TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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最終回です。
ここまで一年以上お付き合いくださり、ありがとうございました。


#353(最終回)

「うしっ、終わり終わり〜」

 

最後にシャベルで地面に叩きつけて固めると、一仕事を終えたスフェーンは両腕を伸ばす。

 

「んで、私の墓を掘り返して楽しかったか?」

「楽しいと言うより面白い。いや、興味深い」

「…」

 

スフェーンは即答すると、私は彼女に聞く。

 

「あの治療薬か?」

「イエス」

 

自分がこうなり、身長が大きく縮んでスフェーンを見上げるほどの身長となった事実に的確にこれの原因を言い当てる。

 

「あれは何だ?」

「純度100%の臨界エーテル」

「っ!?」

 

彼女の口から出てきた物質に私は吹き出してしまった。

 

「臨界エーテルって、そんな爆弾を打ち込んだのか」

 

少なくとも、自分の持っている知識では臨界エーテルはとても危険な物質であると記憶していた。

少しの衝撃で都市一つを吹き飛ばせてしまう物質を自分の右肺に打ち込んだスフェーンに若干の狂気を感じた。

墓は芝生までしっかりと丁寧に埋め戻した後に墓石を戻す。

 

「しかし久しいね。記憶の方は?」

「…死ぬ直前まではっきりと覚えているよ」

 

私は数十年ぶりに再会を果たした元相棒を見上げる。

現在、私の身長は男の頃よりも大幅に縮んでいた。自分が性転換をしていると言う事実については問い正したかった。

 

「よし、記憶の方も問題無さそうなら…」

 

するとスフェーンは私のデコに手を触れると、途端に不思議な感覚に襲われた。

 

「うおっ?!」

 

思わず驚いて声が出てしまう。なんと言うか、一気に色々なものが入ってくるような圧倒的な解放感というべきか。色々なことが繋がっていくような、そんな感覚に襲われる。すると、

 

『おはようございます。ジェローム・サックスさん』

「ぬおっ!?」

 

唐突に脳内に自分に話しかけてくる誰かの声がした。女性の声だが、自分よりも少し低めの声をしていた。

 

「よし、そっちも起きたか。やっぱり純度の高い核はこうなるのか…」

 

そんな驚いた私にスフェーンは話を一人で進めており、脳が理解できない状況だった。

 

「ちょっと待ってくれ」

 

右手を前に出して私はスフェーンに言う。

 

「聞きたい事は山ほどあるのだが、どれから聞きたいのか分からないんだ」

「OKオーケー、まあここを出ながら順々に聞いていきましょうや」

 

スフェーンは混乱をする私を軽く宥めると、ルシエルが言ってきた。

 

「スフェーン、墓地の閉鎖時間は決まっていますよ」

「うい〜、柵越えて入ったから不味いのよね」

 

シャベルとスコップで人の墓を掘り起こした不届者達はそこで一仕事を終え、私を起こすと三人は墓地を後にした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「で、あれから何年経った?」

 

カウンター席に座り、スフェーンは聞いてくる。

 

「さあ?もうまともに数えてすらいない」

 

カウンターの中では黒猫の獣人となった私は洗った陶器をタオルで水拭きをする。店内では私とスフェーンの他にも客が座っており、スフェーンも私の淹れたオリジナルブレンドの珈琲を傾ける。

 

あれからとても長い時間が経ち、私は一時期まではスフェーンと同じ運び屋をしながら今はある場所で庭園付きのカフェを開いていた。ただ、色々と暗黙の独自ルールがあるので喫茶店のようでもあった。

 

スフェーンと同じように私も長い間生きてきた事で多くの名前を持ったが、今は稗田野サダミと名乗っている。因みにスフェーンも今は飯豊クサビと名乗っていた。まんま名前を言い換えただけで面白いのだが…。

 

「ねぇサダミ」

「何だ?」

 

スフェーンは私に聞くと、彼女は笑みを見せていた。途端に嫌な予感が走る。

 

