TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#369

「全く、貴様は教育を受けてきていないのか?」

 

列車の一個室の中で若者は説教を受けていた。

 

「い、いえ…自分は召集兵なので…」

 

若者は女性軍人にそう答えると、彼女は若者を見て呆れていた。

 

「ふんっ、所詮は徴兵された兵士か」

 

彼女の体つきは鍛え上げられたもので、それだけでも戦場にいた若者は彼女は軍隊教練を学んだ士官級の軍人であると直感的に感じていた。

 

「アリアドール兵。私の質問に答えろ」

「は、はい…」

 

若者はそこで女性士官に尋問をされる。

 

「私はパシリコ共和国陸軍、パラティヌス師団青騎士隊の士官だ。貴様の所属は?」

「あ、えっと…アリアドール陸軍、第七歩兵連隊所属の異能兵…です」

「第七歩兵連隊?」

 

そこで女性軍人は首を傾げて若者を見ると、若者は続ける。

 

「南方戦域で戦闘中でした」

 

そこで身元を話すと、女性軍人は片手にグラスとボトルを持って入ってきた不思議なアリアドール兵に聞く。

 

「ここはどこだ?」

「…分かりません。ただ、幻覚列車とか言われているとか…」

 

若者は列車に慣れている様子で淡々と女性士官の質問に答えていく。

 

「なぜアリアドール兵が自由に行き来しているのだ?」

「捕虜ではないので…」

「ではなぜ私はこの列車に乗っている?」

「それは…貴女が異能兵だからなのでは?この列車はエーテル病に罹患した人が乗っているそうなので…」

 

そこで若者は今までに仕入れた情報を目の前の女性軍人に話すと、彼女は一瞬エーテル病と言う単語に反応を示しており、若者は内心で『なんでパシリコみたいな国が異能者を軍に入れているんだ?』と首を傾げていた。

 

「つまり…この列車は死にかけた感染者が乗り込む列車ということか?」

「まぁ…そうなんじゃないんですかね?」

 

若者は目の前の女性軍人の飲み込みの速さに舌を巻いた。ああ、やっぱりこういう教育している人は頭いいんだなと思った。

いまだに自分は人から又聞きした内容をそのまま口頭で彼女に伝えただけだというのに、彼女はそういう不足しているであろう情報の中から一部推察を交えての結論をすぐに作り上げたので凄まじい回転効率だと思った。

 

「…貴様がなぜわかっていないのかは聞かない方がいいか?」

「その方がいいと思います。あまりにも現実味が無さすぎて…」

「なるほど…現実味がないということに関しては同意だな」

 

女性軍人はそう言うと、今乗っている列車の機関車を窓から見る。

 

「こんな古風な車内は、パシリコでは高官以外乗らない。…この列車の運行主に会ってみたいものだ」

 

彼女はそう呟くと、少し苦虫を潰したような表情を浮かべる。

 

「感染者が乗り込む列車か…話に聞いたことないが」

「…」

 

若者は確かにと内心で思った。これほど何をしてもいい列車で、なおかつ先ほどの女性客のように元来た道を戻った客もいるのなら、こう言う記憶が記録に残らないはずがない。何かしらの物語にになっていてもおかしくないような、荒唐無稽な話である。

 

「そもそも、パシリコの軍人が感染者っていうのが信じられなくて…」

 

若者はそういうと女性軍人は直後に若者に向けていう。

 

「貴様、殺されたいのか?」

「っ!い、いや…そんな…」

 

無神経にも程があると女性軍人はため息を吐いた後に彼女は言う。

 

「確か、貴様がいたのは南方戦域と言っていたな?」

「え?えぇ…」

 

若者は赤道に近い南方の戦線で任務をこなしていた事をさっき話していたかとふと振り返る。

 

「なら知らぬであろうが、北の地域では緑林教の勢力はまだ小さい」

「…」

 

そこで若者は脳裏に後方の宿舎で教えてもらった戦況地図を思い出す。

現在、パシリコ共和国に進攻をおこなっているアリアドール・サブラニエ・国連率いる連合軍は、各種戦線を構築して戦闘を行っていた。

 

「確かに緑林教の経典では、自然の摂理に反した行為を行うことは、それ即ち世の理より外れる事であると記している」

 

彼女はそこで緑林教が使用している経典の説教を始める。

 

「しかし現実問題として異能者の能力は一個中隊の火力さえあると言われ、軍部は戦術面で無視できないものとなった」

 

パシリコ共和国はかつて、当時の政権と軍部の不仲による軍の暴走で当時の初代サブラニエから極秘裏に強奪したエーテル・ボンバの取り扱いのミスにより聖地兼首都であるグリーンボウルを吹き飛ばしてしまった。

それ以来、パシリコ共和国内における軍の扱いというのは悲惨極まると言うのを聞いていた。

 

「そのため経典を読み直し、生まれながらに『聖騎士』として国と聖地を守る剣となる。それがパラティヌス師団だ」

「パラティヌス師団…」

 

そこでその名を聞いた若者は今までの戦場での出来事を思い出す。先ほどの自己紹介の際に半分聞き流してしまっていたのだが、パラティヌス師団と言うのは遠く噂で聞いたパシリコの異能兵で構成された集団であることを思い出す。

 

『かの師団は赤・青・黄・緑・紫の、五つの大隊規模の異能兵のみで構成された師団である』

 

若者は軍の訓練場で教官から聞いた敵の情報を思い出す。自分はその時に南部戦線への派遣が決まっていたので、北部戦線に関しての話は話半分に聞いていた。

 

