TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#366

「この列車は死んでも生きてもいない人間が乗る」

 

給仕の少女に赤ワインを注がれて老人は言う。

真夜中の薄暗い食堂車で若者は、自分を誘った老人から話を聞いていた。

 

「あの…失礼ながら貴方は?」

「今消えたあの男と同じ、死にかけた老人だとも」

 

老人はそう言い、優雅にグラスを傾ける。

 

「死にかけた…」

「そうだ。言うならば臨死だな」

 

老人は頷いて若者の後にグラスに視線を落とす。

 

「まあ飲みなさい。ここで提供されるモノはなかなかの逸品だ」

 

先ほど、メイド服を纏った少女が手慣れた動作で注いだ赤ワインは芳醇な色と香りを漂わせていた。

若者の安月給でも分かる高級品に少しだけ喉を鳴らして一口傾ける。そして匂いの時点でこれはかなり高そうだと思うほどに甘い香りをしていた。

 

「…甘い」

 

そこで若者はこのワインの味がもっと欲しいと思ってしまう。

 

「私もここに来てまだ時間は経っていないが…、教えられる事は話そう」

 

老人はそこで若者に教える。

 

「ここは選択の場だ。生きるか死ぬか、どっちに行くかの選択を迫られる」

「選択?」

「ああ、私も伝え聞いた話でしか無いがな」

 

老人はそう言い、他の食堂車を出入りしていく乗客達を見る。

 

「ここに乗り込んだ奴らは、皆死にかけた奴らばかりだ」

 

老人はそう言い、若者に伝え聞いた話をする。

 

「自殺をした奴や病院で重体だった奴、さっきのように薬を打って飛んできた奴もいる」

「…」

 

若者は老人から話を聞き、この列車の事を知る。

この列車の乗客は皆、何かしらの事情で死にかけた人、臨死や意識不明となった人達が集まると言う。

 

「そう言うVRですか?」

「そうとも言えるだろうな。だがここは私らの知っているものとは全く別のネットワークだろうな」

 

老人はそう言い、そこで自分納得できる。

兵士には常に与えられる携帯がない上にマイクロチップを埋め込んだことで使えるはずのインターネットも繋がらなかった。

 

「さっきの奴の言っていた死に損ないというのも正しい。ここに来た連中は元来た道を戻るか、このまま先に進むのかを選ぶ」

「それは…」

 

若者が言いかけたことに老人は頷く。

 

「ああ、死ぬと言う事だ。少なくとも、ああやって消えた奴が同じ列車に乗って来たことは一度もなかった」

 

老人は言うと再度グラスを傾ける。

 

「その…帰る方法はあるんですか?」

「ある。あの車掌に持っている切符を渡せば良い」

 

若者の質問に老人は教える。

あの車掌は帰り道を知っており、尚且つ老人は帰り方を知っているような口振りであった。

 

「そうですか…」

 

若者はそこで少し安堵して小さく息を吐く。

 

「夢…じゃ無いんですね」

「夢か…あながち間違いでも無いだろうな」

 

老人は若者にそう答えると新しい一杯を、今度は瓶ごと注文をする。

 

「君は、この後どうする?」

「後?」

「さっきの奴を見ただろう?この空間にはタイムリミットがある。私と違って君はいつ列車から降ろされるか分かったものじゃ無いぞ」

 

老人は分かったように答えると、若者は言う。

 

「…どうして、分かるんですか?」

 

その質問に老人は少しだけ笑った。

 

「私はベッドの上で生命維持装置に繋がれているからな。そこで意識が飛んだことくらい想像がつく」

 

彼はそう答えると、若者はその老人がここの食堂車に残り続けられている理由を察せた。

 

「その…失礼な事を…」

「ん?ああ、それほど問題なことでも無い。死にかけた老人が、最後に静かに酒を飲んで死ぬだけだ。後どれくらい生きられるのか…分かったものでは無いがな」

 

老人はそう言うと、そこで飲んでいたグラスを空にすると席を立ち上がる。

 

「では、私はここら辺で」

 

そこで老人は立ち上がると、紳士的な立ち振る舞いで食堂車を歩く。

 

「あの…どちらに行かれるのですか?」

 

その時、若者は老人に最後の質問をした。

 

「なに、最後に家族に顔を合わせようかと。…若いものを見てしまったものですから、悔いのないようにね」

 

老人はそう言うとシルクハットのツバを持って会釈をすると、そのまま食堂車を後にする。

 

「君も、そのワインが空になるまでに決めておきなさい」

 

そう言い、今だにコルクも開かれていなかったワインの瓶を一瞥してから食堂車を後にした。

残った若者は、老人が出ていくのを見送った後に少し遅れて瓶を持って厨房に言う。

 

「すみません。グラスをお貸しいただけませんか?」

 

そして若者は二つミニグラスを借りると、そのまま機関車側の方か向かって歩き出す。先ほど老人が居なくなった方に向かって歩いた。

 

特に意味はないが、強いて言えば何となく、どう言う手順だったら帰れるのかとか、帰る時はどんな感じなのかを遠目で見ておきたいと思ったかもしれない。

 

「…」

 

食堂車は六号車にあり、この先には五つの客車があるはずだ。若者は先ほどの老人の痕跡を探しながら客車を貫く長い廊下を歩くと、

 

「どう言うことだ!?」

 

客車の扉が開いて錯乱した様子で廊下を左右に見る一人の太った男が若者を見た。

 

