TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#368

列車の個室を一つずつ探して他の乗客を探す若者。

その手にはワイングラスとワインボトルが握られている。基本的にワインボトルが緑色なのは、紫外線や日光で劣化しやすいワインを守るためだと言う。

 

「…」

 

この列車に放り込まれ、呆然と時間を過ごしていたのだが、先に乗っていた老紳士からこのワインボトル渡され、酒は苦手であったが誰かと話すために必要だった。

 

コンコンコン

 

その中の一つ、個室のドアをノックした後に返答があったのを確認してからスライドドアを開ける。

 

「あ、あの…?」

「あっ…し、失礼します」

 

部屋の席に座っていたのは一人の女性で、彼女は入ってきた若者に少々困惑気味になりながら見上げた。

若者もこう言う事には慣れておらず、昔見たドラマを参考に自分の所作に違和感がないかと辿々しくなりながら女性とは反対の席に座る。

 

「ははは…他にお客さんがいたなんて」

「…そ、そうですか」

 

そこで女性は若者の持っていたワインボトルとグラスを見る。

 

「その…ここは一体?」

「さ、さぁ…私もよ、よく分からなくって…」

 

若者は女性に知らないふりをした。

女性に対し、なんとなく話を合わせておいた方が失礼じゃないかもしれないと言う彼なりの女性慣れしていない感性がそうさせていた。

 

「そ、そうなんですか…」

 

その女性は若者を見て少々困惑と、混乱が脳を支配していた。

 

「「…」」

 

そしてしばらく個室に沈黙が過ぎり、二人は静かになる。

 

「ど、どうですか?落ち着きますよ?」

 

若者はこのままではいけないと脳を回して色々と巡って、そこで当初の目的のワインを飲みながら話を聞くことを思い出して一杯を勧める。

 

「え?しかし…」

「お、奢りますから」

「…そうですか」

 

女性はそれでも不安を拭いきれない表情で個室の外に繋がるドアに用意されたテーブルの上に置かれた二つのミニグラス。

先ほど車掌から受け取ったグラスの一つをテーブルの上に置いて、そこに持ち込んだワインを注ぎ入れる。

 

「どうぞ…」

「ありがとうございます」

 

透明がグラスに注がれた赤ワインを持って女性はそれを一口分飲み込む。

彼女も状況がうまく飲み込めていない様子でワインを一口飲むと、そこでその味に現実味が合わさったことなのか、段々と落ち着いてきた様子だった。

 

「ふぅ…」

 

そして一息ついたところで個室のドアがノックされて車掌が現れた。

そこで女性は車掌に切符を少々慌てて見せると、検札鋏で切符に切れ込みを入れるとそのままごゆっくりと言って個室を後にした。

 

「あの…私、ベッドで寝ていたら急にこの列車にいたのですけれど…」

「ベッドですか?」

「はい…」

 

そこで女性は若者に困惑気味に話し、それを聞いた若者は反射的に口にする。

 

「え?じゃあ帰ったほうが…」

「か、帰る…ですか?」

「あっ…えぇ…」

 

そこで若者は先ほどの切符を車掌に渡せば帰れると言うことを伝えると、彼女はそれを聞いた瞬間に目を少し見開いてから席を立って個室のドアを開ける。

 

「車掌さん?」

 

女性はそこで切符を片手に個室を出ると、そこで残された若者はどうすれば良いかをしばらく考えて席に座ったまま窓の外の景色を見る。

 

「(ここには時間制限があるって言ってたな…)」

 

若者はそこで先ほど老紳士の話を思い出す。

今考えても紳士的な格好をしていたなと思っていたが、そんな老紳士から渡されたこのワイン。このワインボトルがなくなるまでに切符を使って帰るのかどうかを選べと言った。若者はその言葉の通りに、このワインが無くなったら切符を車掌に渡そうと思っていた。

 

「(死か…)」

 

そこで若者は使用済みのグラスを片付けて個室を出ると、そこで車掌に切符を渡した後なのか、客車の奥のドアの前に立つ女性の姿があった。

 

「あっ」

 

そして女性は若者と視線を合わせると、軽く会釈をしてきたので若者も少し不慣れな様子で一礼をすると女性はそのまま客車のドアを取って客車を後にした。

 

「ご乗車ありがとうございました」

 

車掌は女性に向けてそう言うと女性は車掌に短く頷いた後に列車kら降りて行った。

 

「本当に帰れるんですね…」

 

それを見ていた若者は車掌に話しかけると、車掌は女性を見送ってから頷く。

 

「ええ、お帰りになられますか?」

「え?あぁ、まだ…残るつもりです」

 

若者は車掌に答えると、徐に持っていた切符を手に握る。切符は検札鋏の切れ込み以外に何も書かれていないものだが、持っている質感は本物のそれであった。

 

「先ほどのお客様からの伝言です。『ありがとう。短い間でしたが、落ち着くことができました』だそうです」

「…そうですか」

 

若者は先ほどの女性の顔を思い出しながら、少しだけ感謝をされたことに内心嬉しく思っていた。

今の女性が帰ったことは彼女の反応から見ても分かる通り。列車に乗ってもすぐに降りてしまうこともあるのだろう。

 

「いかがですか?当列車の旅は」

「…不思議ですよ」

 

若者はそこで今まで見た乗客たちを思い出す。

 

「いきなり人が目の前で消えたりするんです。とても現実離れしすぎて、想像が肉離れを起こしていますよ」

「なるほど…まあ、大半のお客様は理解できずに帰還されるものです」

「…」

 

