「何事か!?」
「敵襲であります!」
執務室で決算を行なっていた父が部屋から飛び出すと、そこで秘書が告げた。
「敵は?PMCか?傭兵か?」
「いえ、強盗と思われます!」
秘書が報告に上がってきた
「強盗が大砲?馬鹿げている」
父はまず怪訝な表情でそう吐き捨てたが、次に爆発の振動で屋敷全体が揺れた。
「ええい、迎撃はどうしていた!」
慌てて彼はジャケットの上から防弾チョッキを羽織ると、執務室に飾ってあった自分の猟銃を手に取る。
敵である強盗は重迫撃砲を持ち込んでおり、その砲撃が屋敷に降り注いでいた。
「撃て!」
「屋敷を守れ!」
屋敷を警護していた警備員達は持っていた機関銃や自動小銃、ドローンを展開して応戦を開始する。
敵の重迫撃砲による攻撃は最初、放った落下傘付き電磁パルス攻撃弾による最初の攻撃でターレットやレーダーを含めた電子装備が丸ごと破壊されてしまった。
「うおっ!?」
その直後、屋敷に降り注いだ迫撃砲の砲弾が爆発を起こし、展開していた警備員達は一瞬で薙ぎ払われた。
「行け行け!」
その瞬間、崩壊した壁の穴から身なりが不揃いの装備に身を包んだ集団が突入を始めた。
「強盗が重迫?馬鹿げている…」
そんな充実した装備を持てるほどの財力がないことは家主はすぐに分かっていた。そういった街の近くに隠れ住む強盗は、そう言った兵器すら購入のできないチンピラ同然であることは知識として当然知っていた。
「…野盗か」
そこで彼はすぐに、襲撃をしてきたのが郊外に住まう野盗であると判断する。もし野盗であるなら、重迫撃砲を持っていても違和感がなかった。
彼らは基本的に街から離れた場所に隠れ、運行する列車や大型の陸上輸送車を襲撃するので武装も充実していた。
「軍警はサボっていたのか…?!」
軽く悪態を吐きつつも安全の為に地下壕に避難をする彼は、そこで同様に避難をしていた家族と合流をする。
「貴方!」
「おお、無事だったか」
父は二人の安全を確認した後、家族全員で地下壕に避難をする。すでに軍警察には通報しており、何よりこの爆発と火災である。
屋敷は街の近郊にあるため、すぐに市民が通報をしているだろう。市を防衛する軍警察の特色上、すぐにでも部隊が飛んでくるはずだ。
「急いで地下壕に行くぞ」
「皆様、此方に」
そこで従者の案内の元、三人は屋敷に建造された地下壕に避難をする。
基本的に地下はエーテル湧出の可能性から危険であると言われているが、建物の中のシェルター程度であれば問題ないと判断しており、何よりボーリング調査でここらへんにエーテルの鉱脈はないと判断されていた。
そしてここに数名の護衛が入り、防壁が閉鎖される。
「…お母様」
「ん?大丈夫。ここなら安全だわ」
少しだけ母の腕を強く掴んだエンツォに、彼女は微笑んで安心させる。
地下壕には一定の食料と簡易的な台所が用意され、最低でも一ヶ月の籠城が可能であった。
ここはパントリーも兼ねており、この地下壕からは家族にのみ地上に繋がるトンネルがある事を知らされていた。
「…」
エンツォは先ほどの重迫撃砲の砲撃を思い出し、改めてそこで震えてしまった。
今まで感じたことの無かった死への恐怖というものに体が震えてしまっていた。
「大丈夫よ」
そんな彼の手を覆うように母が手を被せて言う。部屋には他にも数名の護衛が入り、その手には武器を持っていた。
「ここはミサイルも防ぐ防壁がついている。ここにいれば安全だろう」
父もエンツォの隣に座って話しかけており、二人の言葉に少しだけ安堵して顔を見る。
「しかし強盗がなぜ…」
そして父は疑問を感じ、推察をする。
屋敷を現在襲撃してきた強盗達は重迫撃砲を運用できるほど充実した装備を有しており、警備員相手に圧倒していた。
「…誰かが手引きした、か」
ブツブツと呟く父にエンツォは脳裏に先ほど見た夢が思い起こされる。それは叔父が自分に話しかけてきた夢であった。
「…叔父さん」
「っ…!!」
そしてエンツォばボソッと口にすると、父はハッとなって顔を上げた。
「そうか、パッチランドめ…」
全てが繋がったような表情を浮かべると父は毒吐いた。
「今度の役員会議を前に仕掛けてきやがったか…!」
父は今回の強盗の襲撃を手引きした人間に舌打ちをした時、
「…」
護衛の一人が聞き耳を立てており、ソッとジャケットの中に腕を伸ばした。
「ん?貴様!」
その動きにすぐに隣にいた護衛隊長が気付いて反応をした。
「っ!」キンッ
するとその護衛は手に持っていたピンをエンツォ達の前で引き抜いた。その護衛は、襲撃をしてきた強盗の仲間であったのだろう。
「御当主…!!」
「っ!!」
すぐに護衛達は敵の自爆攻撃に反応し、今まで訓練した経験。護衛の役目である自分の身を投じて主人を守る姿勢を取った。
護衛の一人の裏切りを見ていた両隣に座っていた両親も敵がピンを抜き、自爆攻撃をすると判断した数コンマの間にエンツォを守るように覆い被さった。
するとピンを抜いた護衛の、手榴弾をくくり付けた爆弾付きベストが起爆した。
「…」
エンツォはその時の閃光を見た後、視界が暗転した。
「…」
それからどのくらいが経っただろう。
