TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#335

突入して来た怪物に向けて発砲をするジェロームと笹中。

 

「撃て!」

「大尉に当てるなよ!」

 

見ていた兵士たちが持っていた小銃で怪物に向けて発砲をする。

 

ッ!ッ!

 

荷物室に目掛けて小銃弾が放たれると、四つ足の怪物は腕を振り上げて発砲をした歩兵を切り裂いた。

 

「ぎゃあっ!!」

「うおっ!?」

 

爪で切り裂かれ、一人の兵士が倒れる。

 

「このっ!!」

 

それを見て別の兵士は銃剣を突き刺す。

 

「ッーー!!」

 

銃剣を腹に刺された怪物は苦悶の声を漏らした後、刺した歩兵を睨みつける。

 

「っ!うぎゃあっ!!」

 

そして彼の腕に思い切り噛みついて血が吹き出た。

 

「稲香!」

 

笹中はそこですぐに持っていた拳銃を発砲すると、怪物はすぐに噛んだ歩兵から口を離して荷物室の奥に突撃をした。

 

「うおっ!?」

「ふぎゃっ」

 

そして狭い通路にいた歩兵を踏みつけると、そのまま列車の奥まで走り出す。

 

「くそっ!」

 

ジェロームは発砲をするが、怪物はこの狭い車内であるにもかかわらず銃弾を避けて消えてしまった。

 

「大尉殿、お怪我は?」

「ああ、問題ない。私に構うな」

 

そこで兵士が駆け寄って聞いてくるが、笹中に怪我は無く、押し倒された部下達に指示を飛ばす。

 

「追え!奴を逃すな!!」

 

この先には民間人がおり、彼等は軍人として安全を確保する必要があった。ジェロームも弾倉に挿弾子を装填して銃弾を押し込んでからボルトを前進させて挿弾子を弾き出す。

 

「俺を襲わなかった…?」

 

そしてジェロームはそこで首を傾げた。

今まで三回とも自分に襲いかかって来たあの怪物だったが、今回は様子が違ってなりふり構わずに列車の奥の方に向かってしまった。

 

「葛葉さん!」

 

ジェロームもその後を追って走り出す。彼女の先ほどの言葉に関して聞きたいことがあると思いながら寝台車を戻って走る。

 

「チッ…」

 

そして閉じられたカーテンの隙間から見覚えのある干からびたゾンビのような死体を見て舌打ちをする。

 

「どけぇっ!!」

 

彼は銃剣を振って斜めに袈裟斬りをしてその死体を踏みつける。敵の軌道は目が計算をしており、ゾンビの襲ってくる行動は全てコンピューターが計算をしていた。

 

「っ!」ッ!

 

そして小銃を振り上げながら発砲。そのまま出て来たゾンビの胸部を突き刺してからボルトを引いて排莢、装填をして発砲する。

彼等の動きは単純であるため、簡単にジェロームは避けると拳銃を取り出して頭を撃ち抜く。こう言うのは大抵は頭を撃ち込めば死ぬと言うイメージがあった。事実、頭を破壊されたそれらは煙のように消えてしまう。

 

「如何なっているのやら…」

 

ここ数時間で起こった出来事にもはや何も言わなくなった彼だったが、葛葉が見当たらない事に疑問を感じていた。

周囲の兵士達にも一度も肩をぶつけることもなく、先ほどの笹中大尉の視線が自分に一度も向いていない事実。まるで元々自分がいないように扱っていたので、彼は葛葉のあの一首が原因ではないかと考えていた。

 

「(やはりあの人は…)」

 

ジェロームは二等寝台まで戻った所で考える。既に先ほどの攻撃でゾンビの出現は無く、またあのくらい触手の攻撃もなかった。

 

「(だが分かる)」

 

今まで積み上げて来た傭兵としての経験が警鐘を鳴らしていた。

辞めてしばらく経つが、そう言った勘はいまだに衰えていないと自認していた。

 

「(この先は確実にヤバいな…)」

 

その勘が、経験が、この先を抜けた場所に凄まじい気配を持ったモノがいると言っていた。

 

「食堂車か…」

 

食堂車に繋がる貫通路の前、ジェロームは警戒をしながら新しい小銃弾を装填して準備を整える。

 

「スゥ…フゥ」

 

そして突入前に一度深呼吸をしてから覚悟を決める。傭兵をしていた時、こうした如何しようもないヤバい状況というのは何度も経験済みであった。

 

「…行くか」

 

まだレッドサンと出会う前の事をふと思い出し、懐かしさを覚えながら彼は銃を持って食堂車に繋がる扉を開ける。

 

「っ!!」

 

そして食堂に飛び出すと、そこでは机や椅子、照明が悉く破壊された場所に先の四つ足の怪物と葛葉がタイマンをしていた。

通路に入った直後に真っ赤な炎が飛び出して火焔が視界を奪った光景が広がり、凄まじい熱波が彼の顔を襲った。

 

