「…」
ベッドに横になって一人の老人がペンを走らせていた。
その老人の両腕は張りのある肌のように見え、体や足の渇いた肌とは合わずに違和感があった。
サイボーグ化手術をした患者の特徴であり、サイボーグ化をした部位は衰えないので服を脱ぐと違和感があった。特に表面の擬似皮膚を元の体に寄せたものを使用した場合はそれが顕著に現れる。
この老人は腕の擬似皮膚をサイボーグである事を示す黒いラテックスに交換をしようとも思ったが、体力がその前に保たないほど身体が衰えていた。
「ジェロームさん」
「ああ、何かな?」
ベッドの上の住人となった老人は看護師に聞かれて声のする方に顔を向ける。
初代傭兵ギルド長、ジェローム・サックスは一〇〇歳を超えて久しいかった。暗暦末期から世暦初期にかけて活躍をした傭兵の傑物と言われていた御仁も、歳を前に色々と体にガタが来ていた。
「ロトさんが来ましたので」
「ああ、通せ」
彼はそう言うと、見舞客を部屋の中に通した。
彼が今いる病院は、今は亡き妻が院長を務めていた病院である。
「お久しぶりです」
「ああ、いつぶりだろうか」
そして病室に通された育て子に微笑んで出迎える。
ロトは脳以外をサイボーグ化しており、そのおかげで姿は本来よりとても若い姿であった。
「相変わらず君は変わらないな…」
「完全サイボーグの一歩手前ですからね。まあ、これでもだいぶ歳は行きましたよ」
そう言いながら病室の椅子に座り込む。
「どうですか調子は?」
「ああ、今日はましだな」
体の衰えから一人で歩けなくなってから久しい彼はロトに答える。
「今は中将か?」
「ええ、メールで伝えたはずでは?」
「すまない、最近は物覚えも悪くなってきたんだ」
二人は静かに話し合う。
「で、院長は何をしていたので?」
「孤児院の子が手紙を書いてくれてね。その返事だよ」
眼鏡をかけてジェロームはテーブルに置かれた紙を手に取る。
彼は傭兵を引退した後、この病院に併設された孤児院の院長の傍ら軍警察にオートマトンの操縦方法の教練を行っていた。
「そう言えばロト、子供はどうした?」
「…この前、三人目の玄孫が生まれましたよ」
「そうか、それはめでたいな」
ジェロームはロトに言うと、彼は軽くため息を吐いた。
「言っても、院長も子沢山ではありませんか」
「ははは、人工子宮も使ったズルも混ざっているよ」
引退後、結婚をした彼は実に八人の子を産んだ。そのうち三人はアンジョラの体調を考えて人口子宮による人工授精で産まれた子供であった。
「でも羨ましいです。全員が元気な子で」
「ああ、私もそう思うよ」
産まれてきた子供たちは全員が健康そのものであり、乳児の際に死亡をした例などはなかった。ロトは三人の子がいるが、一人は流産をしていた。
「この前、二人目の来孫を見せに来てくれてね」
「なるほど…」
ロトはジェロームと軽く話していると、まだ会話ができて元気そうな様子に安堵して席を立つ。
「じゃあ院長、私はここら辺で」
「ああ、悪いな」
ジェロームはそこでロトを見送ると、そこで彼に言う。
「ロト、元気にやれよ」
「…ええ、勿論ですよ」
ロトはそこで部屋を出る時、深く一礼をしてから部屋を出る。
そして再び一人になったところで彼はベッドに深く倒れて窓の外の景色を見る。
「…今頃、何をしているのやら」
そこで彼は旅行の最後の出来事を振り返る。
あの後、あの岩の前で目を覚ました自分は、不安定な場所で長い時間寝ていた代償に腰を痛めながら下山した。その時、穴の空いた肺は傷ひとつなく、足元には裂けた拳銃弾が転がっていた。ただ血でシャツが汚れていたので緊急で着替える必要があったが…。
その後、イルカに帰ってアンジョラに涙をされながら帰宅を祝われ、その直後に結婚をした。それから何十年、軍警察に教育の傍ら孤児院で多くの孤児を受け入れて見送ってきた。
「…歳かな。疲れやすい」
彼は手紙を書き終えた後、ホッと息をつく。
こう言う時、あの時に若返って見せたあの能力が羨ましいと思ってしまう。嘗ての相棒は、今頃どこで何をしているのかは音信不通となった今では分からない。
「…」
そして窓の外から見えると、開いていた窓から隣の孤児院から子供達の声が聞こえる。丁度、今の時間は小学生以下の子供たちがグラウンドで走る時間であった。
「(まったく、良い余生を過ごさせてもらったよ)」
そしてゆっくりと目を閉じると、彼はそのまま目を覚ます事はなかった。
「痛っ!」
突如、デコに強い痛みを感じて目が醒める。
「…?」
何が起こったのかと首を傾げて非常にショボショボする視界を数回瞬きをすると、自分を見下ろす影を見る。
「やっと起きた。この眠り姫め」
左手でデコピンの構えをして自分を見下ろしていた女性を見て私は少し驚く。
「スフェーン…」
彼女は最後に出会った何十年も昔から姿が変わっておらず、あの女性の姿をしていた。自分を横から蹲踞をして自分を見ていた灰髪の女を見ると、そこで違和感を覚えた。
「?」
妙に高い声が耳に響き、聞いたことのない声がした。
「??」
