陸軍兵士が乗り込んだ後、機関車の汽笛が鳴り響いて列車はゆっくりと走り出す。
深夜の鉄路を機関車はゆっくりとドレンから白煙を吐き出しながら主連棒が動いて四つの動輪が回転を始める。
「…」
陸軍部隊は前方三つの客車に乗り込んでおり、ジェローム達は四両目の三等車の座席に座っていた。
「この後ろは食堂車か…」
走り出した列車の窓から外を見ながらジェロームは呟く。
駅や近くの線路沿いには特徴的なお椀型砲塔から二門の7.7mm水冷式重機関銃を突き出す
「…」
車内は先の怪物の騒ぎからか自分達以外の乗客の数はとても少なかった。
「はぁ…」
ジェロームは鞄を網棚の上に置いて小銃を側に立て掛けた。何せ鞄が使えない上に腕も生身のものになってしまっている。盾としても使えないものを使い続けるつもりはなかった。
「大丈夫ですか?」
ため息を吐いたジェロームに葛葉が話しかけて来たので、彼は疲れた様子を誤魔化さずに顔を上げる。
「この状況で大丈夫もクソも無いでしょう…」
「…」
そんなジェロームの対応を見て葛葉も思わず絶句してしまう。彼の中の何かが切れそうで危険性を感じた。
「ジェ、ジェロームさん?」
「何でしょうか?」
葛葉はその危険性からジェロームに軽い気分転換を提案してみた。
「気分転換などをされては如何でしょうか?」
「気分転換?できれば良いのですがね…」
そこで彼は今起こっている様々な不可解現象に色々と詰まるものがあり、これからどうなるのかという不安も含めて焦立ちがあった。
「…」
ジェロームは何が異常がないかと警戒する為に当たりを見回すと、そこでは乗っていた数少ない乗客の一人が煙管に火をつけて車内で吸っていたの見た。
「(車内で吸っている?)」
そこでジェロームはその客を見た後にハッとなって理解した。なるほど、ここでは吸って良いのかと。
「失礼、煙草を吸わせてください」
「ええ、構いませんよ」
葛葉に確認をとった後、ジェロームは煙草を取り出す。
銘柄はいつも吸っていたハイライトで、ここに異変は無かった。
だが、周りが可燃物ばかりの車内で灰を散らす煙草は、本来であれば厳禁であった。
「…ふぅ」
そして車内で火を付けた彼は、そこで紫煙を登らせながら一息吐いた。
最近は吸う機会も減って来ていた煙草であったが、色々と問題が連続して起こっているからなのか、いつも以上に効いている気がした。
「…」
そして発車した列車の中で徐に天井を眺めると、煙草を一本吸い終えてから彼は席から立ち上がった。
「すみません。少し席を外します」
「分かりました」
そう言うジェロームの手には弾薬盒と銃剣が握られ、ベルトにそれらを着けるのだと葛葉は理解した。
そしてジェロームはそのまま客室を後にし、客車に併設された便所の扉を開けてそこで予備のベルトに弾薬盒と銃剣の鞘をはめて腰の上から巻いた。作業自体はすぐに終わったのですぐに出ると、
「おっと」
「ああ、これは…」
そこで目の前に見知った顔が立っていた。
「大尉殿」
「やぁ、ジェロームさん」
この先の車両に乗り込んだ歩兵中隊を指揮する彼はジェロームを見て様子を聞いて来た。
「如何ですか、そちらの方は?」
「人が少ないこと以外は特に何も…」
そこでジェロームも笹中の問いにそう答えると、笹中は言う。
「しかし、思ったより早く列車が出て良かった」
「ええ、そうですね」
二人はデッキでこの列車の運行が再開した事に安堵していた。
「特にジェロームさん達はあの怪物に二回も襲われました。これからは無事に通れると良いのですが…」
笹中はそこで食堂車と駅で襲われたジェロームを前に気にかける様子を見せており、内心で軍隊が乗っている列車を前に正面火力はあるかと襲撃された時のことを考えていた。
「ええ、私も何事もなく目的地に着きたいものです」
ジェロームはそう言うと、そこで煙草を取り出す。
「初めて見る銘柄ですね」
そこでハイライトを見た笹中はジェロームに聞いた。
「煙缶はありますか?」
「ええ、もちろん」
笹中の言葉を誤解しなかったジェロームは、彼に箱から一本の煙草を差し出した。
「すみませんね」
笹中はそこで軍用の耐水マッチを取り出してジェロームから受け取った煙草に火を付けた。
「っ、中々独特な味だ」
「いずれ慣れますよ」
笹中にそう言うと、ジェロームも持っていたマッチを擦って火を付ける。そして二人は列車のデッキで煙草を速やかに吸う。
「しかし、あの怪物の影響も酷いものですな」
「ええ、全くです」
ジェロームは頷くと、笹中はジェロームに知っている前提で話を続ける。
「あの怪物は車掌と添乗員二人を喰い殺したと言うのですから、我々も常に着剣をした状態ですよ」
「…大変ですな」
ジェロームはそこで笹中から犠牲者が出ていると言う話を聞き、脳裏に葛葉の持論が過った。
「(彼女の話は当たっていたと言うのか?)」
彼女の言うところによると、あの怪物は次元が違うから死ななかったと言っており、死体があそこでいなかったのもそれが理由だと推察していた。
だが笹中の口から犠牲者が出たと言うことを知った今、彼女の推論も現実味を帯びていた。
