傭兵団に入ってからの時間は楽しかった。
本来なら、数年間だけお世話になってからある程度成長をした段階で別の仕事を探そうと思っていた。
「坊主」
「はい?」
傭兵団の中でも会計係を務めて早数年、少年は傭兵としての経験も髭面の傭兵によって鍛えられていた。
「今日も出るぞ」
「わかりました」
彼は言うと、少年はフルフェイスヘルメットを被ったまま部屋を出る。
「すっかり馴染んじまったか」
「まぁ、何年もお世話になっていますからね」
少年は成長期に入り、成長をした身長を前に答える。
普段の仕草や口調から大人びていると言われてきていたが、最近は成長期に入ったおかげで相応の口ぶりになりつつあった。
「しかし背が伸びるのが早いな」
「成長期ですよ。おかげでこの前また服を新調する羽目になりました」
少年はそう言うと、髭面の傭兵は笑う。
「その様じゃあ、早めに終わるタイプだな」
「…縁起でもないこと言わないでください」
その後、身長が一六〇半ばで止まったことがコンプレックスになる男の発言である。
「ははは、その方が俺はいいと思うぞ?お前が身長一八〇とかになってみろ。みんな引いて逃げるぞ」
「酷い言い方だ」
少年は苦笑をすると、傭兵団が拠点にしている倉庫に出る。
これから仕事のために準備をしている他の傭兵達を見ていると、一人が話しかけてきた。
「ようレッド。準備か?」
「そんなところだ」
軽く話した後、倉庫を歩いて彼は団長と話す。
「すっかりヘルメットがトレードマークかよ」
「常に被っていますからね」
少年の被るフルフェイスヘルメットは常に外に出る時はつけているため、他の傭兵達も彼の素顔を一度も見たことがなかった。
「…そうだな」
髭面の傭兵は少し表情を引き攣らせる。
顔も本名も年齢も、彼が加入してから数年が経つが、いまだに誰も知らなかった。
ただ嘗ての友人から借りた名であるレッドサンが、名前であり唯一分かっている情報であった。
時折、元々レッドサンを名乗っていた彼の教師役をしていたという昔の友が訪れており、少年と話をしていた。二人は会うと必ず街に繰り出して消えてしまうので後を追いかけても無駄であった。
今まで何人もの仲間が彼の情報を仕入れようとしてみたが、いずれも失敗して帰ってきていた。
「さて、仕事だ。準備は怠るなよ?」
「分かっていますよ」
少年は頷くと、自分の武器である長銃身に改造された自動小銃を手に取る。
手に取った武器からも分かる通り、彼の傭兵としての役割は選抜射手である。昔から狩猟をしていたことで狙撃が得意な彼は自動小銃を購入し、改造して使用していた。
「今回の依頼は?」
「何、ただの企業間抗争だ。軽く戦力の補充を依頼されているだけだ」
「了解」
そこで自分の銃の点検を始める少年…いや、レッドサン。その目は見えないが、雰囲気は経験を積んだ傭兵の姿をしていた。
「っ!?」
戦場の荒野を歩いていたPMCの兵士が突如、銃撃を受けて腹を銃弾が貫通して倒れる。
「狙撃だ!」
「どこから!?」
途端に地面に伏せて側にいた重量級サイボーグが持っていた盾を展開して倒れた兵士を引きずって隠れる。
ッ!
