TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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トラオムの世界に多く存在している歴史学者、哲学者の中ではこんな説が提唱されたことがある。

 

 

『大災害以前の人類は神となってこの世界から姿を消した。今我々の立つの大地は全てが0と1で構築され、すべてが電子化された世界であるのだ!大災害は世界をすべて0と1で構築した際に生まれたプログラムであるのだ!』

 

 

そんな『水槽の中の脳』を言い換えたような歴史学者の意見は度々ネットでも話題になるが、加工素材や動画のネタになる程度でそれ以上に深く考える人間はほぼいない。

 

 

『大災害以前の人類はプログラムに記載された我々が作り上げた妄想であり、本当の人類はもうすでにこの世に存在していない。あるいは我々のこの生活をどこかで観察しているのだ』

 

 

そう言った理論は、この長い歴史を持つようになったトラオムの世界では半ば笑い混じりの陰謀論として語られている。

 

だが、一度世界を覆ったエーテルの津波は全てを押し流した。これは紛れもない事実である。

それ以前の世界は旧暦と呼ばれ、救世主の生誕を基準とした暦はこのトラオムの歴史から半ば抹消された。

そもそもの話、トラオムが独立を宣言した段階で今までの従属からの解放を理由に西暦は使われなくなってしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『間も無く目的地に到着します』

「りょーかい」

 

ルシエルが話しかけてきたことでスフェーンは目を覚ます。

その時、胸元では妙に暖かくて重い質量を感じて視線を下げる。するとそこには大きく毛がふわりとした黒い耳があり、静かに寝息を立てていた。

 

「おっ…と」

 

それに一瞬驚いた声をあげそうになって、途端に口元を塞ぐとスフェーンは笑いそうになってそれを今度は堪え始める。

現在、合造車のベッドの上でスポーツ下着に半袖とホットパンツのパジャマを着る彼女は、二段ベッドの下の段で寝ていた。

 

「…ふふっ」

 

スフェーンはそこで胸元で寝ていた黒髪の少女に微笑ましくなりながらそっと頭を撫でる。

黒猫の獣人である彼女だが、尻尾が二本あるので普通は違和感を持たれる。なので彼女が尻尾を丸出しにするのはこの列車にいる時だけである。

彼女のこの大きな猫耳は彼女のチャームポイントでもあり、スフェーンが気に入っているポイントでもあった。

 

ゴン「あでっ」

 

その時、スフェーンの頭上に生える一対の角を二段ベッドの天井にぶつけてしまう。

合造車の二段ベッドの下側で寝ていた彼女はそれで軽くベッドに吊り下がっていた各種キーホルダーなどが揺れる。この合造車の生活空間には二段ベッドが設置されており、上下でスフェーンと同乗者が分かれて寝ていた。

 

「…?」

 

するとベッドが揺れたことに鋭く勘づいてスフェーンの胸元で寝ていたサダミがゆっくりと目を覚ます。

 

「よっ、よく寝れた?」

「…」

 

そこで彼女は顔を上げると目の前にスフェーンの顔があったのでどう言うことだと脳が困惑する。そして昨晩、自動運転に切り替えた後に寒さからスフェーンの温もりの恩恵を受けた後に寝ようとして彼女のベッドの潜り込んだのだ。

彼女はその時、ルシエルと体を分離した上で少々無理をして大人の姿となっていたので温かい体温があって、寒がりの黒猫の獣人はその温もりにそのまま寝てしまった事を思い出す。

 

「っ…!!」

 

その時、サダミは忽ち顔が赤くなると彼女は全ての状況を把握してから思わず彼女の頭に爪を立てる。

 

「ぎぃやぁぁあぁああああ!!!」

 

そして顔面をバリバリと『みだれひかっき』を喰らったスフェーンは巨大な悲鳴をあげた。

 

 

 

「あの…大丈夫ですか?」

 

初見であるにも関わらず、対応をした運輸ギルドのアンドロイドの職員が聞いてしまう。

 

「これを見て無事だと思いますか?」

「…」(-ω-`三´-ω-)

 

職員は首を横に振る。人工筋肉とラテックスの人工皮膚のおかげでだいぶ人らしい見た目だが、条約と規則の為に機械で構成されているアンドロイドは感性豊かにスフェーンに答える。

スフェーンはナッパ服に着替えており、帽子もサングラスも被っていたのだが、そこからでもひっかき傷は顔全面に広がっており、彼女の一歩後ろでサダミは申し訳なさそうに顔を背けていた。

 

「スフェーン・シュエットさんとコーディエライト・シャノワールさんですね…確認しました。お疲れ様でした」

 

運輸ギルドで写真付きギルド証明証をタブレットにタッチして確認を終えると、そこで確認を終えた職員は軽トラックの荷台に乗り込むとそのまま走り去ってしまった。

 

「もう行ったのか」

「そうだよ」

 

スフェーンが言うと、サダミは少し口調がこわばっており、やらかしたと言う自覚があった。

 

「そう…はぁ」

「結構痛かったデス」

「…すみません」

 

サダミはそこでスフェーンに申し訳なさそうに土下座をする。

 

「まあすぐ治るからいいけどさ、サダミ。これからは寝る時に気をつけてよ?」

「はい…」

 

思わぬ事故ですっかり消沈しきってしまった彼女は尻尾もシナシナになっており、スフェーンはそれを見て苦笑してしまう。

 

「飯食う?」

「…うん」

 

サダミは頷くとそのまま二人は列車に戻って着替えるとそのまま街に繰り出していく。

今回到着をした街はジェヴェル・ムーサ、筒井大陸の巨大なシン半島の南方にある山間に存在する街である。

 