「では、私はこれで。彼女の護衛に戻りますので」
「ええ、お気をつけて」
笹中はそう言いジェロームを見送ろうとした時、彼の左腰に巻かれた弾薬盒を見た。
「ジェロームさん」
「?」
軍人として、彼の持ち物に違和感を覚えたので一応指摘をしておいた。
「それは後盒で、本来なら腰の後ろに下ろすものだ。貴方は軍人ではないから良いが、気をつけてくれ」
「ああ、ご親切にありがとうございます」
ジェロームはそれだけ言うと列車の扉を開けて客室に戻った。
「如何でしたか?」
客室の座席では葛葉が戻って来たジェロームに聞いて来たので、彼は先ほど仕入れた情報を共有する。
「ええ、どうやら貴女の推察が当たっているかもしれないと思っていたところですよ」
そう言って席に座ると、彼は立て掛けてあった騎兵銃を手に取ってその先に銃剣を取り付けた。
「この列車、また変な事がどうせ起こるでしょうし」
銃剣を取り付けた騎兵銃を手に取り、ボルトを引いて弾薬を装填した後に安全装置を付ける。
「幸い、弾の補充は効きました。おかげで暫くは戦えそうです」
そう言い、ジェロームは先ほど購入をした小銃弾と拳銃弾を確認する。
先ほど指摘された弾薬盒は、五発の挿弾子が三つ。それが四つセットで入っており、十二クリップの六〇発が入っていた。
また拳銃の方も、先ほど購入した拳銃弾を装填した弾倉がポケットに入っているので、戦闘可能であった。数は八つで六発が入った弾倉のため四八発が装填済みであった。
「私もお手伝いさせてください」
葛葉も水晶球を取り出して言うと、ジェロームは少しだけ彼女に頼もしさを感じた。
「大丈夫ですよ」
しかし男としての矜持があったので彼女の手助けはできるだけ避けるつもりでいた。
ッ---!!
その時、機関車の汽笛が鳴り響くと列車はトンネルに進入した。
そして列車がトンネルに入ったことは電信を使った通信で報告を受けていた。
「了解した」
電話で連絡を受けた少佐はそこで進発した列車を見送って先の怪物が現れた列車を振り返る。
「発見の報告はあるか?」
「はっ、今のところは何も…」
司令所では駅を中心に部隊が展開しており、通報のあった怪物の捜索を行なっていた。
「見当たらないな…」
「本当にいるのか?」
農道から監視をしていたある歩兵は言うと、別の歩兵が言う。
「お前だって見ただろう?」
「ああ、駅で見たさ」
彼らは駅舎であの見たことのない怪物の姿を見ており、世迷言ではないことはわかっていたが、理解を拒んでいた。
「ん?」
その時、山肌を見ていた一人の兵士が違和感を覚えた。
「っ!?」
その兵士は山を駆け下り、田畑の上を疾走する黒い影を見た。
「敵襲!!」
咄嗟にその歩兵は持っていた小銃を発砲したが、
「?!」
その影は銃弾を素早い動きで避けると、一気にその歩兵のそばを通過した。
「うわっ!?」
しかし通過した後の風で歩兵は身体中を揉まれたように服に傷がついた後に白目を剥いて気絶していた。
「撃て!」
その影を見たM25四輪装甲車から7.7mm重機関銃が発砲し、黒い影に向けて二門の弾道が飛んで行く。
その近くで九三式装甲自動車の射撃も加わり、田畑に複数の曳光弾の弾道が映る。
「怪物発見!線路上に向かって突進しています!」
すぐさま電話を使って通報を行うと、待機していた戦車隊や装甲車が出動し、怪物に向けて攻撃を行う。
「装填完了!」
「撃ぇ!」
「着弾!至近!」
「修正射!右〇.二!」
車長の指示で僅かに車体を動かし、再度砲撃。75mm砲による砲撃を受ける怪物であったが、
「き、効いていない!?」
砲撃を受けたにも関わらず失踪し続ける怪物を前に戦車兵達は驚愕をした。
「狼狽えるな!」
そんな彼らに車長が一喝すると、彼は言う。
「狼は自分が傷を負った事を忘れて動く!だから奴は止まらないのだ!」
「撃ち続けろ!銃手!」
そこで装甲車も駆けつけて機関銃による攻撃も行ったが、怪物はそれらの攻撃を避けてトンネルに一目散に突入をした。
「奴はトンネルに逃げ込むらしい!」
「追い込め!トンネルなら逃げ道はない!!」
無数の砲弾や小銃弾が怪物に向けて放たれるが、それは怪物の俊敏な動きで避けられたりもしていると、
「グァアア!!」
「っ!?」
突如、唸り声をあげて装甲車や歩兵に飛びかかってきた小柄な動物を前に彼らは驚愕する。
その小動物は装甲車の機関銃の水冷ジャケットを噛むと、そのまま噛み潰してしまう。
「撃て撃て!」
「うわぁっ?!」
「何だコイツ!」
歩兵達は突然の襲撃に驚愕こそしたものの、少数であり尚且つ装甲車の機関銃ばかりを狙っていたおかげで対応はすぐにできた。
歩兵の小銃の集中砲火で水冷ジャケットに噛み付いた小型の怪物は倒されたが、撃たれた怪物は皆一様に煙のように消えてしまい、兵達を混乱させていた。
「奴は中に逃げたぞ!」
「追え追え!」
そこで探照灯を装備した
トンネルの入り口の銘板には『ルネント貫佐伊』と刻印されてあった。
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