「オーラーイ」
赤旗を振って列車の誘導を行うスフェーン。後進を入れて自分の機関車が次の貨車と連結するのを確認する。
「オーラーイ…ストップ」
そして機関車に連結された居住区画である合造車、その貫通扉を開けてサダミが持っていたタブレットで列車を微速で連結準備を進めていた。
「空いてる?」
「ゲンコツはしない」
「オッケ」
自動連結器の錠が開いているのを確認してから列車を再度前進させてガシャンと音を立てて連結作業を行う。
「うっしゃ」
「重っ」
そして貨車のジャンパ線を持ち上げて接続を行うスフェーンとルシエル。
列車は一晩かけて荒野を走り抜けて造兵廠に到着をし、そこで再び出荷予定の新しい武器弾薬を搭載した軍用列車の準備を進める。
国連軍からの依頼は六〇〇〇トンの物資輸送であり、帰りには破損兵器を運ぶこととなっている。貨車を丸ごと交換する手法で時間短縮を図っているが、それでも量は多い。
「まったく、馬鹿みたいな出荷量だよ」
「六〇〇〇トンの輸送ですからね。下手すると小型貨物船くらいありますよ」
そう言い、ジャンパ線の接続を終えて列車は次の出発に備えて準備を進めている。
「やれやれ、大仕事だ」
サダミは両手をあげて呆れた荷物の量にため息を吐いた。
現在、このブルーバック造兵廠では大量の武器弾薬が製造されており、スフェーン以外の運び屋や自前の輸送部隊が次々と修理を終えた兵器や弾薬を出荷していた。
戦車や装甲列車、果てには戦艦まで保有している国連軍は、遥か昔からその圧倒的な武力を背景に世界の生活としての役割を担ってきていた。
国家連合体の傘下に収まり、その権限を行使しているかつての軍警察。今も昔もその圧倒的な軍事力は変わらない。
ここまで不老者として長いこと生きてきたから言えるのだが、このトラオムの世界において軍警察の軍事力はとてもありがたく思える。
「出発用意は?」
「鉄道管理局の許可は出ました」
そこで造兵廠と支線を結ぶ路線の信号の確認を行いながら運転席に座ってスフェーンは列車の電源を入れる。
以前運用していた貨物列車から移植された三機のエーテル機関は、ジョン曰く『大災害以前に作られた試作のエンジンであることには違いない』という結論をもらった。
この機関車のシャーシとフレームは恐ろしく頑丈で、フレーム内の装甲板には複合装甲を何層も重ね、その上に電磁装甲をコーティングしていた。並の戦車砲ですら防ぐとジョンは言っており、実際にオートマトンの37mm機関砲が命中しても凹みもしなかった優秀な装甲を有していた。
彼は軍警察にいた頃の伝手とその後の研究資料諸々を記憶しており、匿ってくれたお礼としてこの機関車を作ってくれた。
「圧力良し。時刻良し。照明良し。各種計器よし」
運転室から複数の計器の確認をしながらスフェーンはナッパ服の上から防弾チョッキとARゴーグル、帽子を被って手元のマスコンとブレーキを操作する。
「こっちも問題ない」
「いつでも行けますよ」
そして運転室には今回は全員が乗り込んでおり、サダミとルシエルはそれぞれ言う。
「じゃあ、出発進行」
最後にスフェーンは懐中時計をホルダーに入れて前方に指差しを行う。
ステンレス製のクォーツ式懐中時計だが、裏面にはボックス動輪に黒猫とフクロウのあしらったマークが刻印されており、これはスフェーン達三人が同じ元を持っていた。
そして汽笛を鳴らし、取り付けたタブレットを操作して閉塞の確認を行うと、列車はゆっくりと前進を始める。
「しかし、昔はこんな量の荷物は運べなかったな」
「そりゃあ元々コンテナ専用の貨物列車だったし」
サダミにそう答えると、ルシエルは炭水車を通って後ろの合造車に移動してしまう。
「まあこっちの機関車形式の方が色々と繋げる貨車の自由は効くわよね」
「そりゃあそうだ。カーゴスプリンターにホッパー貨車は乗せられないからな」
サダミはそう言い、以前に使っていて乗っていたあの貨物列車を思い出す。
あの貨物列車は、あのタルタロス鉱山近くにあった工事現場跡地に残されていたものを頂戴したと以前に聞いた。
どうりで今の時代じゃあ考えられないほどエンジンの耐久性があるわけだと納得する。基本的に大災害以前の技術の脅威というのはその耐久性がある。今のトラオムの世界には多くの大災害以前の施設というものがあり、それらはすべて今までの戦争の火種ともなったことから国家連合体傘下の国際機関が管理・運営を行なっていた。
「全く、呆れたものだ。いわゆる借りパクをした列車を壊すとは」
「人聞き悪いけど反論できねぇ…」
スフェーンはサダミに苦笑で返すと、列車は分岐点を通過して造兵廠にもつながる支線に入る。ここから先、本線に繋がる接続駅まで制限速度一二〇キロで走る。
ブルーバック造兵廠はその施設の規模から中に二つの専用の従業員用旅客駅があるほど大きい。
当然、多くの物資を搬出するためにコンテナヤードも巨大である。複線用機関車が何編成も横並びで停車可能なほど巨大であり、この路線も複線専用機関車が上下線で走れるように線路が四本敷かれていた。