「なっ…」

 

客車全てを燃やし尽くしてしまいそうな勢いの炎が隠れていた食堂に繋がる通路にも伝わってきた。

 

「葛葉さん…」

 

その異能の威力は、自分が以前に受けた電撃のそれとは桁違いの威力であった。ジェロームはその事に唖然となりながら食堂に飛び出す。

 

「…」

 

僅かに唸り声を出す怪物は葛葉を見ており、彼女はそれに震える様子もなく堂々と仁王立ちしていた。

彼女はその手に金の小箱を握っており、四つ足の怪物と対峙していた。

 

「悪い子だ…」

 

彼女は一言それだけを言うと、持っていた金の小箱の蓋を開けた。

 

「っ!」

 

だが箱を開けた途端、四つ足の怪物はひどく怯えたように一歩後ろに下がった。

 

「人の味を覚えた野狐は稲荷様でも許さんぞ」

 

彼女そう言うと、そこで怪物の後ろに居たジェロームを見た。

 

「…ジェロームさん」

「?」

 

彼女はそこでジェロームに言う。

 

「少し手伝っていただけますか?」

「?あ、あぁ…」

 

少々困惑気味にジェロームは頷くと、不思議な口調で話す葛葉を見る。

 

「ふぅ…」

 

すると彼女は片手に炎を出すと、四つ足の怪物に右手に付けた炎を向ける。その炎は青白い炎であり、妖しい光が食堂を照らした。

 

「ちょっと、驚かないでくださいね?」

「ほ?」

 

その炎に照らされた葛葉を見てジェロームは一瞬固まってしまった。彼女のあれほどまでに黒かった髪は漂白されたように白く、また同時に彼女の頭上には尖った耳や白いふわっとした尻尾が一本ゆらゆらと揺れていた。

 

「白狐…」

 

ジェロームは狐の獣人が脳裏を過ったが、こんな雪のような白さを持った毛色はホッキョクギツネでもないだろう。

 

「今まで黙っててごめんなさいね」

 

彼女はそう言うと、異能の青白い炎。…この場合、狐火と言っても良いものを四つ足の怪物に向けて放った。

 

「ッーーー!!」

 

けたたましい悲鳴を上げ、その怪物は吸い込まれるように葛葉の持っていた黄金の箱にジリジリと引っ張られていた。

 

「ジェロームさん!頭を狙ってください!」

「了解」

 

葛葉の指示に従い、ジェロームは小銃を構えると引きずられてこちらに顔を見せていた怪物に向けて発砲。

 

「っ!」

 

しかし怪物の頭部を狙った小銃弾は、怪物の頭の骨で弾かれた。その頑丈さにジェロームは唖然となりつつも、すぐに次の行動に移った。

 

「はあぁっ!!」

 

銃剣の付いた騎兵銃を持って接近し、下顎から銃剣を突き刺した。

 

「これなら!!」

 

そして騎兵銃を突き刺したまま発砲する。

超至近距離で発射された6.5mm小銃弾は怪物の頭蓋を貫通した。

 

「っ!」ッ!ッ!ッ!ッ!

 

そしてそのまま連続で四発発射し、弾倉分を全て使い切った。

 

「!」

 

そして追い討ちをかけるように脇から拳銃を取り出すと、それを同じように下顎に押し付けて発砲をした。

するとジェロームは返り血を浴びつつも、天井に無数の血が飛び散るのを見た。

 

ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!

 

薬室に込められた分も含めて一気に発砲をすると怪物は頭を徹底的に破壊され、その怪物はその攻撃で完全に白目を剥いた状態で抵抗をしていた力が抜けてしまった。

 

「…」

 

そして呆気なく怪物は葛葉の持っていた黄金の箱に吸い込まれると消えてしまった。

消滅した四つ足の怪物を前にジェロームは吸い込まれた反動で抜けてしまった騎兵銃を手に取る。銃剣はさっきの突き刺した勢いでロックがはずれ、床に抜け落ちてしまっていた。

 

「終わった…のか?」

 

そこで真っ暗になってしまった食堂の中で彼は呟くと、その後倒れかけたところを首元にフカフカとした毛に包まれた。

 

「ええ、終わりましたよ」

 

暗闇で見えないが、葛葉が一言言うと、それだけでジェロームは安心感があった。

そして少し硬い毛ではあるが、フカフカとした尻尾を前に途端にドッと眠気が襲いかかってくる。

 

「すべて終わりました」

 

彼女はそう言うと、ジェロームの肩を持って立ち上がる。異能を使っているのか、軽々とジェロームの体を持ち上げると食堂車を抜けて隣の三等客室に入る。

 

「…」

 

ジェロームはそこで生き残っていた客車の明かりで葛葉の姿を見ると、彼女は綺麗な白狐の獣人であった。

 

「姿を変えられたのは異能か?」

「そうですね。そのように捉えてください」

 

