TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#360

荒野の中での戦闘というのは、本来であればとても危険な行為である。

このトラオムの世界において、エーテルが常に空から降ってくる環境というのは体がエーテルに侵食されることであり、次第にエーテル病に罹患してしまう事となる。

だからエーテル病というのは空間エーテル濃度を低くできない場所。つまり都市の外かそれに近い場所で蔓延する。

そしてエーテル病は異能とほぼ直結する病である。

 

「故に、異能者は貧乏人がなりやすい…か」

 

燃え盛るオートマトンを眺めながらサダミは呟く。

どれだけ時代が変わろうとも、このエーテルで覆われたトラオムの世界では都市外縁にスラム街が形成され、高いエーテル空間濃度によってエーテル病に罹患して早死にしていく。

基本的にエーテル病の治療法は今も発見されておらず、エーテル病での死亡から逃れるためには脳のデータ化も含めた完全サイボーグ化以外に方法は無い。あくまでも対症療法しかなかった。

 

「だからスラム街は人が死にやすいのよ」

 

そこで燃え滓となったテクニカルの車内を見てスフェーンが言う。彼女は背中に長銃身の対戦車ライフルを背負っており、彼女の身長以上に長かった。

 

「エーテル病はほぼほぼ異能者になるから、それでいきなり異能が意図せず発動したり容量を知らずに使ったりして…」

「それに使える異能は大抵が雷撃だ。まあ、建物は崩れるな」

 

そしてサダミも燃えていたオートマトンに残っていたエーテルに触れると、タンクに溜まっていたエーテルがサダミの中に入ってくる。

 

「うっ…」

 

そしてエーテルの摂取により、途端に吐き気が込み上がって尻尾と耳などの毛という毛がブアッと立ってしまう。

 

「無茶しちゃって…」

 

そんなサダミにスフェーンはやや苦笑しながら同じように穴の空いたエーテルタンクに手を触れて漏れていたエーテルを操作して体内に取り込みを始めると、彼女の頭上の鹿角に咲く林檎の花が次第に文字通り真っ青で透明な林檎の果実を創り上げる。

 

「これでどう?」

「…毎度思うが、凄まじい芸当だな」

 

二人は先ほど迎撃をした野盗団の残骸を漁っていた。燃え盛っているオートマトンやテクニカルの残骸は悲惨極まれりであった。

 

「まだ誰か残っているか?」

「死体だけです」

 

玄○版の台詞を言い合って銃を持ったまま警戒をする二人。野盗の襲撃を受け、その際に列車を路線の傍で停車させて国連軍が到着をするのを待っていた。

幸いにも国連軍へ納入する軍用列車であったのですぐに国連軍のジャイロダインが駆けつけてくれる。内心で『現金な連中だよ』と思いながらも、物資を漁って生き残りの捕縛をしていく作業は淡々とこなしていく。

使う手錠は国連軍でも使われている電磁石を用いた強力な手錠。時折、旅客便の添乗員として乗り込む二人は簡単に生存者を見つけては手慣れた様子で捕縛し、抵抗をしてくる連中にはスフェーンの持っていた電磁警棒を当てて気絶させる。

 

「うい、これで五人目」

 

オートマトンの緊急脱出装置を起動させ、空に打ち上げられたパイロット席を見上げてスフェーンが呟く。少なくとも生命維持装置が機能しているので生きてはいる。

 

「全く、軍用列車というとは狙われやすくて困る」

 

そして打ち上げられ、パラシュートが広がるのを見てサダミは呆れた。

あれからと言うもの、何度も野盗による襲撃を受け、どちらかと言うと追い剥ぎの様な這う這うの様相で襲いに来て居たので呆れてしまった。

 

「それだけ野盗達も欲しがってるってことよ」

 

遠くから来るローター音を耳にしてスフェーンは空を見上げて言う。

軍警察が国連軍に所属と名前を変えるまでのゴタゴタを見てきた身としては少し難しい表情をしてしまうが、軍警察の頃から変わらない圧倒的な武力を用いた治安維持活動は、世界中を走り回る身としてはトラオムの何処にでも居るので、下手な国軍よりも圧倒的に信用できた。

 

六枚の二重反転プロペラと推進用のジェットエンジンを噴かして二機の複合ヘリコプターと一機のクアッド・ティルトローター機が通報を受けて着陸をする。

 

「通報を受けてきました」

 

そして降りてきた国連軍兵士に捕縛した野盗達を引き渡す。既に捕縛をして居たことに感謝をされながら捕縛費用の小切手を受け取り、残骸となった野盗団の武装は国連軍の臨検隊が調査を早速行って居た。

 

「被害の方は?」

「列車に少し…穴が空いた程度ですかね」

 

スフェーンはそう答えると、彼らは軽く頷いてから野盗団を機体に乗せる。彼らはこのまま刑務所なのかなぁ、などと考えながらスフェーンはその後の対応諸々を済ませる。

 

『やれやれ、戦利品もなくてこの様ですか』

 

するとルシエルが話しかけてくる。ここでは距離があったのでルシエルも身体が維持できなくてスフェーンの中に居た。

 

「(まあ仕方ないでしょう)」

 

スフェーンは軽くルシエルを宥めると列車に戻って運転室に登る。

 

「そもそも連合軍から這う這うで逃げてきた連中にまともなものがあるとも思えんが…」

「それはそう」

 

サダミに同意すると、そこでスフェーンはルシエルに聞く。

 

「どうする?また分かれる?」

『…また勝手に列車を飛び出して身体が壊れたく無いのでしばらくはこのままにさせてください』

「あいよー」

 

