「は?ちょっ…!?」
デッキで銃撃を受けたジェロームは咄嗟に葛葉を庇うように隠れると、ジェロームは銃撃を受けて慌てて隠れる。
「う、撃つな!」
そして聞こえる銃声と銃弾が掠める音を前に彼は銃弾が掠めた時の火花を見ながら手を出して手を慌てて振って言う。
銃撃をしてきたのは列車に乗っていた武装警備員かと思い、ようやく添乗員に会えたと言う安堵があった。
「撃つな!俺は人だ!」
ジェロームはそう叫ぶと、少しして銃声が止んだ。
「ん?貴様、人か?!」
「そうだ!」
食堂車の影に隠れてジェロームは答えると、そこで発砲をしてきた人は数名で組んでいるようだった。
「射撃止め!」
そして指揮官と思わしき人物が指示を出すと、食堂車は静かになった。
そして銃声が静かになった頃、調理室横の狭い通路で隠れていたジェロームに声がかけられる。
「なら両手をあげて出てこい!」
男の声が聞こえると、ジェロームは持っていた小銃と鞄を地面に置いてから恐る恐る食堂に出る。
「む、貴様。外国人か」
そこでは数名の兵士が
頭には赤いラインと星が特徴的なチェッコ式軍帽を被り、高い全周襟に国防色の軍服を身に纏った兵士で、それはあまりにも古典的な衣装であった。
「外国人?」
ジェロームは聞きなれない呼ばれ方に首を傾げたが、後ろから葛葉が囁いた。
「ここは合わせたほうがいいかもしれません」
「…そうだな」
小声で口裏合わせを行うと、葛葉がジェロームの背中から現れた。
「あの、軍人さん」
「ん?貴様は?」
「あ、安倍葛葉と申します」
葛葉は名乗りを上げて頭を下げると、その整えられた口髭をつけた兵士はジェロームを見て質問をしてくる。
「外国人、日本語は分かるか?」
「…まぁ、はい」
普段から話している言語で話しかけられているので分かるも何も…と言った具合であったが、ジェロームは目の前の軍人らしい人物に話す。
するとジェロームの金髪碧眼、高身長の姿を前にその軍人は安堵した様子でジェロームと話す。
「私は大日本帝国陸軍の笹中匡大尉である」
そこで彼は自らを大日本帝国陸軍と名乗っており、ジェロームの困惑をさらに進ませる。
少なくとも自分の知る限りで大日本帝国陸軍なんてパッと出てこないし、目の前の男性のような防弾チョッキを持っていない人がこんな場所で何をしているのかと思った。一瞬軍人の語りかと思ったが、持っている武器と雰囲気が軍警察と似たような所作を感じたのでおそらく間違いない。
首元の階級章は赤と黄色のラインが交互に縫われ、上に星が三つ縫い付けられていた。おそらくこれが大尉の階級章なのだろう。初めて見るが…。
「我々は諸事情でこの列車に搭乗している。そこで聞きたいのだが、諸君らはあの寝台車から来たのか?」
笹中は少し警戒するように聞いてきたので、ジェロームは誤解を解くのと下手な返答をしないように無難に今までに起こった現象を語った。
添乗員がいなかったので列車内を探し回った所、荷物車で変な四つ足の怪物に襲われ、途中で変な触手からも逃げ回っていた。そう真面目に答えると、目の前の軍人はジェロームの話を聞いて理解したように数回頷いた。
「ふむ…事情は理解した。君達も同様にあの怪物を見たと言うことか…」
「そう、なりますね。大尉殿」
ジェロームは軍警察陸軍での接し方と同じように答えると、随分と小さい身長の笹中を見る。
元々二メートル近い身長のジェロームからすれば全員の身長が低く見え、実際自分を見ていた他の兵士たちはジェロームの身長の大きさに唖然となっていた。
「ふむ。しかし外国人の割には随分と綺麗な日本語だ。聞きやすいな」
「…それはどうも」
ジェロームは目の前の笹中大尉や他の兵士たちを前にやや空返事で答えてしまうと、笹中は次に葛葉を見て質問をする。
「貴女はこの方と共に?」
「はい、この方に護衛を依頼しておりますので」
「…」
するりと嘘をついた彼女に、ジェロームはまだ夫婦と言われないだけマシかと思いながら彼女の話に合わせる。
「本当か?」
「はい。彼女に護衛の依頼をされました」
ジェロームも葛葉の話に合わせると、そこで笹中はジェロームの格好を見る。
彼は全身スーツ姿で、体格の大きさから確実に護衛として十分であり。また女性の方の身なりもよく、外国人を護衛として頼むのは違和感があったが、これほど流暢に日本語を話しているのだからと笹中は葛葉の言葉を信用した。
「そうか…」
笹中はジェロームと葛葉を交互に見た後、ジェロームに聞いた。
「失礼、貴方の名を聞かせてくれ」
「ジェローム・サックスと申します」
「ジェローム…」
そこで名前を覚えたのだろう、笹中大尉はジェロームに聞く。
「ジェロームさん、安倍さん。貴方方は安全のためにこちらに避難してください」
「わかりました」
「はい」
そこで二人は荷物を取って食堂車を移動しようとした。
「あっ、すみません」
ジェロームはそこで先ほどまで持っていた騎兵銃の事を言おうとしたが、
「待って」
銃のことを言いかけたジェロームを葛葉が止めさせた。
「銃は持っておきましょう。この後何かあっても困りますし」
「…そうですね」
ジェロームはそこで、自分の拳銃弾すら効いていない様子だったあの四つ足の怪物を前に葛葉の意見に頷くと、騎兵銃を持ったまま鞄を手に持つ。
「失礼、銃を持ったままで良いですか?」
「?なぜ民間人が小銃を?」
笹中はそこで片手に騎兵銃を持ったジェロームに首を傾げ、同時に警戒をした。
「いや、途中で転がっていましたので…」
ジェロームはこの銃を手に入れた経緯を少々ぼかしながら話した。
「ん?おかしいぞ?この先に一人も兵は行っていないはずだが…?」
笹中はジェロームの言葉に疑問符を浮かべ、少し警戒して腰から下ろした
「いや、え?」
ジェロームも困惑した様子で答えており、笹中もその顔を見て違和感を覚えた。その時、
ッーーー!!