「今度列車を走らせるから、食堂車頼んだ」

「阿呆、店を一ヶ月も空けられるとでも?豆の管理はどうするんだ」

 

私はスフェーンにそう言い断りを入れようとした。すると自分と同じ存在であるシエロが言った。

 

『必要な分の珈琲豆を瓶に封入すれば一ヶ月ほど空けても問題ありませんよ?』

「(一旦黙れ、旅行好き)」

 

私は言ったが、核を持つ同士で繋がっている私達は会話が近距離ではロックをしない限りダダ漏れであった。

 

「ほら、シエロも言っているわよ?」

「…行くにしたって綾音はどうするんだ」

 

私はここで働くバイトの事を手札に反論する。

 

「ほら、綾音ちゃん今度夏季休暇でしょ?」

「むしろバイト増やせって言うと思うぞ」

 

そう言うと、スフェーンは言う。

 

「あれ?今年は実家に帰るとかなんとか言ってなかった?」

「…嘘、マジか」

 

私は少し慌てて眼鏡のAR端末を起動してメールを確認すると、そこにはバイトが夏季休暇中の仕事休暇を頼んでいた。

 

「マジか…」

 

そこで陶器を置いて絶句をする。

 

「って事で、行こうか?」

「F○ck off!」

 

私はスフェーンに言うと頭を抱える。食堂車って準備でやることが多すぎて面倒なのだ。だから一番やりたく無い仕事である。

 

「仲がいいな。二人は」

「本当ですね」

 

そんな私達の話を聞いていた二人の客が言うと、思わず反論する。

 

「黙れ、ガヤども」

 

二人は人と犬の獣人の男女で、スフェーンの昔からの知り合いだと言う。するとスフェーンはその二人を見る。

 

「しかし今となっちゃあ笑える話だけど、まさかジョンとユウナが『不老者』になるのはちょっと意外だったなぁ…」

 

そこで彼女は人類から寿命の概念を取っ払った偉大な研究者である、ジョン・ルートヴィヒ・オッペンハイマーとその妻ユウナを見る。

 

「何を言うか?私はその開発者だぞ?」

 

ジョンはそう言い、二十代の頃のような若々しさを見せる肌と顔を見せる。彼はエーテルを使った新技術として、永遠と細胞交換される新しい染色体を発明。これにより、ヘイフリック限界を超えた不老の体を手に入れた。また彼の場合、彼しか知らない方法で若返ることもできるようになり、見た目不相応すぎる年齢詐称な体が作られていた。

 

「私はほぼ付き添いなんで…。ほら、この人結構サラッと大事な事を口にするので、見ておかないと…」

「「ああ…」」

 

大いに納得をできる話に私達は納得してしまう。するとジョンは心外だと言わんばかりの表情をしていた。

 

彼の開発した不老の技術は、当時猛威を払っていた自然主義者から命を狙われることとなり、パシリコからも刺客が送られ、ネクィラムの死後から軍警察の研究所の所長と副所長であったジョン達は身を隠す事となった。

その時に隠れ蓑にしたのがスフェーンの列車だった。

 

「まあ、お陰で今の私は足がついているのだが…」

「不老者ってすぐ死ぬからね」

「不老不死と勘違いする馬鹿が未だにいるのが嘆かわしいよ」

「そりゃ勘違いしますって」

 

その開発者である彼とユウナは、若返るための技術を埋め込んでおり、多くの権力者からジョンは不老不死を願って狙われ続けていた。しばらく身を隠していたが、今はこの国の国立研究機関で厳重な警備を受けていた。

 

「でも研究所から抜け出して良かったの?」

「ああ、今は国際エーテル研究所と国立研究所の合同研究だ。古巣に特に口を出すこともなかろう」

「そもそも君達がいた頃の人いないでしょ」

 

スフェーンが言うと、カウンターで軽く爆笑が起こった。

当時、諸事情でスフェーンの列車は車両工場に安置されていたので、そこでエーテル機関の技師でもあったジョン達の指導で列車の大改造が行われた。

 

