TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#331

駅を離れて、暫く歩いていたジェロームと葛葉の二人。

 

「…もういいでしょうか?」

 

隣を車が走り、人々が歩いている中を葛葉が聞くと、ジェロームは頷いた。

 

「ですね。近くに公園か何かがないかを見てみますか」

 

そこで二人は軽く街に設置されていた地図を確認してから、近くの空いていた整備された公園の中に入ると、そこで空いていたベンチに座り込んだ。

 

「「はぁ…」」

 

そこでジェローム達はため息を吐いて頭を抱えた。

 

「どう言うことだ?俺達はタイムスリップでもしたってのか?」

 

やや錯乱気味に彼は周囲の街並みを見てきた感想を言う。

自分の事を外国人扱いしたり、大日本帝国陸軍という何百年も昔の軍事組織を名乗り、その装備で整えられた兵士たち。古臭い電球や建築洋式が立ち並んでいる光景を前に混乱していた。そもそも民族や国の概念が消滅して久しいトラオムの大地では、外国人の定義もあやふやなものであった。

 

駅前で見た二種類の車両は同軍事組織が装備していた車両であることは画像検索から把握していた。

 

「ですが、色々と疑問が残ります」

「ええ、私もです」

 

葛葉の疑問にジェロームも頷いた。

まず最初の疑問として、自分が乗っていたあの列車の路線でこれほど発展した街並みはあの街以外ないはずということ。そして乗ってきた列車の車両数が明らかに短くなっていた。十両以上連結された筈の客車は九両まで減っていた。

 

「彼らが着ている服は、時代的にはインターネットすらないほど昔だぞ?」

 

もしタイムスリップをしたと言うのなら、なぜ眼球のインターネットが使えるのかと言う疑問が残る。まだこの時代であればインターネットのイの字も無いような時代である。だが、兵士たちの持っている装備や服装、単語の検索が可能であったのでこの世界では不思議な事にインターネットが使えた。どこかに中継局でもあるのかと疑問に思うが、まずこんな雰囲気の街や淀んだ空気、街灯の電球を見てそれは無いと確信する。

 

段々と素の口調が出てきてしまっているジェロームは、そこで自分の持っていた切符を取り出す。

 

「失礼、切符は?」

「ああ、こちらに」

 

葛葉とも確認をとって、ジェロームは自分の購入した切符の確認を行う。

 

「…?」

 

切符の行き先を見てジェロームは、それが元々の行き先と変わらないことに少し安堵したが、切符の材質が変わっている事に違和感を覚えた。

 

「紙?」

 

そこには磁気塗装もされていない切符で、少しごわついた触り心地であった。

 

「っ!まさか…」

 

それを見て途端に表情を青くして行くジェローム。彼はすぐさま旅行鞄を開く。

 

「…」

 

慌てて鞄の中身を開いて彼は直後にため息を吐いた。

 

「あぁ…」

 

鞄の中身は一般的な旅行鞄であるが、その中からエネルギーパックのあった場所には髭剃りとクリームが入っていた。

 

「ダメだ…エネルギーパックが無い」

「えぇ?!」

 

葛葉はジェロームの両腕がサイボーグであることはさっきの掌底見て把握していたので、その動力源となるエネルギーパックがなくなったと言うのを知り、驚愕をした。

 

「だ、誰かが中身を入れ替えたのでしょうか?」

「さぁ?食堂車と駅以外で鞄は手放さなかったのですが…」

 

いずれも自分の視界に入っており、誰かが触った様子はなかったはずだ。

 

「…誰かがウイルスでも投入したのか…」

 

ジェロームはそこでこれが、誰かが自分に打ち込んだコンピューターウイルスによる仮想現実の映像かとも疑った。最初、自分は仮眠をとっていた事からも真っ先に想像してしまった。

 

「しかしそれですと…」

 

そこで葛葉が口を挟んだ。それにジェロームは頷く。

 

「ええ、貴女がここにいるのがその説を破壊するんです」

 

異能者である彼女は、自分と違って基本的にインターネット脳が繋がっていない筈だ。だからこれが仮想現実の映し出す景色とは思えなかった。

 

「失礼ながら、実はインターネットと脳を接続をしたりとかは…」

「いえ、私は自然主義を貫いておりますので…」

「ああ、なるほど」

 

ジェロームはそこで完全に仮想現実による映像の線が潰された。自然主義者と言う妙に納得できる理由もあって、彼女がサイボーグやマイクロマシンなどを介した脳とインターネットの直接的な接続はないと確信する。

また彼女がどこもサイボーグ化していない事実を裏付けているようにも聞こえた。

 

「畜生、VRならやりようはあったのに…」

 

もしここが仮想現実の空間であれば、システムの穴を突いてハッキングをしてやろかとも思っていた。

だがその内心、ジェロームは自分の持っている荷物を確認しながらベンチに座ったままの安倍葛葉と言う女性に少しの疑念を持つ。

 

彼女はこの空間に来てからと言うもの、あまりにも落ち着きすぎている気がした。列車での異変では彼女の異能は見事なものであり、見事にあの四つ足の怪物や触手を燃やし尽くしていた。あの触手に掴まれた靴も、何の異変も無かった。

また、触手の返り血を浴びた筈の鞄も、あの四つ足の怪物に切り裂かれた場所以外は特に大きな変化もなかった。

 

「いまだに理解が追いつかない…」

 

