市場で到着後に出店でラクダ肉のステーキを食した二人。
そもそも肉と言うものは基本的に臭いからこそ昔から香辛料を使った臭い消しが行われているのであり、牛・鶏・豚のような臭く無い肉の方が逆に珍しいものである。
「食べ応えはあるのかな?」
「赤身は美味かったと思う」
市場を歩きながらスフェーンとサダミはそんな事を言いながら新しい出店を見る。
スフェーンはムートンジャケットにジーンズといういつもの私服姿で、サダミも長袖黒インナーの上から半袖シャツ、下は長ズボンの絶妙にダサく見える着こなしをしていた。
「やっぱり服のセンス大丈夫?」
「…お黙り」
サダミは少し耳を絞って言うと、そこである出店に目がいった。
「?」
「なんか気になるのあった?」
スフェーンが聞くとルシエルは頷いたので、彼女はサダミに小銭を渡す。
どうにもこの体になってからと言うものの、サダミは財布の紐が緩いというか、自分で金の管理をする事をしなくなったと言うのか、何かとスフェーンが金の管理をするようになり、小遣いをスフェーンが渡していた。
「昔みたいに私の分も管理してよ」
「やだ。私の財布の口緩いし。面倒だし」
「…じゃあなんで昔はできたのよ」
「さあ?」
サダミは首を傾げた後に小銭を受け取って出店の方に向かった。なんと言うか、彼から彼女になってからと言うもの随分と感情的に動くようになったのだ。
本能とか欲望のままに生きているわけではないのだが、自分のような経験をしていないにも関わらず死生観においての考え方が自分に似て来ているような気がするのだ。
『スフェーンと長年いるからなのでは?』
「あるいは私が妹と認識するプログラムを仕込んだせいか…」
スフェーンはサダミが男の頃、彼女の体を造る臨界エーテルによる核に先述のプログラムを仕込んだ。
また当時は墓場から起こしたばかりであり、全てのプログラムがオープン状態だった。プロテクト事項もなにもあったものではなかったので、彼女を守る目的でプログラムを仕込んだ。その上でプロテクト事項やその他諸々を組み込んでいる際に、
「買ってきた」
すると出店から戻ってきた彼女の手には油紙に包まれたパイを持ってきた。
「それは?」
「クナーファ、デザートと聞いた」
「あぁ、ペイストリーの一種か」
そこで彼女が買ってきたクナーファは細麺状の生地にサムナと呼ばれるバターオイルを掛け、チーズを包み焼きした物だった。
オーブンで焼きたてだからか、猫らしく熱いものが得意ではないサダミは油紙の端を持って運んできていた。
「んん〜、甘いね〜」
「熱いけど…クナーファと言うのは美味いな」
そこで広場の木陰に腰をかけ、二人でクナーファを頂く。焼きたての熱々のクナーファに、キンキンに冷やした
「シロップの甘みにピスタチオの塩見が混ざっているのか」
「それは『対比効果』と言われているものだ。塩味と甘味、反対に位置する味を同時に口にすると片方の味がより強く感じる現象だ」
「…補色配色のようなものか」
「そゆこと」
スフェーンはサダミに頷くと、よくできましたと言わんばかりにそのピスタチオの一欠片を手に取る。
「ピスタチオは乾燥した大地で育ちやすく、塩害にも強い。日照りが強く、十分な排水ができる環境が必要。ゆえに古来より、こうした砂漠地帯で大量に生産されてきた食べ物だ」
「別名、ナッツの女王とも呼ばれている…か」
「そうそう、使いこなしてきているねぇ〜」
良い兆候と言い、スフェーンは満足げな笑みを見せる。
サダミもこの自分の中に膨大に蓄えれた知識をうまく活用できるシステムの運用に慣れてきていた。
この体となって、自分が男だった時代よりも長く生きてきた身となった。しかし人とは慣れる生き物で、この体にも年を追うごとに順応していると言うのが肌身に感じる。
「そしてピスタチオは油分が多いから燃料としても使うことができる」
「…白樺と同じだな」
あの墓地で掘り起こされて以降、この隣に座るかつての相棒…今では義姉となってしまったこの女と共に世界中を見て回った。
世暦が始まって久しい頃合い、あの当時。感染者でも、ましてや異能者でもなかった私は最高裁判所の拘置所で優雅な生活をしていた。
三年間の戦争が終わってから執行猶予付きで判決を受けたのでなにも南北戦争のことに関しては詳しく知らない。『逆に珍しすぎんだろ』と話を聞いて私以外は大爆笑しており、当時まだ人の感情や感性を勉強中であったシエロですら爆笑していたのはよく覚えている。
『懐かしいですね…もうかなり昔の話ですが』
『「「全く」」』
シエロが言うと、他の三名も頷いた。すると、
「あ!ちょ!あぶなーーーーーいっ!」
「…は?」
その時、片手に食べかけのクナーファを食べていたスフェーンは眼前に靴底がある事に気がついた。
「うごっ!?」
そしてそのまま顔面に望んでもいないのに靴で踏み込まれると、つけていたサングラスを踏み潰しながら地面に後頭部から行く。
「…ぬるぽ」
ピシ「ガッ!」
横でそれを目玉が飛び出そうなほど大きく見開いて驚愕をしたサダミが徐に呟くと、意図せず会話が成り立って彼女は地面に叩き倒される。