彼女はそう言うと、ジェロームを隣の客室に移動させる。トンネルにしてはやけに長い区間を走っており、いまだに外は闇であった。

 

「笹中大尉達のあれは?」

「幻覚の一種と思っていてください。元々、貴方が迷い込んだのは完全に事故の範疇ですので」

 

彼女はそう言うと、ジェロームは先ほどまで座っていた席に座らされる。

 

「でもおかげで、悪い子は捕まえられました。助かりましたよ」

 

彼女はそう言うと、ジェロームを見る。

 

「それで夫と息子に、これを渡すことにしました」

 

彼女はそこで水晶球と金の小箱を見せた。

 

「ここまで付き合わせてごめんなさい。無関係なのに巻き込んでしまって…」

 

そう言うと彼女はジェロームの手を握る。

 

「っ!」

 

途端に彼は力が抜けて席に座り込んでしまう。

 

「でも、おかげで決心がつきました」

「…」

 

彼女はジェロームに少しスッキリとした表情を見せていた。

 

「背中を押してくれて、ありがとうございます」

 

彼女はジェロームの手を握ったまま告げると、ジェロームは瞼が落ちてくる。

 

「どうかご無事で。ジェロームさん」

 

ッ!!ッ!!ッ!!ッ!!ッ!!ッーーー!!

 

短い五回の汽笛と長い一回の汽笛。危険を知らせる汽笛が脳の奥まで響きながらジェロームは意識を手放した。

 

 

 

 

 

「ーーくさん。お客さん?」

「っ…?」

 

その時、肩を叩かれながら話しかけられている事に気が付いた。

ジェロームはそこで顔を挙げると、そこには制服を纏った若い車掌が立っていた。その後ろの窓の景色は、出発前よりもそれほど時間が経っていない日暮の時間帯であった。

 

「あぁ、どうかされましたか?」

 

ジェロームは車掌に聞くと、彼は言った。

 

「切符をお見せ願えますか?」

「ああ…」

 

車内検札に来た車掌に持っていた切符を渡す。それは磁気印刷のされた見慣れた切符で、ジェロームは首を傾げる。

 

「はい、ご協力ありがとうございます」

 

切符の確認の為の検札印を押して車掌は直ぐに場を後にした。

乗っている車両は同じオハ35。周りを見回すと、そこには複数の乗客が乗車していたが、見慣れた服装を纏っていた。

 

「…」

 

ジェロームは徐に鞄を手に取った。

 

「?」

 

すると鞄は傷一つついていない綺麗なままであり、あの怪物にやられる前の状態であった。それを見て困惑をした。

試しに腕の脈を測ってみると、サイボーグ特有の無音が確認できた。

 

「…っ!」

 

ジェロームは鞄を持って席を経とうとした時、足元で何かを小突いてしまい下を見て驚愕した。

 

「これは…」

 

それは騎兵銃(三八式騎銃)が置かれており、見覚えがある銃であった。持って確認をしてみると小銃のシリアルナンバーも全く同じものであった。

まさかと思いポケットを探ってみると、そこにはゴールデンバットが入っていた。

 

「…」

 

夢かと思っていたのだが、この小銃が余計に混乱させながらそれを持って客車の移動をする。

座席車を移動してジェロームは隣の客車に移動をする。しかしそこには食堂車ではなく同じ座席車が続いていた。

 

「食堂車は無いのか…」

 

ジェロームはそこで客車の扉を閉じて元いた座席に座って窓の外を見る。

 

『間も無く…』

 

そこで自動放送が入り、目的地の駅であったので降りる準備をする。

 

「…」

 

遠くで機関車の汽笛が鳴り響くと、列車は分岐点を通過して駅に入る。

そしてホームの前で停車をすると、自動ドアが開いてジェロームは列車を降りた。そして発車時刻を迎えると、列車はゆっくりと走り出す。

機関車に繋げられた客車の数は十両を超えており、ある意味で見覚えのある長さであった。

 

ッーーー!!

 

機関車の汽笛が鳴り響き、列車は線路の上を走り去って行って次第に白煙見えなくなった。

 

「…」

 

そこまで呆然と眺めていたジェロームは、片手に騎兵銃を持ったまま我に帰って駅舎に向かって歩き始めた時、

 

トンッ

 

足元に紙が落ちた音が聞こえると、ジェロームはホームに落ちた二つ折りの紙を見る。

 

『ご迷惑をおかけしました。』

 

紙には鉛筆で書かれた字が残され、ジェロームはそれを見て誰が書いたのかを察すると少しだけ吐き出すように笑ってしまった。

 

「フッ…あれは現実か?」

 

おそらく永遠に分からないであろう疑問を抱きながら彼はホームを歩く。

 

 

 

到着をした駅の名は『アンフィ・テアトルム』。片田舎の街であるが、またの名を決闘の街と呼ばれる常に熱い街である。

 

 

 




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