取り敢えず、鞄にしまってあった拳銃用の予備弾倉を全てジャケットのポケットに放り込んでから蓋を閉じる。

 

「…」

 

そこでジェロームは鞄の蓋を閉じた自分の手を見る。そして恐る恐るその手の手首に触れると、その指先にドクドクと脈打つ感覚と温もりを感じた。

 

「嘘、だろ?」

 

サイボーグ化した部位というのは基本的に血管が無いため、脈を打つ必要が無かった。ポンプで自動的に循環液も動いている為、ジェロームの腕から本来脈を感じることはない。つまり、今のジェロームの腕は生身の腕であるということを示していた。

 

「そんなまさか…」

 

先ほどのエネルギーパックの問題やこの腕を前にジェロームは途端に嫌な予感がする。先の四つ足の怪物の攻撃で切り傷ができた旅行鞄の傷口に触れて軽くノックをすると、コンコンと軽い音がした。

 

「え?」

「…」

 

そこには複合装甲を仕込んであった筈だが、今はあり得ないくらい軽い音がしていた。

 

「装甲も取られたか…」

 

ジェロームは鞄の複合装甲である筈の板がただのペラペラな内板になっている事にため息を吐く。この調子では鞄の電撃機能も恐らくないだろう。

 

「両腕がなぜか生身になっている。鞄もこの有様で、何が起こっているのやら…」

 

もうお手上げといった様子で両手を広げるジェロームに、葛葉は自身が持っていた荷物の確認を行う。

 

「でも異能は使えます」

 

彼女はそう言い、先ほど異能を放った水晶球を手に取り、軽く炎を見せた。彼女は他にも小ぶりな金の小箱を持っており、中身は空であった。

 

「それは?」

「異能を使うのに必要なものです」

 

金の小箱を見てジェロームが聞くと、彼女は異能に関するものだと答えたのでそれ以上聞くことはなかった。少なくとも自分は異能者ではないのでそこら辺の詳しい場を知らなかった。

 

「異能は使える?じゃあエーテルはあるのか?」

「いえ、ここにエーテルはありません」

「…はい?」

 

そこでジェロームは自分の知っている知見が間違っているのかと軽く錯乱したが、それは無いだろうと確信してから腰から下ろしていた空間エーテル検測機を手に取る。

 

「本当だ…」

 

だが機器はゼロの値を示しており、ここにエーテルが無いことを示していた。…そもそも動いているかどうかは定かではないが。

 

「エーテルが無いのに、異能が使える?」

「はい。使えています」

 

実際、先ほど彼女は異能である火焔の火種を点火していた為、異能が使えることを示している事に錯乱した脳が把握する。

 

「…」

 

ジェロームはそこで色々と混乱した情報をまとめる為にメモ帳を取り出してペンで今起こった情報をまとめて行く。

 

「まず、ここはどこだかさっぱり分からん」

「ですね…」

 

現在、二人のいる場所は明らかに時代錯誤ではあるが、はるか昔の街並みがあった。

 

「今起こっているのは、あの列車にいた怪物の攻撃か」

「あの四つ足の怪物ですね」

 

そこで二人は荷物室、食堂車、駅と三回も襲撃を受けたあの怪物を思い返す。

 

「拳銃で頭に数発叩き込んでも生きていた怪物だ。死ぬのか?」

「あの時は次元がずれていたからではないでしょうか?」

「…どう言う事だ?」

 

ジェロームは葛葉の意見に少し目元を細めて顔を上げて彼女を見てしまう。

 

「ほらこの世界、かなりリアルじゃないですか」

「リアルと言うか、リアルそのものですけど…」

 

少々間延びしている彼女の口調にジェロームはやや表情を引き攣らせる。

 

「それで、あの化け物ですけれど…」

 

葛葉はあの怪物を自分なりに解釈をしてジェロームに話す。

 

「荷物室でかの怪物は咀嚼をしており、実際血がついていました」

 

ジェロームはそこで先ほどの怪物との初会合を思い出し、同時にそこで死体がなくて困惑をしたのを思い出す。

 

「そうだな…」

 

あの怪物は何だっだのだろうかという疑問が浮かぶが、葛葉はあれは次元がずれていたとか言う理解に苦しむ想定を口にした。

 

「もし私の仮説が正しければ、駅に戻ってお話を聞いたら死体が上がっていると思われます」

「…そうだろうか?」

 

半信半疑な視線をジェロームは向けると、葛葉はこの自論に自信がある様子だった。

 

「…まぁ仕方ありませんね。他にできることも少ないでしょう」

 

ペンを持ってジェロームは今自分たちがするべき事をまとめた。

 

「まずは列車に戻りましょう。あの列車に戻って列車が発車するまで待った方が良いでしょう」

「そうですね」

 

葛葉もジェロームの意見に賛同すると、そこで必要な事をまとめたメモ帳をペンと共に胸ポケットに入れて鞄片手に立ち上がる。

 

「鞄が盾として使えないのが痛いな…」

「むしろあんなに接近して戦うのは危険では?」

「生憎、生身ではこちらの方が得意なんだ」

 

彼はそう言うと、鞄と挟み込むように騎兵銃を握っていた。

 

「それに弾薬も心許ない。できれば補充をしたいが…」

 

ジェロームはそこで持っていた財布を開くと、

 

「ははっ、こう言うところは良心的だな」

 

そこには見覚えのない紙幣と硬貨が入っていた。




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