TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#349

「今まで何をしていたんだ?」

「秘密」

 

夕方のバル、バーカウンターの隅で二人の男女が話す。

片方はアブサンの水割り、もう片方はアブサンのソーダ割りを飲んでいた。

 

「まさかずっとアブサン飲んでた?」

「…そうさ。その方が分かりやすいだろう?」

 

ジェロームは隣に座る女性に小さく頷く。

 

「それ以前に顔とでかい体ですぐに分かるっちゅうねん」

「…」

 

後ろ姿でバレていたのかとジェロームは隣に座る女性に今更な事を指摘されて表情を少し引き攣らせた。

 

「…しかし、その姿で来るとは予想外だ」

「そう?いいものでしょ」

「…気味が悪いと言っておこう」

「コイツ…」

 

少なくとも、自分の知っている姿とはかけ離れた隣に座る女性にジェロームは困惑を抑え込んで答えた。

その反応に女性は呆れと納得の表情でジト目を向けた。

 

「そりゃあこの体で十二年も過ごせば変わりますさ。色々と」

「…」

 

嫌味たっぷりに言った彼女にジェロームは黙って聞いた後にグラスを傾ける。地雷踏み抜いたかと、女性は思った。

 

「…やはり君は少し倫理観がずれているようだな」

「そう?」

 

女性は言うと、ジェロームは頷く。

少々思うところはあったが、彼は死生観に関する何かが一般人と外れているような気がしていた。

 

「…今の名前は?」

「色々あるわよ」

 

彼女はそう言い、そもそも身元を隠して動いているのだからそうだよなと納得をしてジェロームは聞く。

 

「…一番使っているのは?」

「スフェーン・シュエット」

「…なるほど」

 

名前を聞き、ジェロームは脳裏にその名前の由来を考える。

確か、古語の一つである英語での表記のはずだ。どちらが名前と苗字なのかは分からないが、宝石とフクロウを意味する単語を名前にしていた。

 

「スフェーン…か」

 

確か石言葉は「永久不変」と言う意味があったはずだ。他には「人脈強化」や「成功」、「純粋」と言ったものがあるはずだ。

そしてシュエットは英語でフクロウを意味する言葉だ。フクロウは太古より多くの伝承で幸運の象徴であり、神秘的な存在として崇められている。

あの状況から生還したと言うのなら、これほど似合う名前もないだろう。

 

「いい名前だな」

「…フッ」

 

ジェロームにスフェーンは少し笑った。

 

「さて、そろそろ飲み終わるぞ」

 

ジェロームはそう言い、最後の一口となったグラスを見せる。そしてそれを傾けた。

 

「ん、ちょっとお待ち」

 

スフェーンは残っていたアブサンのソーダ割りを一気に飲み干すと、空になったグラスのそばにウィール通貨を丁度分置くと席を立つ。

 

「さて、行きましょうか」

「…分かった」

 

ジェロームはこれからどこに行くのだろうかと不思議に思いつつも、彼女の後をついて行く。

店を出る時、毎日入り浸っていたジェロームを見てバーテンダはやや驚いて見ていた。

 

「しかし懐かしいね。もう二〇年以上昔になるのか」

「ああ、そうだな」

 

街を歩く二人は、街灯が点き始める頃合いに外を歩く。

 

「…変わったな」

「そりゃあね」

 

二人はそれぞれ私服姿で歩いており、出会った頃のような戦闘服は羽織っていなかった。

 

「しかし、性転換をするとは…完全サイボーグか?」

「うーん…少し難しいわね」

 

長い事女性として生きてきたからなのか、口調もそれに引きずられて話している。しかし完全サイボーグであると言う質問に彼女は少し困った様子を見せた。

 

「?」

「まあ、深く気にすると面倒よ?」

「…そうか」

 

複雑な事情を前にジェロームは足を進める。

 

「レ…スフェーン、少し寄り道をさせてくれ」

「ん、良いわよ」

 

ジェロームは言うと、彼はまず泊まっていた宿に向かってチェックアウトを行う。

 

「やれやれ、どのくらい泊まっていたの?」

「五日だ」

「なるほど。ちょっとそっちの方が早かったわけね」

「今日着いたのか?」

「朝にね」

 

そんな短い会話をしながらフロントに鍵を返し、部屋から持ってきたん荷物を持ってから宿泊料金を支払うジェローム。

その時、スフェーンはジェロームが見慣れない小銃を持っていたことにもちろん気が付いたが、ここでは指摘しなかった。

チェックアウトを行うジェロームにフロントの年老いた女性は何をするのかと想像を掻き立てて笑顔で見送った。

 

「絶対、あのおばちゃんこの後のラブホ想定してたでしょ」

「やめろ、俺はノンケだ」

 

ジェロームは少々呆れてスフェーンに言う。

この街は夜であっても騒がしい、俗に言う眠らない街であるが、こういう住宅街は閑散とした静寂が包んでいた。

 

「まあこっちだって勘弁よ」

「ぜひそうであってくれ。これで目覚めてたとか言っていたら、お前を徹底的に軽蔑していたぞ」

 

ジェロームはスフェーンに向かってそう言うと、軽く怪訝な表情でスフェーンを見る。

 

「安心しなさいって。興味ないし、そもそも性欲無いし」

「…そうか」

 

それを不幸と呼ぶか、安心と呼ぶかは人によって分かれるところであるが、少なくとも目の前のスフェーンに関しては後者の結論だろう。

時刻は午後五時ちょい前、今日の日の入り時刻は午後六時半ごろであった。

 

「で、これからどこに行くんだ?」

「絶景が見れる場所さ。私がこの町で一番勧められる所」

 

そして段々と陽が傾いてくる中を二人は歩いていく。

 

