える声を木霊させた後に倒れ込んだ。

 

「…」

 

そして先ほど前燃え盛っていた炎が何もなかったように消え、目の前の異形は倒れた。

 

「し、死んだのか?」

「いいえ。まだ生きています」

 

目の前の倒れた異形の体を前に葛葉が断言すると、ジェロームはこの異形によって傷つけられた自分の鞄を見た後に拳銃の銃口を向けた。

 

「じゃあ、確実に始末しないとまずいだろ」

 

彼はそういうと、異形の頭に向けて銃を放つ。8mmの拳銃弾では威力不足だが、何発も至近距離で撃ち込めば問題ないだろうと判断していた。大半の動物は脳を撃たれたら死亡するが、目の前の異形はどうだろうかと不安になる。

取り敢えず銃を撃ち切ったので新しい弾倉と交換を行い、薬室に弾を装填する。

 

「畜生、どう言うことだ?」

 

ジェロームはそこで目の前の異形の怪物を前に困惑をする。

突如として添乗員が消え、荷物室にはこうして異形が倒れ、奥を見てみるとそこには何もない。咀嚼音がしていたので確実に咀嚼された何かがいるはずだと言うのに、それが見当たらず血痕の一つも見当たらない。

 

「意味が分からない」

 

いっその事、食い散らかされた添乗員でもいてくれれば目の前の異形が原因だとわかるのに、とジェロームは毒吐いてから葛葉を見る。

 

「葛葉さん。貴女、これの正体を知っているのですか?」

 

ジェロームはそう言って荷物室の入り口で、神妙な顔つきで異形を見下ろしていた葛葉に聞く。彼女はこの異形を見て死んでいないと断言しており、これを知っているかのような口調をしていた。

 

「まぁ…それほど詳しくはありませんが」

 

彼女はすんなりとこれの事を知っていると認めると、その表情には困惑の色があった。つまり、彼女もこの事態は想定外であったと言う事だろう。

 

「こいつは何です?」

「名前は知りませんが…物怪のようなモノですよ?」

「なぜそこで疑問形になるのかお聞きしたいところですが…」

 

ジェロームはそこで持っていた鞄についてしまった巨大な切り傷を見て荷物室を出る。

 

「急いで前に戻りましょう。何か良くないことが起こっている気がします」

「そうですね」

 

ジェロームの意見に葛葉は頷いた。

現在、列車の最後方にいる二人。荷物室でのこの明らかな異常現象を前に困惑気味になりながらも、最前方の機関車に向かった方が良いと反射的に思っていた。列車が運行していると言うことは確実に機関車に人がいなければ運転できないため、そこには人が居る。

そして二人が移動をしようとした時、

 

ッ!!ッ!!ッ!!ッ!!ッ!!ッーーー!!

 

突如、短い汽笛が五回、長い汽笛が一回、列車に鳴り響いた。

 

「この汽笛…!」

「ええ、危険信号ですよ」

 

日常から鉄道に接してきたトラオムの住人からすれば、半ば義務教育のような物である汽笛信号。列車のこの間隔の汽笛は危険を周囲に知らせるための合図であった。

 

「くそっ、急がないと…」

 

ジェロームはこの汽笛を耳にして本格的に列車がまずいことになっていると意識を切り替えると、列車を走りだす。葛葉もそれに追随して列車のもと来た道を戻って走り出すと、先ほど歩いた三等寝台車を走り出す。

 

「っ!」

 

そして走って戻る途中、ジェロームは先ほどまでカーテンが閉じられていた三段ベッドの隙間から黒い触手のようなものが飛び出るのを見ると、それに警戒して持っていた拳銃の引き金を躊躇なく発砲した。

 

ッ!?

 

拳銃弾を撃ち込まれたその触手は弾け飛ぶように撃ち込まれた場所が爆発すると、その返り血がジェロームに覆った鞄に少々降りかかった。

 

「くそっ!いきなり何が起こった…!?」

 

ジェロームはそこで今までに起こった不可解な現象を振り返る。

まず食堂車から添乗員が消え、その後最後尾の車掌室まで移動しても添乗員の姿は一人も見当たらなかった。

そして荷物室では、中で何かを咀嚼中であった四つ足の異形の怪物を視認。頭部を破壊するほどまで撃ち込んだ。

その後に列車の非常事態を示す汽笛が鳴り響き、薄暗い車内から何もなかった寝台のベッドから謎の黒い触手。

 

「どこかのホラー映画か?ふざけやがって…」

 

だが映画という割にはCGでもないしカメラも見当たらない。誰かの悪戯かと思うなら明らかに規模がデカすぎる。

そして窓の外は常闇であり、何も景色は映っていない。

 

「っ!しまっ…」

 

その時、足元にも先ほどの触手と同等の黒い液体状のようなものがわずかに彼の革靴と接していることに気がついた。

 

「動かないでください!」

 

それを見た葛葉はすぐに持っていた水晶球を持って異能である火焔を放った。

 

「っ!!」

 

一瞬、自分まで焼却されるかと思ったジェロームだったが、葛葉は見事なまでに黒い液体のみを滅却した。

 