「ごめん遊ばせーーーー!!」
そしてスフェーンを踏み台にして上に高く上がった少女はそのまま広場に植えられていた広葉樹に飛び上がった後に颯爽と広場を抜けて走り去ってしまった。
「…」
そして走り去っていった少女を見送り、唖然となるサダミ。
「っ!!」
その時、体を起こして顔面に盛大に真っ赤っかな靴跡が刻み込まれたスフェーンは、真っ二つにサングラスがへし折れたので独特な相貌を開けて表情を顰める。少女の踏み付けた威力は中々であったようで、広場にスフェーンの頭と鹿角の跡が付いていた。
「大丈夫?」
サダミが聞くと、スフェーンはスッと自分を見た後にその真っ赤な靴跡を顔面ど真ん中に作った義姉に笑いそうになる。
「…ぐふっ、ふあははははははっ!!」
そして耐えきれなくなってサダミは爆笑すると、スフェーンはその少女が消えた方角を見る。
「あのクソガキィ…!!」
その時、スフェーンが持っていた食べかけのクナーファは握り潰されなかった。
「どうする?」
「…関わりたくないんだけど」
その時、スフェーンとサダミは彼女を追いかけている複数の人を目撃していた。
「全く、なんでこんな事になるんだね」
スフェーンはそこで呆れて粉々に砕かれたサングラスを手に取る。
「あーあー、お気に入りだったんだけどなぁ…」
そこで彼女はAR端末を前に惜しがってその残骸を回収する。
「おい若いの、大丈夫か?」
「ああ、こちらは全然。お気になさらず」
するとそこで踏みつけられたのを目撃していた住民が話しかけてきたのでそれを軽くあしらってスフェーンは返す。サングラス型のAR端末は天に召されたが、それ以外は今のところ無事であった。さっさとクナーファを食べ終えた後に油紙をゴミ箱に放りいれる。
「この際、いっその事糸目キャラにイメチェンをしたらどうだ?」
「勘弁。瞼に投影でもしないと視界確保できまへん」
「…その目は確実に目立つって」
二人はそう言いながら散々な目に遭った広場を後にする。以前のスフェーンならここで少女を追いかけ回していただろうが、そんなことをしてさらに面倒な問題に突っ込んだこと幾万回、サダミも良い加減飽きてしまっており、スフェーンも同意見であった。
「全く、私じゃなかったら死んでたぞ」
そして街の歩道を歩いてスフェーンがぼやいた。
「正直、首は逝ったと思った」
「頸椎やってるんだよ」
「…だから起きるのが遅かったのか」
サダミはそこでスフェーンが顔面を踏まれた時の少女の身長と体重を記憶情報から計算し、それによると首がへし折れてもおかしくない威力であると結果付けた。そして実際にスフェーンは後ろに仰け反らなければ首の骨が折れでスプラッタな現場を作り上げてしまう可能性があった。
「痛ぇ…」
「そもそも私らに痛覚がないだろうに」
「イメージの問題だよ」
スフェーンは反論すると、そこで街中に置いてあった鏡の前に座り込んで目の確認をする。
「不味いなぁ…ちょっとガラス混ざったかも」
「マジか」
そこでスフェーンは手を眼前に出すと、そこで先ほど割れたサングラスのココア色のガラス片がボロボロと眼球から弾き出されるように落ちてくる。
「うわぁ…」
そしてそれを隣で見ていたサダミがやや引き気味にそれを見る。そして手のひらにこぼれ落ちたガラス片をそのままジャケットのポケットに放り込んだ。
「捨てないの?」
「ポイ捨てダメ絶対。OK?」
「…絶対忘れると思うんだか」
そんな不安をしながらサダミは立ち上がったスフェーンを見上げる。
現在、スフェーンはルシエルと分離をしていないので身長は一七〇半ばある。もしこれで彼女がルシエルと分かれている場合、彼女は一四〇半ばの小柄少女が最も効率の良い体となる。
私は彼女のような分離機構を核に持っていないので、シエロとはずっとこのままだ。身長をそう変えることもしてきていなかった。
「…ルシエルと分離すれば良いのに」
「どしたのいきなり?」
その時、ふと溢れたサダミの言葉にスフェーンは首を傾げるとそこでサダミはふと思った。
「しかし、先ほどの少女…身なりが整っていたな」
「…金糸の刺繍が施された服だった」
そこで先ほどスフェーンを踏みつけた少女の服や口調を思いだす。
『先ほどの少女の服は新品同然でした』
「じゃあ金持ちの子だな」
「金持ち?追いかけていた連中は彼女と同じように白い服だった」
サダミはそこで少女を追いかけていた他の面々をスフェーンの視界に見せる。その姿は顔を隠し、清潔な服装で統一された敬虔さを持った面々であった。
「え?じゃあなんかの団体ですか?」
「『『カルトでしょ!どう見ても!?』』」
三人がその姿を見ていった時、スフェーン達に話しかける少女の声が一人。
「むっ!そこのお二方!」
「「?」」
誰だと思い路地裏を見ると、直後にスフェーン達は声を上げる。
「「あっ!」」
「?」
そこには先ほどスフェーンを踏みつけた少女がスフェーンを見て首を傾げた。
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