直後、再び銃声が聞こえると隠れていた盾の上を銃弾が掠めた。
「くそっ!」
「発火炎は!?」
「見えなかった…」
時間帯は深夜、小雨の後で霧の立ち込めていた戦場は開けているにも関わらず視界が悪かった。
「…一名ダウン。ヒット」
その様子をスコープから覗き込んで見ていたレッドサンは結果を口頭で伝えると、隣に居た仲間が言う。
「すげぇな、また有効射程に入ったばっかだったろう」
6.5mmケースレス小銃弾を使用する半自動小銃、その銃口は消音器が取り付けられていた。
中に少量の水を入れており、消音効果を上げているにも関わらず長い銃身の影響の高初速で意味がないようにも見えた。しかし発火炎は消せるので、居場所が露見しにくくなっていた。
「この距離ならこいつでも当たりますよ」
フルフェイスヘルメットの奥で彼は言うと、スコープで退却をしていくPMCを眺める。
彼らは五名ほどの班で動いており、一定期間の間戦闘を行う依頼を受けていた。
「逃げ帰っていくぞ」
「よし、助かった」
「あとどれくらい待つんだ?」
「四時間…ですね」
レッドサンは内側に付けた腕時計を確認すると、銃をバイポッドを展開したまま地面に置く。
長銃身に改造をした影響で重量が四キロを超えてしまったのでずっと持っていられなかった。
「長ぇなあ…」
「それまで敵が来ないことを祈っとけ」
丘の上を陣取っている彼らはそう言うと、狙撃を行ったレッドサンに言う。
「レッド、そう言やあ金を貯めてるって話だが、どうなったんだ?」
そして待っている間、暇なので傭兵達は各々持ち込んだスマホでゲームをしている中、一人が聞いてきた。
彼はこの傭兵団に入った時の会計係をしていた時から報酬で得た資金をほぼ全額貯めていた。理由は自分用にオートマトンを買うためである。
オートマトンを購入するために傭兵団では頼み込んでオートマトンの操縦をゼロから教えてもらっており、一時期は代役で射手と操縦手を経験していた。
「もう少しで終わりますよ。この仕事が終わったら買えそうです」
「マジか」
レッドサンは答えると、聞いていた一人が羨んだ。
「良いな〜、羨ましいぜ〜。俺もオートマトン買いてぇ」
「報酬を分けた直後に娼館に突撃している身で何言ってんですか」
呆れた目線をレッドサンは向けると彼は言った。
「しょうがねえだろう?男は女には弱え存在なの」
「なお綺麗で尻がでかいに限る?」
「そうさ。あと体力旺盛なこと!これが一番さ!」
「正直、夜通しでやっていてよく壊れないですね」
そんな淫談にも軽くいなしてレッドサンは答えると、その日の仕事を終えるまで暇を潰していた。
『改めて思いますが、凄まじい人生経験をお持ちですよね。スフェーン』
「いやぁ、正直ストーリー性高すぎて笑えないんですが」
ガレージの中でスフェーンはルシエルに言う。
改めて傭兵時代、まだ自分が男という性別であった時の事を振り返り、絶句していた。
あの後、貯めた資金で自分専用の単座型オートマトンを購入し、傭兵団のオートマトンのパイロットに転向した。
組織自体には十年ほど世話になり、その後に独立。あとはのほほんと傭兵業の傍世界中を回っていた。
だが、この傭兵という仕事が意外にもマッチしてしまったことで、次第に傭兵としての仕事は忙しくなってしまっていた。
その途中でブルーナイトと言う同業者と知り合い、コンビを組んで戦った。
フルフェイスヘルメットはトレードマークとなり、私的な用事以外で外す事は一切なかった。
「まあ結局、仕込んだ爆弾は無事に爆発をしたわけですが…」
そこで作業台の上でパチンコ玉状の臨界エーテルを乳鉢の中に入れながら彼女は言う。
彼女の言う二〇年越しの時限爆弾とは、会社の有していた工場などの土地関係の書類であった。
持っていた会社は土地を購入ではなく、一定期間の借用を行なっており、その期限が二〇年後にあったと言うことだ。
広大な土地を一気に借りたことで、無数の土地の権利者と個々で結んだ契約が山のように積み上がっており、彼らと次の契約を行うためには新しく家々を回って契約をし直さなければならなかった。
そんな面倒な書類を、遺産を相続したときに確認をしていたことで、その面倒な事を叔父に丸投げをしたのだ。
そのお陰でその複雑怪奇な土地関係の問題が一気に降りかかったことで工場の稼働が長い間停止し、その対応で一気に会社の経営は傾いた。そしてすぐに損切りを叔父は行い、会社を売却した。
「んで、その資金で作ったのが…」
『アイリーンですか』
「そう」