狼の遠吠えのような、不気味な鳴き声が食堂車の奥から響いた。
「「っ!!」」
その声を聞き、二人の意識が食堂車の通路の奥に向けられる。
「早く、こっちに!」
「は、はい」
ジェロームはすぐに葛葉を背中に押し込むと、笹中は部下に指示を出す。
「総員構え!」
そこで一斉に彼らは持っていた小銃を握らせる。
「総員着剣!敵を近寄らせるな!」
指示を出すと、兵士たちは一斉に小銃の先に長い銃剣を取り付けて槍のように前方に突き出した。
笹中とジェロームは目線を合わせると、ジェロームは葛葉を押し込んで笹中の方に移動させる。
「…」
その動きを察知し、笹中は葛葉を自分たちの後方に下がらせた。
「…ジェロームだったか?」
そして一連の行動を見た笹中はジェロームに聞く。
「いくつか聞かせてくれ」
「はい?」
ジェロームはそこで笹中からいくつか質問をされる。
「銃の経験は?」
「…少々」
「軍には?」
「短いですがいました」
「その銃は使えるか?」
「問題ありません」
そこで安全装置を取ってボルトを握って軽く動作のフリをすると、笹中は満足したようで短く頷いた。
「よろしい。では君はこのまま後方に…」
笹中がそう言いかけた途中、食堂車の通路から足音が響いた。
「っ!き、来ました!大尉殿!」
「チッ、撃て!全力射撃だ!」
笹中が食堂車の通路を見てそこから見えた悍ましい影を見て号令を出すと、一斉に兵士たちが持っていた小銃の引き金を引いた。
ッ! ガシャ ッ! ガシャ ッ! ガシャ ッ! ガシャ ッ! ガシャ ッ! ガシャ
五発発砲した後に兵士は革製の弾薬盒から挿弾子を取り出して弾倉に押し込む。そしてボルトを前進させて挿弾子を弾くと薬室に銃弾を装填してから発砲をした。
「っ!」
ジェロームも反射的に銃を片手で撃った後に鞄を置いてからボルトを引いて薬莢を弾き出し、引き金を引く。
ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!
笹中も持っていた拳銃の引き金を引いて発射すると、狭い通路を通ろうとした四つ足の怪物は前進してくる。
「奴は拳銃弾では止まらないぞ!」
「何っ!?」
ジェロームは笹中の使っている武器や兵士たちの使っている武器に画像検索をかけて照会を行なってから笹中に忠告を入れる。彼の使っている拳銃の弾は自分の使っているものと同じ8mm南部弾であったので簡単な比較が可能であった。事実、拳銃弾を受けても四つ足の怪物は止まらなかった。
「っ!足と頭を狙え!」
笹中は指示を出すと、兵士達は一斉に足と頭を集中的に狙って発砲を行う。至近距離で発砲される小銃弾の威力のおかげで四つ足の怪物も少々怯んだ様子が窺えた。
その中にジェロームも含まれていたが、彼は数発発砲をした後に葛葉の方を見て彼女の元に近寄る。
「ジェロームさん。貴方は安倍さんを守るのが仕事だろう?」
「…すまない。頼みます」
笹中に言われ、ジェロームは新しい挿弾子を弾倉に装填をすると、そのまま葛葉を連れて食堂車を後にしようとした。
「…」
そして去り際、葛葉はパチンと小さく指を鳴らすと、彼女の異能が発動をして四つ足の怪物に真っ赤な炎が立ち上った。
「うおっ!?」
「何だ?!」
突然立ち上がった炎を前に歩兵達は驚いた後、悲鳴を上げつつも忽然と消えてしまった四つ足の怪物を前に唖然となっていた。
「大丈夫か?」
「あ、はい。こちらは何とも」
そして食堂車に静粛が戻ってくると、笹中は隣の三等客室に移動しかけていたジェローム達に話しかけてきた。
「ふぅ、二人が無事そうで何よりだ」
笹中は今の火焔が葛葉の仕業だとは露にも思っていないようで、あの四つ足の怪物が消えたことに安堵している様子だった。
「我々はこの先の駅で降車することになっている。この事は本部にも報告をするのだが、二人は今後の予定はどうなっている?」
ジェローム達は聞かれると、そこで二人は軽く目線を合わせた後に答える。
「私たちはこのまま乗る予定です」
葛葉が言うと、笹中は少し頷いた上で二人を見て了承した。
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