#336
昔から、世界に憧れていた。
自分の知らない世界をテレビで見た時に自分はそう思った。
「エンツォ様」
「…?」
メイド服を着た女性から呼ばれ、部屋の中で本を開いていた少年はメイドを見る。
少年は奥二重で大きめのヘーゼルと青のオッドアイにブラウンに近い黒髪で、纏まった容姿を持つ美しいと言われる容姿の少年であった。
「御食事の用意が整っております」
「ん。すぐに行く」
エンツォと呼ばれた少年はサスペンダーの付いた黒いズボンに真っ白なシャツを羽織っており、丁寧に洗濯のされた服を着ていた。
歩く廊下は床一面に絨毯が敷かれ、周りには調度品が置かれていた。
「おはようございます」
「おはよう」
そこで調度品の清掃を行なっていたメイドが少年を見て頭を下げたので、少年は小さく頷いてから答える。
彼は手慣れた様子で廊下を歩くと、そこで磨かれた窓を見る。
「…」
空はエーテルのオーロラの輝きを持っており、この世界がエーテルに覆われている事をふと思い出す。
無論、窓は防弾窓であり、壁に埋め込まれた装甲とコンクリートは戦車の砲弾すら耐える能力があった。
「おはよう」
「おはようございます」
屋敷は二階建てであり、横に広く作られていた。
少年は執事達にも同様に挨拶を済ませ、彼らもまた挨拶をしてきた少年に答える。
それが当然の行動のようであり、また従者達は少年に対し敬意を持って接していた。少年もそれをわかっているように振る舞った。
「おはようございます。お父様、お母様」
そして扉を開けて食堂に入ると、そこではすでに二人の男女の大人達が席に座って少年を待っていた。
「うむ。おはよう」
「おはよう。よく眠れたようね」
男は少年を見ていつも通り短く頷いて少年を座らせるように目線で最速し、女は少年の顔色を見て微笑んだ。
少年は母に頷くと、そのまま用意されたいつもの席に座って用意された食事に手を伸ばす。
今日の朝食は麦飯に焼鮭、味噌汁にたくあんと珍しく和食風の朝食が用意されていた。
「いただきます」
少年は手を合わせて箸を手に取る。
しっかりと茶碗を手に取り、箸で一口分のみ取って口に入れる。口に入れる量は人と話していても中身が見えない程度であり、しっかりと教え込まれたマナーの通りに食事を摂っていた。
「全く、アイツが面倒な事を言ってきた」
「あら、またですか?」
その隣で夫婦、少年の両親は話していた。二人に耳を傾けていた少年は『ああ、またいつものか』と思い話半分にそれを聞いていた。
「ああ…パッチランドめ、継いだ子会社では満足していないらしい」
「それはまた…」
「どうせいつもの嫌がらせだ。後で話をつけてくる」
麦飯を食べながら父は仕事の方の問題で愚痴を吐く。
最近、叔父が色々と父に文句を言っていると言うのは聞いており、母や父は呆れているのを見ていた。
「しかし、どうしてまた最近になって…」
「アイツはエンツォがまだ若いからだと言っている。全く…奴の魂胆は見えすぎている」
父はそう言い、麦飯の後に焼鮭を箸で切り分けてから口に入れる。少年は味噌汁に口をつけており、玉ねぎに茄子を入れ、八丁味噌を溶かした少年の好きな味付けであった。
「どうせ会社の経営権を持ちたいに決まっている」
「昔からパッチランドさんはそうでしたからね…」
母もそれを理解しているようで、小さくため息をついていた。
ここ最近はずっとこの話ばかりしており、少年は詳しい事情を昔から教えられてきていたために辛気臭いなぁ、と内心で気落ちしていた。
「実弟とはいえ、俺の経営に口を出すなら容赦はしない。それだけさ」
父は断言すると、母はそんな父の力強い言葉に頷いて次に少年を見た。
「エンツォ。貴方も次のリヒトフォーフェンの人間として努力を怠らないのよ?」
「…はい、もちろんです」
少年は母にそう頷くと、先に食事を終えた父は席を立つ。
「じゃあ、行ってくる」
「ええ、気をつけて」
二人は短く話すと、そのまま父は部屋を後にする。これから仕事に向かうのだ。
父は会社の社長をしており、多くの子会社をもっているここら辺でも有数の富裕層であった。ここら辺の土地を多く持っており、紡績と農作を主に生業としていた。
少年はそう言った一族の子として生まれ、両親から愛情を持って育てられていた。
「ごちそうさまでした」
朝食を食べ終え、少年は手を合わせると母は言う。
「今日はこの後に先生がまた来ますからね」
「はい。課題も全て済ませておきました」
「よろしい。いい子よ」
母はそう言い、自慢の息子を誇りに思っていた。
我が家では父の方針で教育に力を入れており、幼い頃から少年はその手解きを受けていた。なので少年は学校というものに行った事がなかった。
将来的には寄宿学校のような場所に入れられ、教養を身につけることとなるのだろうが、いつになるのかはまだ分からなかった。
「では、この数式は…」
家庭教師が家に訪れ、少年の部屋で今の時間は数学の教鞭を取る。
教科ごとに教師も代わり、少年はそれら全てを吸収していた。教師の間でもその優秀さは噂となっており、話を聞く両親はその事に満足していた。