そして困惑気味に妙に肌寒い気温にくしゃみが出る。
「へぐしゅっ!?」
そしてくしゃみをした声が随分と可愛らしく、同時にそれが自分の頭に鮮明に響いており、自分から聞こえているような感覚だった。
「???」
どう言うことだと困惑気味になっていると、そこでスフェーンが紙袋を渡してきて言う。
「ほら、このままじゃ風邪引くから。これ着なさい」
「あぁ…すまない…????」
どう言うことだと首を傾げながら紙袋を受け取った時、そこでみずみずしい張りのある肌を保つ華奢な腕を見た。
「は…?」
そこでようやく声に疑問が乗っかり、同時に自分が真っ裸のままシートの上で寝転がされていた事実を知る。そりゃあ寒いわけだ。
「って、問題はそこじゃなくて…!?」
私はそこで今の言葉が誰から出たのかがようやく追いつく。
「は?え?ん?」
どう言うことだと疑問に思っていると、紙袋の中身を見て絶句する。
「おい、なんだこの中身は!?」
そこで彼女は紙袋の中身を見て絶句する。中にはがっつり女性下着とフリフリの白黒のゴスロリのドレスが入っていたからだ。
「どう言うつもりだ!?」
恥をかかせる気かと怒鳴ろうとしてスフェーンを見ると、彼女は徐に手鏡を渡してくる。
「いや、その見た目で反論されてもねぇ?」
ニヤニヤと笑っている彼女にどう言うことだと思いながら鏡を見た時、絶句した。
「なっ…!?」
手鏡には土の少し付いた黒髪短髪に、青い目を持った少女の顔が映り、頭の上には大きな尖った猫耳が付いていた。どうして頭に土がついているのかとか、そういう疑問が丸ごと吹っ飛んだほどの衝撃であった。
「え?まさか…」
恐る恐る本来はヒトミミがある場所に手をやってみると、そこには何もない深い毛の塊があった。
「…」
そして次に頭の耳を触ってみる。もふもふとした銀色の耳毛が生え、触れると感覚があり、また手鏡はリアルタイムで触れた手を見せる。
「く、黒猫だ…」
私は猫耳に何度も触れてしまっていると、後ろの方にも違和感を感じたので振り返ってみる。
「んん?」
すると私は黒くてまたもやフワフワとした黒い尻尾が二本あることに気が付く。
「ほ?」
その時、二本の猫の尻尾と聞いて脳裏に妖怪猫又が過った。
「あの〜」
するといつまでも困惑する私にスフェーンが言う。
「トリップするのは良いけど、ここヌーディストビーチじゃないから露出狂で捕まるねん」
「あっ」
そこで私は今まで真っ裸でシートの上にいた事を思い出し、少し慌ててスフェーンの買ってきた服を着る。
「えぇ…」
しかし女性用下着を前に少し嫌悪してしまう。因みに言うと悲しいかな、ムスコは旅立っていました。なんなら本来そこにあるべき生殖器すら無いんだが?
「ほら、早く着替える」
「…へいへい」
スフェーンに急かされ、私は下着を着た後にゴスロリのドレスを着る。
「あら、お似合いじゃないの」
「これは新手の辱めか何かだろう?!」
私はスフェーンにたまらず叫ぶ。
そしてそこで今更だがハッとなって周りを見回すと、そこには多数の墓が置かれていた。
「墓地?」
「左様。土葬のおかげで簡単に体が復元できたわよ」
彼女はそう言うと、シャベルで山となった土を掬って穴に埋める。
どうやら彼女は穴を掘って墓泥棒をしていたらしい。
「…犯罪者め」
「生き埋めの方がよっぽど大問題でしょうが」
スフェーンはそう言うと、反対の土の山に声をかける。
「おーい、埋めるよ」
そこで横を向いた時、彼女の髪が短いウルフカットになっていることに気がついた。
「分かりました」
すると彼女の話しかけた土山の奥から一人の同じ髪色の少女が顔を出した。
「っ!?」
少女は角こそ無いが、顔立ちがスフェーンとそっくりであった。
自分の覚えている幼女姿の彼女であり、違いと言えばオッドアイの位置が鏡写しのように逆になっている事だろう。
「彼女は?」
「紹介するわ。妹のルシエルよ」
スフェーンはルシエルを紹介すると、すぐに彼女はシャベルで埋め戻しをしながら反論する。
「姉です。事あるごとに騙そうとしないでください」
「ん?姉?妹?」
どう言う事だと疑問が生じ、私は目を白黒させる。
「まあ今は詳しく話せないから。とりあえず埋めるの手伝って」
「…はぁ」
おあつらえ向きに園芸用のスコップがあったので私はそれを手に取って掘られた土を戻していく。
「っ!」
その土を持って穴を見た時、思わずギョッとなってしまう。
そこには人骨が土で覆い被されつつあり、自分がデコピンをされた場所的に色々と推察できてしまったのだ。
「ちょっと強烈だったかしら?」
「…この場合、蘇りか?それとも生まれ変わりなのか?」
自分の骨を見て考える私は土を落として被せる。
「なんで自分の死体を見なきゃならないのか…」
「悪かったわね。でも墓を深く掘りすぎな君の親族側にも問題があるわよ」
「飛んだ責任転嫁だなおい」
私は思わずそう言うと、スフェーン達と共に土を元の場所に戻していった。
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