寝台車で謎の軍人集団と出くわしたジェロームであったが、三等客室に移動した。
「「…」」
食堂車に併設されていた三等客室には多くの国防色の軍服を纏った兵士たちが自分たちを見ていた。
「寝台車にいた乗客を保護した。このまま安全な区画に通せ」
笹中がそう言うと、一斉にその兵士達はジェローム達を通していく。
何処かの国の陸軍部隊である彼らはジェロームの巨躯を前に驚きながら見ており、内心見世物小屋にいるような気分でジェロームは貫通扉を抜ける。
オハ35が連結された列車には歩兵部隊が同乗しており、全員が先ほどの四つ足の怪物の対策のためか小銃を手に持っていた。
だが、槍のように長いその小銃ではこの車内では取り回しが悪いだろうと内心思っていた。
「ご苦労様です」
ジェロームは一言、オハシ30の三等客室を抜ける時に言うと、その言葉を聞いた彼らは驚いた表情でジェロームを見送った。
「なぁ、すげえ流暢な日本語だったな」
「俺、初めて見た。あんなでかい人がいるんだな」
「それだけ世界はでっけぇってことだ」
小銃を構えていた貧弱な装備の兵士達は口々にジェロームのことを言うと、デッキに出て扉を閉めた後に彼はため息を吐いた。
「やれやれ、妙な事になった」
「不思議な人たちですね」
葛葉も先ほどの歩兵達を見て違和感のある装備を見てジェロームに頷く。
笹中大尉のおかげで今の所道を譲ってくれるのだが、ジェロームはその身長から何かと注目をされていた。
「武装も弱い。防弾チョッキすらないとは…」
そもそもの話、歩兵全員が連射の効かないボルトアクション方式小銃のみで武装をしていた。
歩兵は全員が防弾チョッキをつけてのバイタルパート防護すらしておらず、また全員がサイボーグ化手術を受けていない。
一瞬、自然主義者の集まりの部隊かと思ったが、それとも違う独特な雰囲気。まるでそれが普通であるかのような雰囲気であった。
「しかし良かった。腕の電撃は使っていない」
ジェロームはそこで自分の両腕のサイボーグの調子を確認する。
このサイボーグはエネルギーパック方式と充電方式の併用であり、鞄の中にエネルギーパックの予備や予備弾倉は入ったままであった。
「まだ腕の方は大丈夫ですか?」
「ええ、今の所は」
ジェロームは見た目の変わらないサイボーグにしておいて良かったと内心思いながら次の三等客車に入る。
ッーー!!
すると遠くで機関車の汽笛が鳴ると、列車は徐々に速度を落として分岐点を通過していく。
「…?」
そこでジェロームは窓の外の景色が自分の想像とは違うものであることに気が付く。そもそも列車の速度が自分が知っている列車の速度よりも圧倒的に遅く感じた。
「…」
窓もよく見ればただのガラス製であり、マジックミラー化すらされていない。
ガコンッ
そしてブレーキをかけた時の振動が列車全体を震わせ、窓のガラスから大きく音が鳴り響く。
駅に到着をすると乗っていた他の乗客達は次々と降車していき、ジェローム達もその流れについていかなければならないと感じていた。
列車から降りる途中、二人は外の景色も確認していた。
ピーッ!
笛の音が鳴り響くと、駅舎を含めた線路上にも多数の国防色の軍服に身を包んだ完全武装の兵士たちが現れる。
「急げ!」
「通報のあった車両に車両を回せ!」
部隊指揮官達はそう叫ぶと、遠くからディーゼルエンジンを唸らせながら数台の
砲戦車は連結された列車の中の後方、荷物車や寝台車に照準を向ける。
「第三中隊の通報だ!」
「砲撃用意!」
75mmの短砲身が寝台車の方に向けられ、いつでも砲撃ができる準備が整えられていた。
「…」
駅に降り立ち、ジェロームと葛葉は駅舎を見る。
明らかに駅全体の照明は暗く、ジェロームからすれば違和感しかない雰囲気であった。建物の構造は古い古典建築風であるが、代わりの客も着物姿やスーツ姿の住人ばかりであった。
「どういうことだ?」
ジェロームは困惑気味に自分の乗ってきた列車を見る。
「?」
列車はD51形がオハ35やスハネ31やマロネ41、オハシ30を連結していたのは代わりないが、客車は九両編成となっており、自分が乗ってきた列車と違っていた。
機関車は煤の混ざった煤煙を吐き出しており、発車準備を整えつつあった。
「あれはエーテル機関の気配を感じませんね」
駅の端に移動して
「は?あれはエーテル機関車ではないということか?」
「そうなりますね」
葛葉は異能者であり、それゆえにエーテル機関の独特の波長を感じ取れ、今牽引中の機関車からそれらを感じないと言い、ジェロームはそこで機関車を見て推察をする。
「じゃあ、あの機関車は本物の蒸気機関車で動いているということか?」
「そうなりますね…」
葛葉は少し言いづらそうに、認められないような口調で頷いていた。
「…」
そして寝台車を取り囲んでいる兵士たちを見てジェロームは少し唖然となる。
「突入せよ!」
そして小銃を持った彼らは一斉に銃剣をつけたまま寝台車の中に突入していった。
国防色の軍服を画像検索をすると、何百年も昔の兵士たちの情報が出てくるとともに彼らの所属している軍隊の情報も出てきた。