『パシリコの異能兵師団は精鋭だ。国家への忠誠心が一般兵よりも高い上、十分な訓練を積んでいる。もし発見した場合は撤退しても構わん』

 

教官は授業でそう話し、その畏怖に北部戦線に送られる異能兵が緊張した表情で話を聞いていた。

 

「その様子じゃあ、知らなかったようだが…」

 

女性軍人はそこで若者に呆れた様子で見てくる。そもそも戦っていた戦場が全然違いすぎており、戦場で出会うことがまず無い二人であった。

 

「で、なぜ貴様はこの部屋に来た?」

 

そこで若者に質問をすると、若者はハッとなった後に手元に置いてあったボトルとグラスを持つ。

 

「その…一杯ずつ話を聞いていこうと…」

「ほぉ…」

 

そこで女性は若者の持ち込んだボトルを見てワインかと思い、女性は気分を良くさせてから若者からグラスを受け取る。

 

「毒はないな?」

「…さぁ、食堂車で受け取ったものですので」

 

若者はそこでボトルから赤いワインを注ぐと、女性は見ただけで上質なワインであると香りを感じて思った。

 

「良いワインだ…」

 

気分を良くし、グラスを傾ける。そのワインはデザートワインのような甘さを持ちつつ、香りは強い葡萄の香りを持っていた。

後味も優しい滑らかさで、単体で飲むは分には十分飲みやすかった。

 

「ふむ。良いワインだ…こんな上物が用意されているのか」

 

女性はそのワインを片手に羨ましげにそれを傾ける。

 

「死にかけた先でこの一品か…」

 

その時、少し疲れた口調と表情で窓の外を眺める。

外は灰と残骸が降り注ぐ無限に続くような常闇が多い、その残骸は多くが軍用車であった。

 

「で、ここで死ぬか生きるかの選択を迫られるのか」

「…時間制限がありますよ」

「ふむ。何もせずとも死ぬわけか…」

 

女性はグラスを再度傾けてワインを飲み切ると、そこで立ち上がる。

 

「では、戻るとするかね」

 

そこで彼女の口調から戦場に戻ろうとしようとするのが若者は理解できた。

 

「戻るんですか?」

 

若者は少し以外そうに顔を上げると、彼女は少し不敵な笑みを見せる。

 

「私は軍人だ。パシリコを守るために働くまでさ」

「…差別をされるのにですか?」

 

若者は言うと、女性は言う。

 

「私は見出された人間だ。自分らしくあるために仕事をこなすまでだ」

 

彼女の所属する師団、そして師団を率いる国に奉仕するために彼女は戻ると言う。

 

「差別はそれほど気にしていない。北部生まれの人間は強いのでね」

 

パラティヌス師団はパシリコ共和国の郷土防衛隊傘下の異能兵部隊として名を馳せた師団である。その多くは緑林教の影響の少ない北部出身の兵で構成され、皮肉なことに聖緑林教信者の多い聖地に近い南部の兵よりも勇敢に戦闘を行った。

その果敢さは連合軍でも良く知られており、後に同地域が独立をした後でもパラティヌス師団は組織され続けていた。

 

「もし戦場で会ったら、その時は我が部隊の部隊章を眼に焼き付けておくと良い」

 

彼女はそう言うと個室を後にし、車掌に切符を渡しに向かった。

 

「…」

 

見送った若者は、そこで空になったグラスを見てからそれを持っていた鞄に片付ける。その内心で、今の女性軍人はまた戻ること選んだ事に少し驚いてしまった。

戦争で少なくない差別をされているであろうはずだと言うのに、そもそもな話。緑林教は異能者を含めた感染者を排除する事を容認している宗教なはずだ。そんな中で解釈を変えて捩じ込まれた異能者の部隊など、周囲の反発も強いはずだと確信していた。

しかしそれでも彼女は生きる選択をしたと言う事実に驚きをしてしまった。

 

この列車を降りるときの選択というのは生死を分けるという事にいまいち実感は湧かないものの、それが事実なのだろうというのはなんとなく察していた。

あの車掌の言うことや、他の乗客の様子を見ながらぼんやりと自分の中でどうしたものかと考えてしまう。

 

「あと二つ…」

 

そこで若者は手元にあるグラスの残りが二つなのを確認し、量も半分以下になったボトルも見る。

老紳士の言葉を思い出し、若者は再び一人になった個室を後にして客車を歩く。蒸気機関車が濛々と煙を上げて走り続ける中、若者はある人を探して列車を散策する。

 

「あっ」

 

そして列車を歩いて、自分が元々乗り込んだ個室の前で若者は会いたいと思った人を見つけた。

 

「車掌さん」

「?」

 

そこでは検札を終えたのか、切符を片手に持った車掌が個室の扉を閉めた直後だった。

 

「何か御用でしょうか?」

 

車掌はそこで若者に聞くと、若者は空になりかけのワインボトルを片手に聞いた。

 

「あの…一杯付き合ってもらえませんか?」

「…」

 

その誘いに車掌は静かに見た後に小さく頷いた。

 

「分かりました」

 

乗客の誘いにも断らないことに若者は目の前の車掌の器の広さに少し安堵しながら個室に車掌と共に入ると、車掌より先に座ってグラスを窓際のミニテーブルに用意する。ちょうどグラスもこれで全て使い切ってしまい、同時にグラスにワインを注ぐとボトルは空になってしまった。

 

「それで、ご予定はお決まりになられましたか?」

 

そしてグラスを渡すと、車掌は若者に質問をした。




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