車掌は若者に淡々と答える。彼は糸目が特徴的で、何を考えているのかはよく分からない。

 

「当列車は感染者のお客様の中でも特別なお客様がご乗車されます。私も、今まで多くのお客様をお見送りいたしました」

「感染者って…」

 

先ほどの機関士と同様、この車掌も古い呼称をしたので彼と同年代の人間なのかと推察をする。すると若者に車掌は言う。

 

「今ではもっぱら、異能者と呼ぶことが多いと言うのもよくお聞きしております。まあ私が生きていた頃は、まだ異能の存在が確認されていなかった時代ですので」

「…そうなんですか」

 

それを聞き、若者は少し戦慄をした。少なくとも異能の存在が確認されてから一〇〇年以上は経過しており、その間車掌はずっとこの列車で業務をしているのかと推察した。

 

「ところでお客様はアリアドール合州国の軍人とお見受けしますが…」

「え?あっ…まぁ、しがない異能兵ですけど」

 

若者はアリアドール合州国・サブラニエ共和国連邦・国連軍率いる連合軍によるパシリコ共和国との戦争によって徴兵された動員兵であった。

パシリコ共和国のサン・テグスチャン大統領追放を掲げて宣戦布告を行い、進行中の連合軍。

パシリコの片田舎の街であるポーリンと呼ばれる街で行われた異能者と不老者への虐殺事件をきっかけに若者は異能兵として優先的に徴兵を受けた。

 

「ご家族は?」

「…まあ、いますよ」

 

徴兵を受け、訓練を受けてから戦場入りをして、その日に戦争処女を卒業。丁度配属された前線に敵の攻勢があったのだ。その後は長い間、戦場に暮らしていた。

 

「帰りを待つ人がいるわけですか」

 

車掌は若者の話を聞くと、数回頷いてから若者に話す。

 

「お客様はこれほどの時間が経過してもご乗車されています。と言うことは、救助をされて病院に収容されたのでは?」

「…それがどうしたと?」

 

若者は少々怪訝に車掌を見ると、彼は微笑むだけで若者に背を向けるとそのまま歩き出す。

 

「いえ、個人的な問題ですので。では」

 

彼はそう言うとそのまま新しい乗客の検札の為に廊下(コリドー)を歩く。

列車の走行音と、遠くから聞こえる汽車の汽笛が木霊し、若者は一人。再び静かになった車両でグラスとボトルを持って客車を歩く。

 

 

 

列車自体はコリドーコーチと呼ばれる列車を通り抜けられる長い廊下を備えたコンパートメント客車を連結しており、それが左右逆になるように連結されている。

 

「あっ…」

 

そしてぼんやりと列車を歩いて客車を見ていると、そこで個室の一つに別の乗客が座っているのを見た。

 

「(パシリコの服だ…)」

 

しかし乗車していたのはパシリコ共和国軍の軍服を纏った軍人であった。その時、若者の脳裏には先ほど機関士と車掌が言っていたこの列車に乗る条件を思い出した。

 

「(え?パシリコなのに感染者が軍人?)」

 

若者の脳裏にはパシリコ共和国と、その共和国の大半の人間が信仰している緑林教の教義では、自然の摂理から外れた事象やものは全て排除対象になるはずだ。

 

「…」

 

その女性客は窓の外の景色を眺めており、テーブルには湯気の立つカップが置かれていた。若者はその軍人を見て少しどうしたものかと少し考える。

パシリこ共和国の軍人がこの場所にいることは、彼らの教えからは考えられないこと。なぜこんな場所にいるのかと疑問に思っていると、

 

「あっ…」

 

そのパシリコの軍人は自分の顔を見ると、そこで一瞬驚いた後に軽く会釈をしたので若者はどうしようかと迷った挙句、スライドドアを開けた。

 

「っ!お前…」

「ど、どうもです…」

 

そのパシリコの女性軍はアリアドール軍の戦闘服を纏う若者にやや目を見開いて驚愕をした後に怪訝な表情を浮かべて眉を顰める。

 

「アリアドールの人間がなぜいる?」

「わ、私に聞かれても…」

 

若者は瞬時に後悔しながらもその女性軍人に答える。

 

「さっきの車掌はパシリコでもないと言うことか?」

「…そもそもこの空間が普通じゃないですよ」

 

そこで若者は反対に座るパシリコの女性軍人に言う。

 

「ふんっ、戯言か」

「外を見てくださいよ…」

 

若者に言われ、女性は軽く鼻で笑った後に窓の外を見ると、そこで窓の視界一杯に巨大な影が埋め尽くした。

 

「え?」

「は…?」

 

それを見た女性軍人も若者も、流石に目の前の光景に変な声を漏らしてしまった。この世界の空は永遠の夜。漆黒の空から降ってきたモノは半分に折れた軍艦であった。

 

「船…?!」

「アーセナルシップだ!」

 

落ちてきた船に二人は驚愕したが、直後にその軍艦の残骸は地面の灰の平原にそのまま沈み込んで消えてしまう。

 

「「…」」

 

沈んでいく軍艦の残骸は、まるで泥のようにそのままミルミルと消えてしまうと、船体に塗られた番号を見て女性軍人は見覚えがあった。

 

「海軍の船だ…」

「パシリコの?」

「そうだ」

 

女性軍人は頷くと、そこで大きくため息を吐いて席に座り直す。

 

「意味が分からん…どうして軍艦が空から落ちてくる?」

「あ、私に聞かれても…」

「貴様になど聞いていない」

「あっ、す、すみません…」

 

若者はすっかり女性軍人に怯え切ってしまっていた。




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