「ん?おお!そこのお前!」

「?」

 

するとその太った男は若者を見て手招きをしてから聞いた。

 

「ここが何処なのか教えろ!何故私はいきなり列車に乗っている?!」

「さ、さぁ…私は何とも…」

「知らないのか?チッ、使えない奴め…」

 

そもそも自分わかっていないのでどう説明したものかと思ったのだが、その後の対応に少しムカついたので若者は言う。

 

「後で車掌が来ると思いますので、その時にお聞きすれば宜しいのでは?」

 

若者はそこで今まで何度も出くわしたあの車掌を思い出す。

あの若い青年を含め、この列車の添乗員は色々と不可解なことが多かった。

 

「(面倒な奴だな…)」

 

しかし直後、その男は直後に窓の外の景色を見た直後に忽然と消えてしまった。

 

「…」

 

何の呻き声一つなく消えてしまった太った男。まあフォアグラの味が気になる程太っていたので死亡したのも太りすぎなのだろう。

先ほどの老人曰く、この列車の乗客は死にかけの人間であるという。

自分は死にかけの人間と言う実感はないが、戦場の塹壕で隠れていた自分が死にかけたと言うのなら、おそらく砲撃で塹壕が吹き飛んだのだろう。それで、なぜが生きていたのだろう。

掩蔽壕の中にいた記憶はあるので、砲撃で生き埋めだろう。

 

「(どうせ死ぬのだろうな…)」

 

若者は崩落に巻き込まれた人間の生存率を教育で受けており、またここに来る直前まで戦争をしており、この静かな空間にいることが違和感しか感じられなかった。

行き先が決まっている以上、若者は自分がさっきの客達のように消えるまでこの列車を散策しようと思った。

 

「先頭に行くか…」

 

若者はそう呟き、静かなコンパートメント客車を歩き出す。

窓ガラスや木材、刺繍付きのカーテン、ランプ、全てに至る装飾品が古典的であり、この列車の運行主の趣味を感じさせる。

俗に言うレトロ風と言うべき趣味か、コンパートメント客車には似合っていた。

 

「…」

 

そんな中、客車を貫く廊下を歩くと、コンパートメント客車の一つ一つの個室の扉を見ると車内に人が出現と消滅を繰り返していたりする。

何度経っても見慣れない光景だが、慣れないとダメなのだろうと内心で思っていた。

客車自体はそれほど長くもないのであっという間に先頭の一号車に到着してしまった。

 

「ここか」

 

若者はワイングラスとミニグラス二つを持っており、サシ飲みを想定していた。

一号車と言うこともあって機関車の走行音も大きく聞こえてくる。ここから先は何もないのだが、若者は客車の機関車につながるドアの前で立ち止まる。

 

「…」

 

若者は先ほど、最後尾にて車掌から手を掴まれたことを思い出す。思えばあれから二時間は経っていることだろうと推察できる。

時間感覚には自信がある身であったので、ここら辺はかなり正確だろう。そして先頭車には車掌室が併設されており、在中の看板が下がっていた。

若者はそこで先ほど話した老人の話を思い出す。

 

『その車掌に聞いたって教えてくれん』

 

車掌は乗客に必要以上の情報を教えない、と言うよりも質問をしたところで必要以上に話すことないのだろう。あの車掌からはそんな気がした。

在中とは言っても邪魔であろうから話しかけることもなく戻ろうとした時、

 

「ん?」

 

客車の向こうから軽く話し声のようなモノが聞こえた直後、客車のドアが開いてそこから車掌と、つなぎにオーバーオールを着込む一人の初見の人を見る。その格好なので確実に運転士の人間だろう。

 

「ん?あぁ、お客様でしたか」

 

そこで車掌が若者を見てやや驚きつつも敬意を持った口調で相変わらずの挨拶をした。

 

「ようこそ」

 

すると運転士も略帽を脱いで一礼をすると、若者はその運転士が所々黒く汚れているのを見た。

そして若者は運転士を思わず見てしまっていると、運転士の男は若者に聞いた。

 

「あぁ、お見苦しいところをお見せしました」

「え?あぁ、いえ…汚れているのが不思議で…」

 

若者の脳裏には、運転士というのは基本的に清潔なままでいることが多いイメージであったので、目の前の彼には違和感があった。

 

「あぁ、それは彼の仕事場が関係しておりますので」

「仕事場?」

 

そこで二人は視線の先を見つめる。それは機関車につながるドアであった。

 

「ええ、彼はこの機関車の機関士ですので」

「仕事柄、汚れてしまうモノでしてね」

「…機関士?」

 

若者は聞き慣れない言葉…と言うよりも、本来であれば船舶でしか使われない用語を前に首を傾げた。

 

「機関車で?」

「ええ、ここではそのようになっておりますので」

 

そう言い、機関士の男は若者に答える。

 

「…」

 

どう言うことだと思っていると、車掌が少し笑って聞いた。

 

「気になりますか?」

「え?あぁ…まぁ、少しは」

 

若者は聞かれ、鉄道の運転室というなかなか普通であれば入れない場所に性ともいうべきか、そういう知らない場所に興味があった。

 

「ご案内も可能ですよ?」

「え?入れるんですか?」

「ええ、切符をお持ちのお客様であれば」

 

車掌は若者に言うと、提案を持ちかけられたので少し考えて踏みとどまろうとしたが、好奇心が優った。




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