「あれは本物なのか?」
「わ、私にはなんとも…」
この空間しかり、列車や兵士しかり、出てきた戦車しかり、この施設の雰囲気もそうだが、明らかにその当時の意匠が施されている。
「どういうことだ?」
ジェロームはそこで色々と疑問に思っていると、寝台車から銃声が響いた。
「「っ?!」」
発砲音に二人は驚くと、寝台車の一つの兵士たちの突入した扉から一つの影が飛び出してきた。
「っ!!」
それは先ほどからいた四つ足の毛むくじゃらな怪物であった。
「チッ…」
ジェロームは持っていた騎兵銃を握って銃口を即座に向けた。
「グァアアァァァ!!」
銃口と照星を目の前の怪物に合わせて発砲をするが、四つ足の怪物は足を踏みつけて宙に舞って小銃弾を避けるとそのままジェロームに襲いかかった。
「早いっ!」
すぐさま彼はボルトを引いて装填を行うが、片手であったので装填中に怪物の攻撃を受ける。
「くそっ、荷物室で死んだんじゃないのか!?」
その怪物は駅のホームで暴れており、それを見た他の乗客達は逃げ惑う。
「チッ…」
ジェロームは軽く鞄を盾に怪物の攻撃を受け流すように受けると、その直後に鞄を置いて両手で小銃を持って発砲する。
「でヤァっ!!」
そして発砲と同時に銃床で怪物の頬を殴り飛ばすと、直後に腹に掌底を打ちつけると共に少し電流を放った。
「ッ!!?」
手から放たれた電流は最小出力であったが、この化け物を驚かせるには十分であった。化け物はジェロームから一旦距離を取ると、
「撃て!」
列車から出てきた兵士達が小銃を持って発砲を号令。兵士達は四つ足の怪物に向けて発砲する。
「アレを倒すのだ!」
「大尉殿!」
そこである兵士が
「こっちに」
「は、はい!」
ジェロームは小銃で一発発砲をした後に駅の改札に葛葉を押し込むと、陸軍の歩兵部隊が攻撃をしている間に駅から退散をする。
「あっ!お前…!」
その時、ある指揮官が駅を出ていくジェロームに気づいたが、直後にあの四つ足の怪物が一人の小銃を持った兵士を爪で切り付けた為、それに対応せざるを得なかった。
「また鞄が傷物になったな…」
ジェロームはそこで二回、あの四つ足の怪物の攻撃を受けた自分の旅行鞄を見てため息を吐く。
駅は煉瓦と木造、形どられた鉄骨で組まれた建物で、駅前のロータリーの車もビンテージ車ばかりであった。
「…」
辺りは臭い匂いが立ち込め、ロータリーは走り出した車から土埃が立っていた。
「どうなっているのか…」
それを見て何度目か分からないため息をついていると、
「何だ!?」
獣の唸り声と共に駅の奥から四つ足のあの怪物が出てきて、周囲に居た誰かが叫んだことでジェロームは葛葉の手を取る。
「走りますよ」
「はい」
そこであの怪物から逃げ出す二人を四つ足の怪物は見つけて追いかけようとしたが、
ッ!!ッ!!
線路から回り込んだ二両の
「こっちだ!」
「戦車を回せ!!」
兵士が叫ぶと、さらに奥から
ッー!!ッー!!
駅前で発砲をしたことで駅舎の窓ガラスが衝撃波で粉々に砕けながら四つ足の怪物に砲撃を叩き込んでいた。
「敵!正面、五〇!」
「徹甲榴弾装填!撃ぇ!」
直後、再び砲戦車が発砲をすると砲弾は化け物に命中をして中の炸薬が爆発を起こす。
「「…」」
その砲撃を近距離で見ていたジェロームは砲撃を受けて倒れた四つ足の怪物を見つめる。
「こう言う時、死んだか?とか、やったか?と聞いて生きているパターンだろ…」
ジェロームは小声で呟くと、その四つ足の怪物は僅かにピクリと体を動かした後に立ち上がった。
「…」
そして四つ足の怪物はジェローム達を見つめた後に足を踏み込んだ。
「撃て!」
そこで駆けつけた砲戦車隊から一斉に砲撃が飛んだが、発射された砲弾は空に飛び上がった四つ足の怪物を掠めると、離れた地面に着弾して爆発を起こした。
四つ足の怪物はそのまま駅舎の屋根に飛び移ると、そのまま駅舎の奥に消えていった。
「…消えたのか?」
ジェロームが呟くと、あの怪物の逃げた先に歩兵部隊が捜索のために追いかけ始めた。
「急げ!」
「あの怪物の捜索を行え!」
一斉に兵士達は銃を持って駅舎をあっちこっちに走って駆け回る。
駅前には二種の砲戦車が展開しており、先ほど怪物に向けて砲撃を行っていた。
「大丈夫か?」
そこで二人は先ほど出会った笹中大尉に話しかけられた。
「ああ、怪我はしていない」
「大変でしたな。二回も襲撃されるとは…」
「全くだ」
ジェロームもそれに頷いて鞄と共に騎兵銃を手に取る。
先ほど、車内での一瞬のごたつきは怪物に襲撃されたことで有耶無耶になったようで、笹中はジェロームが騎兵銃を持っていることに対し、目を瞑ってくれることになった。
「列車はしばらく動かないが、二人の泊まりは大丈夫か?」
「ご心配なく」
「はい、私は大丈夫です」
葛葉とジェロームはそれぞれ答えると、そのまま歩いて駅舎を後にした。
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