今は無き、金融機関から始まった一大企業。数多の企業を買収したことにより、膨張を繰り返した挙句に破裂した企業。
その無限の財を一代で成し遂げた実業家、パッチランド・リヒトホーフェン。
運が味方をした時の儲けかたは凄まじいなと、内心感心していた。少なくとも自分は怖くてそんな博打のような経営はできなかった。
なお、この詳しい情報をなぜあの場所から離れた自分が知っているのかと言うと、自分の後援者が教えてくれたからであった。
『お久しぶりです。エンツォ様』
そう言い、かつて母の付けていたペンダントを下ろしていた女性が挨拶をした。
どう言うわけか、彼女は姿を消したはずの自分を捜索をして見つけ出してきたのだ。
かつての愛機、ロート・フォッカーは彼女から譲られた機体であった。
「…今思ったけど、これでバレた説」
『え?今更ですか?』
スフェーンは自分が暗殺された理由を今になって把握すると、ルシエルは呆れた様子だった。
『しかし、罪なお人ですね』
そして事情を知っているが故にややジト目でスフェーンを見た。
「…これを知っているプエスタ達が死に際に暴露本書くんじゃない?」
『なんですかその信頼…』
「だってやりそうだし」
スフェーンは半ば確信した表情で言う。
まだプエスタ・シラヌイと東雲愛菜の出したレッドサンの暴露本が爆発的流行を生み、そのストーリー性の高さも相待ってオペラの題材となるより昔の話であった。
『しかしスフェーン、なぜプエスタ氏に恋を?』
その質問にスフェーンは乳棒を手に取ってから少し考えて答えた。
「多分、母に似ていたからでしょうね」
『なるほど…』
妙に信憑性があり、また学んだルシエルは理解できた。
「実際、母親と似たような性格の嫁さんを連れてくるってことは、それだけ愛されて育った証拠よ」
『わかりやすい指標ですね』
「まあ結婚を考えた彼女がいたら、まずは親を見ろって言うのと似たような理論よね」
親の性格は子供に影響する、と言う持論を持っていた彼女はそこで乳鉢で臨界エーテルを潰しにかかる。
ガンッ!「ん〜、硬った」
そして乳棒で潰そうとしたが、先に割れてしまった乳鉢を見て呆れるほどに硬い臨界エーテルを前にため息を吐く。
「まあ、私に傭兵を教えてくれた人は十年で死んじまったけどね」
『ですね…』
スフェーンの記憶を見たルシエルは頷いた。
二〇年の爆弾を聞いていた狩猟の教師はエンツォを傭兵にした十年後にエーテル肺炎により死亡した。『エンツォ様の爆弾を見れずに残念です』と言って彼はベッドの上で静かに眠った。
「でも、いずれは会えるかもしれないね」
エーテル病で死んだ教師の事をふと思い出す。今の所、彼の姿は見つかっていなかった。
『次の旅の目的にでもしますか?』
「うーん、多分もういないと思うんだよなあ…」
スフェーンはその人柄を想像してもう色界からいなくなっているだろうと想像していた。
『ですがスフェーンを待っている場合もありますよ?』
「…だと良いけど」
彼女はそこで手に臨界エーテルの小球を手に取る。
「…ちょっと怖いけどやってみますか」
そこで彼女はそれら臨界エーテルを手の中に入れてグッと強く握ると、目を空色に変えて周囲のエーテルを一気にまとめ上げて手の周りで固定し、とても濃いエーテル空間を擬似的に作り上げる。
「…」
飽和状態のエーテルの中で手の中に溜まっていた臨界エーテルを覆っていたエーテルは次第に溶けたように周囲の臨界エーテルの小球とくっつき始め、最終的に彼女の手の中にあった臨界エーテルは一塊となって余分なエーテルをそのまま取り除いていく。
「よし…」
そして臨界エーテルとなったところを注射器を刺してシリンダーを引く。
臨界エーテルが注射器の中に吸い上げられると、全て吸引したところで手が止まる。
「よし、上手く行った」
『…本当にやるんですか?』
「もちろん。私達の安全のためにね」
ルシエルは少し不安そうにするが、スフェーンはそれを軽く収めた後にその中身の入った注射器を薬瓶の中に入れた。
「これで準備完了」
そしてその薬瓶をポケットに入れる。一滴でも取り扱いを間違えれば都市一つが吹き飛ぶ代物をポケットに放り込んでいた。
『もうすぐアンフィ・テアトルムに到着をします』
「ん、了解」
そして彼女は革ジャケットを羽織る私服姿、大人の姿で一対の鹿角を伸ばしながら準備を終えた。
「んじゃ、行きますかね」
珍しく腰にベルトを巻いてホルスターを下ろした彼女は運転室に出ると、視界の先に小さな町を見た。
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