「女体化手術で身長を盛ったか」

「良いでしょう?おかげで色々と便利よ」

 

身長が一七〇半ばほどあり、以前は身長の低さがコンプレックスとなっていたスフェーンは少々胸を張った。

 

「でも小さいがな」

「…一回しばいて良い?」

 

しかしそれでも身長が二メートル近くあるジェロームには届かず、少々視線の角度が浅くなった程度で終わっていた。

ただ彼女の場合は角があるので、それで身長のカサ増しがされていた。

 

「まぁまぁ、遺伝的な問題だ。諦めろ」

「むしろその身長でなんでオートマトンに乗れたのかが疑問なんですけど」

 

スフェーンはそう言い、この巨漢でよく狭いオートマトンのコックピットに乗れたなと疑問に思っていた。多脚戦車や他の装甲戦闘車両ならともかく、身長制限が軍警察ではあるほどのオートマトンのパイロットに首を傾げていた。

 

「第三世代機からならそれほど苦労することもない。意外と広いんだぞ?」

 

ジェロームはそう言い、スフェーンに自分がオートマトンのパイロットになれた理由を話す。

正直、天然でこの高身長なのだから巨人症か何かに罹っているんじゃないのかと思ってしまう。

 

「それを言うなら君だって、今の状態なら乗れないんじゃないのか?」

 

彼はそこでスフェーンの頭に生えた一対の鹿角を見る。これのおかげで自分と同じくらいの身長になっていた。

 

「最悪自分で切って落とすわよ」

「…なるほど、痛くないのか?」

「全然?」

 

そんな他愛もない世間話をしながら街を歩く二人。あぁ、懐かしいなぁ。とジェロームは遥か昔の共同生活をしていた時のことを思い出す。

あの頃のようにこんな日常的なことから入ったり、ジェロームが彼だった頃のスフェーンに質問をしたことから話が膨れたりと、色々と馬鹿な事をやって笑っていた。まるで十二年前に戻ったかのような感覚になり、ジェロームはそこからの人生をふと振り返りそうになってしまった。

 

「(いかんな)」

 

咄嗟にジェロームはその考えを捨て去ると、スフェーンとなった彼の半歩後ろを歩く。

 

「オートマトンには乗っているのだな」

「偶にね。まあ本格的に乗るのはやめたよ」

 

スフェーンはそう言い、レッドサンは死んだのだと言った。

 

「なるほど…」

 

自分も傭兵を引退してから十年以上が経ってしまった。傭兵ギルドの初代に任命された時に本格的に全てを捨てたのだ。

会員番号二番のギルドカードを返納し、完全にあの世界から手を引いていた。ちなみに〇番はギルド証申請時のモデル、一番は嫌がらせ目的で桜花武士団の団長が推薦をしたレッドサンである。三番以降は傭兵ギルド創設に協力をした傭兵たちが続いていく。

 

「ってか、傭兵ギルドのあの銅像は何?」

「あれか?」

 

丁度スフェーンが聞いてきたので、ジェロームはその訳を語る。

 

「桜花の団長が推薦をしてな。お前、結構恨まれてんぞ?」

「心外だよ。どうして私がギルド創設の裏の主人公みたいになってんだよ」

「実際、俺に傭兵ギルド創設を促したのは君だろう?」

「…それはそうだが」

 

あの時、全てのレッドサンの資産を換金して渡してきた金塊。結局、出所は不明であったが、あれほどの金塊であれば傭兵ギルド創設に必要な資産があった。

 

「まあついでに完全に赤砂を解体できたんだ。おかげで俺は色々と制約から逃れられたよ」

「…直後に捕まってますやん」

「ああ、熱心に捜査した治安官がいてね」

「…ロトか、全く。生真面目な奴だ…」

 

すぐにスフェーンは誰が逮捕したのかを察すると、同時にため息をついた。

 

「どうせ司法取引だろ?」

「ああ」

 

スフェーンにジェロームは頷くと、彼は続ける。

 

「あの時、世間はアイリーンを悪役にしたがっていた。戦争介入を目録む軍警と、介入があろうと勝利したいパシリコ。双方の思惑の壺ということだ」

「うわぁ、複雑怪奇〜」

 

予測をしていたとはいえ、中々にブラックな状況を直に聞いてスフェーンは表情を引き攣らせる。

 

「まあ、こっちとしてはロトが結婚して子供までできた方が衝撃だがな」

「…は?」

 

その時、ジェロームから唐突に落とされた爆弾に一瞬スフェーンの脳がフリーズを起こした。

 

「え?ちょっと待って?ロトが、結婚?んで、もう子供もいると?」

「ああ、同業の治安官と結婚して少し前にご懐妊だよ」

「…マジかぁ」

「まあ、気持ちはわかる」

 

ジェロームは頭を抱えて座り込んでしまったスフェーンに頷く。自分もまだ婚約をしたアンジョラとの結婚を先送りにしていたというのに、先に育て後である子供に色々と人生の通過儀礼を先に越されてしまったのだ。

特にスフェーンの場合、本気で養子を考えた身であるためにそのショックは大きかった。

 

『後悔しています?』

「(ダマらっしゃい)」

 

ルシエルに軽く本気(マジ)で答えると、彼女は顔を上げる。

 

「すぅぅ…変わるなぁ、時代って」

「十年もあれば人は変わる。俺とお前のようにな」

 

ジェロームは言うと、そこで郊外の足場がアスファルトから乾いた土に変わって久しい場所に辿り着く。

 

「…目的地はこの先か?」

「イエス。変わっていなければ圧倒されると思うよ」

 

スフェーンはそう言うと、かつて傭兵時代に見つけた秘密の場所にジェロームを案内した。




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