列車砲は国連軍がまだ軍警察の名で活動していた頃、南北戦争の時代に復活した兵器である。
軍艦にも使用される長砲身の356mm砲から放たれる砲弾は電磁加速と射程延長弾を用いることにより、強力な火力を全線に届けることができる。
航空機の活動が制限されるこのトラオムの世界において、高高度から飛翔してくる砲弾はアクティブ防護システムを用いたとしても多数撃ち込まれれば迎撃に限界があった。
また砲弾そのものは分厚い弾殻で覆われているのでアクティブ防護システムも高精度・高威力のものが必要であった。
「撃て」
真夜中の鉄路を走る列車に襲撃を仕掛けてきた野盗に対し、武装貨車の76.2mm速射砲の砲撃が荒野に飛んでいく。
元々はこの列車砲編成の対空防御用に連結されているが、依頼主からの許諾を得て武装貨車の砲撃システムを使用させてもらっていた。
『砲撃確認!』
『来るぞ!』
盗聴した無線から敵が赤く発熱する砲弾を視認しており、回避軌道と迎撃に移行する。
近接信管を装備した砲弾は荒野に向かって曲線を描いて着弾をしていく。
この編成には三両の武装貨車が連結され、三門の76.2mm速射砲が野盗団のオートマトンの迎撃を始める。
相手が初心者だったなら、無線で声を変えて叫んで混乱させると言う方法があるが、あいにくルシエルのタンデム弾頭を発射した時に簡単に避けていたので相手が慣れていると推察していた。
「手練れが相手とはね」
「手練れかな?」
そこで三門の砲の操砲を行って射撃を行うスフェーンが答えると、ゴーグルに映る照準器の映像を見る。
無人砲塔で速射砲に砲弾が装填をされると即座に発射され、野盗の迎撃を行う。
『うおっーー』
すると運悪く砲弾の直撃を受けたオートマトンが直撃を受けて吹き飛ばされる。
「列車砲に襲撃するか」
「でも実際、走行中に列車砲は撃てないから」
同様に眼鏡のARでCIWSを操作するサダミにスフェーンは答える。356mmの大砲は全周旋回可能な砲台の上に設置されているが、流石にアウトリガーも展開せずに撃つと反動でひっくり返ってしまう。
「だとしても列車砲だぞ?奪ったら確実に国軍と国連軍が出てくるぞ」
「でしょうね」
スフェーンは頷くと、再び上の列車から爆音が聞こえてルシエルのロケットランチャーの音が聞こえる。
タンデム弾頭を使う理由は、最近のオートマトンは機体にケージ装甲を纏っており、成形炸薬弾の攻撃を無効化されるからだ。
「最近の列車砲とかは全部E兵器だからね」
スフェーンはそう言い、牽引中の列車砲を一瞥する。
かつてパシリコ共和国が分裂する直前、彼の国の国土の大半を占領されたパシリコ共和国軍の崩壊後、世界中に彼らが極秘裏に手に入れていたE兵器に関する情報が流出をした。
当時、世界中の国々は自国で実用的なエーテル機関を製造できるほどの技術力があり、それゆえに流出をしたE兵器に関する技術は即座に模倣された。
今まで軍警察の特権であったE兵器は世界に即座に広まった。
パシリコへの介入で当時の軍警察もその動きに対応できず、E兵器を保有した各国国軍は急速に無数の戦争を行った。そして戦場にE兵器を投入した。これを世界史の歴史書では『戦禍時代』と呼んでいる。
エーテル・カノン、エーテル・ボンバ、異能者、不老者。それらを利用し、発展させてきた各国は大きく図版を塗り替えた後に終息していった。
その後トラオムの世界は一度また国そのものが消え掛かった時代が起こるほどに長い間、戦争を続けていた。
E兵器はその間、維持費や製造費の観点から次第に『威力は大きいが、代償もデカい危険な兵器』と広く認知された。
その環境汚染の度合いや、長年の戦争で疲弊した各国は『E兵器管理条約』を結ぶとともにそれらE兵器を一括管理・削減を目的に『国家連合体』が創設されることとなった。
そして、この列車砲はE兵器の一つであるエーテル・カノンも発射可能な両用砲であった。
「狙いはこれか?」
「んなわけ」
サダミにスフェーンは苦笑する。
これらE兵器は維持にも金のかかる金食い虫であり、また野盗がE兵器を持っている
E兵器は一発が強力な兵器であり、それだけで都市相手に脅迫をかけることさえ可能である。またE兵器はエーテルを無造作にばら撒く環境汚染兵器でもあるため、空間エーテルへの干渉の可能性が示唆されている。
故にE兵器というのは麻薬と同じく『持っているだけで犯罪』であり、『持っているかもしれないから死刑』となる兵器であった。
E兵器の流出ほど国連が怯えているものも無く、また野盗もそれを分かっているのでE兵器は厄介もの扱いであり、国軍や国連軍以外が持つことはなかった。
「やろうと思えば、エーテル・カノンの発射は走行中でも可能だぞ?」
「やったら国際法違反になるの。分かってる?」
そのような歴史から、E兵器は身近ではあるものの『触れると面倒な品』と言う扱いを受けていた。