軽く嫌味を言われつつも、スフェーンはそれを流して運転台に乗り込む。

 

「てことでサダミ、助手お願いできる?」

「良いぞ。ここであんなグロテスクなシーンを見るのは勘弁だ」

 

ごめん被ると彼女は言った。以前、スフェーンとルシエルの体の分離を見た彼女はそれ以来軽くトラウマになっており、スフェーンにルシエルが吸収されると、途端に少し警戒をする様になってしまった。

 

「頼むからいきなり分離とかやめてくれよ?」

「分かってるって」

 

スフェーンもその事を知っているのでわざわざ聞いてきたサダミに軽く頷いて答える。そしてタブレットを操作して閉塞の確認を行うとゆっくりとブレーキ解除をしてからアクセルを操作して速度を上げる。

 

「…」

 

反対側の状況はゴーグルの視界からも確認が可能であり、ワンマン運転にも対応して居た。

 

「速度良し」

「閉塞オケ。時刻丁度」

 

軽く確認をとってから列車は本線に戻ると、そこで荷物を目的地まで運んでいく。

 

「全く、何度も襲撃を受けると面倒臭くなってくるな」

「そりゃあね」

 

そんなサダミのぼやきにスフェーンは大いに賛同する。

国連軍に納入する軍需物資は多岐に渡り、修理を終えた兵器なども運んでいるのでとにかく何かと狙われる。少なくとも帰り以外で襲撃されなかったことはないのではないかと思うほどであった。

 

「全く…アクティブ防護システム(APS)は?」

「何発も撃っている。正直、このまま行ったら少々まずいかもしれない」

 

後ろの合造車や機関車の一部に取り付けられている武装の使用率の高さをデータ化したものを見てサダミが言う。

 

「やれやれ、これが終わったら国連軍の直売所にでも行きますか?」

「その方が良いだろうな」

 

そして列車は制限速度まで加速を終えると、やや下り坂の区間に進入する。

 

「ほぼ平坦だが…」

「ここが唯一の鬼門よ」

 

スフェーンはそこで警笛を鳴らしながら下り坂区間を走る。

列車にとって最も警戒しなければならないのは列車の暴走である。何千トンもある列車を止めるにしたって制動距離は簡単にキロを越える。ましてやそれが時速二〇〇キロを超えていたら止められる手段はないに等しい。

 

制御された毎時三〇〇キロ運転なんかよりも圧倒的に危険であり、故に峠を走る路線なんかにいる補機もどちらかと言うと下り坂での暴走防止用の強力なブレーキ役としての意味合いが強かった。

 

「速度は?」

「二四〇前後」

「じゃあ大丈夫そうだな」

 

窓を閉め、密閉された運転室のおかげで外のエーテル機関の爆音は聞こえない。おかげで二人は無線も通信も使わずに会話できていた。

 

「…流石に次はないよな?」

「そうだと良いわね。神にでも願っておいたら?」

「じゃあ姉貴に」

 

そこでサダミは軽くスフェーンに二礼二拍手一礼をする。

 

「馬鹿、やめんか」

「だって青い林檎伝説の総本山でしょう?」

「…」

 

一部異能者の間で神格化されている伝承、スフェーンはその話を前に思わず眉を顰めてしまった。

 

「やれやれ、こうなるんだったらやらなきゃよかったよ」

「どうだか?」

 

スフェーンにサダミが言うと、二人はそこで下り坂区間を終えて自動運転に切り替える。

 

「「はぁ…」」

 

そして二人は自動運転に切り替えてから同時にため息をついて安堵する。

この区間で野盗の襲撃を受けると意外と面倒臭いので、それがなかったことに安堵していたのだ。

 

「良かった」

「また通報とか勘弁よ」

 

そんな事を言いながらスフェーンは運転室の席の背中の壁に半ば埋め込まれるように設置されている湯沸かし器(ボイリング・ベッセル)に手を伸ばす。

 

「いる?」

「くれ」

 

そして戦車にも搭載されることのある優秀な湯沸かし器から熱湯を茶葉を入れた急須に入れる。それは光が反射する透明な青磁製のもので、見るだけで上質なものを使っていると理解できる代物であった。

スフェーンのお茶の知識はトップクラスであり、趣味も高じて店にスフェーンがいるとお茶の売り上げが増えるほどだった。

基本的にサダミはコーヒー、スフェーンはお茶と棲み分けがされていた。おかげでこの合造車はそれぞれの茶に合わせた茶道具が用意されていた。

 

「今日は何茶だ?」

「軽くコーン茶」

「おぉ」

 

茶葉を入れる茶缶は全て日光が当たることがない。おかげで茶葉の劣化を抑えることが可能で、同時に青磁製の急須の蓋を取った時に漂う香りも強い。

 

「すんすん…あぁ」

 

そしてサダミは持っていた青磁製の茶碗に透明な淡黄色の甘いトウモロコシの香りの漂うコーン茶の香りを感じる。

 

「良い香り」

「ええ、新しい産地のものを仕入れてみたから。ちょっと試飲にね」

「なるほど」

 

サダミはそこでこれほど強く甘い香りを出す茶葉の事情を知って納得をする。

基本的にスフェーンは運び屋をする傍であのカフェの手伝いもしており、基本的に運び屋業は指名依頼・マイカー運送・ジョイフルトレイン以外は基本的にしていなかった。

 

「おぉ、これは美味い」

「でしょ?この前受けた依頼先で見つけたのよね」

 

スフェーンもサダミの率直な感想に同意しながら同様に茶碗を傾けた。




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