「あの時、エンジン一個ぶっ壊れてたから助かったか」

「…戦術E兵器と一緒にエンジン一個をお釈迦にした理由が何をほざくか」

「言い掛かりだ」

 

その時、とある依頼をこなしていたのだが、運んでいた物の中にギャングからの盗品があったそうで、おかげでギャングと戦闘となり、その時に列車のエンジンが格納武器ごと吹っ飛ばされたのだ。ついでにバイクも壊れた。なのでスフェーンの知り合いの整備士のいる列車工場で今後の方針に頭を悩ませていたのだ。

 

「まったく、これだから姉…」

 

姉貴と言いかけたところを慌てて口を噤んでしまう。

この身体の核である臨界エーテルは、スフェーンと同じ純度100%の臨界エーテルで作られ、イメージで言うならスフェーンの半分離している核の縮小コピーと言えばいいだろう。

すると言いかけた私にニヤッとスフェーンがしていたので、舌打ちをする。

 

「チッ、面倒なプログラムを残して…」

 

その際、彼女は面倒なことにこの核にスフェーンとルシエルを姉と認識するようにプログラムを入れていた。因みにこのプログラム、全く知らない言語を使用しており、同時にそれを解析すると弾かれるように組まれているので、永遠とこのままである。

 

「まあまあ、その方が面白いし」

「大問題すぎるわ。ど阿保」

 

私はそう言い返すと、そこで店に置かれたテレビがニュースを伝える。

 

『現在、国連軍か実施しているリビョン共和国特別計画は…』

 

ニュースはかつての軍警察が実施している軍事作戦を報じていた。

 

「全く…ほら、珈琲飲んだら着替えて仕事せい」

 

私はスフェーンにそう言うと、彼女は軽くハイハイと言って空になったコーヒーカップを片付けて席を離れる。

 

 

 

そして裏に入り、着ていたナッパ服から着替えるスフェーンは出てくるルシエルを見る。

 

「あ、もう着替えてたのね」

「ええ、話が長くなりそうでしたので」

 

ルシエルはそこでここの制服である着物に着替えており、灰色の長髪、かつての自分の姿を見下ろしていた。

 

「まあ、ここの範囲なら流石に私も体を維持できますから」

「…そうね」

 

ルシエルにスフェーンは頷く。

あの後、臨界エーテルを使って自分の核の分離を行ったのだが、分離した核で作った体はスフェーンと五〇メートル以上離れると体が維持できなくなる欠点があった。お陰で二人に別れられるものの、限定的であった。

 

「うーし、私も真面目にやりますかー」

 

スフェーンは店のロッカーを開けて着替えると、着ていた仕事服(本業)から仕事服(副業)に着替える。

 

ぶっ壊されて一個喪失したエンジンのお陰で、残った三つのエンジンを新しいシャーシに載せ替えて今でも運び屋を続けている。

 

またルシエルがいるので武装警備員(トレインマーシャル)として乗り込んでいる場合もあった。

 

ロッカーには多数の写真が飾ってあり、年季が入っていた。

その中には風防にヒビの入った金の懐中時計と指輪があった。

 

写真にはダブルテンダー機関車(British Rail GT3)の前で写真を撮ったスフェーン、ルシエル、サダミが写っていた。

 

「「ただいま〜」」

 

すると店の方から声が聞こえ、着替え終わったスフェーンは出てくる。

 

「おお、おかえり」

 

裏から出て、そこで片手に鞄を持って私服を着ていた二人の子供達を見ると、帰りを出迎えた。

 

 




えー、率直に申し上げるとまだ続きます。
書きたいと思っているネタはありますので。何より投票もしてしまいましたし。
ですが物語の大きな区切りとして、最終回とさせて頂きます。

ですのでこれからも、お気に入り登録、高評価、感想をよろしくお願いします。

新たな依頼をピックアップ致しました。(書くかは未定です)

  • 世界最大の武器工場
  • 神になりたい子
  • 動物愛護
  • 代理戦争
  • 幻覚列車
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