「まあ子供には、子供らしいやり方というものがあるんですよ」
エンツォはそこで笑みを浮かべる。とても邪悪な笑みであったが確信を持っており、勝っているようにも見える表情を浮かべていた。
「ましてや私はリヒトフォーフェン家の実子、この家の財産を全て受け継いだ男です。まあ、目の前のことばかり追いかける叔父も気付きにくいでしょうな」
彼はそう言うと、座っていた道場から立ち上がる。
「もし今後、叔父が私を家族葬で終わらせたと言ったなら、その時は私の勝ちですよ」
そう断言をすると、その言葉が愛菜には理解できなかった。
そもそも彼、エンツォ・リヒトフォーフェンは噂に違わぬ秀才であると言うのは愛菜も知っていた。そんな彼が不敵に笑っており、明らかに叔父を敵として認識をしていた。
「(一体何をするつもりなの?)」
愛菜は困惑をしたままエンツォを見上げると、彼は自分に手を差し伸べてきた。
「立てますか?愛菜さん」
「…」
差し伸べられた手に何の感情も載っていない。だが、愛菜には今のエンツォのこの差し出す腕がとても恐ろしく見てしまった。一瞬、息を呑んでしまった後に彼女は彼の手を取った。
「よっと…」
そして彼女は道場で立ち上がると、自分とほぼ同じの身長であるエンツォを前に少し怯えるように見てしまった。
「門までお見送りいたしますね」
「…ありがとうございます」
そしてそのまま愛菜を屋敷の入り口までエスコートをする。
「…エンツォ様は、このまま?」
「ええ、私はこれから屋敷に戻って作業をしなければなりませんので」
彼はそう言うと、まだ仕分け中の調度品の仕分けを行うと言った。
そして二人は玄関前まで歩くと、そこで愛菜は乗ってきた車に乗り込む。
「ああ、渡したペンダント。できれば大切に使ってくれると嬉しいです」
「わかりました」
最後にエンツォに言われると、愛菜は頷いて車に乗り込んだ。
そして車を見送ると、エンツォはそのまま屋敷に戻って廊下を歩く。
「すでに愛菜さんのご実家との契約は今年で終わりだ」
退院直前、愛菜の父親の警備会社と叔父の運営する会社は契約更新を行わないことを決定した。
理由は経営陣の刷新による混乱が落ち着くまで静観をするためであった。
「(東雲家とは父の代からの付き合いだ。契約を一方的に切られて、叔父は動くでしょうね…)」
先代社長と仲の良かった企業の離脱により、他の会社でも動きが見られた。叔父はおそらくこれを制することとなるとエンツォは推察していた。
「(…そろそろかな)」
そして内心、次に叔父の打ってくるであろう手を想像しながら執務室に入って調度品の仕分けを行った。
数日後、復旧中の屋敷の中でエンツォは叔父からの呼び出しを受けていた。
「エンツォ様」
「うん、ありがとう」
屋敷の前に一台の車が止まり、そこに彼は乗り込む。
執事の手にはエンツォが持っていたカバンがあり、彼が預けていた。
「…」
いまだに復旧中で、昨日も残った調度品や家財の仕分けを行い、残っていた母の使っていた指輪をポケットに入れていた。
「(叔父に呼び出されるとは…)」
彼はそこで窓の外を眺めて車窓を眺める。
いつも見下ろしていた街並みであったが、そこには常に隣にいた両親の姿は無かった。
「(自爆した護衛の事は言わなかったけど…)」
事情聴取の時、彼は地下室で起こった爆発に関しては分からないと答えた。何処となく、聴取を行った治安官には話してはならないと脳裏で警鐘が鳴り響いたのだ。向こうも爆発の反動で記憶が飛んだかと判断をしてそれ以上の質問をする事はなかった。
自爆をした従者に関しては、死亡者リストを貰っていたので詳しい情報を貰っていた。だが、彼はおそらく叔父に命を受けた人間だろう、でなければ強盗の襲撃に合わせて爆弾付きのベストの入手や護衛に入り込むことなどできないからだ。
「…」
彼は街中の信号が変わるのを見て走り出すのを見ると、交差点でブレーキ音を立てながら突進してくるトレーラーを見た。
「ふぅ…」
その時、狩猟の教師は街の駅前で煙草に火をつけていた。
「…」
彼は駅前の空間で待ち人を待っており、時折周囲をぐるりと見回して確認をする。
ある依頼を受け、その目的のために駅に訪れていた彼は、そこで駅に歩いてくる一人の少年を見た。
「…なんてこったい」
そして少年を見た後、呆れた様なため息をついて彼は苦笑した。
「お待たせしました。先生」
少年は頬を少し擦った傷を負っており、それ以外は僅かに服がほつれている程度で片手に鞄を持っていた。
「本当に来るとは…」
彼はそこで軽傷を負ったエンツォを前に唖然となりながらも、荷物を持った彼に聞く。
「本当に行くんですね?」
「ええ、私は死人も同然ですので」
「…分かりました。既に話はつけておきましたので、こちらに」
そこで彼はエンツォに予め購入をしておいた切符を渡すと、直ぐに列車に乗り込む。その前に彼はマスクを購入すると、それを口元につけて顔を隠す様に覆った。
「本当にエンツォ様を消しに掛かるとは予想外でした」
「そうですか?肺のサイボーグ化を知られた上に、父の実子ですよ?」