猛烈に電流が走ったような感覚に襲われて目が覚めた。
「っ…!」
声が出ない程激痛に襲われ、思わず呻き声が上がってしまう。
「ゲホッ」
なんとか息をしようと回転する脳で鼻と口を動かすと、口から咳き込んだ。
口の中が鉄臭く、血が出ているのだと実感した。
「うぐっ…」
そして身体中に痛みを感じ、何が起こったのかと困惑気味になりながら周りを見る。だが周りは真っ暗で視界は何も見えなかった。気絶から目覚めた瞬間だったので、暗闇に目が慣れていなかったのだ。
昔、男は狩猟を行なっていたからよく目が効きやすいという話を本で読んだことがあった。
「…」
エンツォはそこで自分の見に起こった事を振り返る。
両親と共に地下壕に逃げ込んだ後、いつもの護衛をしていた一人が安全ピンを抜いて自爆攻撃を行ったのを思い出した。
「…」
呆然とその時の光景が思い出されると、そこで彼は今の地下壕の様子を夜目ながらぼんやりと見る。
記憶他飛ぶまでいたはずの地下壕は、敵の自爆攻撃で吹き飛んでいた。だが、ミサイルにも耐えうる隔壁のおかげで部屋の形は保たれていた。
「お母様、お父様…」
だが、部屋は自爆攻撃のおかげで遺体も見当たらないほどに焼けこげていた。
どうやら自分は、敵や自分に覆い被さってくれた両親や護衛、爆発時の衝撃で倒れてきたこの棚のおかげで生き残ったようだ。
「…」
無論、爆発の衝撃は凄まじかった。その証拠に、夜目で見た中で両親や護衛の遺体はなかった。
「…」
エンツォはその光景を前に呆然となっていると、足元に壊れかけのライトが転がってきた。災害用に作られた頑丈なものだったのか、あるいは爆発の衝撃でどこからか転がってきたのか。
自然とあの爆発で両親や護衛、自分の死を確信していたことで、この状況ではありえないほど落ち着いた様子でエンツォはライトを持って電源を入れた。無論、来るものはあったが、ここで大声をあげて泣けば死ぬと心のどこかで思っていた。
「…」
一瞬、ライトの光で目がつぶされたが、目が慣れたことで部屋の状況が理解できた。
部屋は天井から床に至るまで全てが破壊し、焼き尽くされていた。
護衛の至近距離の爆発は、入り口のドアすらひしゃげされるほどの威力であり、あれほど頑丈な扉が曲がって開きそうにもなかった。
彼はボロボロになった地下壕の様子を一周して眺めた。
『おい!地下の扉だ!』
すると扉の外から微かに男の声がした。
『くそっ、ひしゃげてやがる!』
助けが来たかとエンツォは希望を抱いた。
『急げ!家族の死体はこの先にあるはずだ!!』
だがドアの向こうの人たちが死体を探していると知り、希望は絶たれたと判断できた。
恐らく、この向こうにいるのは強盗で、自分は見つかったら命は無い。自爆したあの護衛は自分たちを狙っていたのだから。
「(多分、あの状況じゃあ自爆しかできなかったんだ)」
途端、エンツォは自爆した護衛の事が脳裏を過った。
あの部屋には数名の護衛がおり、他に味方は居ない。自分たち家族三人を人質にするにしてもその前に武器を持った周りの護衛に射殺されてしまう。
自分たち家族が地下壕に逃げるか、車に乗って逃げ出すかは分からない。だから奇襲で、自爆する以外に選択肢はなかった。
「(怖いなぁ…人って言うのは)」
自爆した護衛は獣人でもアンドロイドでも無く、ただの人であった。
新米だったが愛嬌のある人で、自分にも優しく接してくれる人だった。
「…」
荒れ放題の部屋を見て、自分以外の人の生存は絶望的であると脳が理解すると、入り口のドアから金属を切る甲高い音が聞こえた。
「…急がないと」
エンツォはそこですぐにこの地下壕からの脱出を行う事を考える。
この地下壕は、自分や家族のみに知らされた地上に繋がる出入り口がある。
これは従者達ですら知りえないし、そもそも設計図にもない。なぜならここは、本来であれば既に埋め立てられているからだ。
この屋敷を購入した際、安全性の問題からこの匍匐でしか通れないような換気用のこの場所を父は出入り口を埋めてしまったのだ。
だが当時、アニメを見て秘密の出入り口に憧れた自分が、板だけで塞がれていたこの場所をドライバーを使って勝手に開けてしまった。当時こそ怒られたものの、後に家族だけの秘密の出入り口として重宝されるようになったのだ。だから、他の人は知らなかった。
「…」
エンツォはその場所の確認をし、通れそうだと思った後に部屋を見る。
このトンネルの出口は庭園の中の灯篭の影から出るのが分かっているので、強盗を警戒してのことだった。
「…あった」
エンツォはそこで、台所にあらかじめ用意されていた包丁を手に持った。
「…ありがとう」
そしてボロボロの地下壕を前に一礼をして、自分を守ってくれた両親と護衛に感謝をして地下壕を出る。
「よいしょ…」
身体中が痛むが、アドレナリンが出ているのか、秘密の出入り口を隠すためのモノを引きずる力が出てきた。
おかげでこの入り口を隠したまま包丁を片手に匍匐前進で通路を抜けた。
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