「壊したの私じゃないし」
「うっ…」
スフェーンは言うと、サダミは言葉に詰まった。自分が壊したと言う自覚はあったので一生詰られるのかなと思いながら忘れるように前方の景色を見ていた。
その後、貨物を満載した状態で本線との接続駅に停車をするスフェーン達の列車。
「はぁ…」
「信号がまた長いな」
その駅で前方の変わらない信号を前にスフェーン達は休憩をしていた。ここは本線との接続駅であり、鉄道管理局の保有する路線にこれから進入する。
「動く?」
「いや、信号変わるまで待機」
「…」
貨物駅なので降りても何もない駅である。狭いホームは上下線で複線専用機関車が反対路線に通過して行く。軍警察の複線専用機関車は前後に機関車を挟んだプッシュプル方式で、機関車を含めて一〇〇両編成が基本である。
「あー、煙草やりたい」
「交代してもらったら?」
スフェーンとサダミはそんな事を言いながら通過した列車を見送る。
国連軍やかつての軍警察が何処にいても人気の仕事であったのはこの圧倒的な物量なのだろうとつくづく思う。
現在、トラオムには多くの国家が存在しており、同時に自国の軍隊というのも昔と違って統一された装備を持っている。国連軍は世暦初期と違い、活動できる範囲が鉄道管理局の保有する施設のみという規模の縮小を受けたにも関わらず世界中から志願者が絶えない。
「できるとでも?」
「でもここで吸ったら何言われるか分からないしなぁ…」
少なくとも車内は禁煙。吸うとルシエルの文句と苦情が飛んでくる。
二人が狭い喫煙室で仲良く吸わされている事を想像するとつまりはそういう事である。
「「はぁ…」」
二人は暇だが余計な事をできない時間を前にため息を吐く。すると信号が赤から切り替わって進発の許可が降りた。
「変わったよ」
「ん、じゃあ出発」
そしてヌルッと返事をしてブレーキを解除してマスコンを操作すると機関車はエーテル機関の骨笛の様な音を奏でながら前進を始める。
鉄道管理局の運営する鉄道路線は常に多くの列車が行き交っており、貨物・旅客を問わずにバンバン荒野を走り抜ける。
「今回は来るかな?」
「時間帯がこれじゃあな…」
時計で時間を確認しながらスフェーンとサダミは言う。
基本的にこの一面の荒野を拠点に動く野盗は列車襲撃にも時間帯のムラがあり、やはり姿の見辛い夜中に襲撃を仕掛けてくる。
国連軍のデータにもあるが、日の入りから一気に襲撃をしてくる件数は多い。鉄道は鉄道管理局の規制上、必ず夜間は前照灯と尾灯を照射して走る必要がある為、居場所がバレやすいと言うのも野盗にとって有利である。
「流石に襲いには来ないでしょ」
そして現在の時刻は十四時ごろ。まだ陽が登っている時間帯であり、多くの列車が走っていた。
「でも軍用列車だぞ?」
サダミはそう言うとスフェーンは少し苦笑する。
「金を積まれて襲うって?まあ無いことはないだろうけど…」
今の時代でも野盗というのはオートマトンや戦車、テクニカルなどで機械化武装を施した戦闘集団である。彼らは積荷を襲い、そこで奪った荷物を闇市場に流して利益を得たりする。その中で野盗に資金を渡してある特定の列車を襲撃させるという場合があった。
大抵、その手を使うのは企業秘密だったり何かしらの最新技術を搭載した機械であったりを欲しいがためにライバル社が野盗にけしかけると言った事である。
「そんな物を積んだ記録は無いけどね?」
当然、国連軍も世界の警察を担い、独自の研究所も持っている。自分達が独自開発した技術も有している場合もあるし、何なら過去にそう言う物を運んでいると言われずに仕事を受けて野盗に襲われまくった事も経験していた。
しかしブルーバック造兵廠にそんな施設があると聞いたこともないし、今回の目録にもそんな物を積んでいると言ったこともなかった。
『良かったら調べましょうか?』
するとその時、話を聞いていたルシエルが提案をしてきた。それは国連軍のネットワークにハッキングを行って情報の収集をしようと言う物だったがスフェーンは首を横に降った。
「いや、そんなに怪しい物を運んでいるとは思えないから良いわよ」
スフェーンの運び屋としての長い経験がこの積荷の安全性を感じ取っていた。積んでいる荷物は相変わらず武器弾薬であり、そこに下手なものがあるとは思えなかった。
『むしろ物資不足に喘いでいる野盗がなりふり構わず襲う可能性があります』
「あー、なんか最近国軍が討伐をしたとか言ってたかね?」
シエロにスフェーンが反応をする。
そしてそんな情報あったか?と首を傾げてサダミは検索をかけた。するとネットには王国陸軍が大規模な野盗討伐を行ったニュースがあった。どうやら大規模な野盗団が近辺の村落に襲撃をかけたことで国連軍と共同で行った様だ。
「ああ、でもほぼ真反対で行われた軍事作戦の様だぞ?」
しかしサダミはその軍事作戦が今いる場所のほぼ反対で行われた作戦であると知り、その影響がここまで来るとは思えなかった。
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