「山間の街か…」

「この場所は筒井大陸でも比較的温暖な気候だからね」

 

スフェーンはそこで隣を歩くサダミに説明を行う。

 

「筒井大陸は知っているが、この街は初めてだな」

 

サダミもそこで周囲の街を見回しながら言う。遥か昔、まだ彼女が彼であった頃。治安官として勤務していた際の配属先が筒井大陸であった。

 

「あれ?来た事ないの?」

「ああ、私は北方の配属だったからな」

 

そこでサダミは防弾チョッキと弾薬盒を降ろし、背中に騎兵銃を提げていた。

 

「だから南方の地域は、勤務中はほぼ来ていなかった」

「…傭兵時代は?」

「そもそも筒井大陸にほぼ来ていない」

「なるほど…」

 

彼女の事情を知ったスフェーンは数回頷くと、そこで街の砂の被るアスファルトの道路を歩き、行き交う人々に時折ぶつかりながら出店などを探す。

 

「道路が狭いのか?」

「いや、人が多いだけじゃない?」

 

そこでスフェーンとサダミの二人は人通りを抜けて街を歩く。

昔よりも法律が浸透して治安はマシになったものの、雀の涙と言っても過言ではないこの国。

 

「特に今は情勢が不安定だしね」

「今の政権か?」

「左様」

 

そこで丁度、街中を走る市電の停留所の列に並ぶと、そこでプラカードを掲げてデモ行進をする集団を見る。それは政権打倒を訴える市民団体のものだった。

 

「あーあー…」

 

それを見てサダミは呟く。

 

「賄賂か」

「そゆこと」

 

この街はこの国の中でも地方の田舎町であるが、そんな場所でも反政府デモが起こると言う事はつまり…と言うわけで、この国は現在、現政権に対する不信感が募っていた。

 

「元々四〇年以上、同じ政権だってさ」

「ああ…道理で」

 

妙に納得できた瞬間であった。だいたいそう言う長期政権というのは腐敗しやすく、革命が起こる。民主的な政治を求める場合は特にこの光景が見られる。

彼女達のような者からすれば四〇年など短いが、一般人にとってみればそうとも行かない。

 

「不老者?」

「いや、一般人。モモンガ政権って言うらしい」

「随分可愛らしい名前だなオイ」

 

途端に愛嬌ある名前にサダミは少し笑ってしまうと、そこで市電が到着をして乗客達が乗り込んでいく。

 

「うごっ」

 

そこで押し潰されるようにサダミとスフェーンは列車の奥に追いやられる。

 

「人が、多い…!!」

「減便でもしてんのかね?」

 

スフェーンはそう返すと、三階建ての車両は積み残しを列車の側面にしがみつかせてから走り出す。

 

「しかしあのデモ隊、銃は撃たないのか?」

「んなもんやったら速攻、強制執行で全員逮捕だよ」

 

鮨詰めになった車内で二人は言うと、道路の反対でやってるデモに軽く愚痴を言いたくなる。警察官に囲まれ、シュプレヒコールを上げる彼等は次第に暴徒化しそうな危ない雰囲気を持ち合わせていた。

 

「流れ弾とか勘弁してくれよ」

 

サダミがそう呟きながら目的の停留所に停車したので二人は師団を降りる。

 

「おぉ…」

 

そして降りた先でサダミは思わず声が漏れてしまう。

 

「入り口でこれか…」

「マジで綺麗だよね」

 

その隣でスフェーンも頷きながらその施設を見上げる。

そこは市場につながる広場なのだが、鮮やかなサマルカンド・ブルーで装飾をされた施設は神聖な場所であると余所者にも認知させるほどだった。

 

「…」

 

鮮やかな青のレドームを前に思わず二人は黙って見上げてしまう。

人が多く行き交い、この先には目的地である街の市場が広がっているのだが、観光できた二人はまずこの街の青さに唖然となってしまった。

 

「ここなら良い食器も売っていそうだ」

「んじゃあ、見繕って見ますか」

「だか、その前に腹拵えがしたい」

 

直後、サダミから腹の虫が鳴いたのをスフェーンは聞いた。

 

「ぶふっ…そうだね。まあ市場には出店もあるでしょうし」

 

そこで二人はそのまま市場の出店を探す。

 

「これ二つ」

「はいよ」

 

そして出店の一つに並んでスフェーンはラクダ肉のステーキを頼む。

ラクダといえば丁度今も後ろで荷物を積んで運んでいるこいつの中である。背中のコブには油と水分しかないと言う話だが、美味いのだろうか。

 

「はい、ラクダのステーキね」

 

そして出店のオッチャンが提供をしてくれたのは大量に香辛料を振られ、塩胡椒をかけたシンプルなステーキだった。

 

「フーッ、熱っ」

 

焼きたて熱々だったので猫舌のサダミは軽く火傷をしたらしい。いつもの事なのでもはやスルーしながらスフェーンも切り分けた一つを一口でいただく。

 

「うーん…」

「まあ、牛肉に近いのかな?」

 

そこで初めてのラクダ肉に首を傾げる二人。香辛料の香りが強いにもかかわらず若干の獣臭さが残るが、食感は赤身の牛肉を食べているような気分だ。

 

『たまに食べるのは良いですが』

『毎日はちょっと、と言う感じですね』

 

そこで味覚を共有しているルシエルとシエロもそんな感想を抱きながらモリモリとステーキは二人の胃袋に消えていった。




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