「…」
その最中、彼はこれが終わった後の明日の予定を思い出す。
「(明日は狩猟だったか…)」
少年は好きな授業を前に彼は少し浮き足立ちつつも、目の前の数学に頭を抱えていた。
家庭教師の授業は大抵が教科ごとにバラバラであるが、その日は朝から屋敷に一人の男がやって来た。
「先生!」
「エンツォ様」
その男性は少年を見て微笑んで答える。
男は背中から猟銃を下ろしており、少年に狩猟を教える教師であった。
「お久しぶりでございます」
「久しぶり」
少年は月に二度しかなかったこの狩猟の授業が好きであった。早速、狩猟の教師は装備を整えて出て来た少年を迎えると、そのまま車に彼を乗せた。
「今日は何処に?」
「近くの山です。ちょうど狩猟依頼が出ていますので、そちらで狩りを行います」
「おぉ…!」
狩猟の場所を聞き、少年は何を仕留めるのかを想像する。
「鹿?猪?鳥…いや、熊もいるからなあ」
ここら辺は空間エーテル濃度も低く、多くの植物が自生していた。積極的な植林もされており、そのおかげで近くの山は多くの野生動物が生息していた。
「今日取れるかは分かりませんがね」
狩猟の教師はそう言うと、隣で座る少年を見る。
今日は早朝から先に山に入った仲間と合流予定であり、隣に座る少年と共に狩猟の教育を施す予定であった。
「…」
もし彼が獣人で尻尾があったとするなら、きっとブンブンとしているだろうなと思えるほどに目に光が差しており、それを見て少しだけ猟師としての腕前が鳴ると思っていた。
この猟師と少年の父親とは知り合いで、狩猟に関する授業をしろと言われた時は唖然となっだのだが、数年も経てばすっかり慣れてしまった。
「…」
そして彼もまた、雄大な外の世界を歩き回る狩猟が好きだった。
元々、あの屋敷ばかりで育って来た少年は旅行が好きな少年であった。まだ年若いが為に一人で旅行は許されないが、将来は旅ばかりの人生を送る事を望んでいた。部屋の隠してあるノートには時刻表やパソコンで調べて作った旅程表が書かれているほどには好きだった。
「エンツォ様」
「ん?」
そこで彼は少年に言う。
「到着をしましたら、まずは銃の手入れを行いますので」
「はい。分かりました」
そして車は山の近くの一軒家のガレージに到着をする。
そこで少年は車を降りた後、慣れた様子で作業台の側の鍵付きの箱を開けると、中から一丁の小銃を取り出す。
現在、少年は齢十二歳。名前も誕生日もしっかりと産んだ親から与えられ、家族構成がインプラントチップに残される程度の家の子である。物覚えが良く、大人の注意もすぐに理解する彼は狩猟の才能があった。感覚的に動物の足跡を頼りに獲物を見つけ出し、猟銃で撃つ。撃った銃弾は正確に撃ち抜くので、狙撃が得意であった。
彼がいると獲物が見つかるので猟師の間でも話題になるほどであった。
彼に渡した猟銃は火薬式とコイルガンの複合銃。一般的に使われているボルトアクション方式の小銃であった。三〇口径のケースレス小銃を使用し、銃身内のコイルで加速を補助する。火薬と電磁加速による反動は大きいが、お陰で一発で熊の頭蓋を破壊する威力があった。
「今日は何が取れるでしょうか?」
「大物が取れると良いですな」
既に中の手入れを覚えていた彼はそこでバッテリーの確認も行う。
銃身内の汚れも確認し、クリーニングロッドで清掃を行う。その他撃鉄の確認や引き金、スコープの調整などを行なった後に派手な色のベストを着る。
「えぇ、大きな熊をいつか取ってみたいです」
少年は好きな狩猟を前に銃の準備を終えると、それを背負ってガレージを出る。
「坊ちゃん」
「おはようございます!」
ガレージの外では同様の警戒色のオレンジ色のベストを羽織る他の猟師たちが待っており、彼らは合流をした後に山に入っていく。
「今日はどんなモノが取れるかな?」
「外れることの方が多いでさ」
「そりゃあ違ぇねえ」
少し訛りの入った話し方で少年と猟師は話しており、少年はこのいつもと違う非日常感や何の気概無しに話し合うこの空気が好きだった。
「エンツォ〜」
そして山に入る前、少年は先ほどのガレージから顔を覗かせた少女に話しかけられた。彼女は少年の一つ下の娘であり、教師とは別の猟師の子であった。
「気を付けて」
「ええ、分かっていますよ。グラシー」
少年は頷いて返すと、彼等は山の中に入っていく。
獲物が見つからずに帰ってくることの方が多いので『大物を』とかそう言ったことは言わなかった。
少年もこの山に出入りを始めてから数年。初めは銃すら持たずについて行っただけで終わっていたが、今では手慣れて小銃を背負って歩けるほど体力もついていた。
「ふぅ…行きますか」
軽く少年は意気込んだ後、他の猟師たちと山の中に入った。
結局、この日は何も取れずに戻って来てしまったが、代わりに冷凍をして余りかけていた鹿肉を貰って家に帰ることとなった。
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