「急ぎましょう。少し面倒そうです」

「ええ、全くですよ」

 

ジェロームもそこで狭い寝台車の通路を走って前方の車両に移動する。

 

「ぬあぁあぁぁ…」

「っ?!」

 

そして寝台車のトイレの扉が開くと、そこから目のない身体中が干からびた古着を纏った死体が現れた。

 

「ゾンビ?!」

 

目の前の死体は外骨格装甲服を着ているわけでもないのに倒れ込むように襲いかかってきており、ジェロームは驚愕しながらそのゾンビに鞄の角で叩きつけた後に持っていた拳銃を発砲した。

 

「本当にパニック映画かよ…」

 

目の前の不可解な事象を前に困惑気味にジェロームは次の車両に移動する。車両の前後に一つずつあるトイレに警戒しながらジェローム達は列車を走る。

 

「っ?!」

 

しかし次の列車の扉を開けた瞬間、目の前には無数の真っ黒な液体が地面に垂れているのを見た。

後ろにも同様の景色が広がり、その奥から唸り声が聞こえた。

 

「嘘だろ…?」

 

その聞き覚えのある声にジェロームは途端に顔を青くすると、

 

「こっちです!」

 

そこで葛葉が手招きをして先ほどの返事の無かった二等寝台車の給仕室にジェロームを呼び寄せ、それにジェロームはすぐに部屋に入る。葛葉はジェロームが入ったのを確認すると勢いよく扉を閉めて直後に部屋に鍵をかけた。

 

「「はぁ…」」

 

そして狭い部屋の中で二人は安堵してそこで大きめのため息をついてしまう。

 

「た、助かりました…」

「たまたま開いていたのが幸いでしたね…」

 

葛葉は給仕室が誰もいない上に鍵が空いていたことに気が付いてジェロームを中に入れると、一時的ではあるが安全な空間を作り出していた。

 

「はぁ…いったい何が起こっているんだ」

 

給仕室の中でジェロームは困惑気味に今列車内で起こっている現象に首を傾げる。

 

「エーテルの影響でしょうか?」

「…聞かないでくれ。そこら辺は専門外なんだ」

 

ジェロームはそう言うと、葛葉は何かに気が付いたように漏らす。

 

「あっ、ジェロームさん」

 

そこで給仕室の中で彼女は壁に立てかけられた銃を見る。

 

「これは…」

 

ジェロームはその騎兵銃(三八式騎銃)を手に取る。列車の自衛用に置かれていた銃であるのだろう、その銃は部屋に自衛用として小銃弾も置かれていた。

 

「…ゲームかよ」

 

ジェロームはどことなくご都合主義が働いているような気がしたが、今がよくわからない緊急事態である為ありがたく小銃を借りて弾薬盒を受け取る。

弾薬盒には五発入り挿弾子が十五個入った六〇発が入っていた。

 

「…」

 

ジェロームはそこで自分の傷つけられた鞄を見る。

今まで使ってきた長い付き合いのある鞄であったが、鋭い四本の引っ掻き傷で中身の複合装甲が剥き出しになっていた。

 

「…まだ使えるか」

 

ジェロームはこの電磁加速された小銃弾ですら防ぐことのできる装甲を有した鞄の状態を確認した後に小銃を片手に鞄を持つ。

この銃はボルトアクション方式で両手でなければ使えないが、やりようはあった。

 

「どうします?このまま先頭車に向かいますか?」

 

葛葉が聞いてきたので、ジェロームはそれに頷くとそこで彼は小銃を片手に持つ。

こう言う時、サイボーグ化のおかげで少しの重量物であれば缶ジュースを持つように簡単に運べるのがありがたかった。

 

「そうですね。このまま先頭車に行くことをまずは目標にしましょうか」

 

そこで明確な目標を設定した彼は葛葉と目的の調整と確認を行うと、そこで片手に小銃、片手に防弾機能付きの鞄を持った状態で給仕室で装備の確認を行う。

 

「今更ですが、これはあなたが持たなくてよろしいのですか?」

 

ジェロームはそこで何も武器らしい武器を持っていない葛葉に聞くが、彼女は首を横に振った。

 

「私が持ったところで当たるとは思いませんので、これがあれば十分です」

「…随分と肝が据わった奥さんだ」

 

水晶球を持って自信ありげに答えた彼女にジェロームはそう感想を口にすると、外に似るかもしれない先ほどの唸り声を上げた正体を前に警戒をしながらドアノブを握る。

 

「…良いですか?」

「いつでも構いません」

 

葛葉の確認を取ると、ジェロームはそこで引き戸を思い切り開けて銃口をそのまま列車の通路に向けた。

 

「…」

 

列車の外を見ると、そこは先ほどまでの黒い液体が一切消えており、静寂が場を支配していた。

 

「…」

 

しかし先ほどのことがあった為、警戒しながら進んでいると

 

「撃てぇ!」

 

直後に自分のいたデッキに向けて号令が飛んできてジェロームは銃撃を受けた。




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  • 世界最大の武器工場
  • 神になりたい子
  • 動物愛護
  • 代理戦争
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