TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#341

その後、強盗団を制圧した軍警察によって少年はすぐに病院に搬送された。

 

「全身打撲に多数骨折…」

「裂傷や切り傷も多くあります。良く生きていたと…」

 

病院の一室、レントゲンの結果や病状を全て見た軍医が言った。

 

「奇跡か…」

 

話を聞いていた治安官はその数を前に表情を引き攣らせた。

 

「運が良いのか悪いのか…」

 

そして同時に哀れんだ表情で部屋を出る。

この診断を受けた少年は、襲撃をした強盗からの報復を警戒して駐屯地内の病院に収容されていた。

 

「屋敷の方は?」

「地獄絵図ですよ」

 

駐屯地内の施設で捜査本部を設置した軍警察は、先の強盗の襲撃の被害を前に表情を顰める。

 

「屋敷に居た従者達も含めた全員が強盗に殺されています。奴ら、火炎放射器を持ち込んだようですね」

「そうか…」

 

屋敷の別邸や神社は焼失しており、火炎放射器で焼かれた死体もあり、一部は行方不明の人物もいた。

 

「生き残りは彼だけか…」

 

強盗も屋敷の中で大量に死亡しており、敵味方双方の血が絨毯に染み渡っていた。

 

「突入した部隊も、強盗との戦闘で負傷者を出しています。捕縛者も少なく…」

「そうか…」

 

そして屋敷に突入をした軍警察は、屋敷の血濡れた絨毯の上で倒れていた少年を一人、保護していた。

 

「エンツォ・リヒトフォーフェン…リヒトフォーフェン家の一人息子か」

「保護をした少年の両親は未だ見つかっておりません」

「…」

 

そこにはインプラントチップから収集した情報を見てその治安官は小さくため息を吐く。

 

「ああ、取り敢えず街に強盗を手引きした連中を捕まえるぞ」

「はい」

 

凄惨極まる屋敷の現状。未だに屋敷からは染み込んだ遺体の血が溜まっており、燃え残った屋敷には片付け終わっていない遺体が残っている。

 

「こんな装備、郊外の野盗レベルだぞ」

 

そこで重迫撃砲による攻撃やフル装備で固められた強盗の遺体の写真を見て苦笑をした。

 

「今、屋敷の方はどうなっている?」

「鑑識が総出で出張ってますよ。当分、この地区はこれでかかりきりになるでしょうね」

 

報告を聞き、この事件の担当となった治安官はため息を吐く。

 

「まだ子供が目を醒めない。証人が目覚めないんじゃあ、状況証拠しか残らないな」

 

そこで全身に大怪我を負って搬送されて来た痛ましい姿の子供を思い出した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「…」

 

あの後、凄く疲れていた為に気絶をするように眠りこけてしまった。

 

「っ…」

 

家に来た強盗を何人も倒した事で色々と体は限界を迎えていたのだろう。激痛が走り、それで目が覚めた。

 

「…」

 

目をゆっくりと開けると、視界がまず狭く感じた。

白い天井、知らない天井。漫画やアニメでしかないだろうと思っていた光景である。

 

「…?」

 

ここは何処だろうと体を動かしたかったが、首が固定されているようで全く身動きが取れなかった。

 

「…」

 

そこで彼は気絶する寸前までの出来事を逡巡して納得をする。

なにせ至近距離の爆弾の爆発も生き残ったのだ。当然、体にその代償があるはずだ。

 

「っ、うぐっ…!」

 

なので少し動かすだけで痛かった。何もできないと思い、呆然と天井を見上げていると、

 

「エンツォくん、ですね?」

「…」

 

看護服を着た女性から話しかけられ、目線でその人を見る。

 

「先生を呼んでちょうだい」

 

するとすぐに看護師は医師を呼び、そこで軽く意識の確認を行った。

 

「…うん、よし。瞳孔も問題ありません。私の言っている事も理解できますか?」

 

質問をされ、それに頷くとそこで軽く確認を終えてから医師はそばで控えていた制服を着た人と話す。

 

「意識に問題はありません。ですがこの状態ですので、無理はできません」

「了解した」

 

その人は治安官の人の様で、階級章は少佐を表していた。

 

「エンツォくん、であっているかね?」

 

自分は小さく頷いた。すると治安官の人はその後に言う。

 

「色々と混乱している事もあるだろう。回復後に、また色々と聞かせてくれ」

「…はい」

 

エンツォは小声で、掠れた声で頷くと治安官はそのまま部屋を後にした。

病室に残った彼は、ただ静かに天井を見上げているだけでその日は終わった。

 

 

 

 

 

それからと言うもの、自分は体がボロボロであったので回復を待っている間に色々とやった。

まず、強盗に襲われた屋敷の事情聴取。事件が起こってからと言うもの、多くの死体がゴロゴロと転がっており、一部は逮捕されて勾留をされた。あの現場に残った中では唯一の生存者であった為、自分はかなり長い事、質問をされる事となった。

 

またあの事件で、正式に両親死亡が確認された。

強盗がこじ開けた地下室の傍に、母の腕と父の足があったと言う。

 

それから、自分が生きていたので慣習的に自分が両親の財産を引き継ぐ事となった。会社からあの屋敷から、無事だった財産も、何もかもを、実子である自分が相続する事となった。

 

「はい、ではエンツォ様への相続はこれで完了となります」

 

病室で弁護士に言われ、自分は頷いた。体も服もボロボロの状態で保護をされた事で、両親の葬式は車椅子で出る事となった。

一応、スーツを纏って出席をしたが、周りの出席者は電動車椅子に乗った自分を憐んでいる様にも、悲しんでいる様にも見て、一部は次の社長の話で問題となっていた。

 