また『大災害』の歴史があり、戦禍時代末期に富野諸島の一つのイデオン島がエーテル湧出によって消失した事故があり、一部では『第二次大災害』と呼ばれる被害を出していた。これの影響で常にエーテルが空高く舞い上がる空間が生まれてしまっていた。
「小威力ならいけるんじゃないのか?」
「それ、ウチらやねん」
スフェーンはサダミに突っ込むと、自分たちの持つ
大災害から何百年と時間が経過したにも関わらず、トラオムの空はエーテルで覆われている。これは人類の業であると言われたら、そうなのかもしれないと一部の人は信じるだろう。
「ほら、ちょっと危ない距離にきたよ」
「了解。迎撃する」
そこで速射砲のアーミング距離を通過してきた野盗をレーダーで確認して注意を促す。すると今までは対戦車ミサイルを主に使っていたサダミは機関銃を中心に迎撃を始める。
「全く…敵に困らないのはいいことだが…」
「言うて良い事でもなかろう」
サダミにスフェーンが突っ込むと、そこでサダミが操作している四基のCIWSを操作してオートマトンとテクニカルをそれぞれ破壊する。
「おぉ〜、お見事」
列車の合造車の中でそれぞれ操作をしている二人は、とても緊急事態とは思えないほどゆったりとした口調で野盗の襲撃に対応していた。
『スフェーン。弾薬』
「え?もう無くなったの?」
そこで合造車の屋根の上でタンデム弾頭を発射して数台の車両を破壊したルシエルはそこでゴーグル越しで操作をしながらガレージの弾薬庫に積んであった残りのタンデム弾頭やサーモバリック弾頭を持てる分だけ持って合造車の屋根に登る。
「はぁ…面倒な」
武装貨車から牽制用に射撃が加えられており、その中でスフェーンは弾頭を持って屋根に上がる。
「すみませんね。手持ちは無くなってしまったので」
そこでルシエルは右手にロケットランチャーを持って弾頭を持ってきたスフェーンに言うと、スフェーンは持ってきたサーモバリックをルシエルに手渡した。
「命中率は?」
「そこそこ。まあ相手も手練れですからね」
ルシエルはそこでサーモバリック弾頭を受けると引き金を引く。
「無駄撃ちはやめてよ?それ高いんだから」
放ったサーモバリック弾頭を見てスフェーンが一言言うと、ルシエルは返す。
「大丈夫ですよ」
するとその直後、荒野に閃光とキノコ雲が浮かぶ。
一部では擬似的な核兵器とも言われるほど強力な爆発をする燃料気化爆弾はその爆発時の衝撃波はオートマトンのフレームをひしゃげさせ、随伴する歩兵も爆発の気圧変化で内臓に被害を与え、爆発時に一気に酸素を消費することで酸欠を引き起こす。
「中にいれば蒸し焼き、外で圧死できる。それがサーモバリック弾ですよ」
「まあだから値段高いんだけど…」
サーモバリック爆薬はその威力から野盗が使用する危険性を鑑み、一般市場での販売価格は高い。
スフェーンなどの一部腕利きの運び屋や傭兵は割引が適用されるが、まず野盗や一般人が手にすることはなかった。
しかもそう言う腕利きであったとしても、何かしらの犯罪歴が国連軍のデータベースにあれば割引の割合も低くなる。
無論、スフェーン達にはそういったやましい過去はあれど正当防衛の範疇に収まる(と解釈している)ので二人に違反歴はあれど逮捕歴はなかった。
「あっ、逃げましたか」
するとサーモバリック爆薬の爆発で一角が吹き飛んだ野盗団は接近速度を落とすと、そのまま列車を見送り始めた。
その後、列車は野盗の攻撃を退けて国連軍の基地に到着をする。
「はい、確かに受領しました」
担当した治安官が操車場に到着をした列車砲を確認して持っていたタブレットにスフェーンはサインをする。
「お疲れ様でした」
「お疲れでした」
国連軍の持つ巨大な操車場に三編成分の列車砲を無傷で配達を完了する。
運び屋として長い経験を積んでおり、尚且つ不老者であることは治安官も知っており、それゆえに敬意を持って接してくれる。
「不老者か…」
列車砲を受け取った治安官はそこで去って行くナッパ服に身を包んだ女性を見送る。
不老者は年齢と見た目が一致しないのですぐに分かる。長い時代を生き抜いてきた不老者はある種の生き残りであり、生き字引であった。
「…なりたいとは思わないが」
治安官はそう呟くと受け取った列車砲の状態の確認に向かった。
牽引を終えた列車は切り離しを行うと、そのまま転車台に移動する準備を進める。
ルシエルは先の一戦で疲労してスフェーンの中で休憩していた。スフェーンは運送物の引き渡し諸々と報酬の受け取りを終えて転車台の前で待機していた自分の列車に戻ってきた。
「サダミ〜」
「?」
そこで連結器の上で腰を下ろしていた黒猫の獣人に声をかける。
今回の仕事でいくらか疲労が溜まっていたのか、サダミはぼんやりと空を見上げて二本の黒い尻尾をゆらゆらとさせていた。
仕事が終わったのでサダミはこの後のカフェの仕事をどうしようかと考えていた。
「お疲れ〜」
「…ん」
そこでスフェーンが手を出したので、サダミもタッチをして答えた。
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