二人は列車を待つ間、怪我を負ったエンツォに驚愕をした様子で聞く。
「会社は自分の物ですが、株式は持っていません。私が持っていることで購入もできない以上、奪うしかないと考えるのが叔父ですから」
「…」
エンツォは完全に叔父の性格を理解しての冷徹な分析をしており、末恐ろしく思ってしまった。彼の計画を聞いている以上、裏切ったらどうなるのかが逆に恐ろしく感じてしまった。
「哀れですな」
「どちらがですか?」
「…エンツォ様の叔父にですよ」
彼の鞄の中には銀行から引き出した共通電子通貨や金塊が入っている。恐らく、銀行からの引き出し記録を監視していた執事の通報を受けて今回の行動を行ったのだろう。
「まあ、まさか過積載のトレーラーに突っ込まれるとは思っていませんでしたが…」
そこでエンツォは、先ほど起こった事故を思い出していた。
「痛て…」
事故直後、エンツォは車内で目を覚ます。
事故直前にこちらに突っ込んできた過積載のトレーラーが突っ込んできたおかげで車は完全に押し潰されており、建物にめり込んでいた。敢えて防弾性能のない車を与えて来たあたり、向こうの本気度が伺えた。
「私を殺したいなら、後から銃撃でも爆弾でも叩き込めば良かったんですよ」
車の後部座席の足元に隠れていた彼は呟くと、潰れた車のドアを開ける。既に運転手であった執事のアンドロイドは顔や体が潰れて動けなくなっており、死んだも同然であった。
「…」
叔父が手配して、自分の盗聴などを行って監視をしていた執事になんの愛着もなかったので、彼は直ぐにひしゃげた開いたドアから抜けて助手席に置いてあった鞄を手に取る。
「やっぱり…」
そしてポケットから手袋を手にはめると、ほぼ無傷の自分の体を見る。あの事件でも思ったが、何処となく運が向いている様な気がしていた。今回の事故然り、何か命懸けなことに関してだが、自分は生き残る様な漠然とした何かを感じていた。
彼はそのままグチャグチャになった雑居ビルの裏のドアを開けると、周りに誰もいないことを確認して小走りで現場を後にする。
「…」
後ろの事故現場では、次々と野次馬が集まっており、モタモタしていられないと思っていた。もしこの事故で自分の死亡が報じられたのなら、叔父と軍警察は裏で繋がっていると判断できる。なぜならこういった事故で死亡判断を下すのは軍警察の軍医だからだ。
自分が地下室の爆発時のことを話さなかったのは、叔父と軍警察の繋がりを感じた為であった。もしあそこで正直に話していたら、自分は治療薬という名の毒で死亡していたことだろう。
「何処まで裏切りが続いているのやら…」
流石に世界的な組織である軍警察なのでここら辺だけであるだろうが、少なくともこの街は安全ではなかった。
エンツォはこのまま駅で待っているはずの狩猟の教師の元まで歩いていく必要があった。
「今頃、私の死体が見つからないので混乱している頃合いでしょう」
列車に乗り込んだエンツォは、そこで反対の席に座る狩猟の教師に言う。
「私としてはエンツォ様のやり方が恐ろしくてたまりません。もし事故の時に死んだり動けなくなっていたらどうするんですか?」
部の悪い賭けだと彼は言うと、エンツォは微笑んで答える。
「たとえ側から見れば分が悪くとも、私にとってみればベットすべきと考えたから実行したまでです」
無論、見返りも大きい物であると判断していた。
「恐らく、私が駅にいた事は後々防犯カメラで判明する事でしょう」
「でしょうな」
現在、マスクをして顔を隠しているエンツォであるが、街中に設置された防犯カメラを使用すればいずれその後の動向もバレてしまうだろう。
全く関係のない軍警察が出てくるのが一番な問題であった。
「特にエンツォ様はその目が問題です。監視カメラで顔を隠しても目でバレちまう」
彼はそう言い、エンツォのヘーゼルと青のオッドアイを見る。
彼の象徴的な双眸は、解像度の高い現状では直ぐにバレてしまう。
「ええ、なので服と共に顔も隠さなければなりません」
エンツォもその事を理解しており、途中で降りる予定の駅で荷物も含めた全てを交換する必要があった。
「そういった事はお任せを」
狩猟の教師はそう言うと、到着をした駅に降りてその足で古着屋に向かった。
「エンツォ様、匂いはご容赦ください」
「ええ、別に気にしてはいませよ」
エンツォはそう言うと、街の中の古着屋に入ってそこで彼が選んだ服装を選んだ。
「…」
そして古着を着た彼は少しごわついた古いシャツや、他人の匂いのついた服に一瞬鼻を摘みそうになった。
「ふはは、よくお似合いで」
それを見た教師は軽く笑うと、金を払ってから元々着ていた服を持って店を後にした。
「最後に、後はこれです」
そしてエンツォが着替えている間に狩猟の教師は濃い色のサングラスをかける。
「まだここじゃあ本命が手に入らないんで、これで我慢してください」
彼はそう言うと、着替えたエンツォと共に再び別の列車に乗り込んだ。
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