「あの、エンツォ様?」

「ん?」

 

その時、同じ部屋にいた愛菜が相続を終え、家長となったエンツォに話しかけて来た。

 

「その、宜しかったのですか?」

「何がかな?」

 

リハビリで歩行訓練をするときや、両親の葬式では常にそばに居たりして、何かと見舞いの回数も一番多い彼女は、少年に問うた。

 

「会社を、臨時とは言えパッチランド氏にお任せしてしても…」

 

彼女は少々不安そうに聞いて来た。現在、臨時として叔父が会社経営を行う様にと、会社の株を相続した自分が言ったのだ。

会社の中でも株主の意見は絶対であり、役員達も反対をしにくかった。

 

「ええ、叔父は葬式後に色々とお世話になりましたので」

 

事件後、葬式の手配やら何やらで腕を振るったのは叔父であった。

まだ齢十二の自分では、出来ることは限られるので、特に両親が一気に死んだとなればさらにやることは増えるばかりである。

 

盗まれた物品のリストの制作や強盗犯への賠償を求める裁判。そう言った事は目の前の愛菜の父親がやってくれた。

 

「それに、叔父でも流石に会社を潰す様な真似はしないでしょう」

 

以前、父の会社の予算を無理強いして使った新規事業で派手に大火傷を負って以来、会社での立場というものが低かったが、今回の一件で比較的保守的な経営方針をとった事で少しばかり評価が変わっていた。

 

「えぇ、ですが…」

「確かに叔父は欲求が強い人間でしょう。ですが、株式は全てこちらが持っています。いざとなれば首を切る用意はできていますよ」

「っ…」

 

サラリと少年から放たれた言葉に、彼女は冷たいナイフを当てられた様な気持ちになった。たとえ身内であっても冷徹に対応する彼の姿勢は父の遺伝子をしっかりと汲んでいた。

 

「それに、あの屋敷はまだ手放しませんでしたので」

「…」

 

そこで彼女は、彼の言った時の一幕が脳裏を過った。

葬式も、その他諸々の裁判の手続きも終わって一段落した頃、叔父があの屋敷を売る事を提案して来たのだが、エンツォはそれを一蹴していた。

 

『まだ物とかも気持ちの整理が終わっていないので、売ろうと思わない』

 

そう言われてしまっては叔父も強く出ることはできず、別邸が全焼して荒れ放題のあの屋敷は今も残っていた。

 

「一応、警備はしておりますので、ご心配なく」

「うん。ありがとう」

 

愛菜は父の部下があの屋敷を守っている事を伝えると、エンツォは静かに頷いた。家の警護を個人的な契約を交わして依頼をしていた。

 

「では、私はこれで」

 

そこで一礼をして部屋を出ようとした時、

 

「東雲さん」

「?」

 

エンツォは彼女に言った。

 

「照光様にお伝えください『いままでご苦労様でした』と」

「…畏まりました」

 

愛菜は少し間を開けてから彼に再度軽く礼をして病室を後にした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「そうか、彼はそう言ったのか」

 

その後、家に戻ってその通りに伝えた愛菜。その話を聞き、父は軽くこめかみに指を当てた。

 

「御子息は会社の事を聞いていないはずなのだがな…」

「でしたら、この事態を予測していたと言う事でしょうか?」

「だろうな。彼なら予測していてもおかしくない」

 

父はそう言い、パッチランドが臨時で社長となった会社の役員が徐々に刷新されていっている今の状況に顔を軽く顰めていた。

 

「御子息が言うなら、そう言う事だろう」

「…では、契約を切ると?」

「そうだ。御子息はパッチランドが率いるくらいなら、首を絞めるおつもりだろう」

「…」

 

そこで二人は、葬式の一幕を思い出す。

彼の両親の葬式を行う際、彼はそこで聞いたのだ。

 

『叔父様、胸が少しばかり痩せられましたか?』

 

そう聞いた彼に、パッチランドは一瞬驚愕をした後に警戒心を少しだけ漏らした視線を向けていた。

 

「では、エンツォ様は…」

「御子息が何を考えているかは知らない。だが、パッチランドが勘付いて何かしでかすかもしれんな…」

 

そこで思慮深く、また少年の父とは長い付き合いであった彼は行動に出る。

 

「すぐにパッチランドに伝えろ。契約更新は無しにするとな」

 

そこで秘書は直ぐに動くと、彼はそこで娘に聞いた。

 

「で、御子息の調子は?」

「はい、今日も私と話されていました…」

 

そう答えた彼女であったが、何処か歯切れが悪かった。

 

「…どうかしたか?」

 

その違和感に直ぐに気がつくと、彼女は言った。

 

「その…今のエンツォ様は、何処か変わられたような気がして…」

 

そこで彼女は、病室で彼と話した時の事を振り返る。

 

 

 

『人は狩猟の時と違って、相手が直ぐに逃げないから撃ちやすかったですよ?』

 

病室で、事件の時の事を彼は言った。

トラウマになっているかと今まで避けて来た話であったのだが、彼はそう言った事を気にする様子もなく話したのだ。

 

『その…エンツォ様は苦しくは無いのですか?』

 

そんな簡単に話され、少し困惑気味に聞いてしまった。

 

『えぇ、確かに私は両親を殺されて悲しいです。…ですが、悲しんで知るところを付け込まれて破滅に陥った人物はごまんといますので、ここでやられる訳にはいかないんです』

 

それは両親の死の悲しみを受け入れたものなのかと問われると、疑問に残るものであった。




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